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第307話 BC兵器

す、すみません! リアルでちょっと多々あって遅れてしまいました!

遅くなってしまい申し訳ありません!


 地球で、人類史上もっとも古い兵器が何かを知っているだろうか?


 答えは『生物・化学兵器(Biological Chamical Weapon)』である。


 記録上で一番古い生物・化学兵器(BCW)は、おおよそ紀元前6世紀、アッシリア人(現在の中東に存在)が戦争時、敵方の井戸へ麦角病の毒を流し込んだらしい。

 ちなみに麦核病の毒はLSDと似た成分である。


 そして近代に入り第一次世界大戦時、19世紀終わり頃から化学が発達。

 第一次大戦中、ドイツ軍が百数十トンの塩素ガスを散布。連合軍は中毒者・死者合わせて約2万人に上った。

 その後、連合軍側も塩素ガスを使用し、熾烈なガス戦が繰り広げられる。


 そして多数の死者・中毒者を出した後、1925年、ジェネーブ条約で生物、化学兵器が禁止された。


 だが、それにも関わらず来たるべき戦いに備え、各国は生物化学兵器(BCW)の開発を続けた。

 そして第二次世界大戦後は、生物化学兵器(BCW)は核兵器と同時に語られるほどになってしまう。


 しかし人道的理由から戦後生物化学兵器(BCW)は批判の的になり、1972年に『生物兵器禁止条約』が多国間で締結される。


 核兵器の急速な進化、反戦思想&人道主義の盛り上がり、兵器としての不安定――最後に生物兵器禁止条約の締結により、生物化学兵器(BCW)国家間戦争の道具としての役目は終え、葬り去られてしまった。


 しかし現在でも生物化学兵器(BCW)の脅威はある。

『貧者の核兵器』と呼ばれるだけあり、テロ等で使用される場合がある。

 彼らからすれば国際条約を守る必要などないからだ。


 そんな『貧者の核兵器』である生物化学兵器(BCW)――それが魔術によって生み出され、現代人すら知らない未知の物質・効力によって、この異世界で人種族を蹂躙していく。


「がぁぁあ!」

「ごぼ! げぼ!」

「た、助け――ッ!?」


 まず初めに明確な症状を訴えたのは前線で戦っている一般兵士である。

 彼らは、敵の非生物を動かしていると思わしき黒い玉を破壊。そのたびにあふれる黒い煙を吸い込んでいた。


 症状は鼻血から始まり、吐血、発熱、嘔吐、意識が朦朧とし、次第に呼吸困難に陥る。

 そんな状態でまともに戦えるはずもないし、敵を倒すためには黒い玉を破壊しなければならない。そのためらいが命取りとなり、攻撃の手が鈍り逆に攻め込まれ前線は崩れ魔王軍側に蹂躙されてしまう。

 一般兵士達に比べてまだマシなのは魔術師達だ。

 黒い煙が毒だと分かれば、解毒魔術で自身を治癒すればいい。だが、その分、戦場でのサポートは出来なくなる。また魔術師達は自分の身を守るので精一杯となり、魔術の使えない一般兵士達を見捨てるしかなかった。


 さらに最悪なのが、黒い煙が遅効性だったことだ。

 お陰で黒い煙が十分人種族連合に行き渡った後に症状が出始め、気づくのに遅れてしまった。


 もちろん帝国魔術騎士団長であるレイーシス・ダンスも例外ではない。


 激しい嘔吐感、口いっぱいに広がる鉄臭い味――黒い煙に犯され立っているのも辛くなる。彼は慌てて自分自身に解毒魔術をかける。


「生者を蝕む死の足音を消し去りたまえ。毒よ去れ(ポイズン・ヒール)……ッ」


 だがそれ以上は何もできなかった。


(これはただの毒煙ではない……魔術が妨害されている!?)


 通常、魔術師の魔術を妨害する方法はいくつかある。


●魔術防止首輪を付けさせる。

●眠らせたり、痺れさせたり、意識を奪う。

●詠唱を妨害して、魔術を使わせない。


 ――などだ。


 だが、この黒い煙は痺れや眠気などによる妨害で魔術を阻害してくるわけではない。

 まるで魔術防止首輪をじわじわと付けられるように、魔力を封じられている感覚を味わう。


 レイーシスの長い魔術師生活でも、こんな症状を与える毒物が存在していたなんて知らなかった。

 何より毒物をこのような形で戦場に使うなど、想像していなかった。

 もちろん彼や帝国魔術騎士団は、毒を持つ魔物との戦闘も多々こなしてきた。

 だが、戦場で毒物を使用した場合、敵だけではなく味方にも被害がでる可能性が高いのと、名誉や誇りを著しく損なってしまう。故にそんな非人道的行為は誰もしてこなかった。


 なのに今回、魔王は自軍を非生物で統一し、毒物を無効化。

 人種族連合よりわざと少ない人員を用意し、彼らを嬉々として戦わせ玉を破壊させた。

 結果、人種族連合の被害は甚大なものとなる。


(撤退しかない……が、奴らは無事に私達を逃がすつもりはあるのか?)


 現状、人種族連合は毒物による想定外の攻撃に総崩れ。

 向かってくる敵を倒せば、さらに毒煙が広がり被害を受ける。そのため皆、攻撃を躊躇っていた。


 さらに撤退はただ逃げればいい訳ではない。

 規律を保ち整然と順序立てて下がらなければ、追撃を受け逆に被害を拡大してしまう。

 また毒煙被害により倒れている一般兵士達。死んでいるなら遺体を見捨てるという選択肢もあるが、息があるが毒により動けなくなっている者達はどうすればいいのか。

 見捨てて撤退した場合、士気は二度と立て直せないほど落ちることになるだろう。

 だが撤退しなければ、このまま攻撃もできず毒に完全に冒され、なぶり殺しにされる。


 生きたまま亡者共にかじりつかれる最後は迎えたくない。


「この……ッ、魔王軍共めぇえ!」

「ウイリアム!?」


 ザグソニーア帝国魔術騎士団副団長、魔術師Aマイナス級、ウイリアム・マクナエルが毒に冒されているにもかかわらず、治癒を後回しに口から血を流しながら突撃する。

 群がる魔物達を玉を破壊し黒煙を浴びるのも構わず、壊し突き進む。


 狙うは魔王軍の後方で悠然と佇むエイケントだ。

 ウイリアムは魔王軍の魔物達を無視し、唯一の生物で指揮官らしい彼を倒すことで一発逆転を狙っているらしい。

 毒に冒され、魔力を封じられ始めようとも構わずだ。


「馬鹿なマネをッ。功名心に駆られおって!」


 そんな無謀な突撃をするウイリアムに対して、レイーシスが珍しくあからさまに感情を表に出して舌打ちする。

 だが、もう遅い。


 ウイリアムは魔物の群れを抜け、全身に黒い煙を浴びながらもエイケントへと辿り着く。


「魔王の手先よ! ザグソニーア帝国魔術騎士団副団長、ウイリアム・マクナエルがその首をもらいうける!」

「…………」


 ウイリアムは残りの魔力を総動員して魔力の大剣を作り出す。

 エイケントも背中に背負っていた大剣を握り締め両手で構えた。


「セイヤァ!」


 気合い一閃!

 ウイリアムが大上段から大剣を振り下ろすが――エイケントはその一撃を自身の剣ではなく周囲から発生させた黒い魔力の壁によって阻む。

 それは魔王レグロッタリエが使用していたのと同じものだ。

 ウイリアムは話には聞いていたが、初めて目にする防御壁。

 血が溢れる口元をギリリと引き締め、睨みつける。


「どうした! その剣は飾りか! 正々堂々剣を振るえ!」

「…………」


 しかし、彼の怒声に対してもエイケントに反応無し。


「ガアァァアアァアッァアッ!」


 ウイリアムは獣のような絶叫をあげ、あらん限りの力と魔力で大剣を振るう。

 しかし、その全てはエイケントの黒い魔力の壁に阻まれ防がれた。


 完全な状態のウイリアムなら、この魔力の壁を強引に突破することも可能だっただろう。

 だが、それを使う魔力と体力は今の彼には残っていない。

 無理をして魔物を倒し、黒い煙を全身にたっぷりと浴びたため最前線で戦っていた一般兵士達より体調が悪くなっているのだ。

 本来であれば意識を失い倒れてもおかしくない状態だ。


 彼を動かしているのはただ一つ。


「俺は負けられない! 負けられないんだ! ユミリア皇女のためにも!」


 愛するユミリア皇女に再び笑顔を向けてもらうため。

 ただそのためだけに彼は剣を振るう。

 しかし、精神力だけでは超えられない状況というものは存在する。


 ウイリアムの魔力、体力が底をつく。

 精神力だけで動かしていた体はある一定ラインを超え停止してしまった。

 そんな彼にエイケントは、作業のように手にしていた大剣で腹部を貫く。


「ぐふぁ……ッ」


 口から血を流し、魔力で作り出した大剣も霧散する。

 ウイリアムは為す術もなく地面へと倒れてしまう。

 自分の体に重なる影。

 足下しか見えないが、エイケントで間違いない。

 彼は自分に止めを刺すため、近づいたのだ。


「ユ、ユミリア皇女……」


 死の淵。

 走馬燈は流れない。

 ただただ胸を占領するのは。愛しい人の姿だった。


 そんなウイリアムの体に新たな影が重なる。


 エイケントが初めて危機感を感じ、慌てた様子の足裁きでウイリアムから距離を取る。

 次の瞬間、彼の視界を壁が覆い尽くす。


「はははははっはははは! いいぞ! いいぞ! 愛しい者のために無茶をする! 向こう見ずな蛮勇こそ若者の特権だ! 我輩は嫌いではないぞ!」


 視界を覆い尽くした壁が愉快そうな笑い声を上げ話しかけてきた。

 ウイリアムは力を振り絞り腕を突き、うつぶせの上半身を起こす。

 よくみればそれは壁ではない。

 いや、ある意味でとんでもなく丈夫な肉の壁といえなくもない。


 すでに相手は上半身の衣服を脱ぎ捨てていた。

 分厚い胸板、上腕二頭筋、腹筋などはくっきり割れ、足の筋肉は衣服からで分かるほど筋肉が浮かびあがり鍛え抜いていることを如実にあらわしている。

 肌は黒く、金髪をオールバックにした筋肉城壁が立っていた。

 どうやらこの筋肉の塊がウイリアムとエイケントの間に上空から割り込んできたらしい。


 彼が降りてきたと思わしき飛行船……と言っていいのか分からない物が空を飛んでいた。

 ウイリアムの常識では、飛行船に鳥のような羽は生えていない。

 さらにその飛行船は左側だけなにか筒のような物が飛び出している。

 そのせいで非対称となり、妙な違和感を感じてしまう。


 目の前に立つ筋肉達磨とウイリアムの視線が合う。

 筋肉の塊は笑顔で断言した。


「ただ惜しむらくは……筋肉が足りないぞ! 若人よ、もっと筋肉を鍛え抜かねばダメだぞ! 筋肉があれば大抵のことはなんとかなるのだ! はははははっはっっはっははあ!」


 一頻り笑った後、彼はウイリアムから、エイケントへと視線を向けると笑みを深めて告げる。


「では、久方ぶりにたっぷりと筋肉を震わせてもらうぞ!」


 こうして人種族連合vs魔王軍の戦争に、魔人種族魔術師A級、ダン・ゲート・ブラッドが参戦した!




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

8月16日、21時更新予定です!


軍オタ4巻の発売日まで後5日! 

今回も連続投稿を予定しています!

今回の連続投稿は本編ではなく、特別版ということで『クリス スナイパー編』を連続投稿させて頂ければと思います。

本編を連続投稿するのは少々難しかったので、このような形になります。

また近日中に、活動報告に各店舗様SSや発売日当日にアップするなろう特典SS、購入者特典SSについて詳細を載せさせて頂ければと思います。


また、軍オタ1~3巻、引き続き発売中です。

まだの方は是非、よろしくお願いします!

(1~3巻購入特典SSは15年4月18日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)

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