軍オタ6巻発売記念連続更新SS 不機嫌なシアさん。
「若様、失礼します」
「あ、ありがとう……」
執務室。
今日もオレは一人書類仕事をしていた。
そんなオレの前に、完璧に淹れられた香茶を護衛メイドのシアが置く。
香茶を机に置くと、彼女は壁際へと移動し待機する。
いつもの所作、味、温度ともに申し分無い。
だが、彼女の機嫌が悪いことが手に取るように分かる。
「…………」
ジッと、こちらを見つめる気配を感じる。
普段、こんな風に存在を認識することはない。
シアは一流のメイドらしく、同じ部屋に居ても気配を感じさせない技術に長けている。
なのに現在はあからさまに存在をアピールしていた。
――では、なぜ彼女の機嫌が悪いのか?
理由は判明している。
近々、冒険者斡旋組合主催のお祭り、軍団大々祭がおこなわれる。
我々、PEACEMAKERも参加予定だ。
軍団大々祭は、一般人に『もっと軍団のことを知ってもらおう』という趣旨で開かれるお祭りである。
そのため各軍団はスペースを与えられ、訪れる人々に自分達をアピールするのだ。
当然、PEACEMAKERも準備を進めている。
屋台、軍団の歴史と理念説明会、シューティングレンジ、着ぐるみなど。
しかし、その中にシアが提示した『コッファー展示』が入っていないのだ。
結果、彼女は機嫌を損ねている。
「あのさ、シア……」
「なんでしょうか、若様?」
いつもの淡々とした声音だが、感触が冷たい気がする。
咳払いをしてから、話を切り出す。
「展示の件なんだけどさ、コッファーはやっぱり、その……展示には向かないと思うんだよ。シアに意地悪するために出さない訳ではないんだ」
「ですが、攻防一体最強兵器であるコッファーを前にすれば8.8cm対空砲など以上に、示威行為に役立つと思いますが」
その台詞は展示物のアイデア出しの時にも言っていたな。
「攻防一体最強兵器であるコッファーを前にすれば8.8cm対空砲などよりも、示威行為に役立つと思いますが?」
三回目の台詞……。
どんだけコッファー押しなんだよ!
オレは再度咳払いをしてから、話を続ける。
「コッファーは確かに強力だ。だが秘密武器、相手に『銃器を持っていない』と思わせるメリットが大きい武器だとオレは考えている。つまり、コッファーこそ、PEACEMAKERの秘匿兵器、切り札、リーサルウエポンだ。そんな最強兵器のコッファーを大勢の人々に見せびらかすのは示威とはいえ得策ではないだろ? その程度の役目なら、8.8cm対空砲とかで済む訳だし、さ」
「…………」
オレの長台詞をシアは黙って聞き入った。
彼女から発散されていた刺々しい気配が消える。
「さすが若様、素晴らしい見識です。コッファーの開祖にもかかわらず、その良さを認識しない愚鈍なのではと心配しておりましたが、そのような深い考えがあったとは。愚鈍だったのはどうやら自分の方でした」
珍しく彼女も長い台詞を口にする。
なんだよ『コッファーの開祖』って……。
後、言い方がなんだかメイヤっぽい。
彼女がこんな言い方をするなんて、失礼だが胡散臭く身構えてしまう。
シアがさらに踏み込んできた。
「そんなコッファーの素晴らしさをご存じな若様なら、きっとご納得してくれる案があるのですが……」
彼女の手にはいつのまにか書類の束が握られていた。
嫌な予感しかしない。
「どうぞ」
「あ、ありがとう……ところでコレは?」
「新しいコッファーの改造案です」
やっぱり悪い予感が当たった。
オレは恐る恐るページをめくる。
一つ、コッファー合体案。二つ以上あるコッファーを合体させ、より強力にする。
一つ、コッファーの乗り物化。コッファーを飛行船、ハンヴィー(擬き)などのように乗り物化させる。
一つ、コッファー多様化。コッファーの素材を魔術液体金属だけではなく、形も鞄にこだわらず柔軟に取り入れる。一例、コッファーをメイド服に仕込む。
一つ――と、アイディアが山ほど書き込まれていた。
シアはこんな無茶ぶりをオレにさせたいらしい。
もう『コッファーとはなんぞや?』と言いたくなるレベルである。
「如何でしょうか?」
『如何でしょうか』ってこんなの出来るわけがないだろうが!
だが、正面から否定すれば折角軟化した態度を再び硬くさせるだけだ。
オレは書類を手に、なるべく友好的な笑みを浮かべる。
「い、いいんじゃないか。とても独創的な案ばかりで。オレじゃ思いつかない物ばかりだよ」
「これらの良さを理解して頂けるとはさすが若様。では、この中から、一番若様が気に入ってくださった物を是非、お作りくださいませ」
「ち、ちょっと待ってくれ! 作るって!? この書類にあるコッファーを!?」
「はい、微力ながら自分も助力したいと思います」
『一番気に入った物を』というが、どれも開発なんてできる訳がない!
どうにか製作しなくてもいいように話を修正しようと努力する。
「手伝ってくれるのは嬉しいけど、今は『大々祭』の準備で忙しいから……」
「もちろん理解しております。なので祭りが終わり、お暇になったらで問題ありません」
どちらにしろ作れってことか!?
他に何か上手い言い訳を探していると、
「では、自分も『軍団大々祭』の準備、手伝いがありますので失礼致します。書類の方は若様に所持して頂いて構いませんので」
「ちょ、ちょっと、シア!?」
オレが言い訳をするより、早くシアは一礼すると止める暇もなく執務室を出て行く。
手元には無茶ぶりの改造案書類だけが残る。
「これ……どうすればいいんだよ……」
オレは書類を手放し頭を抱えてしまう。
後日、軍団大々祭が終わると、シアが声をプレッシャーを掛けてくるようになる。
「若様」
「お、おう。なんだシア?」
「新規コッファー開発のお手伝いいつでも問題ありませんので、昼夜問わずお声がけください」
「わ、分かったよ。開発をする時になったら声をかけるから」
「はい、その時は是非」
シアは背中を向け楚々と去って行く。
その背中を見送り溜息を漏らす。
どうやらオレはシアの無茶ぶり、新作コッファー作成から逃れられないようだ。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
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明日2月18日、21時更新予定です!
追加書き下ろし満載の軍オタ6巻&コミックス1巻発売まで後3日!
今回も購入者特典や各種特典を色々書かせて頂きました。
また献本が届きましたので、こちらの写真画像も一緒にアップしたいと思います。
是非、活動報告をご確認ください。
また、軍オタ1~5巻も、引き続き発売中です。
まだの方は是非、よろしくお願いします!
(1~5巻購入特典SSは15年12月19日の活動報告をご参照下さい)