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第231話 VSダン・ゲート・ブラッド 後編

 えっ、嘘、マジ、リアリー? あれだけの攻撃を受けて無傷って……は?


 あまりに理不尽な事態にオレ達が呆けていると、旦那様が笑顔で断言する。


 体に傷はなく、スノーの体温を奪う氷の傷口も全て塞ぎきっていた。


「さぁ今度は我輩から行くぞ!」


 旦那様が右拳を握り締め、弓を射るようにゆっくり後方へ引き絞る。

 巨大な筋肉がさらに膨れ上がり、血管が浮かぶ。


 オレはようやく意識が現実に追いつき叫んだ。


「か、回避! 回避! 攻撃が来るぞ全員――」

「ふん!」


 一閃!


 オレの声は旦那様の一撃で吹き消される。

 旦那様はただ右ストレートを放っただけだった。しかし、魔力が振り抜かれた右腕が飛び出し、光線のように走り抜ける!


『………………!!!?』


 スノー、リースは旦那様の一撃を回避するも、砲弾が側で着弾したような爆風に巻き込まれ吹き飛び踊り場から退場する。

 旦那様の右腕から出た魔力は、遠くの洞窟奥に着弾し轟音を立て岩石を切り崩した。


 滅茶苦茶だ!

 ただの右ストレートがこの威力って滅茶苦茶過ぎる!


 しかし、理不尽に憤っている場合ではない。

 旦那様は巨体に似合わない素早さで、今度はシアとの距離を縮める。


「ふんぬ!」

「ぐぅッ――!」


 左打ち下ろしを、シアがバックステップで回避。

 床の大理石を砕き、クレーターが出来る。

 シアは飛び散る破片に顔を顰めつつ、バク転で距離を取る。

 さらに後方へ回転する勢いで、スカートから大量の攻撃用『爆裂手榴弾』をばらまく。

 手榴弾は旦那様の作ったクレーターの坂道を転がり、本人へと殺到する。


「――ッ!」


 爆発!

 轟音が広い洞窟内に響き渡る。


 しかし、シアの動きは止まらない。

 後方回転ついでに太股に装着していた『USP タクティカル・ピストル』を2挺抜く。

 着地と同時に、両腕を未だ煙の晴れない爆心地に向け発砲!


 両手に収まったUSPの弾倉がカラになるまで引鉄(トリガー)を絞り続ける。


「若様! クリス様も援護おねが――!?」

「シア!」


 シアはオレ達への指示の途中で、光線に飲まれてしまう。

 彼女は咄嗟に抵抗陣を形成。

 直撃は避けるも、そのまま光に吹き飛ばされスノー&リース同様踊り場から姿を消してしまう。


「手加減したとはいえ今の一撃に反応できるとはあっぱれ! 将来が楽しみなメイドだな! ははははっははあははははは!」


 旦那様は左腕を突き出した姿勢で笑う。

 先程の一撃で周囲を包んでいた煙まで吹き飛ばしてしまった。


 旦那様が、ぐるりと見回す。


「ふむ、後はリュートとクリスだけか。狙っていたわけではないが、まさか2人が最後まで残るとは……。リュートとクリスは仲良しだな!」


「……いえ、旦那様、それは間違いです」

「ん?」


 旦那様は腰に手をあて首を捻る。

 オレの言葉の意味が分からないらしい。

 再び、周囲を見回すがオレ達以外の人影はいない。


「リュート、嘘はよくないぞ。誰もいないではないか」

「嘘じゃありません。旦那様には見えないだけです……まだ」


 オレは旦那様の背後に視線を向け力強く叫んだ!


「今だ! やれ!」

「!? ンッ!」


 旦那様はすぐさま背後へ振り返るが、やはりそこには誰もいない。

 旦那様のほぼ真横に立っていたクリスがSVDを発砲。


「それでは我輩に傷を付けられないのは証明済みだぞ」


 言葉通り、弾丸は魔力壁を突破できない。

 弾丸は虚しく地面を転がった。


 今ので倒せるとはオレ達も思ってはいない。

 しかし、旦那様の注意をそらすことはできた。


 本命がオレの背後から飛び出す。


「リュート様の切り札! このメイヤ・ガンスミス(仮嫁)にお任せください!」


 ギギさんと階段に隠れていたメイヤが、発砲準備を終えたパンツァーファウスト60型を手に旦那様へと照準を合わせる。


「ファイヤーですわ!」


 彼女は躊躇いなく発砲!

 弾頭が初速45m/秒の高速で襲いかかる!

 旦那様はクリスのSVDで注意をそらされていたため、初動が遅れてしまう。それ故、パンツァーファウストの弾頭を避けることができず直撃する!


 腹に響く破裂音。

 破片と煙を巻き上げる。


 メイヤは発砲し終えたパンツァーファウストを手に、嬉々として声をあげた。


「いかに鉄壁の防御力を誇る魔術師といえどパンツァーファウストの直撃には耐えられるはずありませんわ! そう最後に止めを刺したのはこのメイヤ・ガンスミス(仮嫁・正妻候補筆頭)ですわ! しかし! この素晴らしい成果を出せたのも全てはリュート様の作戦があったからこそ! あぁあ! 魔術道具開発の天才にして、さらに戦術にも精通しているなんて! さすがわたくしのお、おおおぉ、おおお夫(仮)ですわ!」


 オレを自身の『夫』と言うのに興奮しすぎて無駄に『お』が多くつく。

 しかしメイヤの言葉通り最後の切り札として、オレは彼女の荷物にパンツァーファウスト60型を預けていた。


 確かにオレはギギさんに、メイヤの護衛をお願いした。

 だが一度だって彼女が非戦闘員だとは旦那様に言っていない。


 オレが旦那様と対峙している間に、背後に居るメイヤにハンドサインで指示を出す。『合図を共にパンツァーファウストを撃つように』と。

 彼女は階段に隠れながら発射準備をおこなっていた。


 そして、最後の切り札を発動。

 乾坤一擲の一撃を作戦通り旦那様へと叩き込んだ。


 卑怯だろうがなんだろうが関係ない。

 旦那様の存在自体が理不尽なのだから、これぐらいしても罰は当たらないだろう。


 普通なら、これで勝負あり。

 オレ達の勝利となるはずだが……


「メイヤ……」

「なんですかリュート様! えっ、『メイヤの活躍に惚れたから今すぐ結婚腕輪を渡したい』ですって!? だ、駄目ですわ! 落ち着いたらって話じゃないですか! なのにこんな急に結婚腕輪を渡したいなんて言われても困りますわ! もう本当に困りましたわー。困りまくりですわー。でもリュート様がそう仰るなら逆らえませんわよね! さっ、わたくしも覚悟を決めました。いつでもばっちこいですわ!」


「――だ」

「へ?」

「撤退だ! 撤退! みんなこの場からすぐに撤退しろ!」


 オレはメイヤの手を取り、その場から駆け出す。

 クリス&ギギさんもオレの言葉に従い、全力でその場を離脱する。

 眼下には踊り場から離脱したスノー、リース、シアも『撤退』の叫びを聞いて一番下でオレ達を待っていた。


 メイヤは1人納得していなかった。


「どうしてですか、リュート様! 撤退なんて!」

「どうしても何も、パンツァーファウストの直撃を受けた旦那様が無傷だからだよ! 今のオレ達の武器じゃあの人には通じないから撤退するしかないんだよ!」

「無傷って……!? あ、ありえませんわ! だ、だってパンツァーファウストの弾頭は成形炸薬弾頭なんですよ!」


 成形炸薬弾頭は、凹状に形成された炸薬により爆発エネルギーを集中させ、さらに金属製内張りを金属分子化してジェット噴流と化し敵の装甲を破壊する。その威力は絶大だ。


 メイヤの気持ちはオレだって痛いほど分かる!

 だが、現実は何時だって無情だ。

 オレの言葉を証明するように背後から、変わらず元気な笑い声が聞こえてくる。


「ははっはははっっはっは! さすがリュート! 勝てないと分かったら拘泥せず、すっぱりと撤退の指示を出すとは! まさにあっぱれな判断力だ!」


 階段踊り場縁に立つ旦那様は本当に傷1つ負っていなかった。

 自分の予想が当たり、嬉しさより底冷えする恐怖を感じてしまう。


 オレはパンツァーファウストの弾頭が旦那様に直撃する直前まで、魔力で目を強化して観察していた。

 お陰で分かったことがある。


 旦那様の全身を包む魔力は、ただ固まって敵の攻撃を防ぐものではない。

 攻撃の種類によって『爆発反応装甲(ERA)』のように自ら爆発して、防いでいたのだ!


『爆発反応装甲』とは?


 昨今、映画やアニメ、漫画などで戦車が出るとよく装甲周りに弁当箱大の箱がびっちりと敷き詰められていることがある。

 あの箱こそが『爆発反応装甲』である(リアクティブ・アーマーとも言う)。


 この箱一つ一つに炸薬が薄い板上にされ入っている。


 成形炸薬弾頭が『爆発反応装甲』に命中すると、箱に入っている炸薬が爆発。

 誘爆させ箱の蓋が爆発で飛び散ったり、浮き上がることで成形炸薬弾頭のメタルジェット(金属分子のジェット噴流)を遮ったり、分散して無力化するのだ。


 成形炸薬弾頭に狙われたのにもかかわらず、戦車には小さな傷や穴(むしろ凹みレベル)が出来る程度で済む。

 これが『爆発反応装甲』の原理である。


 たまに間違った知識として出てくるのは『爆発反応装甲』が、炸薬が爆発して『爆発で相殺する』というものだが、そうではない。


 ――ちなみに余談だがRPGには、この『爆発反応装甲』に対応した弾頭がある。


 PG―7VRと呼ばれる弾頭だ。


 形が面白く、通常のRPG弾頭(PG―7VL)の先にもう一つ小さな弾頭を付けた形をしている。


 この弾頭(PG―7VR)が、いかにして『爆発反応装甲』を突破するかというと……まず弾頭が発射される。


 最初に先端にある小さな弾頭が『爆発反応装甲』に命中し爆発。

『爆発反応装甲』も反応し炸薬が爆発してしまう。

 結果、『爆発反応装甲』は無力化されてしまい二つ目の弾頭が戦車本体の装甲を貫通するのだ。


 このPG―7VRの登場に、『爆発反応装甲』を3重にして対応したものもある。外観だけ見るとごてごてとして、太ったようになり格好悪いのが難点といえば難点だ。


 余談の余談だが――RPGの弾頭の値段は原価だと1000円以下。

 販売価格は安いので1発、5000円からある。

 そんなもので数億円の戦車を破壊されたら堪ったものではない。




 旦那様は恐らくこの『爆発反応装甲』のように魔力を爆発させ、形を変えることでエネルギーを分散させているのだろう。


 だとしたら体に届く頃には威力は大幅に軽減。

 肌や肉を浅く傷つける程度の力しか残らない。


『爆発反応装甲』のような魔力装甲。

 主砲のような攻撃力。

 見た目以上にフットワークの軽い機動力。


 まるで1人戦車のような人だな!


「確かに撤退判断は早いが、無事に逃げられるかは別の話だがな! リュートとの戦いは久しぶりなのだからまだまだ楽しませてもらうぞ! ははははははははあはああはは!」


 旦那様は大声で告げると、踊り場の縁を蹴り空を飛ぶ。

 笑い声が救急車のサイレンのように最初は小さく、距離を縮められその声が大きく聞こえてくる。

 背後を振り返ると、筋肉の塊――じゃなくて旦那様が笑いながら撤退するオレ達を追いかけて来た!


 思わず悲鳴をあげそうになる。

 下手なホラー映画より怖い!


「り、リース! 『無限収納』に入っている爆裂手榴弾と破片手榴弾、特殊音響閃光弾(スタングレネード)、対戦車地雷、と、兎に角足止めに使えそうな物をありったけ出してくれ!」

「わ、分かりました!」


 そしてオレはメイヤから手を離し、皆で後方から迫ってくる旦那様へ向けてありったけの爆発物などを投げつけ足止めする。



 お陰でオレ達はどうにか逃げ切り、撤退を完遂することが出来た。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明明後日、12月5日、21時更新予定です!


……正直言って、現段階で主人公達が勝つプロットがまだ書けていません。

最終的に、リュート達がこの現状をどうやって覆すのか?

読者の皆様と同じく、作者もどうなるのか(更新予定の締め切り的な意味合いでも)ある意味ドキドキしております(笑)



さてさて、活動報告に軍オタ2巻表紙をアップしました!

よろしければご確認ください!


また、軍オタ1巻、引き続き発売中です。

まだの方は是非、よろしくお願いします!

(なろう特典SS、購入特典SSは10月18日の活動報告をご参照下さい)

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[気になる点] ギギの片目を奪った容赦の無い相手に対してミリタリー者サイドの覚悟が甘々ではないかと。
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