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軍オタが魔法世界に転生したら、現代兵器で軍隊ハーレムを作っちゃいました!? 作者:明鏡シスイ

3章

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第26話 3日目最終日:ポテトチップス

 3日目、朝。
 ベッドから抜け出し、執事服に着替える。

(人間はどんな状況でも慣れるっていうが……確かに最近は執事の真似事をするのも慣れてきたな。クリスお嬢様が喜んでくれるのは単純に嬉しいし)

 もちろん環境が良いというのもある。
 旦那様や奥様は、主人としては気さくで話しやすく優しい。

 執事長のメリーはまだオレと距離を保っているが、『追い出すため意地悪する』といった少女マンガ的な邪魔をしてくる訳でもない。ただ見守っているだけだ。

 警備長のギギさん、メイド長のメルセさんはお嬢様との距離を縮めることに協力的でこの2日だけで随分とお世話になった。
 もし2人が居なかったら、未だにお嬢様に怖がられていただろう。

(いつか落ち着いたら2人にはお礼をしないとな)

 オレは心のメモに書き込み、着替えた執事服に乱れが無いかをチェック。
 自室の扉を開けるとすでに待っていたメルセさんに挨拶をする。

「おはようございます」
「おはようございます、リュート。それではお嬢様を起こしに参りましょう」

 今日が約束の3日目だ。気合いを入れなくては。

 そしてブラッド家での1日が始まる。



▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 お嬢様の自室に入る。
 昨日、遅くまで話を聞かせていたせいで未だに彼女は眠っていた。
 大人が3人寝ても余裕がある天蓋付きのベッド。

 お嬢様はまぶたを閉じ、長い睫毛を震わせる。
 頬に朱色が差し、唇は薔薇のように赤く潤いがある。
 枕に広がる長い金髪はまるでお伽噺のお姫様と錯覚するほど神々しい。

 なのに寝顔は戯けなく、『天使の寝顔』とタイトルを付け美術館に飾りたい程だ。
 もう少し眺めていたかったが、メルセさんが起こしにかかる。

「クリスお嬢様、起きてください、朝ですよ」

 メルセさんに声をかけられ、布団を剥ぎ取られる。

 猫のように寒がり丸まるお嬢様が可愛い。
 しかしメルセさんは容赦なく追撃する。

「お嬢様、早く起きてください。今日はご友人方がいらっしゃる日ですよ。あんまり遅くまで寝ていると皆様方を待たせることになりますが、宜しいのですか?」

 この言葉にお嬢様が反応して、ノロノロと体を起こす。
 目蓋は半分だけ開き、あからさまに眠そうだ。

「おはようございます、お嬢様」
『おはようごじゃいます』

 お嬢様はまだ寝ぼけているらしくミニ黒板の文字がおかしい。

 だが寝ぼけているとはいえ昨日、一昨日と違いオレが近づいても彼女は怖がることはなくなった。
 大きな成果にオレは胸中でガッツポーズをする。

 お嬢様は眠そうな目のまま、さらに文字を書く。

『今日は午後のお茶会にカレンちゃん達が来るので、昨日食べたクレープのケーキを作ってもらえませんか?』
「構いませんが、カレン様方とは?」
「お嬢様の幼なじみ方です。3人共女性でお嬢様とは同い年です」

 メルセさんが説明してくれる。

 なるほど歳の近いお嬢様の幼なじみとは彼女達のことか。
 さらにお嬢様はミニ黒板に文字を書く。

『お茶会にはリュートさんも是非出席してください。昨夜聞いた最後のお話が一番楽しかったのでみんなにも聞いて欲しいんです』
「昨日の……ああ、バ○スですね」
『バ○スです♪』

 楽しそうにお嬢様はミニ黒板に文字を書く。

 オレの故郷で人気の話と前置きをして、列車、銃、車、レーダーなどを適当にこの世界の物に置き換え話したが、それでも十分面白かったらしい。
 これほど楽しげなお嬢様を見るのは初めてだ。

 どうやらジ○リは異世界でも通用するらしい。
 マジで凄いなジ○リ。

 オレは調子に乗って暗幕のような分厚いカーテンを開き、お嬢様に光を浴びせる。
 お嬢様はもちろん意図に気付き、楽しげに文字を書いてから目を押さえる。

『目がぁ~、目がぁ~』
「さすがです、お嬢様」

 異世界に転生して11年。

 久しぶりに交わすオタクコミニケーションのやり取りにオレ自身、心底楽しんでしまった。

 暫くオレとお嬢様は目を押さえるポーズを取り笑い合う。
 その姿を見てメルセさんが驚きの表情で固まっていた。
 視界の端に捕らえていたがカーテンを開けただけでそこまで驚く意味が分からず、とりあえず放置してお嬢様に笑顔を向ける。

「それでは午後のお茶会で僭越ながら、お話をご友人方にさせて頂きますね」

 オレの返答を聞くと、お嬢様は楽しげに笑顔を浮かべる。



▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 お嬢様のお世話をメルセさんと済ませると、オレ達は遅い朝食を摂る。
 食べ終わるとすぐオレは厨房へと向かった。

 今ではオレ専用状態になった厨房の隅に材料を並べる。

 午後のお茶会でお嬢様は昨日食べた『ミル・クレープ』をご所望だ。
 幼なじみの友達が尋ねてくると聞いて、オレは気合いを入れて『ミル・クレープ』作りに取りかかる。

 昨日はクレープの間に挟んだ赤苺を、今回は磨り潰し、クレープ生地に混ぜる。
 生地がピンク色に染まった。

 料理長を務める甘党のリザード族のマルコームさんにお願いして、竈に火をつけてもらう。彼は魔術師ではないが、簡単な料理に特化した魔術なら使えるようだ。

 火加減は燃える薪の出し入れで調整する。
 子供のオレを心配して、メイドの何人かが手伝いを申し出たがやんわり断った。

 お嬢様の友人をもてなす準備に忙しいのに、オレの面倒まで見させる訳にはいかない。

 昨日と同じようにクレープを作っていく。
 クレープ生地全部を使い切ると、あら熱を取るため暫し放置。

 その間にカスタードクリームを手早く作り終え、こちらも熱を取るため暫し放置。
 冷蔵庫から赤苺だけではなく、いくつかの果物を取り出す。

 それらを薄く切り、間に挟む果物の準備を終えた。

 後はひたすらクレープにカスタードクリームを塗り、果物を乗せさらにクレープを重ねる作業を繰り返す。
 生地を使い切ったら、料理長のマルコームさんにお願いして『ミル・クレープ』をハート型に切ってもらう。
 最後にマルコームさんが、『ミル・クレープ』に残ったカスタードクリーム&果物で飾り付ける。

『季節フルーツのハート型、ミル・クレープ』完成!

 ピンク色の生地のお陰で自分で言うのもなんだが、食べるのが勿体無いほど可愛らしく出来た。飾り付けてくれたマルコームさんに感謝だ。
 お嬢様の友人が女性のみだから、これなら受けがいいだろう。

 オレはマルコームさんにお礼を告げ、もう一品新しいお菓子作りに取り掛かった。
 竈の上に深い鍋を置き、油を注ぎ入れる――



▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 お嬢様の友人達が到着する。
 彼女達は旦那様と奥様と簡単に挨拶を交わし、その後お嬢様の自室へと通された。

 本来、お客様を招いてお茶会を開く場合、庭やテラス、広間などを使うらしい。
 だがお嬢様はイジメのトラウマから部屋を出ることができないため、一般的ではないが自室でお茶会をおこなっている。

 友人達は事情も知っているし、今日が初めてでも無い。
 眉を顰めることもなく、スムーズにエスコートを受ける。

 自室でお嬢様が皆を出迎えた。
 さすがに客人を呼んでのお茶会のため、いつものパジャマではなく私服に着替えている。薄い青のワンピースが、黄金色の髪と白く透き通るような肌と合っていてとても可愛らしい。

 分厚い暗幕のようなカーテンは引かれたままだ。
 室内は魔術の力で明るく照らされている。

 お茶会の世話係としてオレは、メルセさんと一緒に参加した。
 見慣れない人種族の子供に友人達の視線が突き刺さる。

「初めまして、執事見習いの人種族、リュートです。以後、お見知りおきを」

 右手を胸に、左手を腰に当てぺこりと挨拶をする。



 お嬢様が幼なじみ3人を紹介してくれる。

 3つ眼族のバーニー・ブルームフィールド。
 見た目は普通のセミロングの可愛らしい人間だが、額にも眼があった。だから3つ眼族と呼ばれている。

 家は両替屋を営んでいる。
 そのためお金の計算がとても早いのが自慢。
「クリスちゃんが人種族とはいえ、男の子を執事に雇うなんて意外だね」

 次は下半身が蛇で上半身が人のラミア族、ミューア・ヘッド。
「いいじゃない、優しそうで良い人そうだし。伯爵様は相変わらず人を見る目があるわね」

 チロチロと赤いヘビ舌を出しながら、彼女はノンビリと感想を告げた。
 ミューアの実家は鉱山を所有しているらしい。
 下半身は蛇のままで、上半身は着物のような衣服に袖を通していた。胸も大きく、お嬢様と同い年とは思えないほど色っぽい。

 この2人は友好的だったが、最後の1人は不機嫌そうな顔をしている。

 ケンタウロス族のカレン・ビショップだ。

 下半身は馬で、上半身は女性。
 髪型も一族名にひっかけているのか長いポニーテールにしていた。
 椅子には座らず、正座するように足を折りたたんでいる。

「他家の雇用に口出すつもりは無いが――もしクリスに邪なマネをしたらタダでは置かんぞッ」

 ドスの訊いた声で脅してくる。
 口調もまるで侍だ。
 実家が大きな武器・防具の製造と販売を行っているらしい。一族で傭兵のようなこともやっていて、そのため幼い頃から武芸に取り組んでいるせいでこんな口調らしい。

 お嬢様がカレンに対してフォローを入れる。

『リュートさんは良い人ですよ。お菓子作りも上手で、今日のお茶会にも我が儘を言って作ってもらったんです』

 お嬢様の台詞を受けて、オレは今日作った『季節フルーツのハート型、ミル・クレープ』と『ポテトチップス(うす塩味)』をテーブルに並べる。

「わぁ、可愛い」と3つ眼族のバーニーが、女子らしい声をあげる。
「ふん、見た目は悪くないな。見た目は」とケンタウロス族、カレン・ビショップ。
「まったくカレンは……。でも本当に可愛らしい見た目のケーキよね。でも、こっちは……豆芋かしら」とラミア族、ミューアが首を傾げた。

「その通りです。『ポテトチップス』と言う名前のお菓子です。豆芋を薄くスライスして油で揚げ、塩が振ってあります。甘くはありませんが癖になる味ですよ」

 豆芋は前世の芋とほとんど見た目が一緒だった。
 試しに作ってみたが、ちゃんとポテトチップスになっていた。
 味は、味見してくれた料理長のマルコームさんのお墨付きだ。

 お嬢様の友人が来るということで気合いを入れて新メニューを開発したのだ。
 早速、お嬢様が新メニューの『ポテトチップス』に手を伸ばす。

『パリパリして美味しいです』

 ハンカチで指先を拭いてから、嬉しそうにミニ黒板に文字を書き込む。
 他の3人も手を伸ばし、それぞれの美味しいと口々に言う。

 メルセさんがその間にそつなく香茶(かおりちゃ)を全員分煎れる。
 さらにハート型のミル・クレープを切り分け、お嬢様方に配り終えていた。
 その手際は鮮やかで、一種の芸術と言っても過言ではない。

「この『ぽてとちっぷす』も美味しいけど、ケーキも美味しいわね」
「甘いのとしょっぱいの繰り返しで止まんないよぉ~」

 3つ眼のバーニーが嬉しい悲鳴をあげケーキ、ポテトチップスを交互に食べる。

『バニちゃんの言う通りです』と、お嬢様もマネをする。
「……くッ」

 カレンは『悔しい、でも食べちゃう!』という表情で、お菓子を食べていた。

(もっと普通に食べればいいのに……)

 ラミア族のミューアは、香茶(かおりちゃ)を嗜みながら色っぽい視線をオレへと送ってくる。

「リュートさんといいましたっけ? クリスさんが羨ましいわ。こんな美味しい物を食べられるなんて。出来ることなら、リュートさんを家へ引き抜きたいぐらいだわ」
『ミューアちゃんでも駄目ですよ。リュートさんは家の執事さんなんですから』
「ふふふ、それは残念」

 お嬢様がさらにミニ黒板に指を走らせる。

『リュートさんはお料理だけじゃなく、お話も得意なんですよ。昨日も初めて耳にする、楽しい物語を聞かせてくれたんです。バニちゃんにお薦めですよ』
「クリスちゃんお薦めなら間違いないね。この前、貸してもらった本も凄く面白かったし」

 3つ眼族のバーニーはお嬢様とは本好き仲間らしい。
 しかしそんな2人に水を差す人物がいた。

「クリスとバニのお薦めは勇者が姫を救うだけではないか。話ならもっと血湧き肉躍る方が私はいいぞ」
「カレンも人のことは言えないでしょ。カレンが読む本は大抵、英雄譚系ばっかりじゃない」

 ミューアが軽くたしなめる。

 お嬢様がミニ黒板に文字を書く。

『ではカレンちゃんが気に入りそうな英雄譚の物語を、リュートさんはご存知ですか?』

 お嬢様の問いに、オレは考え込む。

 武人系女子のカレンが気に入りそうな物語か……。

(ならこれなんかぴったりだな)

 オレは咳払いをしてお嬢様達の注目を集める。
 そしてオレの国ではよく語られる有名な話だ、と前置きをして続けた。

「それでは僭越ながら物語をひとつ語らせて頂きます。タイトルは――『忠臣蔵』です」



 もちろん彼女達が想像しやすいようにこの異世界の立場や武器・道具などに置き換えて話し聞かせた。

「素晴らしい! アコウロウシたちはまさに忠臣の鏡だ!」

 武人系女子のカレンが『忠臣蔵』の話を聞き終えると、ぼろぼろと涙を流し感動する。
 特に最後、大石内蔵助達が自決するシーンで瞳が決壊。

 人目も憚らず泣き続ける。
 さすがにお嬢様達もカレンの号泣にやや引いていた。

 カレンはハンカチで涙を拭うと、リュートに頭をさげる。

「素晴らしい話を聞かせてくれてありがとう。先程までの無礼を許して欲しい。クリスの側に男がいるのが心配で、つい厳しくしてしまった。これ程、美味しいお菓子や素晴らしい話をしてくれるリュートが悪人のはずが無い!」

(お菓子と話でほだされるとはチョロすぎる!)とはさすがに言わず、笑顔で返答する。

「気にしてませんので、カレン様もお気になさらず」

 オレの返答にカレンは明るい表情を取り戻す。
 その後は夕方になるまで女子トークが続いた。



▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 お友達が帰宅後、夕食。
 食べ終わった後、夜会を開かずお嬢様は布団へと潜り込んだ。

『昨日は遅くまで起きてたせいで眠いので、もう寝ます』

 寝不足&幼なじみ達との談笑で騒ぎ疲れてしまったのだろう。
 だが、このまま眠らせては明日、オレはラーノ奴隷館に返品されてしまう!

「お嬢様、お休みするところ申し訳ございません。実はお嬢様にひとつお願いがあるのですが……」
『お願いですか? 私に出来ることならなんでも仰ってください』

 お嬢様はミニ黒板に指を走らせ、好意的な微笑みを浮かべる。

 この3日間でお嬢様との距離は大分縮まったと思う。
 だが、もし拒絶されたら……と考えただけで胃がキリキリと痛む。

 オレは震えそうになる声を抑えながら、お嬢様にお願いした。

「……自分がお嬢様のお世話を初めてもう3日目。今日が、期限の日です。だから――血袋として、お嬢様に血を吸って欲しいんです」

 お嬢様がミニ黒板に文字を書こうとして、だが、その指を止める。

『…………』

 お嬢様が、オレの方を見る。まっすぐに。

 その瞳の色に、心音が跳ね上がる。
 潤んだクリスお嬢様の瞳に、吸い込まれそうになる。

『……リュートさん、こっちに来て』

 お嬢様は黒板に文字を書く。そして上半身を起こし、ベッドに腰掛けるよう手招きする。

 オレは誘われるまま、彼女の近くに行く。
 お嬢様の吐息が、すぐ近くに感じられる。

『私も初めてなので、上手く出来るか分からないのですが……』

 お嬢さまの唇が、小さく開く。

『ふつつかものですが、よろしく、お願い致します』

 彼女はオレの指を、その小さな掌に包む。
 本来は腕や首筋から血を吸うらしいが、指から吸うつもりなのだろう。

 お嬢様が小さな両手で、オレの右手を掴むと人差し指を『はむ』と加える。

 温かい口内。
 別の生き物のように舌が、オレの人差し指をチロチロ愛撫するように舐めてくる。
 血の吸いやすい箇所を探しているようだ。

 お嬢様の犬歯が皮膚を裂く。
 唾液か、他の要因か痛みは無い。

 お嬢様の唇から指が離れる。
 唇と指の間に輝く唾液の糸が生まれ、引き延ばされる。
 途中で伸びきり途切れてしまう。

 不思議なことに指先に傷口は無かった。
 虫に刺されたような赤い痕があるだけだ。

 お嬢様は酒を嚥下したように頬を上気させ、トロンと瞳を潤ませている。
 彼女は酔っぱらったようにふらふらしながら、ミニ黒板に文字を書く。

『初めて飲みましたが、リュートさんの血、美味しかったです』
「お気に召して頂いて、自分も嬉しいです」

 メルセさんからハンカチを渡され、指に付いたお嬢様の唾液を拭き取った。
 一礼して自室を出ようと背を向けると、裾を引っ張られる。

 振り返るとお嬢様が酔っぱらった瞳のまま、恥ずかしそうにミニ黒板に文字を書く。

『今日はリュートさんのお陰で、みんなと楽しい時間を過ごすことができました。いつも美味しいお菓子や楽しいお話をしてくれて、ありがとうございます』

 お嬢様ははにかみながらお礼を告げてくる。
 その可愛さといじらしさに、オレまで自然と頬が弛んだ。

「見習いとはいえ自分はお嬢様の執事ですから、当然のことをしたまでですよ」

 笑顔で返答すると、お嬢様も微笑みを返してくれる。
 幸せで、温かな空気が部屋を満たす。
 お嬢様の執事を始めた初日とは打って変わった態度に、感慨深いものを感じた。

「それではお嬢様、あらためてお休みなさいませ」
『お休みなさいリュートさん、メルセさん』

 オレとメルセさんは一礼して、そっと自室の扉を閉める。



 廊下に出ると、メリーさんが待ち構えていた。

「……お嬢様はお休みになられたようですメェー」

 オレ達の無言を了承ととる。

「それで血袋の役割は果たすことが出来たのですかメェー?」
「はい、お陰様で」

 その答えにメリーは黙って数度頷く。
 まぁここで騙した所で、明日お嬢様に確認を取れば分かる。
 嘘をつく意味は無い。

「メルセ、リュート。旦那様と奥様がお待ちです。付いて来てくださいメェー」

 オレとメルセさんは彼の言葉に従い、後を付いて行った。



▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 旦那様、奥様が待つ部屋に到着する。
 中に入ると警備長のギギさんまで待ち構えていた。

 全員が揃うとメリーが司会役で話を進める。

「旦那様、奥様、お手を煩わせて申し訳ありません。3日間の試験結果が出ましたのでご報告させて頂きますメェー」
「3日間の試験? そんなものあったかしら?」
「はははっははは、ほらあれだろう。今度出た新しい魔術ランプの結果だろ? もし前回より性能がよかったら、必要な分だけ買うといい! はあははははっっはあ!」
「いえ、違います。リュートをお嬢様のお世話係兼血袋としてブラッド家に残すかどうかの件ですメェー」

 旦那様、奥様共に忘れてたという顔をする。
 本当にこの2人は……。

 メリーの進言で2人は出した条件を思い出す。

 メリーが話を続けた。

「旦那様が出された条件は――『3日以内にお嬢様に血袋として血を吸われなければ、奴隷館に返品する』というものでした。リュートはそれを見事達成しましたメェー。 ですが……」

 と、メリーは一言区切る。

 おいおい。まさか執事長の権限で、条件を満たしているのにオレを奴隷館へ送り返すつもりか!?

 しかし、オレの予想とはまったく違うものだった。

「例えリュートが血を吸われなかったとしても、私は残すべきと進言するつもりでした。メルセの報告によれば――男性を怖がるお嬢様が笑って会話をするほど打ち解け、さらに外へ繋がる日光を怖がるお嬢様に、光を浴びせて笑わせることにも成功しております。これほどの成果を上げている人材を手放すのは、お嬢様にとってもブラッド家にとっても損失となりますからメェー」

 メリーは、いや、メリーさんはオレへ向き直ると深々と頭を下げる。

「初日は奴隷館へ返品するべきなどと、酷いことを言って申し訳ありませんでした。暴言を許して欲しいメェー」
「い、いえ! メリーさんの立場なら反対してもおかしくありませんから! 別に根に持ってなんていません!」
「そう言って貰えるとありがたいメェー」

 そんなオレ達のやりとりとを旦那様が眺め――豪快に笑った。

「ははははははは! そうかそうか! リュートはクリスとそこまで仲良くなったのか! ふむでは条件を満たしていることだし、リュートを我がブラッド家に迎え入れよう!」
「よろしくね、リュート。リュートの作るお菓子はどれも美味しいから、これから楽しみだわ」
「はははっはははっはあ! 確かに! リュートの作るお菓子だけでも、残す価値があるな! あははあははっは!」
「ありがとうございます! 旦那様、奥様!」

 オレのお礼を、旦那様と奥様は楽しげに笑い受け取った。
 どうやらオレは無事、ブラッド家に残れるようだ。

 メリーさんが優しい表情から一転、引き締まったものに変わる。

「では、これからはリュートにはお嬢様専属の執事兼血袋として働いてもらいます。ブラッド家の執事に相応しくなれるよう、厳しく私が指導するのでそのつもりでいてくださいメェー」
「はい、メリーさん! 精一杯頑張って立派な執事になります!」



 翌日、お嬢様から少しだけ血液を貰い、正式な契約印を仮契約印の上から押す。
 これでオレはお嬢様専属の見習い執事兼血袋として、ブラッド家の正式な一員となった。


ここまで読んでくださってありがとうございます!
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明日、12月16日、21時更新予定です。
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