挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
軍オタが魔法世界に転生したら、現代兵器で軍隊ハーレムを作っちゃいました!? 作者:明鏡シスイ

3章

31/482

第28話 模擬戦闘

 リュート、12歳。

 お茶会が終わった午後、自室で執事服からラフな恰好に着替える。
 午後からはギギさんとの戦闘訓練があるからだ。

 着替えが終わると裏庭へ移動。
 準備体操を終わらせると、体力作りのため屋敷の周りを5周する。

 休憩後、ギギさんと組み手を行う。
 魔人大陸に流派はほぼ無い。
 だから練習と言ってもひたすら実戦を想定した組み手がメインとなる。

 最初の頃は――

「リュートは必要以上に相手を傷つけることを怖がり過ぎている。例え練習でも……いや、練習だからこそ迷わず打ちのめす気概でやれ。大抵の傷は治癒魔術で治るから大丈夫だ」

 練習初期の頃は毎回同じ注意を受けた。
 前世の日本では、暴力とはまったく無縁の世界で生きてきた。
 こちらの異世界に転生して、リボルバーやAK47で魔物を殺したことはある。だが、人――言葉を交わし意思疎通出来る者達を殴ったことも、撃ったこともない。

 練習とはいえ、グローブやヘッドギアのような安全具も無しに殴り合うのはやはり抵抗があった。
 しかし約1年以上も組み手をしていれば、慣れて戸惑いも無くなる。

 今は肉体強化術で身体を補助しながら、毎回ギギさんに全力で殴りかかっていた。

「デヤァ!」
「攻撃が雑だ。次の展開を予想して、技を組み立てろ。ただ殴り合うなら、子供でも出来るぞ」

 右ストレートをサイドに回り込まれ、あっさりと回避される。
 左拳(ジャブの様なパンチ)を打ち込まれ、足が止まった所に骨を砕く勢いで、右サイドキックがオレに向かって放たれる。
 オレは両腕でガードして距離を取った。

 ブラッド家の警備長であるギギさんは、魔術師Bプラス級だ。
 それは普通の魔術師が到達出来る限界点と言っていい。

 もちろん、上には上がいる。オレ達の主である旦那様はA級だ。
 しかし、魔術師の才能が無いオレの魔力量と比べたら天と地だ。
 魔力量が多ければ攻撃力、防御力、移動速度、反射神経なども全てあちらが有利になる。
 注げる魔力量が違うのだから当然だ。
 オレが全身を覆うほどの魔力を使ったらすぐに底をついてしまう。

 さらにギギさんは獣人種族のため人種族の自分より基礎運動能力が高い。
 気を抜けば10秒かからず倒されてしまう。

 だからまずオレがするべきは――致命打を受けないように眼に魔力を集中!
 反射神経、動体視力を同時に向上させる。
 お陰でギギさんの左フックをダッキングで回避。

 お返しとばかりに、膝を沈めて体ごと突き上げるアッパーを返す。
 ギギさんは避けようとせず、片手で受け止めて――

 そんな風に組み手を時間まで行う。



 次は剣術訓練に移る。
 剣術訓練はひたすら木刀で素振り&体術と同じで打ち合いをする。

「リュートは体術には光るものがあるが、剣術の才能は無い。だから、とにかく基礎を固めて、防御に専念しろ。刃物は体術と違って、一太刀が命取りになるからな」

 ギギさんは言いにくいことも本人に正面から伝えてくる。
 しかも特にフォローも無い徹底ぶり!

 だが、これもギギさんの優しさなのだろう。
 下手に褒めて調子に乗せてしまうより、ばっさりと弱点を指摘して補う訓練に重点を置く方が効率も良いし、実戦の役に立つ。

 剣術の打ち合いでもギギさんにひたすら防御を徹底させられた。

 振るわれるギギさんの木刀をひたすら受ける訓練だ。
 実戦では敵に剣を当てるより、当てられ無い方が重要だと口を酸っぱくして言われる。

 剣なら一太刀でもあびれば生物なら動きが鈍くなる。
 傷が浅くても時間が経てば出血量が増え、肉体のパフォーマンスが落ちる。
 魔術師なら治癒魔術で傷を治療出来るが、一般人ならお終いだ。

 そうならないためにも剣術訓練では、防御の練習をひたすらさせられた。



 一通りの訓練が終わると、オレ達は清潔な布で汗を拭う。
 ギギさんはその間も、魔術師が相手だった場合の実戦のやり方を教えてくれた。

「とにかく魔術師と戦う時は、距離を潰して接近戦に持ち込め。無詠唱は脅威だが、それより距離を取られて遠距離から攻撃される方が危険だ。こちらが手を出せない距離で手も足も出せずに敗北してしまう」

 だが、と彼は付け加える。

「A級以上の魔術師が相手の場合は、とにかく逃げることだけに専念しろ。戦おうなどと思うな。戦うだけ無駄だ。自殺と変わらない」
「自分は魔術師の才能が無いからあれですけど、ギギさんはBプラス級ですよね。それでもですか?」
「ああ。昔、一度戦ったが手も足もでなかった。A級は一握りの天才の領域だ。勝算など無い」

 ギギさんは遠い過去を思い出すように眼を細める。

 ――瞳に憎しみの光が瞬いた気がした。

 オレは気のせいだと思い、さらに質問をぶつける。
 どうしてもA級の強さがイメージ出来なかったからだ。

「実際どれぐらい強いんですか? 勝算が無いって言いますけど、相手も生物。いくらA級でもやりようはある気がするんですけど……」
「……言葉で説明するより、体験した方が早い。幸い、屋敷には魔術師A級の方がいらっしゃる――噂をすれば。旦那様」

 ギギさんは散歩に出てきたダン・ゲート・ブラッド伯爵を捕まえて、練習相手――模擬戦をお願いする。
 旦那様は快活に了承してくれた。

「ははははははっは! どれ、リュートがどれぐらい強くなったか我輩が確かめてしんぜよう!」
「旦那様、くれぐれも手加減を忘れずに。リュートを死なせたら、お嬢様から1ヶ月は口をきいてもらえなくなりますよ」
「はっはっはっあ! それは確かに困るな! 1ヶ月は長すぎる!」

 オレが死んでもその程度の扱いですか……。

「リュートは気を引き締めろ。一応、生きてさえいれば俺の治癒魔術で治せるが、即死されると手の施しようが無い」
「即死って……怖いこと言わないでくださいよ」

 ギギさんの指摘に拗ねた返事をする。
 だが彼の言う通りだ。改めて意識を集中した。
 力が抜けた体に気合いを入れ直す。
 気持ちと体を完全に切り替えた。

 旦那様は脱いだ上着をギギさんに手渡す。
 彼は部下として主の衣服を丁寧に畳み両手に持った。

「…………」

 改めて旦那様の体に眼を向ける。

 2メートル以上の身長に、限界まで詰め込んだ筋肉。
 肌は浅黒くまるで金属のような質感だ。
 肉体強化術で身体を補助しなくても、楽々壁を破壊できるほどの力があるだろう。
 だが今更その程度で尻込みするほど柔ではない。

「……やるからには、相手が旦那様でも手加減できかねますがよろしいですか?」

 この発言に対してギギさんが、ドラゴンを前に調子に乗る白黒ウサギを見るかのような、哀れみの眼をオレに向けている気がする。
 いや、きっと気のせいだろう。

 旦那様は機嫌良さげに笑顔で促す。

「はっはははははははっは! もちろんだ! 男はやっぱりこれぐらい威勢が良くないと駄目だな! さっ、遠慮せずいつでもかかってきなさい!」
「はい! いきます!」

 先手必勝!

 省エネを心がけていたとはいえ、今日の訓練のせいで魔力もそろそろ限界。
 相手は雇い主だが、『遠慮せず』と言質は取っている。
 一撃に全力を注ぎ込んだ。

 視力、脚力を強化!
 弾丸のように駆け、右腕を最短距離で突き出す。
 日本武道の代名詞的技、直突き!
 旦那様は反応すら出来ていないのか、抵抗陣を張ろうともしない。
 運動エネルギーをそのまま拳に乗せて、トレーニングでは鍛えづらい鳩尾へ遠慮なく叩き込む。

「!?」

 打撃は確かに入った。
 しかし旦那様はよろめきも、後ずさりもしなかった。
 表情も苦痛ひとつ浮かべず、笑顔のまま変えていない。

 旦那様を殴った感触は分厚い鉄板に、頑丈で柔軟なゴムタイヤを幾重にも巻いたようだった。
 むしろ殴ったオレの拳の方が痛くて、苦悶の表情を作ってしまう。

 旦那様が左腕を自身の顔の高さまで上げる。

「ふん!」
「ッ!?」

 ハエでも払うように左腕を振るう。
 大雑把な一撃。

 なのに背筋が凍り付くほどの恐怖を覚える。
 咄嗟に腕をクロス!
 残りの全魔力を抵抗陣――防御に回す。

「!!!!!!???」

 ガードに旦那様の腕が当たると、オレの体はゴムで弾かれたパチンコ玉のようにぶっ飛んだ。
 ノーバウンドで約10メートル先の木に背中から激突。

 木は『メリメリ』と音を立て折れる。
 オレは激突する刹那、背中にも魔力で抵抗陣を展開、致命傷は避けた。
 にも関わらず両腕はバキバキに砕け、右肩と何本ものあばらが折れる。

「ッ――!!!」

 折れた骨が内臓に突き刺さったのか、口から吐血する。
 体に力が入らない上に、激しい痛みが全身を襲った。

 霞んでいく視界の端でギギさんが珍しく血相を変えて駆けつけてくる。

「――――! ――!」

 遠くなった耳がギギさんの詠唱を聴いた気がした。
 目蓋が鉛のように重くなり、底が見えないほど深い穴に落ちていく感覚。

 オレは意識を無くす瞬間――ギギさんの言葉の意味を文字通り骨身に染みて理解した。



▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



『なるほど、そんなことがあったんですか』

 旦那様との模擬戦をした日の夜。
 夜会でオレとメイド長のメルセさんは給仕を務めていた。
 夜会でお嬢様から『裏庭から大きな音がしましたが、リュートさんは何かご存知ですか?』と尋ねられた。

 隠す理由も無いので旦那様と模擬戦をして、手も足も出ず一撃で負けたことを教える。
 木の幹に激突して重傷だったが、ギギさんの治癒魔術ですっかり治ったと告げたら、お嬢様は胸を撫で下ろしてくれた。

「しかし旦那様がお強いとは聞いていましたが、あれほどとは知りませんでした」
『でも魔術師A級のお父様と矛を交わすなんてリュートさんは凄いです』
「ただの練習ですから」

 例え練習でも二度と旦那様とは戦いたくなど無い!
 さすがにそんな格好悪いことをお嬢様に聞かせる訳にはいかず、笑顔で謙遜しておいた。
 空いたカップにメルセさんがおかわりを注ぐ。
 部屋に香茶(かおりちゃ)の良い匂いが漂った。

 お嬢様は先程までの楽しそうな微笑みから、不意に表情を曇らせる。
 原因が分からず訝しんでいると、彼女は迷ったすえ、遠慮がちにミニ黒板へ文字を書いた。

『……リュートさんはどうして強くなろうと努力するんですか。魔術師の才能がある訳ではないですよね?』

 他者に魔術師の才能の有無を聞くのを躊躇っていたようだ。

 お嬢様も才能が無いせいでイジメを受け、引きこもりになってしまった。
 相手に寄っては地雷、トラウマになっているため尋ねづらかったのだろう。

 別にオレは魔術師の才能が無いせいでトラウマを煩っている訳ではない。嫌な顔などせず、素直に自身の考えを話した。

 確かに自分は魔術師としての才能は無いが、大切な人を守りたいという気持ちを胸に抱いている。だから、自分でも出来ること――省エネでの魔力運用や、拳や剣での戦闘技術を磨いているのだ。

 昔、自分が住んでいた村で子供達が川遊びをして、大切な人が自分を迎えに来てくれた時にゴブリンの群れが襲ってきた。
 だが訓練をしていたお陰で、子供達も大切な人も誰1人死なせずに済んだ――と、ハンドガン関係は説明が面倒なため省いて話す。

 そんな過去の体験から、今でも訓練を続けている。もしまた似た事件が起きても、大切な人を守れるように努力しているのだと。

「…………」

 お嬢様は、真剣な表情で話を聞いていた。
 才能が無いのに魔術師を目指す愚か者と非難する色は見えない。むしろある種の憧れ・尊敬するような光が瞳に宿っていた。

 お嬢様はミニ黒板に文字を書く。

『素晴らしい考えだと思います。リュートさんは凄い人です』
「……いえ、自分はただ自分のやれることをやっただけで」

 お嬢様は再び文字を書く。

『もしお邪魔でなければ……明日の訓練を窓から見学させて頂いてもいいですか?』

 この申し出にオレだけではなく、メルセさんも驚きの表情を作る。
 その態度を否定と取ったのか、お嬢様は悲しそうに眉を下げミニ黒板を出す。

『駄目、でしょうか?』
「い、いえ滅相もありません。では、明日はこの窓から見える中庭で訓練をするようギギさんにも伝えておきます」
『お願いします、とっても楽しみです♪』

 本当に嬉しいらしく、機嫌良さげにプリンを口にする。
 メルセさんはそっとお嬢様に気付かれないように目元を拭う。

 自室から出ることを怖がっていたお嬢様が、窓からでも訓練を――外を見てみたいと自分から言い出す。
 それがどれほどの進歩か。

 お嬢様が生まれてからずっと側にいたメルセさんのような古株からしてみたら、小さな一歩でも本当に嬉しいのだろう。

 オレは『夜会が終わったら、ギギさんに明日は中庭で訓練をするよう頼み込もう』と決意する。彼もお嬢様を――ブラッド家を心から慕う1人。
 きっと諸手をあげて喜んでくれるはずだ。

 オレはギギさんの喜ぶ顔を想像し、可笑しくてつい口元が弛んでしまう。
 お嬢様に気付かれて首を傾げられたが、適当に誤魔化した。


ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
明日、12月18日、21時更新予定です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ