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第210話 魔術師精鋭部隊vs最新型精鋭部隊④

PEACEMAKER(ピース・メーカー)……ッ」


 静音暗殺者(サイレント・ワーカー)は悔しげに唇をゆがめ、泣き出しそうになっている子供のような表情を浮かべていた。


 上空には今でもラヤラが飛び、魔物や処刑人(シーカー)の増援が街道から来ないか監視している。

 ちなみに森の中にいた処刑人(シーカー)メンバーは全員倒した。

 念のため、暴れられないように首には魔術防止首輪を嵌めてある。


 焚き火の蒔きが爆ぜる音を聞きながら、オレは目の前に立つ男――(ゴールド)クラスの軍団(レギオン)処刑人(シーカー)のトップ、静音暗殺者(サイレント・ワーカー)の足下へ魔術防止首輪を投げる。


「まずその魔術防止首輪を付けてください」

「……ッぅ!」


 静音暗殺者(サイレント・ワーカー)は泣き出しそうだった顔を一転させ、憤怒に表情を歪めて襲いかかってこようとしたが、


「ぎゃぁぁぁぁあっ!」


 森からVSSサイレンサー・スナイパーライフル専用弾、9mm×39亜音速弾が彼の両膝を撃ち抜く。


 発射音が聞こえないほど離れた位置から、一呼吸で両膝を撃ち抜く超絶技能。

 そんなことができるのはPEACEMAKER(ピース・メーカー)でも、クリスしかいない。


 彼女にはもし静音暗殺者(サイレント・ワーカー)が不穏な動きを見せたら、攻撃して欲しいと頼んでおいた。

 クリスが睨みを利かせている限り、彼が目の前のオレ達に危害を加えることは不可能だ。


 一応、念のためオレの背後に控えるメイヤ、ルナを除いた10人にはMP5KやAK47などで武装してもらっている。


「て、手に灯れ癒しの光よ、治癒なる灯(ヒール)


 静音暗殺者(サイレント・ワーカー)が両足を治癒するのをオレ達は黙って見過ごす。


 傷が癒えたのを確認して、オレは地面に這い蹲る彼に再び指示を飛ばした。


「首輪を付けてください。お願いします」

「な、舐めるなよ新人(ルーキー)! 俺は(ゴールド)クラスの軍団(レギオン)――がぁあぁああ!」


 今度は右肩を撃ち抜かれ、喉から絶叫をあげる。

 オレは相手を痛めつけて喜ぶ趣味はない。

 顔を顰めそうになるのを必死に堪えて、なるべく冷酷非道な表情を取り繕い告げる。


「付けなければ永遠にこの苦痛を繰り返すことになりますが、どうします?」

「ぐううぅ、あぁぁ……」


 静音暗殺者(サイレント・ワーカー)は苦痛に顔を歪めながら、治癒魔術で傷を癒す。

 そして地面に落ちていた魔術防止首輪を拾い、自らの首に付ける。

 オレはそれを確認して、背後に控えているメンバーに指示を出す。


「拘束して、例の場所に連れて行け」

「「サー・イエス・サー!」」


 背後に控えていた少女達が、静音暗殺者(サイレント・ワーカー)の口を布で縛り、頭にずた袋を被せる。

 手を背後に回させロープで固定。

 静音暗殺者(サイレント・ワーカー)は両腕をメンバーにがっちりと押さえつけられ、平原に用意した広場へと連行されて行く。


 オレは彼の後姿を見送りながら、上空へ飛行し続けているラヤラに新たな指示を伝えた。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 ラヤラは上空を飛行しながら、森に散らばっているPEACEMAKER(ピース・メーカー)メンバーに指示を飛ばす。


 森に散らばっていたメンバーは、全員で13組、26人。そのうちの10組を森からオレ達の本隊へと戻す。

 3組は森で警備に当たらせている。

 ラヤラは引き続き周辺の警戒を担当。


 20人が本隊と合流したせいで、人数が一気に膨れ上がる。

 森から戻ってきたメンバー達にお茶とお菓子、軽食を配り一時休憩とした。


 休憩後は皆、AK47を手に静音暗殺者(サイレント・ワーカー)を拘束している広場へと移動する。


「んんんっ!? ンン!」


 彼は地面に深く撃ち込まれた金属棒に括り付けられ、立たされていた。

 頭をすっぽりとずた袋がおおい、口は布で縛っているため、くぐもった声しか聞こえてこない。


 PEACEMAKER(ピース・メーカー)メンバーはロシア軍式の控え(つつ)の状態で、直立不動で一列に並び立っている。

 その場にはスノー、クリス、リース、シアなどが揃っている。

 メイヤ、ルナ、ココノは後ろに控えてもらっていた。


 オレは彼女達の前に出て、深夜にも関わらず大声をあげる。

 ラヤラの監視では、周辺に野営をしている人影はなし。

 魔物が居るぐらいだ。

 大声を出しても迷惑をかけることはない。


「我々、PEACEMAKER(ピース・メーカー)は決して悪に屈しない! たとえその悪がどれほど強大であろうとも! 我々は勇敢に戦う! なぜならば――」


 オレは一度、溜める。

 再度、息を大きく吸い込み今まで一番の大声を上げた。


「我々が平和を作る者(ピースメーカー)だからだ! 分かったか団員共!」

『サー・イエス・サー!』


 団員達も負けじと大声を張り上げる。


 オレは軍団(レギオン)、『PEACEMAKER(ピース・メーカー)』を立ち上げる際、『コルト・ピースメーカー』から名前を拝借した。


 前にも説明したが『コルト・ピースメーカー』は有名過ぎて、誤解も多く生まれた。


『ピースメーカー』の由来は、新約聖書の『平和を作る者(ピースメーカー)は幸いです。その人は神の子どもと呼ばれるからです』ではなく、実際に名前を付けたのは販売代理店で、『Peacemaker』には仲裁人、決着をつける者――という意味もあり、そのため『西部に平和をもたらすもの』ではなく、『争いにケリをつける道具』という意味の方が強いらしい。


 しかしオレは軍団(レギオン)、『PEACEMAKER(ピース・メーカー)』を平和を作る者(ピースメーカー)&『決着をつける者』として立ち上げた。


 だからこそ暗殺集団、処刑人(シーカー)のトップ静音暗殺者(サイレント・ワーカー)を自分達の手で裁こうとしているのだ。


「ライフルマンの誓い斉唱!」


 オレの掛け声と共に、少女達が負けじと一斉に声を張り上げる。

 オレ自身、彼女達の声に続いた。


『これぞ我がライフル。世に多くの似たものあれど、これぞ我唯一のもの《This is my rifle. There are many like it, but this one is mine》――』


 少女達はカンペを見ている訳でもなく、そらで叫び唱える。


 新・純潔乙女騎士団入隊訓練の際、彼女達に散々叩き込んだのだ。

 今では皆、そらで言えるほど暗記している。

 約30人同時の声と気迫を、静音暗殺者(サイレント・ワーカー)は正面から叩き付けられる。


 ライフルマンの誓いを唱え終えると、再び大声を上げる。


安全(セーフ)解除! 単射(セミオートマチック)へ!」


 少女達は控え(つつ)の状態から、スリングを外し、指示通りセレクター・レバーを安全(セーフ)から一番下の単射(セミオートマチック)へと合わせる。


「コッキングハンドルを後方へ引け!」


 コッキングハンドルを引き、薬室(チェンバー)弾薬(カートリッジ)を1発移動させる。

『ガチャリ!』という音が静音暗殺者(サイレント・ワーカー)まで届く。


「ンンン! んんうッ!」


 彼は何事か喚くが、口を布で塞いでいるため言葉を正確に出すことができない。

 発砲準備が整うと、次の指示を飛ばす。


「構え!」


 掛け声に合わせて少女達が、立ち撃ち姿勢で銃口を静音暗殺者(サイレント・ワーカー)へと向ける。

 約30人近い殺意が、弾丸のまだ出ていない銃口から静音暗殺者(サイレント・ワーカー)へと注がれる。


 まるで世界から『音』が失われたような静寂が瞬きほどの時間訪れる。


 オレはその静寂に合わせたように声を張り上げた。


「撃てぇえ!」


 誰1人遅れず、30人全員が一斉に引金を絞る。


 ダン!


 夜空に鼓膜を破るような発砲音が響き渡った。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 ずた袋を取ると、静音暗殺者(サイレント・ワーカー)は白目を剥いて気絶していた。

 髪も色を抜いたように白く染まっている。

 顔も一気に老け、これではまるで八十代の老人だ。


 そう、静音暗殺者(サイレント・ワーカー)は死んではいない。

 30人全員が撃ち損じたわけではなく、発砲した弾薬(カートリッジ)が空包だったからだ。


 大仰な台詞や『ライフルマンの誓い』も、静音暗殺者(サイレント・ワーカー)を怖がらせるため唱えただけだ。

 約30人同時の声と気迫を、正面から叩き付けられ、相当応えただろう。

 だが同情はしない。

 ココノやオレ達の命を狙った当然の報いだ。


 ちなみに――空包ブランク・カートリッジとはどのような物なのか?


 空包ブランク・カートリッジとは『弾丸(ブレット)が付いていない弾薬(カートリッジ)』のことだ(『空砲=実弾が込められていない銃』とは響きは同じだが意味が異なる。空包は弾丸自体を意味する)。


 空包ブランク・カートリッジ弾丸(ブレット)が始めから無いため、発砲しても弾が出ることはない。だから普通の発砲時に比べて、反動が少ない。射撃に慣れた人ならばすぐに空砲かどうか分かる。


 だが、弾丸(ブレット)がないからと言って完全に無害という訳ではない。弾が出ないだけで火薬は込められているため、対象との距離が近ければ物的・人的被害が発生する。


 またオート系の銃器の場合に空包ブランク・カートリッジを使用すると、弾を正常に排出するための圧力が足らずに、ジャミング(正常な動作をしない)が起きてしまう確率があがる。そのため、銃口を特殊な専用の蓋で塞ぎ正常な圧力を稼ぐ等の対策を行う必要がある。


 しかし、今回、オレ達が使ったAK47にはその『専用のアダプター』は付いていない。

 ずた袋を被せる前の静音暗殺者(サイレント・ワーカー)に見られたら、『自分は殺されない』と一発で分かるためだ。


 もちろん静音暗殺者(サイレント・ワーカー)だけではなく、処刑人(シーカー)メンバーに止めを刺すつもりはない。


 森で倒れているメンバーは応急処置後、一箇所に集めてPEACEMAKER(ピース・メーカー)メンバー6人に警護を任せている。

 血の匂いに誘われて魔物に襲われないようにするためだ。

 現在は人数を割き、この場に集めてもらう手配をしている。

 ここまで運び込んだら、魔術で治癒する予定だ。


 なぜ彼ら処刑人(シーカー)メンバーに止めを刺さなかったかというと、それには理由がある。


 一つは、彼らが本当に処刑人(シーカー)メンバーの全て(もしくはほぼ全て)なのか分からないからだ。

 彼らだけが処刑人(シーカー)メンバーだと油断して、後日寝首を掻かれるのはごめんだ。

 この後、彼らを順番に尋問してタップリと情報を聞き出すつもりでいる。


 二つ目は――宣伝のためだ。

 情報を聞き出した後は、静音暗殺者(サイレント・ワーカー)以外の処刑人(シーカー)メンバーを先程のように射殺する振りをする。

 二度とPEACEMAKER(ピース・メーカー)に関わらないよう脅すためだ。

 タップリと脅した後は、生かしたまま解放する。

 この異世界で1、2を争う暗殺者集団、処刑人(シーカー)メンバーの口からどれだけPEACEMAKER(ピース・メーカー)に手を出すのが危険な行為か語らせるつもりだからだ。


 そちらの方がただ殺すより、オレ達が『手を出すのには危険すぎる』という宣伝になる。


 それにオレ達がわざわざ手に掛けなくても、暗殺者集団をやってた以上怨みは山ほど買っているだろう。

 解放された後、彼らがどんな目に合うのか想像はそれほど難しくない。


 こうしてオレ達は休む間もなく、今度は森の中に集めている処刑人(シーカー)メンバーを移動させる作業に取り掛かった。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明日、10月13日、21時更新予定です!


と、言うわけで! 1巻発売日まであと6日!

一週間連続更新の第一弾です!

とりあえず、サイレントさん達との戦いに一区切りがついた回です。

ちなみにラストは、略式裁判のような感じもありかなと一瞬思ったのですが、あまりにリュート達のイメージが悪くなるので没になりました。


また活動報告を書きました。

よかったらご確認してください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] いくらトラウマを植えるとはいえ暗殺者集団を野放しにするの怖いな(笑)
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