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第236話 大樹

「な、なんだこりゃ……」


 オレは思わず1人呟きを漏らす。


 オレ達が下りてきた地下は、天井が暗くて見えないほど高い。

 そんな高い天井へ向けて、地面から無数のクリスタルのような透明な鉱物が突き刺さろうとするように生えている。

 しかもクリスタルに似た透明な鉱物が、自身で発光しているのか暗い洞窟を仄かに照らし出している。


 さらに驚くべきはそんなクリスタル群に囲まれて、一本の大樹が生えていた。

 大きさは『東京タワーぐらいあるのでは』というほどでかい。

 巨大すぎる幹も、枝、葉も全てクリスタルに似た鉱物でできている巨木だ。


 その光景は幻想的で、神秘的だった。


 オレ以外も声には出さないが、同様に驚いているのが手に取るように分かる。


 そんな大樹のほぼ中程に、人影があるのに気付く。


 オレの体は未だに痺れて動かず、魔術で体を強化しようにも上手く魔力がめぐらない。そのため視力を強化できないが、目を凝らしギリギリ確認することができる。


 クリスタル大樹の中に――美女が居た。


 胸の前で手を合わせ、立ったままで眠っているようにも見える。

 肌の色は紫。

 髪は燃えるように赤い。光の加減でグラデーションがかかり一種の芸術作品にも見える。

 体は露出度の高い黒い革製品の衣服に身を包んでいる。

 頭部の横から黒い角が生えていた。

 胸も大きく、腰もくびれている。


 ゲームやアニメ、漫画などに出てくる女魔王そのままの印象だ。


 恐らく彼女がこの魔物大陸に存命するといわれている魔王なのだろう。


 よろよろとおぼつかない足取りでシャナルディアが歩を進める。


「彼女が……この世界に現存する最後の魔王……はは、ついに見付けました。はははは! 私達はついに見付けました! 最後の魔王を!」


 歓喜の笑い声。

 彼女だけではなくノーラ、ピラーニャ、トガ達も長い長い苦労の末ようやくゴールに辿り着いたように喜んでいた。


「トガ、早速お願いしますわ」

「ハイ、オネエサマ」


 トガは掠れた声音でクリスタルへと触れる。


 バチン!


 冬場、ドアノブに触れ静電気が発生したような音が響く。


「やはりララさんの指摘通り、最高位の封印がほどこされているようですね。さすがのトガでも破ることは敵いませんか……」

「ゴメンナサイ、オネエサマ」

「いいのですよ、トガ。あくまで確認なのですから。それより手は大丈夫ですか、随分大きな音がしましたが」

「ハイ、ダイジョウブデス」


 シャナルディアに心配されて、トガは嬉しそうに笑みを浮かべて尻尾を揺らす。


 オレが不思議な顔をしていると、ノーラが説明してくれた。


「トガお姉ちゃんもノーラと同じ特異魔術師だから、封印を破壊しようとしたんですよ」

「そ、その『特異魔術師』が分からないんだが……」

「確かに表だって教えられる話じゃないっすからね」


 オレを担ぐピラーニャがフォローの言葉を告げ、説明してくれた。


「特異魔術師っていうのは、魔力によって産まれながら特異な体質を持った奴のことを言うんっすよ。大将が倒した静音暗殺(サイレント・ワーカー)も特異魔術師の分類に入るっすよ」


 静音暗殺(サイレント・ワーカー)を倒した後、彼の口から産まれながらに持った能力を聞き出した。


 静音暗殺(サイレント・ワーカー)の血を使い魔術文字を書き結界を作ると、魔力の流れを抑制することができ、血の量を増やせば増やすほど、外に漏れる魔力を押さえることができる。


 こういう特異魔術師が使う力を、『特異魔術』とも呼ぶらしい。


「でも、特異魔術師が必ず静音暗殺(サイレント・ワーカー)のようになるということはないっす。自分達のように魔術師未満の魔力持ちなのに、歪な特異体質を持ったらもう最悪ですわ」


 ピラーニャは暗い声音で続ける。


 彼女は産まれながら魔力が筋肉を強化する特異体質だった。そのせいで子供の頃力加減が分からず、同年の少年とのごくつまらない喧嘩で相手を殺害してしまった。

 そのため両親から追い出され奴隷商人に売られてしまったらしい。


 ノーラは自分より弱い魔物が魔力に反応して集まる特異体質だ。

 そのため周囲から怖がられ、幼い頃捨てられた。


 トガは魔術関係のものは全て破壊してしまう。例え魔術道具でもだ。だから皆、忌み嫌われ一族から追い出されたらしい。


 だから、トガはさきほど魔王の封印を解こうとしたのか。

 結果は失敗に終わってしまったが。


 他、スノー達を今も足止めしている少女達は、そんな特異体質を持った者達らしい。


 そんな彼女達を怖がらず、手を差し伸べたのがシャナルディアだ。


 さきほどまで暗かったピラーニャの声が明るくなる。


「でも、姫様は違う! そんなアタイ達を受け入れてくれた! そして、この神のいない世界を統べて、たとえ魔術師未満の特異体質持ちでも差別されない平和な世界を作ってくださる方なんだ! 姫様はアタイらの希望なのさ!」


 この話を聞いて、ノーラ達のシャナルディアに対する異常な忠誠心の高さを理解することができた。

 特異体質のせいで奴隷や孤児などになったところを助けられた。

 さらに魔王の力で自分達のような者達でも差別されない世界を本気で作ろうとしているのだ。

 彼女達がシャナルディアに心酔しない理由がない。


 しかしどんな魔術でも破壊することができるトガでも、魔王の封印は破れないらしい。

 本当に復活させた魔王を制御する方法があったとしても、封印が解けなければ『絵に描いた餅』だ。


 だが、シャナルディア達に悔しげな暗い雰囲気はない。

 シャナルディアがオレへと向き直る。


「トガでも破れないことが分かりましたから、今度は正攻法で封印を解きましょう。シラック国王が祖国ケスラン王国宝物庫で発見したという秘宝――『(ツガイ)の指輪』を使って」

「!?」


 シャナルディアはオレが首から提げている小袋へと手を伸ばす。

 いまだ体が痺れて満足に動けないオレは、彼女のか細い腕にも逆らえない。

 シャナルディアはあっさりと、スノー両親から手渡された『番の指輪』を取り出す。


「これが、リュート様が私のために手に入れてくださった『番の指輪』なのですね……。なんて美しい」


 シャナルディアはクリスタルに似た鉱物から放たれる光に照らし出しされ、『番の指輪』に魅入る。


 (ツガイ)の指輪は彼女が感嘆するほど綺麗ではない。

 見た目はとても地味だ。

 銀色で宝石は無くコインを横にして指に嵌める輪を取り付けたような品物である。コイン部分の外側は細かいギザギザが刻み込まれていた。表面には美しい女性の横顔が彫られている。


 あらためて見ると、指輪の美女とクリスタル大樹に眠る女魔王が似ている気がする。


 彼女は指輪を嵌めると、クリスタル大樹へと向けた。


「や、止めろ! 魔王を復活させるなんて! 制御できなかったらどうするつもりだ!」


 しかし、オレの叫びでこの場に居る誰も止めることなどできない。


 クリスタルに似た鉱物から淡く発光していた光が揺らぐ。

 次第に光が指輪へと集まり出す。

 この空間を照らし出していた光が全て、シャナルディアの嵌めた指へと集束したのだ!


「さぁ! 魔王様! 今こそ目覚めの時です!」


 彼女の叫びと同時に、指輪から光線が飛び出しクリスタル大樹へと真っ直ぐ突き進む。

 光を吸収した大樹が眩しいほどに発光する。

 同時に幹や枝に罅が入る。


 その罅は加速度的に広がっていく。


 そして――最終的には砕け散ってしまう。


 夜空の星々が雨粒となって降り注ぐように、砕けたクリスタルに似た鉱物の微細な破片が落ちてくる。

 それはまるで魔王の復活を祝うようだった。


 こうして――約10万年ぶりに魔王が復活する。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 ――時間を少し巻き戻す。


 シャナルディアは薬で麻痺させたリュートと他3人の護衛を付けて、魔王が眠る奥地へと向かった。


 その後をPEACEMAKER(ピース・メーカー)メンバーは追おうとしたが、スノー、クリス、シアは他姉妹に足止めされ。

 メイヤとギギは銀毒&傷を負ったダン・ゲート・ブラッドの治療に専念していた。


 そんな中、分隊支援火器&物資貯蔵担当のリース・ガンスミスはというと――数10年前に失踪した彼女の実姉、元第一王女、ララ・エノール・メメアと対峙していた。


 彼女は異変を感じ、駆けつける時に手にしていた汎用機関銃ジェネラル・パーパス・マシンガンのPKMをしまう。

 今はSAIGA12Kを握り締めていた。

 弾倉には非致死性弾が装填されている。

 彼女は緊張した顔と声音で問う。


「……この戦いが、姉様の視た戦いなのですか?」


 リースの姉、ララの精霊の加護は『千里眼』と『予知夢者』、二つの能力を持っている。


 リースはリュートの嫁として、国を出るとき父から手紙を見せられた。

 ララが父に宛てた手紙だ。


 その手紙には『もしリュートさんの後を追い結ばれたなら、将来確実に自分達は姉妹で殺し合いをする』と書かれていた。

 だから、リースはその時が『今』なのかと問いかけたのだ。


 しかし、彼女の緊張とは裏腹に、ララが呆れたように肩をすくめる。


「戦い? これが? そんな訳ないでしょ。だって、ショットガンを選んだってことは、リースの弾倉に入っているのは非致死弾なんでしょ? それで私を貴女がどうやって『殺す』っていうのよ」

「ッ!?」


 リースは思わず驚きの声を上げそうになる。

 ララが自身の手にしている銃器を『ショットガン』だと理解し、弾倉や弾の特性を知っていたからだ。


『予知夢者』だから、ショットガンなどの事を知っていたのか?


 リースはその解答に違和感を覚える。


 さきほどのララの口ぶりは『断定』ではなかった。

 どちらかというと事前に教えられていた特徴を思い出し、告げた――という方がしっくり来る。


 ならばララは一体誰に『ショットガン』や『弾倉』、『非致死弾』のことを教えてもらったのか?


 あのシャナルディアと呼ばれていた少女や他姉妹達からか?


 ララの実妹であるリースだから気付く。

 彼女達から教えてもらったことではない、と。


「それじゃ時間もないことだし、さっさと倒させてもらうわよ」

「……くッ!?」


 リースが疑問を尋ねる前に、ララが構える。


 リースもここでララに倒される訳にはいかない。

 むしろ彼女を早く無力化して、スノー達を援護。

 足止めに残った少女達を倒し、捕まっているリュートの後を追わなければならないのだ。


 彼女は胸に浮かんだ疑問をとりあえず棚上げして、SAIGA12Kを手に、実姉であるララを鋭い瞳で見据えた。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明日、12月17日、21時更新予定です!


ついに始まりました! 2巻発売の12/20まで5日間連続更新、軍オタ2巻発売カウントダウン1回目です!


最後まで無事、達成できるかどうかも見所の一つということで。

楽しんで頂けると幸いです!


また、軍オタ1巻、引き続き発売中です。

まだの方は是非、よろしくお願いします!

(なろう特典SS、購入特典SSは10月18日の活動報告をご参照下さい)

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