第264話 FAEB
アルトリウス&四志天が率いる1万を超える軍勢と、オレ達は戦いを開始する。
まずは邪魔な飛行型ドラゴンを排除。
予定通り、無事制空権を獲得する。
アルトリウスが新たに飛行型ドラゴンを呼び出す前に、さっさと地上部隊を潰させてもらおう。
まぁ、もし新たに飛行型ドラゴンが出てきたら、また8.8cm対空砲の餌食になってもらうだけだが。
オレがそんなことを考えていると、事前の打ち合わせ通りココノ&リースを乗せたレシプロ機が音を立て始原地上部隊へと突撃していく。
レシプロ機にはまだ名前をつけていない。
複座型で、2人は前後に座っており、役割は完全に分かれている。
前の座るココノが操縦を担当し、後ろのリースが攻撃を担当するのだ。
素材の関係でレシプロ機には座席を覆うほどのキャノピーを付けられなかった。そのため操縦席に小さな風防を備え付けただけだ。
この状態で空を飛んだ場合、吹きさらしで操縦しなければならない。
そのため彼女達はコートを羽織り、マフラーを巻き手袋を嵌めている。まるで彼女達だけ雪山にいるような格好をしていた。
事前の打ち合わせの際、ココノに地上部隊の迎撃を頼んだら珍しく声を大きく上げて、張り切っていた。
どうやらオレの妻として戦闘に参加できるのがとても嬉しいらしい。
ココノは魔術師の才能はなく、体も弱いため旦那様を説得に向かう際、彼女は新・純潔騎士団本部に残ってもらった。
その事を随分気にして、オレ達がいない間ずっと体力作りに励んでいたらしい。
戦闘に参加できる有無で嫁達に対する態度を変えることなんて、絶対にないんだが……。
ココノ本人的には色々思うところがあったようだ。
個人的には彼女の体が心配だし、本当は戦闘に参加してもらうのはためらった。だが、人手不足と彼女の頑張りを考えて、今回の作戦に参加してもらうことにした。
そしてさらに、ココノにしか任せられない役目をお願いしたことでテンションが上がっているのだろう。
現状、彼女ほど開発したレシプロ機を上手く扱える人材はいない。
だいたい『レシプロ機』と見た目から言ってはいるが、性能的には気球に近い作りになっている。
ココノ達が乗るレシプロ機には魔石が敷き詰められており、スイッチを入れると魔石が起動し機体を浮かび上がらせる。
一定の高度に達すると、エンジンを動かし一番前に付いているプロペラが回り前進。次第に速度を上げていく。
このレシプロ機擬きの利点は、滑走路がなくてもヘリコプターのように垂直離陸が可能な点だ。
これによりほぼ場所を選ばず飛び立つことができる。
また一定時間同じ場所に滞空し続けることも理論上可能である。
そんなレシプロ機擬きが、速度を上げ大きく弧を描くように旋回。オレ達から見て敵軍右側から再度突入する。
後部に座るリースが席から身を乗り出し、左手を外へと伸ばす。
前方プロペラの反対側、尻尾部分の尾翼を気にしながら『無限収納』から巨大な乾電池に長方形の羽根を付けた物が地上目掛けて落下していく。
地上にいる始原地上部隊が、落下してくる巨大乾電池をわらわらと避けるように広がる。
その動きは冷静で、まるで歴戦の兵士のようだった。もし落下してくる巨大乾電池のような物がただの岩のような質量兵器だったら、地上部隊が怪我を負うことはほぼなかっただろう。
そうあれはただ巨大な金属の塊などではない。
巨大乾電池が地面に落ちるより早く爆発。
地上に巨大な火の玉が産み落とされる。
火の玉はある程度燃え上がると、すぐに消えてしまう。
その後、残ったは始原地上部隊の無惨な死体だ。
火の玉の範囲から外れていた他地上部隊達が我に返ると、蜂の巣を突いたような騒ぎになる。
ココノ&リースはそんな彼らの動揺など気にせず、次々に巨大乾電池――燃料気化爆弾(Fuel Air Explosive Bomb=FAEB、又はFAE)で絨緞爆撃していく。
これが今回の切り札の一つ、燃料気化爆弾である。
――では、燃料気化爆弾とはいったいどんな爆弾なのか?
まず構造から説明すると――液体燃料が詰まっている容器に2つの信管(近接信管&時限信管)をつけた爆弾である。
上空から落下する燃料気化爆弾は、近接信管によって上空で破裂し燃料を広範囲に散布する。
次に時限信管が作動し、散布され空中に留まっている液体燃料に着火。
空気中の酸素と混ざった液体燃料が燃え上がり、非常に強い衝撃波を発生させ地面の敵を圧殺する(爆発の火力で敵兵を殺すのではなく、強い圧力を維持することによって圧殺)。
例えば、人が燃料気化爆弾の圧力を受けた場合、肺と内臓が潰され即死する。
この時、燃料散布、着火、爆発まではほぼ一瞬で、燃え上がり巨大な火の玉を作り出すがすぐに消えてしまう。
遠くから見た場合、巨大な火の玉が産まれてすぐ消えるのが確認できるだろう。
燃料気化爆弾はそんな爆弾だ。
ではなぜ人を圧力で即死させるほどの威力が、燃料気化爆弾にはあるのか?
通常の爆薬は成分の中に酸素が含まれている。
この酸素を使い、外気を必要とせず爆発することができる。
一方、燃料気化爆弾の場合、散布された液体燃料と空気が絶妙に混合することによって燃え上がる。
この時、通常の爆薬と違って、燃料気化爆弾は大気中に散布するため酸素を好きなだけ取り込むことができる。
例えるなら通常の爆薬は、自分の財布に入っている資金だけで好きな物を買うことができる。
一方、燃料気化爆弾の場合は、銀行から自由に資金を引き出して物を買うことができる。
どちらがより多くの物を買うことが出来るか、子供でも分かるだろう。
それ故、燃料気化爆弾の重量あたりの威力は、一般的な爆薬と比べて約10倍以上にもなるらしい。
そして今、開発に携わったルナでさえ使用を躊躇する燃料気化爆弾が、リースの無限収納から大量にばらまかれる。
リースの無限収納なら、重量を気にせず多数の燃料気化爆弾を所持して、空中で投下することができる。
故に物量にものをいわせた絨緞爆弾を実行することができた。
燃料気化爆弾が落ちる度、真っ赤な火の玉が空中に浮かんでは消える。
その爆発の下は、正に阿鼻叫喚。
最初に8.8cm対空砲に撃ち落とされまだ息のあったドラゴン達ですら圧殺され物言わぬ骸を晒す。
それでも彼女達は手を抜かず、燃料気化爆弾を投下し続ける。
始原地上部隊を通り過ぎると、旋回し再度右側から周り燃料気化爆弾を投下しようとする。
そんなココノ&リースを乗せたレシプロ機を狙い、金属製の太い杭が敵陣から投擲された。
しかし、当たるどころかその高度に達する前に失速し、杭は落ちていく。
たとえ杭が高度に届いたとしてもまず当たりはしない。
高度数kmを約150mk/hで移動する小さなレシプロ機を、杭のような点攻撃で撃墜するのはいくら何でも不可能というものだ。
他にも地上部隊の生き残りが矢を放つが、同じように届かず失速し、落下していた。
杭を投げた牛頭の人物がレシプロ機に向けて何かを叫んでいる。
さすが距離があるため何を叫んでいるのかまでは分からないが、構わずオレは指示を出す。
モールス信号で、ココノ&クリスに念のため退避を命じる。
レシプロ機本体ではなく、落下する燃料気化爆弾を狙われては堪らない。
モールス信号の光は晴れていれば約5km先からでも確認できるらしい。彼女達も信号に気が付き、退避する。
この時、すでに8.8cm対空砲は、敵地上部隊へと照準を合わせていた。
もちろん弾薬はMVT信管榴弾である。
「撃てぇえッ!」
杭や矢を飛ばしていた地上部隊へMVT信管榴弾が撃ち込まれる。
その砲撃でレシプロ機に対空攻撃をしかけていた部隊が沈黙する。
再び、ココノ&リースが爆撃コースに入り未だ生き残っている地上部隊に容赦なく燃料気化爆弾を投下していく。
五階建てマンションのような巨大な羽根のないドラゴンも、活躍の場もなく爆発の圧力に頭部が押しつぶされ目や口、耳らしき場所から血を流し死亡する。
生き残った地上部隊も練度の高さが災いして、固まって回避行動をとろうとする。しかし、いくら魔物の足が人より速いとはいえ、レシプロ機の速度、燃料気化爆弾の有効範囲からそうそう逃げられるはずもない。
結果、まとめて圧殺されてしまう。
「とりあえずここまでは予定通りだな」
相手の航空戦力を撃破し、制空権確保。
その後、完全アウトレンジからの空爆で地上部隊を殲滅する。
またさらに敵の航空戦力が追加された場合、レシプロ機を下げ8.8cm対空砲で撃墜後、再び空爆をおこなう予定だった。
敵の長所を潰し、自分達の土俵でひたすら戦うというシンプルな作戦だ。
また敵勢力が侵攻してくるまえに砲撃や空爆で敵戦力・軍事基地等を破壊するのは、近代戦の常套戦術である。
ちなみに前世、地球の場合、戦場で敵兵が互いの姿を目視する前に攻撃を受けるのが当たり前だ。
さらに極悪になると無人機による爆撃によって、地球の反対側に居ながら敵司令官などを爆殺したりすることができる。
それに比べればまだ自分達の攻撃は可愛い方だ。
少なくても敵同士が互いに目視できる距離にいるのだから。
一応保険として対戦車地雷を埋め、鉄条網&塹壕を掘り、旦那様やアムにいつでも戦えるよう準備してもらっていた。
だが、この分だと必要なさそうだな。
(さて、次は……あの2人のが上手くいってくれればいいんだが)
オレは次の作戦に移っている2人の成功を気にする。
この作戦が、対始原の勝負を決めるものだからだ。
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3月12日、21時更新予定です!
また、軍オタ1~2巻、引き続き発売中です。
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(2巻なろう特典SS、1~2巻購入特典SSは14年12月20日の活動報告を、1巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告をご参照下さい)