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第330話 宝石と石炭

 リズリナの案内で、彼女が所属する軍団(レギオン)にオレとメイヤが代表して視察に向かう。

 準備に忙しい手前、断ってもよかったが彼女の勢いと自身の好奇心に引かれて付いて行く。

 彼女達の軍団(レギオン)はステージを挟んで、オレ達とはほぼ反対側になる。


 移動中、他軍団(レギオン)のスペースを眺めると皆一様に忙しそうに準備していた。

 軍団(レギオン)大々祭(だいだいさい)自体が今回初の試みのため、各軍団(レギオン)はお客様の耳目を引くために多々工夫を凝らしている。


「着いたわ! ここがあたしの所属する軍団(レギオン)、――宝石と石炭(ジェム&コール)のスペースよ!」


 宝石と石炭(ジェム&コール)

 軍団(レギオン)ランキング、銀のベテラン集団である。

 彼らは軍団(レギオン)名から分かるとおり宝石、石炭、魔石など鉱物採取をメインにしている。

 鉱物を手に入れるためなら大陸や洞窟奥地、魔物達が跋扈する危険な場所にも向かう軍団(レギオン)らしい。

 宝石と石炭(ジェム&コール)のスペース前に置かれた看板に紹介文が書かれてあった。


「特別に案内してあげるわ。付いてきなさい!」


 リズリナは返事も聞かず、一人中へと入っていく。

 オレとメイヤは無視するわけにもいかず、彼女の後に続いて宝石と石炭(ジェム&コール)のスペースに足を踏み入れる。


 彼らが建築した建物内部に入ると、美術品を飾るように鉱物が部屋中に置かれていた。

 小型のテーブルや長机に置かれ、下に説明文が詳細に記されている。

 まるで前世、地球の日本、小学生時代、遠足で行った博物館のようだった。

 リズリナはそれら鉱物の一つの前に立ち、説明を開始する。


「この魔石の原石を見てちょうだい! これは魔人大陸で採取されたものなのだけど、市場に出回る魔石の原石の色と見比べて。通常の魔石と比べて分かるとおり、濃さが違うでしょ? これは稀に取れる稀少な魔石で、同じ大きさのに比べて魔力をため込む量が――」


 彼女はまるで研究を発表するように、怒濤の勢いで話し始める。

 その内容は魔石に関するマニアックな説明で、正直オレ自身はさっぱり分からない。

 メイヤは専門分野のため、リズリナの話を興味深そうに聞いている。


 次に彼女は別の鉱物の前にオレ達を連れて行き、同じように説明を開始――ということを繰り返す。

 説明が終わった区切りで、オレはたまらず手を挙げ疑問を口にする。


「あ、あの質問いいだろうか?」

「何、今までの説明で分からない所でもあったの? いいわよ、なんでも聞いてくれていいわよ!」

「そうじゃなくて……リズリナ達の軍団(レギオン)は鉱物の展示がメインなのか?」

「ええ、そうよ。これだけの物を一同に揃えるなんて、あたし達、宝石と石炭(ジェム&コール)だからこそできる芸当よ。軍団(レギオン)大々祭(だいだいさい)を訪れるお客様達が、大挙して押し寄せてくるのが簡単に想像出来るわ」


 リズリナは鉱物を並べた展示物に祭を訪れるお客様達が、押し寄せると本気で思っているらしい。

 専門分野の研究者なら好奇心をかき立てられる展示物なのだろうが、祭にくる人々はほぼ一般人だ。

 一部は興味深く見る人もいるだろうが、全体的にみたらまずスルーされるのがオチだろう。


 もしかしなくても……オレ達、PEACEMAKER(ピース・メーカー)の勝利が確定したのではないか?


 リズリナはこちらの沈黙を『勝てないことに絶望している』と捕らえたのか、機嫌良さげに話を続ける。


「ふふふん! どうやら自分達がいかに不利な状況に追いつめられているか理解したようね! ならさらなる絶望を教えてあげるわ! 付いてきなさい!」


 再びオレ達の返事など聞かず、建物奥へと進む。

 鉱物展示コーナーを抜け、扉を開くと外へ出る。

 どうやら建物の裏側スペースに出たようだ。


 裏側スペース――広場の周囲には高く頑丈な壁が作られている。

 内部の広場を見せないというより、外部に危険物が飛んでいかないよう設置されたような作りだった。


 その広場中央に大きなシートがかけられ、隠されている物があった。

 リズリナはシートの前へと移動し、得意満面な表情でオレ達へと向き直る。


「鉱物に関してはメンバー全員で集めた物だけど、これは違うわ! メイヤ・ドラグーン! 貴女を超えるために研究、開発したあたしの最高傑作よ!」


 彼女はシートに手を掛けると勢いよくはぎ取る。

 その下から出てきたのは3m近くある人型と蜘蛛のような多脚の石像だった。

 メイヤは呆れたように溜息を漏らす。


「リズリナさんたら……まだ『ゴーレム』なんて芽のない分野を研究しているのですね。そんな石像ごときでわたくしを超えようだなんて」

「ゴーレムの研究なのか?」

「すみません、彼女の研究する専門分野のことをお話するのを忘れていましたわ。彼女は魔術師大学校時代から『ゴーレム』を専門に研究しているんですの」


 さらにメイヤが説明してくれる。


 ゴーレムは石、粘土、金属などを材料に魔石で動かす人形のことをさす。

 命令に忠実で、力も強く一時期は戦闘用や労働力として注目を集めた。

 しかし動きが鈍いせいで敵として現れても魔術師の的でしかなく、巨大化や高速化をすればするほど魔力消費が激しく、魔石交換の手間がかかるなど問題が多発。

 一般的には廃れた研究分野扱いされている。


 リズリナは、そんな『ゴーレム』を魔術師大学校時代から専門的に研究しているらしい。


 彼女はゴーレムを使い固い地面を掘り、魔石発掘の効率化を研究テーマにしているのだ。


 その研究結果を今回の軍団(レギオン)大々祭(だいだいさい)でお披露目するようだ。

 リズリナは今までと違いメイヤの言葉に反応せず、余裕の態度を崩さない。


「ふっ、そんな余裕の態度を取れるのも今のうちよメイヤ・ドラグーン。たとえ貴女が『七色剣(ななしょくけん)』や『魔力集束充填方式』を開発したとしても、結局本体である魔石がなければ意味のない代物。あたしの開発した『採掘ゴーレム3型』と『運搬クモクモ君』の性能を聞いたら腰が抜けて、涙を流して呆然とするんだから!」


 彼女は鉱物の説明以上に熱を込めて語り出す。


「『採掘ゴーレム3型』は従来の採掘型と比べて魔力消費量を半分に抑えられているのに、パワーは2倍以上にもなるの。お陰で地面も掘り放題! さらに腕のアタッチメントを取り替えて、この錐状のにすれば固い岩盤でも楽々破壊できるんだから!」


『採掘ゴーレム3型』の側にある錐状のアタッチメントは、どう見てもドリルだ。


「『運搬クモクモ君』に至っては、魔力消費は三分の一以下に抑えつつ、パワーは約3倍! これ一体で掘り出した土石を約10トンも運ぶことができるのよ! ふふふふふ! どう凄いでしょ! 驚きすぎて声も出ないようね! メイヤ・ドラグーン!」


「アホ臭くて呆れているだけですわ。地面が掘れて土を運ぶだけのゴーレムに、どう驚けというのですか」

「なぁ!? メイヤ・ドラグーンはこの凄さが分からないっていうの!?」

「分かるわけないじゃありませんか。まったく何を見せられると思えば、こんなお遊戯技術を自慢されるとは……。完全に時間の無駄でしたわ」

「ぐぬぬぬぬ……ッ」


 メイヤに渾身の研究を馬鹿にされ、リズリナは顔を赤くして悔しがる。

 そんなリズリナを無視して、メイヤはオレに謝罪してきた。


「リュート様も申し訳ありません。お忙しい中、足を運んで頂いたにも拘わらずこのような些末な技術をお見せするだけになってしまって。わたくしが忘れず彼女の研究分野をお伝えしていれば、事前に予想できこのような無駄足を踏まずに済みましたのに……」


「メイヤ……オマエ、本当にこれが『些末』な研究だと思っているのか?」


「……え?」


 彼女は意外な返答に目を丸くする。

 オレ自身、このゴーレム達を前に震えるほどの感動を覚えているというのに。

 オレはリズリナに向き直ると、詳しくゴーレムについて話を聞く。


「リズリナ! これは素晴らしい、革新的な技術だよ! 特に多脚の『運搬クモクモ君』が個人的に興味深いんだが、技術的な話を聞かせてもらってもいいか?」

「へ、へぇ! なるほどさすがメイヤ・ドラグーンが師事するだけあって、見る目があるじゃない! いいわよ、何でも聞いて!」


 悔しそうにしていたリズリナは、オレの言葉を聞くと一瞬で喜びの表情を作り出す。

 もし彼女に尻尾があったら、千切れる勢いで揺れるレベルだ。


「『運搬クモクモ君』はこの小柄な大きさで約10トンの重量を運べるっていうが、これが最大値なのか?」


『運搬クモクモ君』の大きさは自動車を二回りほど大きくした程度。

 実際、この背に10トンの荷物を置けるスペースはなく理論上可能ということらしい。


「重量の最大値だけど、今回使用している技術を使えば、大きさはそのままにさらに増やすことが可能よ!」

「ま、マジか!? ちなみにどんな技術を使っているんだ? 聞かせられる範囲で構わないんだが」

「むふぅー、いいわよ! ちなみに勇者様は北大陸にいる『巨人族』っていう魔物は知っているかしら?」

「もちろん」


 過去、スノー両親を探すため北大陸へと行った。

 その際、戦ったこともある。


「巨人族ってあれだけの大きさなのに2本足で立って、ちゃんと歩いて移動しているでしょ? どうしてだか分かる?」


 リズリナに指摘され、初めて疑問を抱く。

 確かに魔物ということで考えなかったが、あれだけの重量が移動しているのは不思議だ。

 前世、地球で巨大ロボットを作り出した場合、歩いた瞬間に自重に耐えかねて関節が折れると聞いたことがある。


「答えはある意味簡単で、魔力によって動いているからよ。でもあれだけの巨体を維持し、動くのにどれだけの魔力を必要とすると思う? 仮に現在の技術で巨人族を人工的に再現しようとしても技術的に不可能なの。あの巨体を維持するだけで魔石の魔力を消費して、一歩も歩けないわ。なのに巨人族は魔石も無しになぜか動き回っている。正直、危険過ぎて生態を解明できないっていうのもあるけど、謎が多い魔物なの」


 彼女は悔しそうに歯噛みするが、すぐに表情を切り替える。


「でも最新の研究で分かったこともあるの。まず巨人族の体を構成する石材。これが今までのどの石材とも一致しない特殊な代物。恐らくだけどこの特殊な石材が、魔石も無しにあの巨体で動き回れる理由の一つだと考えられるわ。だからあたしは、その石材を材料にゴーレムを作ることを思いついたの!」

「じゃぁこの『運搬クモクモ君』は巨人族の体でできているのか?」

「と、思うでしょ? でもその答えは3割正解ってところね」


 リズリナは『運搬クモクモ君』の足を撫でる。


「例えば『運搬クモクモ君』に使用している巨人族の石材は、体全体の3割ってところね」


 だから3割正解ってことか。


「巨人族の石材の難しい点は、なぜか他材料の混ぜると途端に劣化するの。ならオール巨人族の石材で作り出そうとしたけど、パーツ毎に分けて組み上げるようとして繋げようとしたら、接着はどうしても他材料で代用するからその表面から劣化して使い物にならない。なら魔力で粘土をこねるように動かして塊からまるごと作り出そうとしたんだけど、魔力抵抗がなぜか働いて動かないのよ」


「おいおい、それじゃどうやって3割も使うことができたんだ?」


「ふっふっふっ、ここからがあたしの研究成果よ! さすがにこの研究の詳細は教えられないけど、ある特殊な方法を使って巨人族の石材と他材料を混ぜ合わせることができるの。混ぜ合わせた材料を使って、ゴーレムを作ったら魔力消費を抑えつつ、性能がアップしたのよ!」


 その研究結果を使用し、『採掘ゴーレム3型』『運搬クモクモ君』を作り出したのだ。


「なら理論上で言えば、巨人族の石材の割合を増やしていけば、性能がガンガンアップするってことか?」

「理論上はね。でもまだ他材料と混ぜ合わせは研究途中で、現状約3割が限界なの。それに元々、巨人族は強い魔物だから石材自体が滅多に手に入らないのよ。『採掘ゴーレム3型』『運搬クモクモ君』が作れたのも一時期、北大陸から巨人族の石材が大量に輸出されたからよ。噂じゃ、とある上流貴族が魔術師としての技術をあげるため修行として巨人族に戦いを挑み続けたからって話よ。凄い人も居るわよね。強くなるために巨人族に戦いを挑むなんて」


 北大陸、上流貴族、巨人族討伐――どこかで聞いた話だな。


 とりあえず、もしリズリナの話が本当なら、研究さえ進めばオール巨人族石材でのゴーレム化が可能になる。

 そうすれば多脚戦車が可能ではないか!


 現状、多々問題がある戦車開発だが、巨人族石材の研究が進めばその多くが解決される可能性が高い。


「石材混ぜ合わせ研究だが、どうにかオレも関われないだろうか? 研究内容を教えろっていうことじゃなく、出資や材料調達とか出来ることがあれば手伝わせて欲しいんだ」

「えっ!? ちょ、リュート様、突然、何を仰るのですか!?」


 オレの申し出にリズリナではなく、メイヤが驚く。

 彼女の声は一旦脇に置いて、熱意を伝えるように話を続けた。


「この技術は世界を変えるほどの革新的な代物だ。だからどうかオレ達に関わらせて欲しいんだ!」

「どうしようかしら! まぁちょっとぐらいなら協力させてあげなくもないわよ!」

「本当か! ありがとう! それじゃまだ聞きたいことがあるんだが、もし仮に石材混ぜ合わせ研究が進んで5割ぐらいになった場合、魔力の消費量とパワー、移動速度の予想値はいくつに――」


 オレはリズリナに湧き出る疑問点をどんどん質問する。

 彼女は理解者を得たことが心底嬉しいらしく、懇切丁寧に質問に答えてくれた。

 軍団(レギオン)大々祭(だいだいさい)を争うライバル同士にもかかわらず、オレ達は熱い話し合いを続けた。


 側に居るメイヤの存在をうっかり忘れてしまう程にだ。


 だって夢の多脚戦車が作り出せるかもしれないんだよ?

『興奮するな』という方が無理な相談だった。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

11月27日、21時更新予定です!


明日は軍オタ2周年記念になります!

最近11月頭にあったぶっ倒れ事件等があったため、何か特別なイベントを企画する余裕がありませんでしたが……2周年を迎えられたのは読んで下さってる皆様のお陰です。本当にありがとうございます!


また、軍オタ1~4巻、引き続き発売中です。

まだの方は是非、よろしくお願いします!

(1~4巻購入特典SSは15年8月20日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)


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