第291話 タイガvsランス
オレ達PEACEMAKER側の準備が整うと、早速ランス&ララの目的地であり、妖人大陸を支配した魔王が封印されていると言われている『妖人大陸最北端』へと移動する。
今回立てた作戦を成功させるためには、彼等より早く現地に着くのが肝要である。だから、準備を終えたら早々に旅立った。
本部や予備戦力の運用に関してはミューア達に任せる。
途中でアルジオ領ホードにある孤児院により、エル先生やギギさんに挨拶後、タイガと会う。
タイガは気合いが入っているらしく、『ようやく来たか!』と鼻息荒く指の骨を鳴らし始める。
「どうか無茶はしないでくださいね」
「大丈夫ですよ、エル先生。オレにはスノー達、みんながついてますから」
オレは心配するエル先生に笑顔で答える。
一方、ギギさんがタイガに声をかけると――
「タイガも気を付けるんだぞ」
「ギギさん、誰にそんなこと言っているの。僕は魔術師S級、獣王武神だよ。ランスなんて若造けちょんけちょんにしてやるんだから」
タイガは片腕を曲げて力こぶを作り、自身の強さをアピールする。
しかし、彼女の細腕程度で作れる力こぶなどたかがしれている。さらにタイガは可愛らしい美少女のため、言動が合っておらず力強さより微笑ましい可笑しさが先に立つ。
ギギさんも普段の強面の表情をゆるめ、彼女に同意した。
「そうだったな。だが、油断は禁物だ。それとリュート達を頼む」
「任せて。ギギさんこそエルお姉ちゃんのことお願いね」
2人は互いに拳を突き出し、軽く打ち合う。
互いの実力を認め合っている戦友同士のような挨拶だ。
傍目から見ると爽やかな1ページだが、タイガ本人からすると不味いのではないだろうか。
試合とはいえ正面から戦った同士。
だからギギさんからは、可愛らしい美少女、異性ではなく戦友や同志的な扱いを受ける。
それでは自称『女心専門家(笑)』の鈍感系ギギさんには100年経ってもタイガの気持ちに気づくことはないだろう。
オレはエル先生側の人間だから、二人の仲を応援するつもりはない。
だがタイガの初々しさとギギさんの鈍感ぶりを前にしていると、無性に胸が痛くなるのだ。
とりあえず無事、タイガと合流し新型飛行船ノアで、妖人大陸最北端へと移動した。
妖人大陸最北端――妖人大陸を支配した魔王が封印されているという場所である。
実際に訪れると特に変わった点のない森だった。
魔物は居るが特別強くはなく、森を抜けた開けた場所に謎遺跡があるわけでもない。
ごく普通の森だった。
正直、拍子抜けである。
タイガ曰く――
「元々『妖人大陸を支配した魔王が封印されている』と言われているけど、本当にそうなのか明確な証拠はないんだ。実際、封印されている場所が発見された訳でもないしな」
「そうなのか?」
「学者達の研究じゃこの地下にその遺跡があるかも――って言われてるけど、掘り起こして魔王を復活させても馬鹿らしいから誰もやらないんだ。そして気味が悪いからって、誰も近づかないから森が開発されることもないんだってさ」
結果、森は放置されているらしい。
さて、そんな森のどこでランス達が儀式をおこなうか分からないため、オレ達は手分けして森全体にトラップをしかける。
途中で現れる魔物も邪魔されないように倒し、間引いていく。
飛行船で上空から確認した限り、それほど大きな森ではないためトラップ設置と魔物の間引きは1日ほどで完了する。
後はどこからランス達が現れてもすぐ対応できるように、定位置へと待機した。
待機から三日後――ランスとララが正面から姿を現す。
彼らはオレ達が居ることを理解して、戦いの邪魔にならないあけた広場へと迷い無く足を踏み入れた。
「待たせてしまったかい? 堀田――いや、リュートくん」
ランスはにこにこと友好的な笑顔を浮かべて、待ち合わせ場所に遅れて到着したような態度を取る。
一方、ララは反対に敵意を込めた瞳でオレとタイガを睨みつけている。
ランスは広場にオレとタイガしかいないことをわざとらしく首を動かして確認する。
「あれ、他の娘達はどこに居るんだい? 前回はリュート君との話し合いの後、すぐにお暇しちゃったから、ご挨拶したかったんだけどな」
「……下手な演技はよせ。ララの千里眼で気づいているんだろう。スノー達が他の場所に散っているって」
「何だい、つれないな。そこは少しぐらい乗ってくれてもいいじゃないか。まぁ君の言うとおり、すでにどこに誰がいるか確認済みだけどね。ただ、二人だけどこに居るか分からない娘がいるけど」
スノーには他の場所から二人が来ないか監視してもらっていた。
リース、メイヤ、ココノは新型飛行船ノアに居てもらっている。何かあったらすぐにノアを動かせるよう準備してもらっている。リースは非戦闘員であるメイヤ&ココノの護衛だ。
そしてランスが言った『二人だけどこに居るか分からない娘』とはクリス&シア組のことだ。
彼女達はこちらの切り札として、狙撃位置についてもらっている。
正直、オレ自身、彼女達がどこに偽装して隠れているのか聞いていないため分からない。もしかしたら、すぐそこの茂み当たりに隠れている可能性だってある。
シアをクリスのスポッターにしたのは理由がある。前回、緊急事態とはいえクリス一人に、ランス狙撃を任せた。結果、転移魔術で距離を縮められ為す術もなく、SVDを奪われてしまった。
SVDを奪われるだけならいい。
もしランスが本気だったら、クリスを殺害することも可能だった。
その反省を生かし、今回はシアにクリスのスポッターについてもらったのだ。他にもクリスの偽装につきあえる人材が彼女しかいない――という理由もあるが。
「他にも森中にトラップをしかけているよね。ブービートラップっていうんだっけ? 手榴弾に細いワイヤーを仕掛けたり、わざと分かりやすいように足下に設置して本命は木の上にぶら下がっている迫撃砲の弾とか。本当にああいうコスイというか、卑怯な手が好きだよねリュート君って」
微笑みを絶やさないがランスは、ちくちくと言葉で攻めてくる。
コスくて卑怯だから、自分も見捨てたんだよね――と言外にたっぷりと嫌味を乗せて。
オレはその指摘に反論できず黙り込んでしまう。
そんなオレの前にタイガが割り込む。
まるでランスとの壁になるように。
「言いたいことはそれだけ? だったらもう倒していいよね?」
「これはこれは初めまして獣人種族虎族、魔術師S級、タイガ・フウー、獣王武神様。僕は人種族魔術師Aプラス級、ランス・メルティアと申します。以後、お見知りおきを」
ララの精霊の加護『千里眼』か『予知夢者』で知っていたのか、タイガの正体をすらすらと言い当てる。
タイガは美形であるランスの輝く笑顔を前に、不機嫌そうに顔を顰める。
「本当にいちいち演技臭いヤツね。僕の一番嫌いなタイプだよ」
「そうですか、残念です。タイガさんのような可愛い人に嫌われるなんて」
おどけた調子でランスが答える。
彼の隣に居るララが、不機嫌の度合いを深めた。
彼女同様、タイガの尻尾がぴたりと止まり、不機嫌を超えた不快感を全身から発散する。
「……リュート、もうこいつ倒していいよね?」
「構いませんよ。触れることが出来るなら、ですが」
リュートへの問いかけなのにランスが答える。
タイガの機嫌が一層悪くなるが、彼は余裕の態度を崩さない。それだけ転移魔術に自信があるのだろう――しかし、その余裕もすぐに崩れてしまう。
「ガァアァッ!?」
「ら、ランス様!」
気づくといつのまにかランスの腹部へ、タイガの右拳がめり込んでいた。
まるで映画フィルムのコマを落としたかのように、オレ自身認識できなかったのだ。
ランスの苦悶の表情とララの悲鳴を無視して、タイガが一方的に告げる。
「『10秒間の封印』。オマエは今から10秒間一切の魔術を使えない」
ランスの隣に立つララがすぐさま肉体強化術で身体を補助。
彼を助けようと、タイガへと挑む。
肉体強化術で殴りかかったのも、近距離のため攻撃魔術より出が速いという点で殴りかかったのだろうが、タイガ相手に完全な裏目、悪手だ。
近距離最強の魔術師S級、タイガ・フウーに殴りかかるなど。
ララもそれなりに訓練はしているようだが、所詮それなりだ。
タイガは彼女を一瞥もせず、ハエでも払うように左腕を振るう。ララは頬を殴られ、悲鳴を上げるまもなく地面を転がった。
一方ランスは、殴られた腹部を押さえて地面にうずくまっていた。
ララを気遣う余裕すらない。
タイガは容赦せずランスを蹴り飛ばす。
再びランスは10秒間魔術の一切が使えなくなる。
彼は顔や衣服、髪を土で汚しながら、告げた。
「い、一体どんな魔術を使ったんだ。まったく攻撃を感知することができないなんて……ぐぅうッ、何も感じることができなかったぞ……ッ」
「魔術なんて使ってない。純粋な技術よ」
タイガはすたすたと未だ痛みに悶えるランスへと歩み寄りながら説明する。
「貴方達は知らないだろうけど、生物は攻撃を加えられてもすぐ反応して対処なんてできないの。不意打ちとか、だまし討ちって話じゃなく、たとえ正面から攻撃を加えられても。その時間はほんの僅か――瞬きにも満たない。でも、その僅かな間は殴りたい放題できるってわけよ」
前世の漫画やアニメ、ラノベで仕入れたにわか知識だが――脳味噌が行動を指示するまで僅かな時間がかかるらしい。
つまりタイガはその短い時間のあいだに縮地か無拍子だかで一息にランスとの間合いを詰めて殴り付けたということか。
ギギさんとの戦闘時は本当に手加減してたんだな。
彼女は肉体強化術で身体を補助しつつ、歩み寄ったランスの首を片手で掴み持ち上げる。
これで再び10秒間、彼は一切の魔術を使えなくなってしまう。
「ぐっ……ガァァアッ……」
自分より小柄な少女に喉を片手で掴まれ持ち上げられているせいで、息が上手く据えずランスが苦悶の声を漏らす。
タイガは一切、そんなことを気にせずオレへと問いかけてくる。
「ほい、終わったぞ。それでこいつはどうする? 殺すかい?」
まるでカブトムシでも捕まえたような軽い態度に正直引いてしまう。
これが魔術師S級、獣王武神か。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
6月18日、21時更新予定です!
流石に6月に入ったせいか最近ずっと天気が悪いですね。もう梅雨入りしたのかな?
洗濯物もため込んでいるとカビが生えそうで怖いですね。後、食品関係とかも。
梅雨が過ぎたらもう夏ですね!
海、山、プール、家族連れ、恋人同士、青春――うん! 自分には一切! 関係ありませんね! むしろ、今年もそういう雑念・煩悩等は一切振り払って、部屋に引きこもって皆様に少しでも面白いと思ってもらえるように軍オタを書き続けたいと思います!
自分は皆様が喜んでくれればそれで満足ですから! だから自分には夏とか関係ないし! 興味とか本当にないし!
また、軍オタ1~3巻、引き続き発売中です。
まだの方は是非、よろしくお願いします!
(1~3巻購入特典SSは15年4月18日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)