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第253話 窮地

 目の前に突然、魔法陣から出現したドラゴン達の登場に驚き、オレ達PEACEMAKER(ピース・メーカー)側は呆然とその光景を眺めてしまう。


 ドラゴンやグリフォンなどの召喚――これが『万軍(ばんぐん)』、始原(01)団長、アルトリウス・アーガーの特異魔術だというのか!?


 ダァーンッ!


 最初に硬直から解けたのはクリスだ。

 彼女は手にしていたSVD(ドラグノフ狙撃銃)から7.62mm×54Rを放ち、一番近くにいた黒いドラゴンの眼孔を穿ち絶命させる。


 彼女は一体倒しただけでは留まらない。

 ドラゴンを一体瞬殺されたアルトリウス側が硬直するその間に、クリスはさらに2、3発と発砲して連続でドラゴンをしとめていく。

 まさにワンショット・ワンキルだ。


 一瞬後に他のドラゴン&グリフォンは驚きによる硬直から解かれ、慌ててクリスから距離を取り警戒する。


 アルトリウスは純粋な驚きの表情を浮かべて問う。


「まさか瞬く間に3体も倒されるとは……彼女はいったい何者なんだ?」

「決まっているだろ。自慢の嫁の一人だよ!」


 クリスのお陰でこちら側も硬直が解け、それぞれ自分達が出来ることをしようと動き出す。


 スノー、リース、シア、ギギさんは銃器と魔術でドラゴン&グリフォンを牽制。

 飛行船に近づけないようにする。


 クリスはその間に自由に動き、倒せる敵をドンドン撃ち落としてもらう。

 今もドラゴンより素早く動くグリフォンを、一発で眼孔から脳内を破壊する。


 旦那様はというと――


『ガアァァアァァアァァァッァア!』


 赤黒い鱗を持つドラゴンが、口を開くと隕石のような灼熱の塊を吐き出してくる。

 赤く燃える隕石は飛行船を撃ち落とそうと真っ直ぐ高速で迫るが、その間に旦那様が割って入る。


「ふんぬ!」


 旦那様が拳に魔力を纏わせ一閃!

 閃光のような一撃で隕石は粉々に砕けてしまう。


「ははっはははははっはは! どうした! どうした! もう攻撃は終わりかね! この程度ではまったく筋肉がふるえないぞ!」


 さすが旦那様!

 ドラゴンの攻撃を楽々防いでくれる!


 クリス親子が攻守を担当してくれるお陰で、多数のドラゴン&グリフォンに囲まれてもなんとか飛行船は空を飛んでいた。


 この状況にアルトリウスが感心する。


「まさかドラゴンとグリフォンをこれだけの数相手にしてまだ堕ちないとは……まだ我はPEACEMAKER(ピース・メーカー)を過小評価していたらしい。――ならばこれでどうだ!」


 再びアルトリウスの体を魔力が漲る。

 今度は空中に数百、千近い魔法陣が浮かび上がる。


『!?』


 魔法陣からは翼竜が姿を現す。

 オレ達は一瞬で翼竜の群れに囲まれた形になる。

 アルトリウスが何気ない口調で告げる。


「今度は質ではなく、量で攻めさせてもらう。さて、PEACEMAKER(ピース・メーカー)諸君、どうする?」


「飛行船の高度を下げろ! このままだと落とされる!」


 オレはすぐさま飛行船高度を落とすよう指示を出す。


「リース! GB15を頼む!」

「分かりました!」


 オレはリースから『GB15』の40mmアッドオン・グレネードを受け取ると、複数で突撃してくる翼竜達に向けて発砲!


 破裂音と共に翼竜達が複数堕ちていくが、数が多くて焼け石に水状態だった!

 それでもスノー達も続いて攻撃をしかけ、一匹でも多く落とそうとする。


「きゃぁ!?」


 しかし、多勢に無勢。

 飛行船の真下から攻撃を加えられ、船体が激しく揺れる。

 オレ達にとって完全な死角のため迎撃ができない。


「我輩に任せるがいい!」

「だ、旦那様!?」


 旦那様は言葉をかけるより速く飛行船から飛び降りる。

 そのまま落下して、飛行船真下に向かうと……


「ふんぬばら!」


 腕を一閃、二閃――下に群がっていた翼竜達をあっと言う間に仕留めてしまう。


「ららばいらぁ!」


 今度は真下に両腕を振り抜くと、遠くの地面が爆発。

 その勢いでふわりと浮き上がる。

 さらに腕を一閃した勢いで再び甲板へと戻ってきた。


 旦那様はポージングをとりながら断言する。


「筋肉に不可能はなし!」


 いや、あんなことができるのは旦那様だけですから……。


「……先程のドラゴンブレスを防いだのといい、今のといい、PEACEMAKER(ピース・メーカー)にはとんでもない人材がいたもんだな。報告には無かったはずなのだが……」


 いいえ、旦那様はPEACEMAKER(ピース・メーカー)メンバーではありません。

 自分の義父です。


 わざわざ親切に教えてやる必要はないが。


 しかし、旦那様のお陰で下に群がっていた翼竜達を排除できたが、飛行船本体がダメージを受けすぎたらしい。

 飛行船本体を支えている魔石が攻撃によって空中へ落下。

 そのせいで高度がどんどん下がっていく。


「みんな! 何かに掴まれ、振り落とされるぞ!」


 飛行船はそのまま地面へと不時着。

 勢いよく平野の地面を削りながら、激しい振動を起こしオレ達を振り落とそうとする。


 不幸中の幸いで下を歩いていた人達は居なかったため被害を出すことはなかった。

 しかし、これでオレ達は移動手段を失ってしまう。


 つまり、アルトリウスから逃げる手段がなくなったということだ。

 だが、空から落ちて墜落死がなくなった分、まだ戦いやすくなっただけマシか。


「飛行船を中心に密集! 中に居るエル先生達を守りながら、敵を排除するぞ!」


 オレの指示に皆が従う。

 飛行船を中心に空から襲ってくる翼竜達を迎撃する。


「ふむ、空だけからだけだと決め手にかけるな。ならば地上からも攻めさせてもらおう」


 彼はドラゴンの背に乗ったまま、翼竜達を従え、再び魔力を全身に漲らせる。


 地面に例の魔法陣が多数出現。


 まるで地面から生えてくるように身長が約2m、金属鎧が体に張り付いたように装着している魔物が出てきた。手には大剣、斧、メイスなどの近接武器を握り締めている。

 魔物の数は100体近い。

 おいおい、あんな魔物は見たことがないぞ!?


 こちらの表情で察したのか、アルトリウスが何気ない態度で告げる。


「知らないのも無理はない。こいつ等は我が特別に作り出した『アイアンゴーレム』という魔物だからな」

「作り出した?」

「言葉通りだよ、ガンスミス卿。魔法陣と二つ名の『万軍(ばんぐん)』でよく勘違いされるが、我の特異魔術は魔物の召喚ではない。それはあくまで能力の一つだ。我の特異魔術は『自身の魔力をエサに魔物を従え、好きに変質させることができる』ことだ」


 アルトリウス曰く、魔物を捕らえて自身の魔力を与えると、その魔物は自分の使い魔になる。

 さらにイメージした姿を描きながら、魔物に魔力を与えるとその通りに姿を変質させることができるらしい。


「こいつらは元々ただのオークだったのが、『中身まで金属の魔物を作りたい』とイメージして魔力を与えたらこのような姿になったのだ。だから、正確には『アイアン・オーク』というのかな?」


 アルトリウスは上からオレ達を見下ろしながら、悠々とした態度で言葉を続ける。


「まあ、この特異魔術も万能ではなくいくつかの制限があって、必ずしもイメージ通りの魔物にはできないのだが――まあ今はそれはどうでもいいことか」


 くそっ、いくら多少の制限があったとしても、アルトリウスの特異魔術は反則すぎだろ!

 つまり、彼が望めば八首のドラゴンや架空の『自分が考えた最強の魔物』などを作れるというわけか!


『アイアンゴーレム』が、中身まで金属だと思えない滑らかな動きで距離と縮めてくる。

 その動きは意外と素早い。


「このぉ!」


 オレはAK47を発砲。


 ダン! ダダダダダダ!


 しかし、『アイアンゴーレム』は弾丸をたらふく浴びるがびくともしない。

 さすがに中身までぎっちり金属だけあり、AK程度では足止めすらできない。


「リュートさん! こちらを!」


 リースが無限収納から取り出した対戦車地雷とソケットを手渡してくれる。


「ありがとう、リース!」


 オレは手早く対戦車地雷にソケットを差し込み、迫り来る『アイアンゴーレム』の群れに投擲した。


 爆発音と共に数体の『アイアンゴーレム』がバラバラになり空中を舞う。しかし、所詮は数体。彼らは後から、後から金属の津波のように押し寄せてくる。

 ここでも活躍したのは旦那様だ。


「ははあははははっはあ! どうした! どうした! そんな硬い筋肉では駄目だぞ! 筋肉とはもっと柔軟で、包容力があり、その上で巌のように硬くなければならないのだぞ!」


 旦那様は素手で『アイアンゴーレム』を殴り飛ばす。

 貫通したり、砕けたりはしないが腹部を殴れば金属の胴体がくの字に折り曲がる。腕や足の付け根を殴れば、衝撃に耐えきれず関節が折れてしまう。

 どうにか『アイアンゴーレム』の攻勢に耐えられているのも、旦那様が無双してくださっているお陰だ。


「むぅ?」


 旦那様の訝しむ声。

 再び、地上に魔法陣が光る。

 そこから人丈はある巨大なイソギンチャクのような生物が姿を現した。

 数は4匹。


 イソギンチャクは触手を伸ばし、旦那様に絡みつく。


「なんのこれしき! 我輩の筋肉にかかれば――うぬ!?」


 最初こそ、楽に触手を引き千切っていたが、途端にその速度が落ちる。


 旦那様の表情が歪む。


「これはまさか……我輩の魔力を吸い取っているのか!?」

「正解だ。魔力を捕食する特殊な魔物で、作り出すのに苦労した」


 他者の魔力を喰らう魔物まで作り出せるなんて……いくらなんでも反則だろう!?

 なんでもありじゃないか!


「旦那様! 今、助けます!」


 オレがAK47を向けると射線に『アイアンゴーレム』が割って入りイソギンチャクの魔物をガードする。これでは旦那様を助け出すことができない!

 旦那様がいない今、『アイアンゴーレム』の群れを止めることができない!


 旦那様も心配だが、このままではオレ達が物量に押し負けてしまう!

 そうなればオレ達だけではなく、背後に居るエル先生達にまで被害が出る!


 オレが汗を掻きながら状況を好転するための方法を模索していると――


「――なんだあれは?」


 アルトリウスがオレ達から視線を外し、高速で迫ってくる飛行船に目を向ける。


 飛行船と言ったが、その形は今まで見たことがない独特のものだった。


 その飛行船は鋼鉄色で、両脇からドラゴンのように巨大な羽根が伸びている。

 羽根の下にはプロペラが回り、通常の飛行船では考えられない速度でグングンとこちらに迫ってくる。


 謎の飛行船に一人の男性が立っていた。


「はっぁ!」


 甲板から飛び降りると、彼を中心に同じ姿・形の人影が3つ出現する。

 その人影が光の柱となり1つがアルトリウスの乗るドラゴンへ、残り2つが『アイアンゴーレム』へと殺到する。


「!?」


 アルトリウスが危機感を覚え咄嗟に退避。

 ドラゴンとゴーレムは光に飲み込まれ消失する。


 甲板から飛び降りた男は、オレ達の前にふわりと着地すると、彼は――黄金色の前髪を弾き高々と宣言する。


「どうやら随分と待たせてしまったようだね、親友よ!」


 彼は前歯をダイヤモンドのように輝かせて、決め顔を向けてきた。


「人種族、魔術師Aマイナス級、人呼んで『光と輝きの輪舞曲(ロンド)の魔術師』! アム・ノルテ・ボーデン・スミス――推参!」




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明明後日、1月31日、21時更新予定です!


また、軍オタ1~2巻、引き続き発売中です。

まだの方は是非、よろしくお願いします!

(2巻なろう特典SS、1~2巻購入特典SSは14年12月20日の活動報告を、1巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告をご参照下さい)


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[良い点] 一気読み中のものですw アムがこんないいシーンをかっさらっていくとは予想だにしていませんでしたw キザキャラで裏表無いってのもいいすね! キザキャラ策士も好きですがw
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