第329話 お祭り、前日
軍団大々祭開催日の前日。
オレ達、PEACEMAKER、新・純潔乙女騎士団全員で3日前から会場へと到着していた。
ココリ街の治安は冒険者斡旋組合が冒険者を雇い入れ、面倒を見てくれている。
おかげで全員で来ることができた。
たとえ本部を荒らされても銃器や兵器などの重要な物は全てリースの『無限収納』にしまっているため、問題はなし。
もちろん荒らした人物、国、組織にはそれ相応の報復をするが。
物騒な話はおいておいて――軍団大々祭は獣人大陸の港街近くでおこなわれる。
会場は港街から馬車で約1時間。
冒険者斡旋組合がフリーの魔術師を動員し、魔術で会場を設営した。
港街の近くに作ったのは交通の便がいいのと、宿泊施設の充実、食料品や消耗品が充実しているためだ。
大々祭会場は前世、地球でいう所のビック○イトのような雰囲気である。
箱物でイベント会場に特化している。会場自体に宿泊施設はなく、周辺にかろうじて泊まれる場所がある程度だ。
基本的にメインのお客様達は港街で宿泊、馬車で移動し会場へと向かう。
会場周辺の宿泊施設(と言ってもキャンプ出来る程度のスペースと飲料水となる井戸が設置されている程度だが)には、オレ達のような参加者などが泊まる予定らしい。
祭が獣人大陸で開かれるのも、オレ達の本部があるためだとか。
どうも気を使われたらしい。
軍団大々祭は3日間開催される。
参加する軍団は、30。
軍団にはスペースが与えられ、そこで各自一般客にアピールする。
オレ達は屋台で『わたあめ』『ポップコーン』『イモモチ』『唐揚げ』『フライドポテト』『果実ジュース』を販売。
移動しながら食べられる食品をチョイスした形だ。
また屋台では『ピース君』人形を販売している。
『ピース君』人形は白鳩をデフォルメし、胸にPEACEMAKERの軍団旗が貼られたデザインをしている。
他にも軍団アピールとしてFX弾を使用したシューティングレンジでの射撃、格闘技術の模擬戦と希望者に対して護身術の指導、PEACEMAKER&新・純潔乙女騎士団の成り立ちと理念の説明会などをする予定だ。
軍団大々祭をチャンスと取らえ、多くの人々にオレ達の理念を広めようと考えている。
またスペースの端には皆からなんとか許可をもらい『ウォッシュトイレ』の見本展示と実際使用する携帯ボックス型を置かせてもらった。
気に入ったお客様がいたら即販売できるように在庫もリースにお願いして『無限収納』にストックしてある。
お値段は――ウォッシュトイレ(暫定完成版)の場合、金貨15枚(約150万円)。
オプションで『水滴飛ばし機』等をつけると、金貨17枚(約170万円)。
商品の受け渡しも完璧だ。
皆からは販売を疑問視されたが、オレは絶対にウォッシュトイレの素晴らしさに気付く人は居ると力説。
情熱を持って押し切った。お陰で隅の方だが、販売スペースを確保出来たのだ。
基本的には以上のようなことでPEACEMAKERをアピールしていく予定だ。
中央にはメインのステージがあり、くじ引きで時間を決めて各軍団をアピールする催しが開かれる。
オレ達も3日目の午後、ステージ利用の権利を手に入れている。
演目としてはスノー、他に新・純潔乙女騎士団メンバーの中で運動技術に優れた者達を選抜しガンプレイをする予定だ。
衣装もこの日のために『カウボーイコス』を準備済み。
リボルバーを使用し空砲も撃つ予定なので、派手なステージなると自負している。
メイヤを馬鹿にした自称ライバルのリズリナ・アイファンを見返すためにも、オレ達は全力で自分達ができることをした。
ただ一つだけ残念なことがあるとしたら、今回の軍団大々祭に旦那様やギギさん達が参加できなかったことだ。
手紙で祭に参加することを伝え、『よかったら足を運んでください』と連絡を入れたが、旦那様は前回の魔王レグロッタリエ戦で長いこと奥様と離れていたため、しばらくは一緒に居ると断られた。
エル先生やギギさん、タイガ達も都合が悪いからと参加を見送るとのことだった。
できれば旦那様やギギさん達にも、見て欲しかったのだが……多々迷惑やお世話になっている手前、無理を通すわけにもいかない。
次、機会があれば誘えばいいのだ。
気持ちを切り替え、当日に迫った準備に慌ただしく追われる。
「リュートくん、屋台の準備なんだけど材料ってもう出しておいた方がいいの?」
『お兄ちゃん、当日の衣服なんですが戦闘服のみで問題無いんですよね? 後、ピース君の着ぐるみに入る人は決まったのでしょうか?』
「リュートさん、実行委員の方が提出する書類が全部出ていないと言ってきているのですが」
「リュートさま、PEACEMAKERと新・純潔乙女騎士団の成り立ちや歴史を説明する教室の椅子が予定よりすくなく、どこかで都合が付かないでしょうか?」
「リュート様、シューティングレンジの調整が終わりましたので、実際に試射なさいますか?」
本番当日ということもあり、怒濤の勢いで問題や確認などが発生する。
オレは焦る気持ちを抑えながらも、一つずつ問題を潰していく。
「スノー、屋台の材料は今は出さなくて問題無いよ。明日の朝、早くに並べる予定だから。クリス、衣装は戦闘服のみで、ピース君の中には最初オレが入って後はローテーションで決まったメンバーが入る。リース、書類に関してはバーニーに頼む。彼女が一番書類関係を把握しているはずだから。後、リースはココノの方を手伝ってあげてくれ。『無限収納』に入っている椅子を出せば足りると思うから。メイヤ、試射は後でやるから準備だけしておいてくれ」
イベント前日ということもあり、オレ達のスペースだけではなく会場全体にバタバタとした雰囲気が漂っていた。
祭前日特有のざわざわとした空気は嫌いではない。
「どうやら逃げずに来たようね、メイヤ・ドラグーン!」
雰囲気に浸っていると、やられ役の典型のような台詞を叫び竜人種族、魔術師B級、リズリナ・アイファンが姿を表す。
今日も竜人種族伝統のドラゴン・ドレス姿である。
短く切った髪に、竜人種族特有の角。美少女ではあるのだが、相手をしたら面倒なことになりそうな空気を全身から発している。
明日の準備で忙しく、彼女を構っている暇は無いのだが……放置したら余計なことが起きそうなのでメイヤに応対を押しつけ――一任した。
メイヤは嫌そうな顔をしつつも、師匠命令のため渋々リズリナへと歩み寄る。
オレはその間にインストラクターを務めるメンバーを集めて、シューティングレンジに不備がないかのチェックを頼んでいた。
「ごきげんようリズリナさん。なにかご用ですの?」
「決まっているでしょ。敗北が確定しているのに、無駄な努力をしているメイヤ・ドラグーン達を笑いに来たのよ」
彼女の勝ち誇った台詞に軍団メンバーが苛立つのを肌で感じる。
もちろんオレ自身、彼女の言葉に鋭い視線を向けてしまう。
最初は面倒臭い態度を露骨にしていたメイヤも、彼女の発言に目の色を変える。
「わざわざ悪口を言いに来るなんてあまり褒められた態度ではありませんわよ、リズリナさん」
「ふっ、本当のことを告げて何が悪いのかしら? この程度の代物であたし達、軍団に勝とうなんて」
リズリナは屋台やシューティングレンジ、説明会場を見回し勝ち誇った笑みを浮かべる。
オレ達の敵意ある視線などまったく意に介しない。
よほど彼女が所属する軍団の催しに自信があるのだろう。
「今、負けを認めれば土下座は無しで、代わりにあたしの部下として雇ってあげるわよ」
「部下? 上司の間違いじゃありませんの? どっちにしろあなたとの下にも、上にもなるつもりはありませんが。リズリナさんこそ、負けた時のために土下座の練習を今のうちからしておいた方がいいと昔のよしみで忠告してあげますわ」
少女達が睨み合う。
もちろんオレ自身、メイヤを援護するかのようにリズリナに対して不満を表した視線を飛ばす。
メイヤの知り合いで元同級生ゆえに、ある程度友好的な態度を取ってきた。
だが、ここまでに馬鹿にされて笑っていられるほどお人好しではない。
「なっ!? あれは!」
オレが胸中で彼女の評価を下げていると、リズリナがメイヤとの睨み合いから一転、狼狽えた表情を作り出す。
彼女の視線の先にあるのは、ウォッシュトイレ展示&体験コーナーだ。
彼女の位置からでは、メイヤが壁となりすぐに気づけなかったらしい。
リズリナは準備中のスペースにもかかわらず、メイヤを素通りしウォッシュトイレへと駆け寄る。
「これ、まさか……トイレに魔石を使っているの!?」
リズリナの反応は初めて、ウォッシュトイレを作りたいと相談した魔石店のオヤジに似ている。
彼女は竜人大陸で一番の魔石を扱う大店の娘だ。
最初のオヤジのように『トイレに魔石を使うなんて!』と激怒しているのだろう。
「魔石を使って水を温め、お尻に直接当て清潔にするなんて!? 素晴らしい発想力だわ! す、凄い! 素晴らし過ぎる! こんな魔術道具が存在したなんて……このトイレはまさに天神様が自ら作り出した奇跡のような代物だわ!」
リズリナは否定するどころか、諸手をあげて大絶賛し始める。
彼女は嬉々として、ウォッシュトイレの説明や構造を食い入るように見つめ実際にボタンを押して操作する。
便座には透明な板で蓋をしているため、ノズルが動き温水を『弱中強』と噴き出すのを間近で見ることができる。
「メイヤ・ドラグーン! この奇跡のトイレは貴女が作り出したの?」
「い、いえ、それはリュート様がお作りになったものですわ」
「これを勇者様が……!?」
先程まで睨み合っていたメイヤだったが、元同級生の豹変に気圧され、どう反応していいか分からずにいた。
オレが製作者と知るとリズリナは悔しげな視線を向けてくる。
「まさかこれほどの魔術道具を開発するなんて……正直、侮っていたわ」
「あ、アイファンさんは魔石をウォッシュトイレに使われて怒らないのか?」
「『リズリナ』でいいわよ、勇者様。むしろどうして怒るの? もしこのウォッシュトイレが全大陸に広まれば、魔石の需要は飛躍的に伸びるわ。魔石商としてその商機を逃す理由がないもの。利益だけじゃなく、ウォッシュトイレが広まれば今までの不衛生な環境から脱することができる。これほど公共の利益にもなるウォッシュトイレを怒る理由がないわよ」
リズリナはウォッシュトイレを愛しげに撫でながら、今度は逆に質問してくる。
「勇者様、このタンクは何? ウォッシュトイレと繋がっていないようだけど」
「それはボタンを押すと、中で水が流れて音を出す装置なんだ」
「なるほどね。使用中の音を消すために、逆に水音を出すなんてなんていう魔王的発想! さらに憎いのはタンク内部で水が循環するだけだから、節水にもなるのね」
「凄いな……まさかこんなすぐに理解するなんて。しかも環境資源を考えた節水仕様にも気付くとは」
「そうかしら? 理にかなっているからすぐに分かるわよ。後、便座カバーの温度に関してだけど、これは本体の温水化させるための魔石とはまた違う――」
「ノズル位置については最大公約数を――」
「魔石の魔力節約のために使用している魔術文字は――」
オレとリズリナは、2人で誰もついて行けないウォッシュトイレ話に興じる。
一通り話し終えた所で、リズリナが悔しげに呻く。
「まさかこれほどの物を用意していたなんて……悔しいけど、これで勝負は分からなくなってしまったわね。しかもウォッシュトイレ一台の値段が金貨15枚。オプションが付いても金貨17枚なんて安過ぎるわ! 10倍の値段を払ってもいいレベルなのに! 完全な価格破壊よ! こんなの販売と同時に即売り切れ必死ッ。……勇者様、事前予約とかできないの?」
「悪いけど、そういう不公平なことはできないよ。ごめんな」
「くッ! しかたないわ。軍団大々祭が開催同時にダッシュで駆けつけるしかないわね」
リズリナは心底悔しげに、この場でウォッシュトイレが買えないことを悔やんでいた。
彼女、いい子じゃないか。
「……リュート様。リズリナさんに向ける視線が穏やか過ぎはしませんか? 彼女は現状、わたくし達、PEACEMAKERの敵ですのよ?」
メイヤが珍しくジト目で、オレを睨んでいた。
まるで亭主が女性といちゃつく現場を目撃した主婦のような目だ。
べ、別に彼女に対してやましい気持ちを抱いているわけじゃないぞ! ただ純粋にウォッシュトイレを理解されて嬉しかっただけだ!
リズリナはこちらの様子など無視して、腕を組み喋り出す。
「ウォッシュトイレ、いい物を見せてもらったわ。お礼――という訳じゃないけど、このままあたしだけがメイヤ・ドラグーンの切り札を知っていては不公平だから、代わりにこちらの手の内も見せてあげる」
彼女は堂々と告げ、勝者の笑みを浮かべて断言した。
「あたし達の準備した催しを知り絶望するがいいわ!」
ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
11月21日、21時更新予定です!
場所を港街側に設定しましたが、後ほど変更するかも?
意外と場所の選定に迷っているので。
その際は修正した箇所をあとがき等でご報告させて頂ければと思います。
また、軍オタ1~4巻、引き続き発売中です。
まだの方は是非、よろしくお願いします!
(1~4巻購入特典SSは15年8月20日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)