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軍オタが魔法世界に転生したら、現代兵器で軍隊ハーレムを作っちゃいました!? 作者:明鏡シスイ

20章

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第345話 赤ん坊

「りゅ、リュート!? ど、どうしてここに……ッ」

 ギギさんは今まで見たことがないほど狼狽していた。
 オレは口元をにやりと歪めて、首を傾ける。

「いやだなギギさん、ここは実家のようなものですよ。里帰りしたってなんの問題もないはずですよね?」
「そ、それはそうだが……」
「それともなんですか? オレが孤児院に来ては問題でもあるのですかね?」
「べ、別に問題など……」

 ギギさんはあからさまに視線を建物に向けそうになるが、耐える。
 今のオレにはその態度だけで十分だ。

「リュートくん、先に行きすぎだよ!」

 さらに問いつめようとすると、スノー達が走って追いつく。
 ギギさんも彼女達の姿に気付きあからさまにホッと溜息をついた。
 彼は心底、妻達を歓迎する。

「クリスお嬢様、皆さんもよくぞ来てくれました。それで今日はどのような用件で?」
『はい、実はお父様とお母様から、エルさんが妊娠したと聞いて……』
「そうでしたか、旦那様達から……わざわざご足労頂きありがとうございます」

「ところで、なんで魔王討伐の時、エル先生の妊娠の件を黙っていたんですか? ですか?」

「い、いや、それはだな……」

 久しぶりに顔を合わせるクリスに、ギギさんが表情を緩める。
 だがオレの全身から突き刺さるプレッシャーを浴び再び、狼狽し始める。
 妻達が呆れるのもかまわず、問い続ける。

「ねぇ、ギギさん、どうしてですか? 敬愛するエル先生の一大事をどうして黙っていたんですか? ですか?」
「だ、だから、その、なんだ……」
「皆さん、そこで何をしてるんですか?」

 建物の影から、姿を現しオレ達に声をかけてくる人物。
 エル先生が姿を表す。
 兎耳らしく、話し声が聞こえてきたようだ。
 そのお腹は妊娠していたなんて嘘みたいに引っ込んでいる。

「エル先生!」

 スノーがご主人様を見つけた子犬のように駆け出し、抱きつく。
 エル先生も久しぶりに会うスノーを正面から抱きしめ、頭を撫でた。

「もうスノーちゃんは相変わらず甘えん坊さんなんですから」
「エル先生、ご無沙汰しております。こ、子供が生まれたって本当ですか!?」
「はい、リュートくんもお久しぶりです。子供の件に関しては……」

 スノーが離れるのを待って、エル先生が告げる。

「本当です。知らないのも当然です。私が皆に口止めをしていたのですから」
「く、口止めって! どうしてですか!?」
「もしリュートくんが事実を知ったらどうしましたか?」
「もちろん、魔王退治なんて放り出してでも駆けつけましたよ! その上でエル先生の周囲に危険が及ばないか24時間態勢で警護していました」

 オレの発言に、エル先生が頭痛がするのかこめかみを抑える。

「そうなるだろうと予想したから声をかけなかったのです。リュートくんが心配してくれる気持ちは嬉しいですが、私にはギギさんやタイガちゃんも居るのですから、もう少し落ち着いてくださいね」
「そ、そんな……」

 オレはエル先生本人に口止めされていた事実に打ちのめされ、地面に膝と手を突く。

 そんなオレを尻目に、スノーが問う。

「ところでなんだか孤児院が立派になっているんですが、何かあったんですか?」
「実は色々複雑な事情がありまして……」

 エル先生が微妙に困った声音で告げる。

「話すと長くなるので、場所を移動しましょう。それとも先に子供の顔を見ていきますか?」
「はいはいはい! 先にエル先生の赤ちゃんを見たいです!」

 スノーの挙手に続いて嫁達も同意の声をあげる。
 もちろんオレだって、エル先生の子供の顔が見たい!
 結局、新築された建物の話を脇に置き、オレ達は先に赤ん坊を見るため移動する。

 向かった先は新築の孤児院建物だった。
 石造りで台風や嵐が来ても決して壊れないガッチリとした作りだ。
 その一階の大部屋に、孤児院に居る赤ん坊達が集められている。
 扉を開くと、午後の温かな日差しが窓から降り注ぐ。

 部屋には大きなベッドが複数有り、その全部に赤ん坊達が眠っている。
 オレやスノーが居た時代より明らかに増えている。
 赤ん坊だけでこの人数はいくらなんでも増えすぎではないか?

 疑問を抱きながらも、エル先生に案内され一つのベッドへと向かう。

 そこに天使達が眠っていた。

 エル先生の赤ん坊以外もベッドで寝ているがすぐに判別がつく。

 双子らしく、エル先生に似た兎耳の男の子、ギギさんに似た狼耳の女の子が仲良さげに眠っている。
 子供はギギさんの血を引いているが、容姿はスノーやエル先生のように獣耳+尻尾が付いている形だ。そのため顔立ちもギギさんではなく、圧倒的にエル先生の要素が多い。
 エル先生が子供達を起こさないよう小声で名前を教えてくれる。

(狼耳の女の子が『ソプラ』、兎耳の男の子が『フォルン』です。どちらも魔術師としての才能がある子なんですよ)

 それは凄い。
 いくらエル先生とギギさんが魔術師でも、子供に必ず遺伝するとは限らない。
 双子で一人だけが魔術師――なんてことにならなくてよかったとも言える。

 スノー達も小声でソプラ&フォルンを見つめる。

(ソプラちゃん、フォルンくん、可愛いよぉ!)
『可愛すぎますよ! 双子はいいですね、憧れます』
(こんなに可愛いうえに、エルさんやギギさんの血を引いているからきっと素晴らしい魔術師になるでしょうね)
(起こしたら可哀相ですが、早く抱っこしてみたいです)
(女の子の恋愛相談もいいけど、赤ん坊もいいわね)

 スノー、クリス、リース、ココノ、ホワイトの順番で感想を漏らす。
 一方、メイヤはというと――

(はぁ~素晴らしいですわ! 早くわたくしもお義母様のようにリュート様の赤ん坊を授かりたいですわ)と体を抱きしめ身もだえている。

 いつもならそんな彼女に対してツッコミの一つも入れるが、今はオレの目――と言わず意識、脳細胞、いや、魂そのものが赤ん坊達に釘付けになっている。
 そのためメイヤに構っている暇がないのだ。

 北大陸に居るアムとアイスの子供、シユちゃんとも会ったことがある。
 オレ自身、シユちゃんを『可愛らしい』とは思ったが、あくまで『友人の赤ん坊』の範疇だ。
 しかし、ソプラとフォルンは違う。

 魂の底、細胞一つから『可愛い!』と思う。
 二人に危害を加えるものが居たら、塵一つ残さず滅ぼす。
 もし二人が欲しい物を望むなら、領土でも、兵器でも、地位でも全力で与える所存だ。
 気付くと、いつのまにか獣人種族、虎族(とらぞく)、魔術師S級、獣王武神(じゅうおうぶしん)、タイガ・フウーがオレと並んで赤ん坊を見ていた。
 考えてみると、到着してからまったく彼女の姿を見ていなかった。

 彼女の瞳もオレと同じ色をしている。
 赤ん坊のためなら王様だってぶん殴れると。
 オレとタイガは互いに頷き合う。

 そんなオレ達を見てギギさんは『会わせてはいけない二人を会わせた』ような顔をしていた。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 赤ん坊を確認してすぐ隣の応接室へ。
 旧孤児院の応接室に比べて広いお陰で、オレ達全員が入ることができた。
 やや手狭になったが。

 さすがに人数分の椅子が無いため、リースの『無限収納』から出してもらう。
 すでにホワイトの紹介は済ませているので、早々に新築の孤児院が建った経緯を聞かせてもらった。

「話はある意味簡単で……子供達が増えたので、旧孤児院だけでは狭くなり急遽、新しいのを建てることになったのです」
「孤児が増えるような大きな戦争なんてここ最近ありましたっけ?」

 エル先生が神妙な顔で原因を聞かせてくれた。

「実はある意味で原因は魔王のせいなのです……」
「魔王ってあの『黒毒(こくどく)の魔王』のですか?」
「はい」

 オレはエル先生の返事を聞いて、首を傾げる。
黒毒(こくどく)の魔王』との戦いで少なくない兵士が命を落とした。もちろん彼らにも家族が居ただろうから、孤児が生まれてもおかしくはない。
 だからといってエル先生の孤児院が増築する理由に繋がるとは思えないのだが……。

 エル先生が続きを話す。

「魔王を倒した勇者と、その幼馴染みの妻が育った孤児院ということで有名になり、孤児の赤ん坊や幼い子供を預けられるケースが増えてしまって……」

 あっ、完全にオレ達のせいだ。

「他にも魔術師S級のタイガちゃんが、魔術を教えると評判でそれも増えた原因ですね。他にも遠方からわざわざ師事を受けに来る人が居るぐらいですから」

 タイガに視線を向けると、気まずそうに目を逸らす。

 結果、物理的にスペースが足りなくなり、新しい孤児院を建てることになった。
 建造するにあたり、怪我でエル先生の治癒を受け、恩義を感じていた大工達が格安で請け負う。そして喜んでもらおうと気合いを入れたため、町長宅より立派な建物が出来たらしい。

 つまり勇者&その妻が育ち、現在は魔術師S級が滞在する孤児院がある町――というこで人も孤児も集まってしまった。
 新孤児院が立派なのはエル先生の日頃の行動のお陰というわけか。

「す、すみません……まさか魔王を倒したらこんなことになってしまうなんて……」
「本当に魔王を倒したと聞いた時は驚きましたが、多くの人を救い役に立ったのです。リュート君達が謝る必要など何一つありませんよ」

 エル先生は本心からの笑顔で断言してくれる。

 だが知ってしまったからには、このまま放置する訳にはいかない。
 これ以上、子供達が増えれば物理的に人の手が足りなくなる。
 子供達の面倒を見る人員を増やそうと思っても簡単に増えるものでもない。第一、いくら有名な孤児院だからといって、一極集中レベルで子供達を任せるのはどうだろうか?
 エル先生なら最後まで無理をして、一人でも頑張りそうだが……。

 正直、オレ達ではどうすればいいか分からない。
 この問題は新・純潔乙女騎士団本部に戻り、ミューアに相談することになった。
 また他にも問題――というほどではないが、困っていることがあるとか。

「実はソプラとフォルンに見合い話が殺到してて、困っているのです」
「……はっ? 二人はまだ赤ん坊ですよ? 何かの間違いじゃないんですか?」
「貴族同士ならそこまで珍しい話ではないですよ。貴族同士の場合、本人達の恋愛感情より家同士の繋がりを重視しますから。ですがエルさん達は今や一般人。なのにお話が来ると言うことは……」
「オレ達が魔王を倒したせいか……」

 リースの言葉を濁した最後の意味を即座に理解する。
 オレの言葉は正解だったらしく、エル先生とギギさんが曖昧な、苦笑いよりの笑みを浮かべた。
 魔王を倒した勇者と妻が生まれ育った孤児院。二人が尊敬する孤児院の院長であるエル先生。実際に魔王退治のサポートをしたギギさん。
 その二人の間に魔術師として才能のある赤ん坊が生まれた。

 オレ達との繋がりができるし、赤ん坊の魔術師としての才能も高いと推測されている。
 確かに赤ん坊のうちから見合い話が殺到する優良物件である。

 まさか魔王を倒した結果、孤児院の子供達が増加し、ソプラとフォルンの結婚話にまで飛躍するとは……。
 正直、もう一度魔王を倒すより面倒かもしれない事態だ。
 さらにエル先生が溜息混じりで続ける。

「なかでもとある貴族様が少々強引で……。ソプラとフォルンを自分の身内と絶対に結婚させると迫ってきて困っているのです。私達が貴族様の申し入れを断ると角が立つので、リュート君達から上手く話を付けてもらえませんか?」
「分かりました。今からそのアホ貴族の領地ごとこの地上から消滅させてやります!」

 エル先生を脅すだけでなく、ソプラとフォルンを奪おうなどど身の程知らずが。
 どこぞの大貴族だろうが、PEACEMAKER(ピース・メーカー)の武力と権力、ツテを使って二度と立ち直れないレベルで叩きつぶしてくれる。

 エル先生の言葉を聞き、瞬間的に怒り戦闘モードへ移行する。
 オレだけではない。
 スノーを初め、皆が怒りで目の色を変えていた。

 エル先生が慌てて声をかける。

「り、リュート君、あくまで角が立たないようにお話をして欲しいの。別に大事にしろとは言っている訳ではないのよ?」
「大丈夫です、ご安心ください。絶対にエル先生達にご迷惑がかからないよう処理するので!」
「だから、そういう物騒な話じゃなくて、あくまで穏便にお断りしてくれたらいいの!」
「大丈夫だよ、エルお姉ちゃん。すでに彼らとは話し合いが済んでいるから」

 今まで黙っていたタイガが口を開く。
 皆の視線が彼女へと集まる。
 タイガは淡々と何気ない調子で話した。

「今朝、僕が彼らと会って話をしてきたんだ。彼らは『二度と絶対にかかわらない!』と約束してくれたからもう大丈夫だよ」
「そ、そうですか……あ、ありがとうございます……」
「気にしないで。エルお姉ちゃんやソプラとフォルンのためなら僕はなんでもするから。これからも安心して育児に専念してね」

 エル先生のどもったお礼に、タイガは気にせず笑顔で答える。

 最初、孤児院に彼女が居る気配がなく、後から赤ん坊が居る大部屋に姿を現した。
 恐らくオレ達が来る前に、そのごり押しした貴族のところへ行って、『二度と絶対にかかわらない!』と相手が言うまで『話し合い』をしてきたのだろう。
 相手は魔術師S級、獣王武神(じゅうおうぶしん)。どんな『話し合い』がおこなわれたのか想像も容易い。
 まさに彼らは虎の尾を踏んだ訳か……。

 オレ達自身、ごり押ししようとした貴族に対して戦闘行動をおこそうとした。だが、実際に実行した人物を前にすると先程まであった熱が霧散し、頭が冷える。
 しかしこれでタイガが側に居れば、並の貴族では強引に手出し出来ないと分かった。

 後はこの件も含めて、ミューアに相談しよう。
 彼女なら以後、ソプラとフォルンに無理矢理婚約なんてさせないよう各貴族達に根回しぐらいは朝飯前のはずだ。

 こうしてとりあえず無事に、赤ん坊の顔を見ることができた。


ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
1月23日、21時更新予定です!

富士見ファンタジア文庫様から、台湾版軍オタ1巻の見本が届きました!
許可を取ったので次のアップの時、表紙などを活動報告に載せさせて頂きます。
なのでどうぞ次回をお楽しみに!

また、軍オタ1~4巻も、引き続き発売中です。
まだの方は是非、よろしくお願いします!
(1~5巻購入特典SSは15年12月19日の活動報告をご参照下さい)
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