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軍オタが魔法世界に転生したら、現代兵器で軍隊ハーレムを作っちゃいました!? 作者:明鏡シスイ

3章

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第25話 2日目:ミル・クレープ

 2日目、朝。
 メイド長のメルセさんと一緒に、お嬢様を起こすため部屋を尋ねる。
 昨日のようにメルセさんがノックした後、返事を待たず扉を開く。

「お嬢様、失礼いたします」
「失礼します」

 今朝はお嬢様も起きていたらしく、キングサイズのベッドにペタンと座ってぼんやりしていた。
 絹に似た素材で作れたパジャマに袖を通し、緩いウェーブのかかった金髪が真っ白なシーツの上に広がっている。
 まだねむいのかぼんやりとした横顔だったが、まるでお伽噺に出てくるお姫様のように美しく可愛らしかった。

「お嬢様、おはようございます」
「おはようございます」

 メルセさんと一緒に声をかけると、お嬢様はぺこりと頭を下げる。
 男のオレが居ても、もう隠れることはなくなった。
 それどころか、ミニ黒板に指を走らせ、

『今日のお茶会と夜会を楽しみにしてます』とコミュニケーションを取ろうとしてくれる。

「腕によりをかけて、お嬢様のためにお菓子を作らせていただきます」

 オレが答えると、彼女ははにかんだ笑みを浮かべた。

 やばい、可愛い!
 もし前世でお嬢様みたいな妹がいたら、滅茶苦茶溺愛していただろうな。

 オレはそんなことを考えながら、朝食を取りに一度部屋を出た。



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 メルセさんと一緒に今日も遅めの朝食を摂る。
 食べ終えると早速、午後のお茶会に向けてお菓子作りを始めた。

 お嬢様に出すケーキ類はすでに専属料理人が準備済み。
 オレは昨日出したプリンとは別の、新たなお菓子を作る作業にとりかかる。

 その新しいお菓子と言うのはクレープを使ったケーキ――ミル・クレープだ。
 クレープ生地の間に、生クリームやカスタードクリームなどを塗り重ねて作る。

 クレープ自体はフランス発祥だが、この『ミル・クレープ』は日本人が作り出したものだ。

 まずクレープ生地を作り、竈の火を調整しながら、底の浅いフライパンでどんどんクレープを焼く。

 生地が無くなるまでクレープを作ると、あら熱を取るため暫く放置。

 その間にカスタードクリームを作る。

 カスタードクリームは卵黄、砂糖、小麦粉、牛乳で作る。
 卵黄、砂糖、小麦粉を混ぜ、牛乳を加えながら伸ばしていく。そしてとろみが付くまで弱火にかける。

 カスタードクリームを作り終えたら、間に挟むフルーツを切る。今日は苺に似た赤い小さな赤苺(あかいちご)という果物を使う。
 食べてみると食感、味とも殆ど苺だった。
 赤苺を薄くスライスしていく。

 準備が出来たら後はひたすらクレープにカスタードクリームを塗り、その上に赤苺のスライスを乗せていく。
 20数回ほど繰り返したら『赤苺のミル・クレープ』の完成だ。

 所詮は素人料理のため、ブラッド家専属の料理長に最後は見映えを調整してもらった。

 料理長である魔人種族、リザード族のマルコームさんは、丸い『赤苺のミル・クレープ』の周囲を包丁で四角く切り落とす。

 最後に一番上に残ったカスタードを少し乗せ、切らずに取っておいた赤苺を乗せた。
 それだけで、店頭に出せるのでは無いかと思うほど見映えが良くなる。さすが料理長。
 これならお嬢様も喜んでくれるだろう。



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「こちらが私作のケーキ、『赤苺のミル・クレープ』になります」

 午後のお茶会。
 お嬢様の自室に『赤苺のミル・クレープ』を運び込む。

 テーブルクロスのかかったテーブルにはすでに香茶(かおりちゃ)が準備されていた。
 オレが作った『ミル・クレープ』の他にも、ケーキが置かれている。しかしお嬢様の目は完全に『赤苺のミル・クレープ』へと食いついていた。

『とっても美味しそうです』

 お嬢様は入り口に立つオレへ、ミニ黒板を向ける。
 その言葉に軽く一礼。

 オレは扉の側に立ったまま、メルセさんがお嬢様のお世話をする。
 お嬢様は早速『赤苺のミル・クレープ』を食べたいとメルセさんに伝えた。

 すでに料理長のマルコームさんに切り分けてもらっているため、メルセさんは皿に移すだけだ。
 お嬢様は目の前に置かれた『赤苺のミル・クレープ』に木のフォークを伸ばす。

「♪♪♪」

 彼女は一口食べると、幸せそうに頬に片手を添えた。
 二口目を食べ、三口目――気付けばぺろりと1皿食べてしまう。
 さらにお嬢様は『赤苺のミル・クレープ』のお代わりをねだる。

 普段の朝食や夕食は質素で大した量を食べないが、お菓子は別腹らしい。
 さすが甘い物好きの魔人種族だ。
 香茶(かおりちゃ)を飲み、口内の甘みを洗い流すとミニ黒板に文字を書く。

『昨日のプリンも美味しかったですが、今日のケーキもとっても美味しかったです。また作ってくれますか?』
「もちろんです。他にも自分が作れるお菓子をお嬢様のために頑張って作ります」
『とっても楽しみです』

 お嬢様は一昨日とは比べものにならないほど友好的な態度を取ってくれる。しかし――

「では、空いたお皿をお下げ致しますね」
「ッ!」

 お嬢様の側に寄り、皿を下げる。
 その時、彼女は体を硬直させた。やはりまだ異性が怖いらしい。完全には打ち解けていないようだ。

『お菓子大作戦』で距離は縮まったが、完全に打ち解けたわけではない。

(このままお菓子をただ作っても、完全に打ち解けることはできそうにないな……)

 オレは皿を片付けながら、『お菓子大作戦』に替わる新たな作戦を考え始めた。



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「さて、どうしたもんですか」
「そうですね。弱りましたね……」

 午後のお茶会後、オレとメルセさんの2人は屋敷の掃除を担当していた。
 屋敷の廊下には中身の入っていない金属製の全身甲冑、手には刃を潰した戦斧や子供2人ぐらいなら楽に入れるほど大きな壺などが置かれている。
 他にも絵画、剥製などが飾られている。

 オレとメルセさんはそれらをひとつずつ掃除しながら作戦会議をしていた。
 オレは『お菓子大作戦』のアイデアを出したメルセさんに再び縋る。

「メルセさん、『お菓子大作戦!』の他に良い案とかないですか?」
「そうですね。後はお嬢様に何かプレゼントするのはどうでしょうか?」
「なるほど、プレゼントを贈って親しくなるわけでですね。お嬢様には何を送ったら喜んでもらえますかね」
「女性がもらって嬉しい物――花束や宝石などでしょうか?」

「……自分、無一文なんですけど」

 宝石を送れるほどの金があるなら、奴隷なんてやってない。
 メルセさんがオレの指摘に遠い目をする。

「……リュート、短い間でしたが一緒に仕事が出来てよかったです」
「またその冗談ですか。いくら何でも二度もひっかかりませんよ」
「…………」
「なんで黙り込んでるんですか!? 今回は本気ってオチですか! 目を反らさないでくださいよ!」

「……宝石、花束が無理となると何か芸をしてお嬢様を喜ばせるのはいかかですか。リュートは何か出来る芸を持っていませんか?」
「芸ですか……こんな風に親指が取れるとかならありますけど」
「!?」

 左手の親指に、右親指を重ねてずらす日本人なら誰でも知っている悪戯の一種。
 海外の人にこれをやると驚かれると聞いたことがあった。
 なので軽いノリでメルセさんに見せたら、彼女は後ずさり腰を抜かしてしまう。
 ビビリ過ぎだろ。

「驚き過ぎですよメルセさん! ほら、ただこうして左右の親指をくっつけて離しただけですって」
「……最初から分かっていましたよ。それぐらい。突然、リュートが変なことをしたから驚いただけですきゃら」

 あっ、噛んだ。
 メルセさんはすまし顔で立ち上がり、メイド服に付いた埃を払う。
 ヤバイ。この人、見た目と違って滅茶苦茶面白いわ。

「おい」

 オレたちがそんなやり取りをしていると――警備長のギギさんが声をかけてくる。

「ギギさん、お疲れ様です」
「……お疲れ様です」

 オレ、メルセさんの順番で挨拶をする。
 ギギさんは軽く頭を下げ挨拶とした。

「何かご用ですか?」
「お嬢様との仲はどうなってる。ブラッド家に残れそうか?」

 オレの問いにギギさんは尋ねてくる。
 どうやら心配で様子を見に来てくれたようだ。

 ギギさんはオレが残るのに賛成してくれている味方のため、素直に状況を話す。
 それにもしかしたら何かいいアイディアを出してくれるかも知れない。

「――なるほど、お菓子で距離を縮めたのか」
「はい、でもその先が難しくて。ギギさん、何か案とかありませんか?」
「これを使え」

 ギギさんは手にしてた物を差し出してくる。
 1冊の本だった。

「魔人大陸語は読めるか?」
「はい、大丈夫です」

 現在も魔人大陸語を話している。
 読むのも、難しすぎる本でなければ問題ない。
 個人的には話すより、読む方が好きだ。

 本は子供に読み聞かせるような絵本形式だった。

 内容は――お姫様が魔人大陸の魔王にさらわれ、その後魔人種族の勇者が、他の勇者の力を借りてお姫様を助け出し、恋人となる冒険活劇&ラブストーリーだ。
 どうやらこの本はお嬢様お気に入りのひとつらしい。

「お嬢様は本が好きで、昔はよく学校の図書館に篭もっていた。リュートもそれを読んで距離を詰める切っ掛けにするといい」
「ありがとうございます、ギギさん!」

 ギギさんは用事が済むと、黙って持ち場へと戻って行く。
 オレはその背を見送りながら、ある作戦を思いつく。上手くすればお嬢様との距離を縮めることができるかもしれない!

 思いついた作戦をメルセさんに話し聞かせると、

「確かに良い手かもしれません。上手くすればお嬢様のリュートに対する苦手意識を取り払うことが出来るかもしれませんね」

 と、同意する。

 お陰で俄然やる気がでた。

 オレは今夜の夜会に備えて、掃除をしながら前世の知識を思い返していた。



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 夜、2回目の夜会。
 昨日はプリンだった。

 今日はカスタードクリームが余っているので、白いパンに塗りフルーツを挟んだ。
 フルーツサンドの完成だ。
 もちろん夜会用に小さく作っている。

 白いパンに挟むのは野菜、肉だと考えていたお嬢様は、フルーツサンドを最初やや気持ち悪がっていた。
 パンにカスタードクリームとフルーツが合うのか、と。

 しかしプリンやミル・クレープが美味しかったことを思い出し、オレを信じて彼女は口を付ける。

「♪♪♪」

 お嬢様はすぐに相好を崩す。
 幸せそうにフルーツサンドを両手で掴み、リスのように食べる。
 その姿はとても可愛らしかった。

「…………」
「(こくり)」

 メルセさんがアイコンタクトを送ってくる。
 オレは頷き、お嬢様に声をかけた。

「お嬢様、ひとつお嬢様にお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「?」

 フルーツサンドを手にしたまま、お嬢様は小首を傾げて頷いた。
 OKのサインだ。
 オレはゆっくりと切り出す。

「実は今日の昼間、掃除中に警備長のギギさんと会いまして、お嬢様が絵本などのお話が好きと聞いたのですが。宜しければ今夜、夜会の一席にわたしの国で伝わっているお話をお聞かせしても宜しいでしょうか?」

 お嬢様は満面の笑顔で頷いてくれる。
 胸中で『よっし!』とガッツポーズを取った。
 一度咳払いをして、早速前世で覚えている話を聞かせる。

 お嬢様の好み的に『シンデレラ』『白雪姫』『ロミオとジュリエット』あたりがベストだろう。
 香茶(かおりちゃ)を飲むお嬢様に話しかけるように、ゆっくりと『シンデレラ』を聞かせた。

「それでは早速……昔々、あるところにシンデレラという少女がおりました――」



『シンデレラ』を聞いたお嬢様は、目を輝かせ手を叩いた。
 どうやら掴みはOKらしい。
 楽しませているのはあくまで童話の作者で自分ではないのだが、喜んでくれるのは嬉しい。小さい子に絵本を読み聞かせているのに感覚としては近い。

 続いて、『白雪姫』『ロミオとジュリエット』と話を続ける。

『ロミオとジュリエット』の話を聞いて、魔術で作ったランプの光を浴びながらお嬢様は大きな瞳に涙を溜め込んでいた。
 失敗したか!? と焦ったが、どうやら話に感動して瞳を潤ませたらしい。

 メルセさんが差し出したハンカチでそっと涙を拭く。
 オレはその姿を眺め、ひっそり胸を撫で下ろした。

「では、そろそろ夜も遅いので今夜はこのあたりで。もしお嬢様が宜しければ、明日の夜会の時にもお話をさせて頂いても構いませんか?」
『出来れば最後にもう1つだけ、お話を聞かせてくれませんか?』

 お嬢様はミニ黒板に文字を書き、席を立つとオレのすぐ側まで自分から迫ってきた。その行動にオレ、メルセさんはお嬢様の前にもかかわらず驚きで顔を見合わす。

『駄目ですか?』

 それを否定と捉えたお嬢様の表情が暗くなった。
 オレは慌てて否定する。

「いえ、問題ありません。では、最後に1つだけお話をさせて頂きますね」

 この言葉にお嬢様の表情は一転して明るい物になる。
 彼女は先程まで座っていた席には戻らず、ベッドに上がると布団を被り『ころん』と横になる。
 そしてオレにベッドの側へ来るように促した。

 オレは指示通り、ベッドの側に椅子を運び腰を下ろす。
 お嬢様は『わくわく』という表現がぴったりな表情でオレを見上げている。

(『シンデレラ』『白雪姫』『ロミオとジュリエット』と並びかつお嬢様の好みにあった話か……)

 普通ならそろそろ話のネタも尽きるものだが、前世では一般書籍だけではなくアニメ、ラノベ、マンガなどにも手を出してきた。
 話のネタならまだまだ沢山ある。

 腕を組み少し考え込む。
 お嬢様の好みにあった話を思いつき、彼女に向き直った。

「では、折角なのでとっておきの話をお聞かせしますね」
『とても楽しみです』

 お嬢様は寝ころびながら器用にミニ黒板に文字を書く。

 オレは咳払いをして、自分の国で最も有名なお話の1つと前置きをした後、タイトルを告げた。

「それでは今夜最後のお話は――『天空の城○ピ○タ』です」


ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
明日、12月15日、21時更新予定です。

ちょっとリアルが忙しくなってきたので、感想等の返答がやや送れてしまいます。誤字脱字、プリンの製法修正等もリアルが落ち着いたら取りかかりたいと思います。
ただ感想などは全部読ませて頂いてます。読んでくださってありがとうございます。
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