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軍オタが魔法世界に転生したら、現代兵器で軍隊ハーレムを作っちゃいました!? 作者:明鏡シスイ

14章

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第256話 エルとアルトリウス

 ――時間は少し遡る。

 多少の戦闘はあったが、アルトリウスは予定通りPEACEMAKER(ピース・メーカー)と話し合いをするための人質として、リュートの恩師であるエルを無事確保することに成功した。

 彼女をドラゴンの背に乗せ、アルトリウスは妖人大陸にある始原(01)本部を目指す。

 始原(01)本部を一言で表すなら、『城塞』だ。

 巨人族でも相手にするのを想定しているのかのような、分厚く巨大な城壁。
 城も民衆や他国に権威を主張するためではなく、あくまで戦闘・防衛を重点に置いた堅牢な作りに特化している。
 それ故、他国の城にはない独特の威圧感を放っていた。

 二人を乗せたドラゴンは、城上部に設置されている離着陸場の滑走路へと翼をはためかせ着陸する。
 ドラゴンが身を屈めるとアルトリウスが1人、先行し下りる。
 彼は手を伸ばし、エルが下りる助けをしようとする。

「あ、ありがとうございます」

 エルは最初躊躇ったが、アルトリウスの手を取りドラゴンから下りる。
 ドラゴンはまるで最初から居なかったように、光の粒となって消え去った。
 ほぼ同時に奥にある扉が開き、秘書官のような凜とした女性とメイド達が複数出迎えてくる。

「お帰りなさいませ、団長」

 秘書官とメイド達は左右に並び、同時に自らの主に頭を下げる。

「付いてこい」

 アルトリウスは秘書やメイドの挨拶を無視して、エルに一言告げるとさっさと1人歩き出す。
 彼女は戸惑いながらも指示を無視するわけにはいかず、彼の後に付いて城内へと入った。

 アルトリウス、エル、秘書&メイド達の順番で城内を歩く。
 壁には絵画や壺、甲冑など装飾品は一切無い。
 廊下を照らす魔術光源が等間隔に並んでいるだけだ。

 本当にただひたすら戦うための質実剛健な作りである。

 どれぐらい歩いただろうか――アルトリウスがある一室へと入る。
 そこは先程までの無骨な雰囲気はない。
 どこぞの王家私室だと紹介されても納得するだけの調度品が揃い、埃一つ無いほど丁寧に掃除されている。
 ここは始原(01)本部にある貴賓室の一つだ。

 アルトリウスがようやく背後を付いて来ていたエルへと振り返る。

「エル嬢には、PEACEMAKER(ピース・メーカー)との話し合いが終わるまでここで生活をしてもらう。申し訳ないが、念のため魔術防止首輪を装着してもらうが、構わないか?」
「はい、構いません」
「協力感謝する。もし部屋を出る場合は、事前に近くに居る者に伝えてくれると助かる。それともし何か不自由があったら、メイドを呼び告げてくれ、余程酷い要求でなければ叶えるつもりだ」

 メイドのくだりで、入り口に並ぶメイド達が再び一斉に頭を下げた。
 エルは昔の王宮暮らしを思い出したのか、恐縮した曖昧な微笑みを浮かべてしまう。

 アルトリウスはある程度自由を与え、もし不満があればすぐに対応すると告げた。
 これはエルを気遣うため発言したものではない。
 リュート達が慕うエルを粗末に扱った場合、PEACEMAKER(ピース・メーカー)との話し合いがこじれる可能性があったからだ。

 アルトリウスとしては、できるだけPEACEMAKER(ピース・メーカー)の技術は吸収したい。
 そのための必要措置だ。

 エルは一通り、部屋を見回す。
 トイレ、風呂、寝室、簡単な料理が作れるキッチンなど必要な物は全て揃っている。
 孤児院での生活と比べたらまさに雲泥の差だ。

 彼女は暫し考え込んでから、アルトリウスの目をしっかりと見据え要求する。

「では、一つだけわがままをお聞き下さい」
「分かった。言ってくれ」
「仕事をさせてください」
「…………」

 エルの発言にアルトリウスは困ったように眉根を寄せた。
 入り口に立つ秘書やメイド達は、主の表情の変化に思わず息を飲んでしまう。
 エルは構わず話を続けた。

「リュート君達とのお話は時間がかかりますよね? それならそんな長い間お世話になるんですから、少しでもお役に立てるよう、お仕事をやらせて欲しいんです。……駄目でしょうか?」
「……いや、駄目ではないが……エル嬢は始原(01)にとっての賓客だ。仕事をしないことを気にせず、遠慮せず好きなことをしてもらって構わない。むしろ、ここに留まることが仕事のようなものなのだが……」

 アルトリウスの台詞に、エルが微苦笑を浮かべる。

「お気遣いはありがたいんですが、好きなことと言っても……子供達のお世話や孤児院の運営とかが私のやりたいことなので。流石にここではそれは出来ませんし、それに何もせずぼぉーっとする方が私としては落ち着かないんですよ。こう見えて力はありますし、炊事洗濯にも自信があるので、遠慮なく仕事を任せてください」

 エルは自信ありげに両拳に力を込め、胸の前に持ってくる。やる気満々と彼女は全身でアピールした。
 そんな彼女の台詞&態度に、再びアルトリウスが眉間に皺を作る。
 確かに始原(01)本部に居る間は子供達の世話も、孤児院の運営もできるはずがない。

(遠回しに我々を批難しているのだろうか……)

 確かにエルからすれば、アルトリウスは我が子のように可愛がっているリュートの敵だ。そういう感情が絶対に無いとは言い切れない。
 もしかしたら、少しでもリュート達の助けをするため、始原(01)本部内を周り有利になる情報を集めようとしている可能性もある。

 だが、ここで拒絶したら、『要求を叶える』と言った自分の言葉は嘘になる。しかも高価な宝飾やドレス、魔術道具ではなく『仕事』だ。
 舌の根も乾かぬうちに拒絶したら、自分の器が小さいと思われるかもしれない――微かにアルトリウスのプライドが刺激される。

 そして、逡巡した結果をアルトリウスは告げる。

「……分かった。何か仕事がないか明日までに探しておこう。だが、今日はもう休め。戦闘、移動と多々あったからな」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて今日は休ませて頂きますね」

 食事はすぐメイド達にこの部屋に持ってこさせると告げ、アルトリウスは貴賓室を後にした。

「……ふぅ」

 廊下を歩き、背後に居る秘書に悟られないよう微かな溜息を漏らす。

PEACEMAKER(ピース・メーカー)達と戦った時より、疲れた気がするな……)

 アルトリウスは思わず精神的な疲れを自覚してしまう。
 このまま自室に戻って眠ってしまいところだが、まだ仕事が残っている。
 彼は忘れないうちに指示を出す。

「各大陸に居る四志天(ししてん)達に緊急会議を開くため、本部へ早急に来るよう伝えておいてくれ。連絡用翼竜は後程、滑走路へ出しておく」

 四志天(ししてん)――獣人大陸、魔人大陸、竜人大陸、妖人大陸の始原(01)支部を収める各種族のトップ達だ。

 獣人大陸では獣人種族が、魔人大陸では魔人種族が、竜人大陸では竜人種族が、妖人大陸の妖精種族領では妖精種族のトップがそれぞれ支部を取り仕切っている。

 大陸を治める種族がトップに立つ方が、現場の文化・風習をよく理解しているためやりやすいだろうという配慮だ。

 この指示に秘書が返事をする。

「畏まりました」
「それと明日までに、エル嬢でも出来そうな仕事を探し、手配するように。ただし彼女が我々にとって賓客であることを忘れるな」

 この指示にも、彼女はそつなく返事をする。
 アルトリウスは他に指示を出す内容を考えながら、仕事場である政務室へと向かった。



▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 翌朝、昼、政務室。
 昼食を手早く済ませ、アルトリウスは溜まっている書類仕事を処理していく。

「…………」

 始原(01)団長だからといって、ただ戦場を駆けずり回っていればいい訳ではない。
 むしろ地味な書類仕事や雑務の方が多いぐらいだ。

 彼が目を通し確認や了承をしなければいけない重要案件は多い。
 アルトリウス自身それをよく理解しているため、愚痴一つ漏らさず書類仕事に没頭していた。

 愚痴を言えないのは、始原(01)団長として、五種族勇者の血を引く者として部下や他者に弱い部分を見せられないという面もあるが……。

 アルトリウスが秘書に書類の一枚を突き返す。

「この天神教本部との会合だが、取りやめる。また後日、こちらから連絡する旨を伝えておいてくれ」
「宜しいのですか? 新・教皇が即位して開かれる初の会合ですが。こちらの都合で伸ばしてようやく日時を取り付けたのを再び反故にするのは……」
「構わん。坊主達には好きに喚かせておけばいい。どうせ何もできはしないのだから。PEACEMAKER(ピース・メーカー)への対応が優先だ」
「……分かりました。では、その様に処理しておきます」

 秘書が席から立ち上がり、書類を受け取り戻る。
 その背にアルトリウスが思い出したように問いかけた。

「エル嬢の仕事先はどこに決まったんだ?」
「はい、いくつか検討した結果、『団員達や志望冒険者達向けの調理補助』が無難かと思い手配させていただきました」
「…………」

 始原(01)はトップ軍団(レギオン)だけあり団員達や入団希望者の冒険者が多い。
 そのため彼ら向けの朝・昼・晩の食事調理の手はいつも足りない。

 本人も炊事洗濯には自信があると言っていたし、野菜の皮むき、魚の処理、肉調理など仕事は山ほどある。また表に出ないため団員達とトラブルになる心配もない。
 城外に出る仕事でもないため、確かに無難ではあった。

(ただ後々外部から文句を付けられないよう、一度労働環境を確認する必要はあるな……)

 アルトリウスは決断するとすぐに指示を出す。

「念のためエル嬢の労働環境を確認したい。この後、時間はあるか?」
「武器・防具予算の会議、他2件入っておりますが、まだ暫く時間はあります。今すぐ向かい、確認するだけなら影響はないかと」
「わかった。この書類を片付けたら、調理場へ確認に向かう。万が一、時間がかかるようだったら待たせておけ」
「了解いたしました」

 アルトリウスは手早くやりかけていた書類を片付けると、エルが働いている仕事場――調理室へと向かった。



▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 始原(01)第三調理場。
 そこがエルの働く仕事場である。

 訓練をする始原(01)の若手団員達、そして審査を受けるため訓練場に集まったりしている始原(01)入団を希望する冒険者達。

 そんな彼ら向けの食事を作る専用の調理場である。

 調理場は広いが、大型の鍋や竈、調理器具が所狭しと置かれている。
 まるで小学校給食を作る調理場に似ていた。

 団員達に昼食を出し終えたらしく空っぽの鍋、汚れたシチュー皿、スプーン、フォークなどの食器類、調理器具が洗わず置かれていた。

 それを見て、まるで戦場跡のようだな、とアルトリウスは胸中で呟く。

 第三調理場では、エルを含めて20人が働いており、今は皆が一つにテーブルに集まって大皿に盛られた料理を食べている最中だった。

 第三調理場の責任者が、アルトリウスに気が付き慌てて立ち上がる。

「こ、これは団長! 何かご用でしょうか!?」
「邪魔をする。今日、賓客であるエル嬢がこちらで働くことになった。その視察だ」

 アルトリウスは視線を責任者から、エルへと向ける。

「仕事は問題ないか?」
「はい、お陰様で。私のわがままを聞いてくださってありがとうございます」

 エプロンを身につけたエルは、丁寧に頭を下げた。
 彼女の態度は自然で、嫌々仕事をしている様子はない。

 仕事場も調理室だけあり、手入れが行き届き空間が清潔に保たれている。ここなら彼女を働かせても問題はないだろう。

 だが、一つ気になることがある。

「……エル嬢、貴女はいったい何を食べているんだ?」

 彼女達が先程から食べていた料理――それは魚の骨を油で揚げたような食べ物だった。
 まさか賓客であるエルに、こんな粗末な料理を食べさせたとあっては始原(01)の面子に関わる。

 アルトリウスは一瞬『皆が彼女を虐めているのか?』とも考えたが、だったら皆で一緒に食べているのはつじつまが合わない。
 彼が不思議がっていると、エルが察して事情を説明した。

「今日は私達の予想以上に団員の方達がいらっしゃって、作った料理がなくなっちゃったんです。だから、自分達の食べる分を作っている最中なのですが、その間の繋ぎとして『骨せんべい』を皆さんと食べていたんですよ」

 今日の団員の昼メニューは、魚のフライ、パン、シチューである。

 その全てを食べられてしまったため、エル達は一からパンを焼き、シチューを作っていた。
 しかし、さすがに腹が減ったので、エルが今日のフライで使った魚の骨を油で揚げ、塩を振り皆で食べられる『骨せんべい』を作ったのだ。

「昔、リュートくんが孤児院へ里帰りした時、豆芋でポテトチップスっていうお菓子を作ってくれたんです。その時、彼から、こういう料理もあるって教えてもらって前に作ったことがあるんですよ。よかったら、お一ついかがですか?」
『!?』

 部外者であるエルは、あまり考えずアルトリウスへ料理を勧めてしまう。
 責任者は『本来、料理で捨てるはずの魚骨を油で揚げた料理など食べさせるなんて!』と血相を変え止めようとした。
 見方によっては始原(01)のトップであるアルトリウスを馬鹿にしている行為である。

 その証拠に彼の背後に控えていた秘書が、眉間に皺を寄せエルを睨み付け注意してくる。

「エル様、そのような粗末な料理を我らの団長へ勧めるのはお止めください。それに団長はすでに腕利きの料理人が作った昼食を済ませています」
「あっ、ご、ごめんなさい。私ったら気付かずに……。すみませんでした」

 エルは秘書の注意に申し訳なさそうに頭を下げる。
 他の調理場仲間達は、秘書の注意程度で済んだことに安堵した。

 エルと今日一緒に働いて、その人柄、仕事の手際、気遣いなどから調理場仲間達は彼女に好感を抱いていた。
 そのため今回のミスで、彼女が罰せられたり、待遇が悪くなったりすることを望んではいないのだ。

 しかし、勧められた当の本人であるアルトリウスは、

「折角のすすめだ。それにPEACEMAKER(ピース・メーカー)団長の考案した料理……興味がある」
「アルトリウス様!?」

 秘書が驚きの声をあげる。
 彼はそれを無視して、大皿に盛られた魚せんべいを1つ口にする。

「!? ――うまい」

 油で骨がカリカリに揚げられ、パリっとした食感が癖になる。
 塩味が利いて、後を引き酒が欲しくなる一品だ。

 つい、2つ目を食べ、3つ目に手を伸ばしてしまう。

「ぷっ……ふふふふふ……」

 エルは我慢できず口元を両手で可愛らしく押さえて、笑い出す。
 これに調理仲間や秘書は顔を青くする。
 彼女は正面から始原(01)のトップ、人種族、魔術師S級のアルトリウス・アーガーを笑っているのだから。

 エルは目の端に浮かんだ涙を指先で拭い謝罪を口にする。

「ごめんなさい、笑ってしまって。でも、さっきお昼を食べたのに夢中になって骨せんべいを食べている姿が可笑しくて……ふふふ」
「すまない。これはエル嬢達の昼食だったな」

「気にせず食べてください。私達のパンやシチューが出来るまでの繋ぎですから。それに男の子はすぐお腹が空くから、一杯食べないといけないですもんね」

 エルはまるで孤児院の男の子を相手にするように、アルトリウスへと満面の笑みを浮かべる。

 この時、アルトリウスの胸が戦場でもないのに高鳴った。

 いや、それ以上に心臓が鼓動する。

 アルトリウスは胸の痛みを堪えるように眉間に皺を深く刻んだ。
 その場に居るエル以外の皆が、顔を青くする。

 アルトリウスが彼女の言葉に苛立ち、眉根を寄せたと誤解したからだ。

「……邪魔をした。エル嬢、今後とも調理場の仕事を頼む」
「はい、分かりました。頑張りますね」

 アルトリウスはエルに背を向け、足早に調理場を出て行く。
 秘書が慌てて彼の後を追いかけた。



 アルトリウスは秘書のことなど気にせず、一人黙々と歩き続ける。
 調理場を出て随分経つのに、胸の高鳴りや痛みは止まらない。

 むしろ、時間が経てば経つほど強くなり、熱いほど熱を持ち始めてしまった――


ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
明明後日、2月12日、21時更新予定です!

エル先生、マジ傾国の美女だね!
もしくはサークルクラッシャーの姫ポジ?
始原もPEACEMAKERと戦う前に、エル先生が原因で内部分裂とかおきそう。

でも、傾国の美女って言われると貂蝉のイメージなんだけど、恋姫○双のせいでアレな姿に上書きされたのは内緒だぞ。


また、軍オタ1~2巻、引き続き発売中です。
まだの方は是非、よろしくお願いします!
(2巻なろう特典SS、1~2巻購入特典SSは14年12月20日の活動報告を、1巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告をご参照下さい)
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