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第18話 レベルⅡクエスト準備

 レベルⅡのクエストを請け負い、冒険者斡旋組合(ギルド)を出る。

 早速左隣にある冒険者斡旋組合(ギルド)協賛店の道具屋に、毒消しの実と森の地図を買いに向かった。


 道具屋に入ろうとすると、背後から声をかけられる。


「ちょっとそこのぼく。お話いいかな?」

「?」


 振り返ると、目の前にオレと同じ背丈くらいの少年が、大荷物を抱えて立っていた。

 背負っている大型のリュックにはツルハシ、ランタン、寝袋、瓶類などがごちゃごちゃと側面にぶら下がっている。


「初めまして、おいらは、小人族(こびとぞく)のラーチっていいやす。街から街へ、宿無し、根無し草の行商人をやらせてもらっておりやす」


 小人族。

 妖精種族(ようせいしゅぞく)で、妖人大陸(ようじんたいりく)の西奥に住む一族だ。

 成人しても人種族の子供ぐらいにしか成長しない。


 このラーチという男も、一見すると人の子供にしか見えない。

 よく観察すれば、子供らしい愛嬌はなく、どこかずるがしこい小悪党的空気をただよわせている。

 前世でいうところの某妖怪のネズ○小僧に似ている。


「これはご丁寧にどうも。人種族のリュートです」

「リュート坊ちゃんか、いい名前だ! 道具屋に入るということは何かお捜し品があるということですね。よかったら、これも何かの縁。あっしの品物を見てってくださいやせんか?」


 なるほど、押し売りか。

 この手のは相手にしないのに限る。

 オレは『NO!』と言える日本人だ! 魂だけだが!


冒険者斡旋組合(ギルド)協賛店で買うつもりなんでいりません」

「そう仰らずに! 見るだけ! 見るだけですから!」

「そう言って買わせるつもりでしょうが。その手には乗りませんよ!」

「本当に見るだけですって! それにあっしの品物は他の道具屋より安いんですよ! だからちょっとだけでいいんで見てってくださいよ!」


 腕を掴まれ粘られる。

 だが、もし本当に安いのならこの男から買うのもありだろう。


「……それじゃとりあえず見るだけですよ」

「はいはい、ありがとうございやす! それで何をお捜しですか?」

「毒消しの実とこの周辺の森の地図です」


「なるほど! ならあっしの方が安くご提供できますよ! 毒消しの実は道具屋でしたら大銅貨1枚ですが、あっしのは銅貨5枚! 地図は銀貨3枚を1枚で売らせてもらってやす」


 確かに安い。

 しかも、地図の元値は受付のお姉さんの言ってた値段通りだ。変に誤魔化していない。

 これなら買うのはありかもしれないな。


「本当に銅貨5枚に、銀貨1枚でいいんですか?」

「本当ですって。質の悪い輩は、地図を半分に切ったものを銀貨1枚で売って、後でもう半分を銀貨3枚で買わせたりしますが、あっしはそんなこと絶対にしやせん。なんなら先に商品を渡して確認してもらってもかまいやせんよ」


 ラーチは胸を張り、断言する。

 そこまで言うなら、本当なんだろう。


「分かりました。では毒消しの実と地図を下さい」

「まいどありがとうございやす!」


 ラーチは背負ったリュックを下ろし、鼻歌交じりで漁り出す。

 オレはその間に財布から代金を用意する。


「銀貨1枚に、銅貨5枚っと……あっ、大銅貨しかないんでお釣りありますか?」

「もちろんです。その辺の抜かりもあっしにはありませんよ」

「お釣りの誤魔化しとか止めてくださいよ」

「本当、信じてくださいよ。そんなこすっからいマネなんてしやせんって」


 もちろんお釣り云々は冗談だ。

 ラーチも分かっているらしく、演技っぽい返事をしてくれる。


「おい」


 そのラーチの頭を大きな手が掴んだ。


 ラーチの頭を掴んでいるのは昨日クエスト中、森側で出会った3人組の冒険者の1人――エイケントと呼ばれていた男だ。

 エイケントの後ろには金髪イケメン猫耳男と銀髪魔人種族(まじんしゅぞく)の女性が笑顔でオレに手を振ってくる。


 ラーチはエイケントを見上げると、青い顔で愛想笑いをした。


「こ、こりゃどうも。えー本日はお日柄もよく……」

「消えろ」

「し、失礼しやした!」


 ラーチはリュックをちゃんと閉めもせず背負うと、慌てて雑踏へ逃げ出す。

 姿はすぐに見えなくなった。


『ギロリ』と、エイケントの眼がオレを射抜く。

 彼は低い声で脅すように叱った。


「あいつはこの辺じゃ質の悪い行商人で有名だ。粗悪品の道具や地図を売るってな」

「そ、そうなんですか?」

「オマエみたいな世間知らずのガキを騙して小金を稼ぐ小悪党だ」

「ありがとうございます。助けて頂いて」


 丁寧に頭を下げるが、一向にエイケントの気難しい顔は弛まない。


「冒険者にとって道具は命に直結するもの。初心者はとにかく冒険者斡旋組合(ギルド)マークが入ったところで商品を買え。その辺の道ばたで売っているのを買うのは上級者がやることだ。間違ってもオマエみたいな初心者のガキがやることじゃない」

「すみません……」


 淡々と低い声での説教。

 オレは俯きながら謝罪の言葉を口にする。


「いい加減お説教はその辺にしておきなさい。完全に怖がってるじゃないの。だいたい昨日から冒険者を始めた初心者でしょ? しかもまだ子供じゃない。頭ごなしに怒るのは逆効果よ」


 魔人種族(まじんしゅぞく)の女性が、エイケントの説教を止める。


「ごめんね、こいつ無愛想な癖に子供好きでさ。君みたいな小さな子はほっておけないんだよ」


 と、猫耳イケメンが明るい調子でフォローを入れる。

 猫耳イケメンの指摘は本当らしく、エイケントは黙ってそっぽを向いた。

 心なしか頬が赤い。


「いや、でも騙されなくてよかったね。俺は猫耳族のアルセド。冒険者レベルはⅡだ。よろしく」

「人種族のリュートです。冒険者レベルはⅡです。本当に助けて頂きありがとうございます」


 イケメン猫耳族のアルセドから差し出された手を、握手で返す。

 どうやら挨拶の時、冒険者レベルを口にするものらしい。


「私は悪魔族のミーシャ。冒険者レベルはⅡよ。でも、リュートくんほど強ければ多少地図があれでも問題なかったと思うけどね」


 銀髪ショートで褐色肌のミーシャとも握手をかわす。


「そしてそっちの無愛想なのがうちらのチームリーダー。リュートと同じ人種族のエイケント。冒険者レベルはⅢだ。ほら、ちゃんと挨拶しろって」

「……エイケントだ」


 無愛想な挨拶に連れの2人が呆れた顔をする。


 オレはあらためて彼らに礼を告げた。


「騙されそうなところを助けて頂いて、ありがとうございました」

「いいのいいの。冒険者は持ちつ持たれつが基本だから」


 アルセドは快活に笑い飛ばす。


「ちなみに毒消しの実と森の地図が必要ってことは、グレイ森林に入るつもりなの?」

「はい、先程レベルⅡのクエストを受けたところです」

「なら、せっかくだし私達と一緒にクエストをやらない?」

「皆さんとですか?」


 ミーシャは人なつっこい微笑みで説明してくれる。


「実は私達も昨日レベルⅡのクエストを受けたんだけど、目当てのオークがどこにもいなくて。結構森の奥まで入ったんだけど、空振り。だから、今日は片道で1日かかるけど、遠出してオークが確実にいる場所へ行こうって話をしてたんだ」


 ミーシャが体を腰から曲げ、顔を覗きこんでくる。


「で、よかったらリュートくんも一緒にどうかな? 遠距離攻撃できる人が私だけだとちょっと不安だったんだ。リュートくんの実力は昨日で分かってるから、来てくれると心強いんだけど」


 オレの視線の先に、彼女の胸の谷間がちらつく。

 褐色の健康的な肌。

 すべすべで胸の谷間に顔を埋めたら天国に昇るほど気持ちいいだろうな。


(いやいや! オレにはスノーという婚約者がいるんだ! 惑わされるんじゃない)


 誘惑攻撃は置いておいて、よく考えれば、実際魅力的なお誘いだ。

 自分はまだ駆け出しの初心者。

 彼ら経験者のチームに入るメリットは大きい。


 ミーシャの誘いを、アルセドが後押しする。


「別に軍団(レギオン)みたいに規律があるわけじゃないし、ただの一時的なチームだから、大げさに考えなくていいよ。気に入らなかったクエスト途中でも抜けてもらってかまわないし。もし参加してくれるなら、野営のやり方やこの辺の地理、冒険者にとって必須な技術や知識を教えてあげるよ」

「あの……どうしてそこまで親切にしてくれるんですか?」


 オレの当然の疑問にミーシャとアルセドは、顔を見合わし相好を崩す。


 アルセドがオーバーリアクションで答えた。


「昨日のリュートの強さを眼にして、他のチームや軍団(レギオン)に取られる前に唾をつけておきたくてさ」


 なるほど先行投資の一環というわけか。


 それに――とミーシャが言葉を付け足す。


「私達も駆け出しの頃は先輩達のお世話になって、冒険者の基礎を教えてもらったからよ。もしリュートくんが恩を感じるなら、一人前になった時に初心者の世話をしてあげてね」


 そんなことを言われたら断れない。

 オレは警戒を解き、彼らに頭を下げる。


「僕を皆さんのチームに入れてください。冒険者になりたてなので色々迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」

「ヤッフゥイ! そうこなくっちゃ! 報酬は後々揉めないように各自倒した分ということで」


 野営に必要な品物などはエイケント達が用意してくれるらしい。

 とりあえずオレが今日買うものは地図と毒消しの実だけでいいと言われた。至れり尽くせりだ。


「それじゃ待ち合わせの時間は、昼食を済ませて西門ってことで」

「了解しました。それでは後程」

「また後でね、リュートくん」

「…………」


 オレは人混みに紛れる3人に頭を下げ、改めて冒険者斡旋組合(ギルド)協賛の道具屋に入る。

 そして地図を1枚(銀貨3枚)。

 毒消しの実を5個買う(5個で大銅貨5枚)。


 道具屋を出て、まっすぐ宿屋に戻った。

 部屋で初遠征の準備のため荷造りを始める。


 AK47。マガジン×6。

『S&W M10』リボルバー。弾薬1箱。

 地図、毒消しの実(5個)、予備魔術液体金属(1リットル分)、魔物の部位を入れる革袋、着替え、薄手の毛布、雨衣、薬水。

 旅用のマントは、海運都市グレイに来る時、買ったのがある。


「これだけ準備しておけば、魔物100匹くらいは余裕で倒せるな」


 一通りの準備を終え、水筒を手に隣の飲み屋へ。

 昼食をそこで済ませ、店のオヤジさんに料金を払い水筒へ水を入れてもらった。

 これで準備万端。


 宿屋のオヤジさんに念のため3日分の宿賃を前払いしておく。


 荷物を背負い、西門を目指して歩き出す。

 門にはすでに3人が来ていた。


「すみません、遅れてしまって」

「いやいや、俺達も今来た所だし」

「むしろ、私達が早く来すぎたのよ。だから気にしないで」

「おい、喋ってないで行くぞ」


 アルセド、ミーシャが交互にフォローを入れる。

 だが、エイケントは相変わらずぶっきらぼうに1人歩き出した。


「まったく、素直じゃないんだから……。ごめんな、あいつ、いつもあの調子で」

「悪い奴じゃないんだけどね」


 2人は呆れながら、エイケントをフォローする。


「分かってますから、大丈夫ですよ」


 彼には一度助けられている。

 この程度の対応など、エイケントがツンデレ美少女だと脳内変換すれば問題なし!


 オレは新たに出会った仲間達と一緒に、レベルⅡのクエストに挑戦することになった。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明日、12月10日、21時更新予定です。

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