第280話 帰ってきた、武器製造バンザイ!
「メイヤ!」
「リュート!」
「ルナの!」
「「「武器製造バンザイ!」」」
打ち合わせ通りのタイミングで三人そろって声をあげる。
場所は新・純潔乙女騎士団本部内に専用の工房。
その工房内にオレ達3人は集まっていた。
「武器製造は、魔物大陸でメイヤと2人で出張版をやったけど、こうして3人揃ってやるのは久しぶりだな」
「だね。リューとんもメイヤっちも、始原やギギさん問題とかでそれどころじゃなかったしね。かく言うルナも色々忙しくてそれどころじゃなかったけど」
オレの言葉にルナが同意する。
彼女の指摘通り、ここ最近は3人で集まって『武器製造バンザイ!』をやるほどの時間的、心理的余裕がなかった。
こうして久しぶりに集まって、開発に集中できるのは平和の証ともいえるんだな。
「それでリュート様、今回はいったいどんな武器をお作りになるのですか? また8.8cm対空砲や燃料気化爆弾などをお作りになるのですか?」
「さすがにそこまで大がかりなモノは作らないよ。将来的には色々そういう大型系で作ってみたいものがあるけどね」
それらはこの場ですぐ一朝一夕でできる代物ではない。
「今回、作るのは『非致死性兵器』だよ」
「なるほど『SKUNK』のようなものですわね」
「なにそれ? ルナ、知らないんだけど」
メイヤは特殊音響閃光弾や非致死性の散弾装弾、SKUNKのことを知っているため納得したが、ルナは分からず小首を傾げた。
そんなルナのために『非致死性兵器』について改めて説明をする。
非致死性兵器とは文字通り『使用しても相手を死なせない兵器』のことである。
軍隊が過激なデモや暴動を起こす一般市民に対処し死傷者が出た場合、大きな問題になってしまう。
軍隊にとって非戦闘員である一般市民の鎮圧ほど難しいものはないのだ。
そこで開発されたのが、非致死性兵器……ノンリーサルウェポンである。
非致死性兵器は、多額の予算を掛け様々な兵器を開発し続けているアメリカだけではなく、他各国で研究・開発が進められている分野でもある。
非致死性兵器は、21世紀において成長率2桁もある注目すべき成長市場でもあるのだ。
そんな非致死性兵器には対象によっていくつかにカテゴリ分けされているが、一般的に思い浮かべられるのは対人兵器だろう(対車両兵器としては、自爆テロを起こそうとする車両を止める装置などもあるらしい)。
オレ達が今まで作った対人用の非致死性兵器は、特殊音響閃光弾や木製プラグ弾。
最近だと魔術師S級、タイガ・フウー、獣王武神用に開発した臭い匂いの液体などをまく『SKUNK』。
あれは本当に臭くて、野外で出張版『武器製造バンザイ!』をしたほどだった。
他にも海外には面白い非致死性兵器が存在する。
たとえば――無線操作で動くドローンに非致死性兵器を複数装備させて、相手を襲うというものもある。
ドローンには様々な非致死性兵器が装備されていて、逃げても逃げても追いかけてくるのだ。
こういった面白い非致死性兵器の他にも、画期的なモノも多い。
代表的なモノとしてアクィブ・ディナイアル・システム(ADS)が有名だろう。
簡単に原理を説明すると電磁波(ミリ波の周波数、95Ghz)を人体に照射して皮膚温度をある程度の高温(ただし細胞に損傷を与えない程度)まで熱するのだ。
つまり電子レンジの原理で敵の皮膚温度を上げ、痛みを与えるのである。
このADSは実際にアフガニスタンで投入されたとかなんとか。
他にもレーザー光などを使用する非致死性兵器も存在する。
しかし、さすがにこれらの非致死性兵器を作る技術力はない。
今回、オレが作ろうと思ったのは『テーザー銃』(ちなみにテーザー銃はテーザー社より発売されているものになる)と呼ばれる非致死性兵器だ。
早い話がスタンガンである。
銃の形をしたスタンガンで、引鉄を絞ると電極が付いた2本のワイヤーが伸びて、目標に命中すると数万ボルトの電流が流れ相手を無力化するのだ。
射程は約5~7mとそれほど長くない。
そのため今回はワイヤレスタイプを製造するつもりだ。
ワイヤレス――という言葉通り、通常は先ほど説明したように2本のワイヤーが伸びて相手に命中すると電流が流れる。
しかし、これでは射程が短いのと、1回発砲したらお終いだ。
そこでワイヤレスタイプとは――散弾銃の装弾、12番径と同じ大きさの弾に電源、電流が導線&針が一緒に入っている。
目標に弾が当たると、針が刺さり導線を通って電流を相手に流すという仕組みだ。
ワイヤレスタイプのため、射程距離はワイヤータイプに比べて数倍伸びた。
弾丸のように飛翔する弾の中に電源を入れなければいけないため、電力は小さくなったがそれでも相手に当たれば数十秒間行動を阻害することができるらしい。
今回開発にあたって、電源の代わりに雷の魔力を溜めた魔石を使用する予定だ。
そのため通常のテーザーワイヤレスタイプ(TASER XREPという名前だ)より、1発当たりのコストが高くなる。
だが今やPEACEMAKERは押しも押されもしないトップ軍団。
これぐらいの出費は問題なしだ!
「でもどうして今更、非致死性兵器なんて開発しようと思ったの? まさかこれからココリ街の人達を弾圧するから、鎮圧用兵器を作っておこう――ってわけじゃないでしょ?」
「あたりまえだ! ルナはオレをどんな目で見てるんだよ」
冗談と分かりつつ、こちらもツッコミを入れる。
オレは一度咳払いをしてから、非致死性兵器を製造する理由を告げた。
「前にリースに頼まれたんだよ。今度、ララと戦う時に彼女を倒して捕まえたい。そして、どうしてこんなことをしたのか真意を聞き出したいって」
「なるほど、なるほど。だから非致死性兵器を作るんだぁ」
「……そういえば、ルナとしてはララをどう思っているんだ?」
ハイエルフ王国、エノールの元第1王女、ララ・エノール・メメア。
さらに元『黒』の幹部で、現在はそれすら裏切り魔法核を奪い逃走中である。
そんな彼女をルナはどう思っているのだろうか?
「うーん……どうって言われても……『色々やらかしてるなぁ~』としか思わないかな。別にリースお姉ちゃんみたいに捕まえて、『どうしてそんなことをするのか?』って聞くつもりも、興味もないし。ララお姉ちゃんもいい大人なんだし、なんか考えや信念とかがあるんでしょ? だから、ルナはルナができることとやりたいことをするだけだよ」
それに――と彼女は続ける。
「ルナの予想じゃララお姉ちゃんはダメ男に唆されているだけな気がするんだよね。ララお姉ちゃんは優秀だけど、昔からダメな男を放っておけないっていうか、ひっかかりそうな性格だったし」
「ルナ……オマエ意外と毒舌なのな」
「そう? ルナは見たまま、思ったままを言ってるだけなんだけどなぁ」
彼女はオレの評価に心外そうに返事をした。
そんなやりとりを眺めていたメイヤが、声をかけてきた。
「リュート様、そろそろ時間ももったいないですし……」
「そうだな。悪い、悪い。それじゃ早速始めようか。まずは魔術液体金属を使おうか」
「魔術液体金属ですわね……あっ」
作業台の上に置いた魔術液体金属が入った小樽を取ろうと、オレとメイヤの手が伸びて触れ合う。
オレ達は反射的に手を引っ込めて、頬を互いに赤くしてしまう。
あれ? メイヤってこんなに可愛かったっけ?
「メイヤ……」
「リュート様…………」
心臓が高鳴り、オレとメイヤはしばし無言で見つめ合ってしまう。
「……ねぇ、ルナ、邪魔みたいだから部屋から出てようか?」
ルナのツッコミ的提案に我に返ったオレとメイヤは、誤魔化すように笑みを浮かべ非致死性兵器制作作業に取りかかった。
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一方、リュート達が非致死性兵器制作に取りかかっている頃、メルティア王国、執務室。
メルティア王国の次期国王、人種族魔術師Aプラス級、ランス・メルティアは書類仕事に追われていたが、最後の一枚を書き終える。
彼は椅子に座ったまま大きく背中を伸ばした。
「はぁ、ようやく終わったよ。どれだけ偉くなっても、こういう実務的な仕事からは逃れられないものなんだね」
「お疲れ様です、ランス様」
ララがまるで秘書のように、淹れたての香茶を彼の前へ置いた。
「ありがとうララ。うん、良い香りだ」
「褒めて頂きありがとうございます。それでこの後は予定通りに?」
「もちろん。そのために前倒しで書類仕事を終わらせたんだから」
ランスは香茶がそそがれたカップを手にしたまま、微笑みを浮かべる。
微笑みのはずなのだが――まるで邪悪な肉食獣が獲物に飛びかかる寸前の表情に酷似していた。
「楽しみだな。この異世界で直接、堀田くんに会えるなんて」
ランス・メルティアはメルティア王国の代表者として、PEACEMAKERと会う約束を取り付けるよう使者を出していた。
前世、地球の記憶を持つ2人が、もうすぐ初めて直接顔を合わせる。
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5月04日、21時更新予定です!
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また、軍オタ1~3巻、引き続き発売中です。
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(1~3巻購入特典SSは15年4月18日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)




