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軍オタが魔法世界に転生したら、現代兵器で軍隊ハーレムを作っちゃいました!? 作者:明鏡シスイ

3章

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第32話 兄弟

 お嬢様と賑わう街を歩き回る。
 小物雑貨を冷やかし、花屋で色とりどりの花々を眺める。

 昔、皆でよく来たという衣服店にも顔を出した。
 女性定員さんがお嬢様を覚えていてくれて、ミニ黒板でたわいない会話を交わしたりもした。

 まるでお嬢様と2人でデートをしているように錯覚してしまう。

 またある意味、今日一番お嬢様が目を輝かせたのは、屋台で売っていた揚げ菓子だ。
 前世でいうところの揚げパンに近い。
 パンのような物を油で揚げ、砂糖と香辛料をまぶした体に悪そうな一品だ。
 大きさは肉まんぐらいで、お値段は銅貨2枚――約200円。

 昔よくカレン達と街へ出たとき買い食いした一品らしい。
 子供達なら一度は絶対に食べる名物品だとか。

 午後の茶会代わりに、2つ出来たての揚げ菓子を買う。
 柏餅の葉っぱのようなナプキンに包まれ、オレ達は行儀悪いが歩きながら食べた。
 お嬢様は小さな口を動かし、ハフハフと実に美味しそうに食べる。
 その姿を眺めているだけで幸せな気分になった。

 気付けばお嬢様はぺろりと完食した。
 まだ食べ足りないらしく、横目でオレの食べかけをちらちら盗み見る。

「……お嬢様、よかったら僕の分も食べますか?」
『で、でもお兄ちゃんの分を取るなんて申し訳ないです』
「いえ、お気になさらず。それにお腹いっぱいなのでよかったら」
『それでは遠慮無く、ありがとうございます!』

「ですが、その前に口元が砂糖だらけなので、一度拭きますね。お嬢様、『うーん』してください」

 お嬢様は素直に従いキスをするように口元を突き出す。
 オレはあまりの素直さ、可愛らしさにキスしそうになったが理性が踏み止める。
 もしここでキスなんてしたら、どこかで見ているギギさんに唇を引き千切られそうだ。

 ポケットから取り出したハンカチでお嬢様の口元を拭うと、揚げ菓子を渡す。
 彼女はオレの食べかけにも拘わらず、躊躇無く口を付けて美味しいと微笑んだ。

 歩き疲れただろうと休憩がてらお茶を飲むことに。
 食堂内は混んでいて空きが無いため、外のベンチへ。
 木製のコップに注がれた果実水を買ってお嬢様の元へ戻る。

 お嬢様は疲れた様子も見せず、楽しげに足をぶらぶら揺らしながら行き交う人々を眺めている。
 その姿は約2年間も引き籠もっていた少女にはまったく見えない。

 どこにでもいる可愛らしい、年相応の少女の姿だ。
 オレは思わず両手に木製のコップを持ちながら、お嬢様の横顔を眺め続けてしまう。

『どうかしましたか、リュートお兄ちゃん?』

 彼女はミニ黒板を差し出し、首を傾げる。

「お嬢様があまりに可愛らしく、ついつい見とれてしまいました」
 お嬢様を褒めると、真っ白な肌は色が変わるように赤くなる。

『もうリュートお兄ちゃん、からかわないでください』
「失礼しました。ついつい本音が出てしまいました」
『だから、からわかないでくださいッ』

 お嬢様は謝罪したのになぜか頬をまたハムスターのように、膨らませる。
 怒っている姿も可愛いなー。

「……ッ!?」
「お嬢様?」

 だが、そんな彼女が一転、表情を幽霊のように青くする。
 お嬢様が視線を向けている先へ、振り返ると――そこには2人の大人の男が立っていた。

 1人は背が高く乾物みたいに痩せている。
 もう1人は背が低く横に太っていた。
 ゲームやマンガに出てきそうな凸凹コンビだ。

 2人ともニヤニヤと小馬鹿にした笑みを貼り付け、ギラギラとした暗い欲望を抱えた目をしていた。着ている衣服の質はいいが、決して上品では無い。
 腕や指、手首にゴテゴテと宝石を見せびらかすように飾り、如何にも『性根が曲がっている成金です』と宣伝している。
 出来ることなら関わりたくない人物。

 無視したい所だが、お嬢様の視線は彼らに釘付けで、周囲で警護しているはずのギギさんが慌てた様子で駆けつけてくるほどだ。

 ギギさんはオレ達を守るように男達の前に立つ。

「……何かご用でしょうか」
「街に寄ったら知った顔を見付けたから声をかけようとしただけだ。なぁ、兄者」
「そうとも。だから、そんな怖い顔をするなギギ」
「…………」

 ニタニタと嘲笑するような笑みを貼り付けたまま、奴らはギギさんへ答えた。
 その言葉遣いは主が使用人に向けるようなものだ。

(ギギさん、こいつら何者なんですか?)
(……旦那様のご兄弟――ヴァンパイア族の当主であるピュルッケネン・ブラッド様と次男のラビノ・ブラッド様だ)

 ギギさんが太った男・ピュルッケネン、細い男・ラビノと視線で順番に教えてくれた。

 ブラッド家の長男と次男と言えば、三男のダン・ゲート・ブラッド伯爵に資産で大きく追い抜かれたことを根に持ち、一度戦争を仕掛けてきた兄弟のことだ。

 ようやくお嬢様の怯え、ギギさんの警戒心の理由が分かった。
 この2人が伯爵の娘であるお嬢様に対して、好意を持っている筈が無い。

 太った男――ピュルッケネンが豚のような鼻息を漏らし、オレに視線を向けてきた。

「そこのガキが前に買った奴隷か。ふん、やせ細って青白いガキだな。ダンの奴にろくな物を食べさせて貰っていない証拠だな」

 オマエが太り過ぎてるだけなんだよ!

「兄者の言う通り、ダンの奴はケチな輩だからね」

 次男のラビノが長男に追従する。
 あの旦那様がケチだったら、この世の殆どの人がドケチになるわ!
 反論したいが、一介の奴隷が旦那様の兄弟に声を荒げる訳にはいかない。

 ギギさんも耐えているのか、拳を痛いほど握りしめている。

 2人の視線がオレから、お嬢様へと向けられる。

「クリス、引き籠もっていたと聞いたから心配していたぞ。無事、外に出られるようになったんだな。オジとして嬉しい限りだ。なぁ、弟よ」
「はい、兄者。喜ばしいことですな」

「お2人とも、お嬢様はまだ外へ出られたばかり。刺激を与えるマネをするならいくらなんでも――」
「黙れ! ギギ! 例の件、無かったことにしてもいいんだぞ!」

 爆発したようなピュルッケネンの発言に、ギギさんが顔色を悪くする。
 お嬢様が怒鳴り声にびくりとか細い肩を震わせた。

「……失礼しました」
「ちっ、下等な獣人種族の分際で。あー……そうそう。クリス、無事、部屋から出られるようになってオジとして大変感激しているぞ」

 ピュルッケネンは話を再開する。

「だがまぁ、引き籠もりたくなる理由も分からなくないな」

 ピュルッケネンは脂っこい顔を醜悪に歪める。
 他人の不幸を最上の喜びと位置づけているゲスの顔だ。

「なにせ我らがブラッド家の優秀な血を引きながら、魔術師としての才能が無いのだから。儂ならとっくに自害しておるところだ! なぁ、弟よ」
「まったく兄者の言うとおりです」

「それともあれなのかもしれんな~」
「ほぅ、あれとは兄者」
「弟よ、カッコドリという鳥の習性を知っておるか? カッコドリは自分の卵を他の鳥と入れ替える『托卵』という習性をもっているのだよ。もしかしたら……弟・ダンもやられているかもしれんな。あれは見た目通り愚鈍な男。妻が他の男とつがって身籠もっても気付かぬだろうなぁ~」
「さすが兄者、博識だ」

 脳みその血管がぶち切れそうになる。
 旦那様の兄だが知らないが、お嬢様に対して『才能が無いのは、奥様が浮気して作った子供だから』と揶揄しているのだ!

 無意識に拳を握り締めていた。

「お、お嬢様!」

 ギギさんの慌てた声に振り返ると、お嬢様が耳を押さえ走り出していた。
 向かう方角は、ピュルッケネン達とは真逆。
 このままでは見失ってしまう!

「リュート、ここはいいからお嬢様の後を追え!」
「わ、分かりました!」

 手にしていた木製のコップをベンチに置き、お嬢様の後を追う。
 去り際、精一杯ピュルッケネン達を睨み付けた。






 運動不足のせいでお嬢様の足は速くは無い。
 それでも人種族と比べてヴァンパイア族は基本性能が高く、すぐには追いつけなかった。

「ッ!?」
「どこ見て走ってるんだ! 気を付けろ!」

 お嬢様は木箱を持った男とぶつかり、地面に転ぶ。
 運悪く水で湿り泥になっていた。
 洗い立ての真っ白な服や顔、体、髪が泥で汚れてしまう。

「お嬢様!」

 転んだお陰でようやくオレは彼女に追いつくことができた。
 お嬢様は転んだまま起き上がろうとしない。
 駆け寄り抱き起こすと、目が虚ろで力が無い――無気力な状態だった。

 数分前まで輝くような笑顔を浮かべていた少女が、感情を抜き取られたように暗い顔をする。
 初めて出会った時の方がまだ表情豊かなほどだ。

「お嬢様、失礼します」
「…………」

 オレは断りを入れ、彼女をお姫様抱っこすると馬車を止めている預かり所まで走った。
 預かり所に辿り着くと、外のベンチに座らせる。
 お金を払い買った綺麗な水でまず手と顔、髪についた泥を綺麗に洗い流す。

 お嬢様の紅葉のような手のひらは、皮が擦り剥け血が滲んでいた。
 大した傷じゃない。
 こんなのギギさんの治癒魔術なら傷痕も残さず完治できる。
 なのに悲しみがオレの胸を激しく突く。

 汚れを洗い、払い落とすと、お嬢様を馬車へと乗せた。
 ギギさんは30分ほどで預かり所に顔を出す。
 お嬢様の傷を治癒魔術で治す。

 オレ達は逃げるように馬車で街を後にした。

「…………」

 馬車の中で――オレとお嬢様は2人っきりになる。
 お嬢様は膝を抱え小さく蹲っている。
 オレもただ黙って彼女の正面に座り続けていた。

 ――お嬢様は顔を上げると、ミニ黒板に文字を書く。

『……学校に通っていた時も、同級生達から似たようなことを言われました』

 先程のヴァンパイア家当主と次男が言った、『両親が魔術師なのに、なぜクリスには魔術師の才能が無いのか?』ということだろう。

『最初は私も反論しました。例え両親が魔術師でも才能が遺伝しない可能性がある、と。でも、私が話をするたび笑われるだけで相手にされませんでした……』

 お嬢様が震える指先で文字を書く。

『リュートお兄ちゃん、魔術師の才能を引き継がなかった私は、蔑まれる存在なんですか? いらない子なんですか……?』

 オレは首を横に振った。
 前世でイジメを受けたオレだから、お嬢様が本当に聞きたいことが分かる。
 だから、真っ直ぐ目を背けず断言した。

「他の奴らは知りません。ですが旦那様と奥様は決してそんなことを思ってなんかいません。それにギギさん、メリーさん、メルセさんにマルコームさんや他の使用人達全員! もちろんオレも含めて、お嬢様に魔術師の才能がある無しなんて気にしていません。みんな、お嬢様のことが大好きです! お嬢様が笑ってくれる、それだけで嬉しいんです!」
「――ッ!」

 お嬢様は第三者から見下され、陰口を言われるのも辛かっただろう。
 だが本当に怖かったのは両親の考えだ。

 もしかしたら、自分は両親から魔術師の才能を引き継がなかった『出来損ない』と思われているのかもしれない――と。

 オレもDQNの標的にされるのが怖くて前世で引き籠もっていた時、両親にこんな情けない自分がどう思われているのか、知るのも怖かった。
 そのため極力部屋から出ず、家族との交流を最小限に抑えてしまった。自分は疎まれていると思い込み、最終的に関係は破綻した。

 だから、オレはお嬢様に伝えたかった。
 自分達は例え魔術師の才能がなかろうと、世界中が敵に回ろうと、お嬢様の味方だと。
 ずっとお嬢様の側にいると。

 その気持ちが通じたのか、お嬢様は再び涙を流す。
 ゆっくりと腕を伸ばし、オレの執事服を掴むと顔を押し付けてきた。

「…………ッ」

 お嬢様は声を押し殺し泣き続ける。
 胸に詰まっていた悲しみの全てを吐き出すように。
 オレはそんな彼女が泣きやむまで、ずっと柔らかな髪をなで続けた。


第32話、第33話の計2話を連続で更新しました。
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