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クリス・スナイパー 見えざる射手と消える弾丸(3)

今回の連続投稿は本編ではなく、特別版ということで『クリス スナイパー編』を連続投稿させて頂きます。

 妖人大陸のとある地方。

 そこで3日後に、『長の儀式』がおこなわれる。


 ファン一族当主、ヨーテシア・ファンの本家側にある儀式広場では、着々と『長の儀式』が準備されていた。


『長の儀式』を見物するための観客席が大工達の手により建てられている。

 4つの石柱が結界のように囲うステージがあり、そこに当日『呪いの椅子』が置かれるのだ。現在は何も無く、準備を進める使用人達が周辺の雑草を毟ったり、風雨で汚れたり、欠けた部分の修復をおこなっている。


 オレとクリスはその様子を眺めていた。


 オレ達は儀式5日前ほどに到着し、ヨーテシアの屋敷に宿泊していた。

 こちらに着いて早々、建物や儀式舞台、雑木林、他周辺を見て回り地理や具合を確認していた。


「お二人はいつも一緒なのね。仲が良くて羨ましいです」

「ど、どうもッス」


 儀式準備を眺めていたオレとクリスに、天罰機関(ネメシス)が声をかけてくる。


 人種族、魔術師Aプラス級、フーコ・ソー・レイユ。

 人種族、アコ・ニートだ。


 彼女達は儀式開始の1ヶ月前から来ており、部下達を連れて周辺警護に当たっている。

 特にステージ周りは24時間、必ず3人以上が待機していた。

 彼女達はヨーテシア屋敷ではなく、分家次男の屋敷に宿泊しているようだ。


 オレとクリスが本家屋敷に到着すると、知らせてもいないのに世話になるヨーテシアより先に、フーコ&アコが待ちかまえていた。

 どうやってオレ達がいつ到着したのか知ったのだろう。


 その後、屋敷を一歩でも出ると、フーコ&アコ、もしくは彼女の部下がオレ達について周り目を光らせる。

 絶対に細工はさせないと目で訴えていた。

 特にステージに近づくと余計警戒してくる。

 非常にうっとうしい。


 だが、さすがに彼女達も本家屋敷には入れない。

 一度、フーコが本家屋敷を自由に出入りする許可をもらいに、ファン家の当主ヨーテシアを訪ねた。


 しかし、彼は『突然、押しかけ屋敷内を歩き回りたいなど無礼千万。天罰機関(ネメシス)は犯罪だけではなく、家族のプライベートまで探るようになったのですか?』と発言。


 ヨーテシアは天罰機関(ネメシス)に睨まれるのを覚悟して、フーコ達を追い返したのだ。さすがに天罰機関(ネメシス)といえど、それ以上は理由もなく屋敷へ押しかけるわけにはいかない。


 お陰で本家屋敷内部だけは監視の目も無く自由に歩き回れた。

 待ちかまえていたフーコ達に嫌味を込めて、オレは返事をする。


「どうも今日も見回りご苦労様です。そちらも毎日お仕事精がでますね」

「ええ、まぁ。儀式を執り行うジーナーさんからの依頼ですから。仕事に手を抜くわけにはいきませんから」


 フーコはオレの嫌味に対して、表情筋ひとつ動かさず赤髪を弾く。

 この少女の顔が実は作り物の仮面だったと言われてもオレは信じるぞ。

 逆にアコは嫌味に対して青くなったり、涙目になったり、表情をころころ変えている。


 小さく――殺さないで、殺さないでッス。自分は上司の指示で動いているだけの下っ端ッス。恨むなら上司を、と本当に小さく小声で呟いている。


 オレも口の動きでなんとなく『そう言っているのか?』と予想するぐらいだ。

 だが恐らく間違いない。

 この子は速攻で上司を売っていた。


「…………」

「…………」


 オレがアコに呆れていると、クリスとフーコが黙って見つめ合っていた。

 年齢、背丈、性別などが同じで、また2人とも周囲から『天才』と恐れ、もて囃されている。


 故に何か思うところがあるのかもしれない。


 オレとクリスは一礼してから、当主屋敷へと戻る。

 扉が閉まるまで、フーコの視線が背中に刺さり続けていた。




 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 フーコは本家屋敷に戻るリュートとクリスの姿が見えなくなるまでずっと見つめ続けていた。

 彼らが姿を消すと、緊張していたのかアコが息を漏らす。


「はぁ~怖かったッス。見ましたさっきのPEACEMAKER(ピース・メーカー)団長の冷たい目! あれは軽く万は殺ってますね。自分の天罰機関(ネメシス)隊員としての勘がそう言ってるッスよ」

「……貴女の勘はまったく当てにならないわ。前も自信満々に犯人と断定していた人がまったく無関係な人物だったし」

「あれ? そんなことありましたっけ?」


 アコは『まったく記憶に無い』と首を傾げる。

 彼女を放っておいてフーコは改めて、本家屋敷を見つめ、次に儀式会場へと視線を走らせる。

 本家屋敷は二階建て。地下室(正確には半地下だが)もあり、鉄格子が土台に一ヵ所だけ存在した。

 本家屋敷は周囲の建物に比べて圧倒的に高く、立派だ。

 儀式会場までは約300mしか離れていない。

 椅子を狙うのにちょうどいい狙撃ポイントが多々ある。


 そんな彼女にアコが顔を近づけ小声で問う。


「でもいいんッスか? このままジーナーの言葉に従って動いて。PEACEMAKER(ピース・メーカー)本部で団長が言ってた『座ると必ず死ぬ椅子』。あれマジ話だったじゃないですか。このままじゃ自分達、殺人の片棒を担ぐことになるッスよ」


 本部を出た後、すぐにリュートが口にした『座ると死ぬ椅子』について調査した。

 天罰機関(ネメシス)レベルの組織になれば裏にも通じる情報網をいくつも持っている。時間はかからず情報が集まった。


 リュートの言う通り、その椅子は魔術的、毒物も無しに座った人物は事故や病死などで死んでしまう。現在、確認されているだけで7人は死んでいるとか。

 天罰機関(ネメシス)の調べでは実際はもっと多くの人が亡くなっているらしい。


 フーコは本家屋敷に背を向け、今度は儀式会場を目指し歩き出す。


「構わないわ。『座ると死ぬ椅子』はクリス・ガンスミスが破壊するから」

「は? えっ? 何言ってるんッスか。ウチらはそれを阻止するために、部隊まで動かして邪魔をしてるんじゃないッスか」


 リュートとクリスが外に出れば誰かが監視し、常に儀式会場には隊員が、裏手の雑木林や屋敷周辺、他場所も常に巡回し目を光らせている。


 他にもフーコは天罰機関(ネメシス)の力を動員して、全身を覆う金属甲冑を準備させている。

 当日、『座ると死ぬ椅子』の周囲に盾と剣を持たせた彼らを立たせる予定だ。


 通常の『長の儀式』にはそんなものは無い。

 今回だけの特別演出としてゴリ押す予定である。

 この案にジーナーは一人喝采を送り、絶対に押し通すと約束してくれた。


「クリスちゃんの使う魔術道具は、高性能な弓矢って話じゃないですか。確かえっと『ハイパーアルティメットアルバトロンストライトグランダーエンド』でしたっけ?」

「……スナイパーライフルよ。かすりもしてないじゃない」


 アコのデタラメすぎる名前に、さすがのフーコも呆れて足を止めてしまう。

 溜息をつき、再びステージへ向かい歩き出す。


「金属片を信じられないほど遠くまで飛ばし、相手を殺傷する魔術道具よ。リュート・ガンスミスが作り出したらしいわ。そのスナイパーライフルを使って、クリス・ガンスミスは今まで『奇跡』をおこしてきた」

「でもいくら遠距離から人を殺傷できるほど威力があっても、金属甲冑と盾を持って囲まれた椅子を破壊するなんて無茶ッスよ」

「地に足をつけたままならね」

「どういうことっすか?」


 彼女達はようやく儀式会場へと到着する。

 会場周辺に居た隊員達が挨拶をしてくる。

 また他人々が儀式会場の準備をひたすら続けていた。


 フーコは儀式会場に背を向け、本家屋敷に視線を向ける。


「2階の窓や屋根の上、天井裏から穴を開けて狙えば、甲冑達の頭を越して椅子を破壊することが出来るわ。甲冑を手配したのは破壊を防ぐためじゃない。椅子破壊を狙う場所を限定するためよ」


 彼女は幻想の弾丸を見ているように視線を再び儀式会場へと向ける。


「クリス・ガンスミスは儀式当日、必ず体調不良で欠席する。そしてスナイパーライフルを手に屋敷上部から椅子を狙い破壊するわ」


 フーコの建てた作戦は以下の通りである。

 当日、隊員や他第三者達に儀式ではなく、屋敷上部を監視してもらう。

 そして椅子を破壊した弾丸――金属片を確保。

 この二つを証拠にクリス・ガンスミスの手に縄をかけようというのだ。


 椅子を破壊する前からすでにクリス・ガンスミスは頭から爪先まで、フーコ・ソー・レイユの罠にかかってしまっているのだ


「クリス・ガンスミスは私の手の中。彼女の敗北はすでに決定されているわ」


 彼女は表情こそ、いつもの仮面を被ったように無愛想だったが、声音は自信に溢れていた。

 そんな彼女の自信にアコが水を差す。


「いや、でも、クリスちゃんはこのままだと捕まるって分かってるんじゃないッスか? なら椅子を破壊しない可能性があると思うッスけど」

「いいえ、クリス・ガンスミスは必ず椅子を破壊するわ。たとえ自分の負けが決まっていたとしても、手に縄がかけられると分かっていても、必ず」


 フーコは一片の迷い無く断言する。

 彼女の声音にはある種、人智を超えた信頼がクリスにあった。ダイヤモンドより硬い確信。天才少女同士のシンパシー。何か感じるのものがあったのかもしれない。


 アコは『そういうもんッスかね』と胡散臭そうに言葉を漏らしていた。


 フーコはそんな部下の言葉を無視して、準備される舞台を眺める。

 常に世界を冷めた目で見つめる彼女にしては珍しく、勝利を確信した歓喜の光がその目に輝いていた。


 そして3日後、長の儀式がとりおこなわれる。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

8月19日、21時更新予定です!


軍オタ4巻の発売日まで後2日!

前書きにも書いた通り、今回の連続投稿は本編ではなく、特別版ということで『クリス スナイパー編』を連続投稿させて頂いております。

『クリス スナイパー編』も明日で最終話です! お楽しみに!


また今回、感想返答を書きました。

よかったらご確認してください。


また、軍オタ1~3巻、引き続き発売中です。

まだの方は是非、よろしくお願いします!

(1~3巻購入特典SSは15年4月18日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)


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