第194話 新スナイパーライフル
「メイヤ!」
「リュート!」
「ルナの!」
「「「武器製造バンザイ!」」」
打ち合わせ通りのタイミングで三人そろって声をあげる。
場所は新・純潔乙女騎士団本部内にある専用の工房。
その工房内にオレ達3人は集まっていた。
いつもならオレとメイヤの2人で武器製造をするのだが、今回はルナが参加している。
彼女の配属先が兵器研究・開発部門のため同席してもらった。
今後はこの3人で兵器の研究・開発をおこなっていく。
いつもの定番の掛け声が終わると、メイヤがあからさまに溜息をつく。
「はぁぁ~、ここはリュート様と2人っきりになれる素敵空間でしたのに……」
「しょうがないだろ。今後を考えたら、僕達二人で皆の武器を開発、製造、維持なんて出来ないんだから。今後はルナだけじゃなくて、良い人材が居れば増やしていくし。それはメイヤも理解しているだろう?」
「頭では理解しているのですが、感情が追いついていないのですわ」
メイヤは捨てられた子犬のような目で見詰めてくる。
しかし、そんな目で見られてもどうしようもない。
さっきも言ったとおり、オレ達だけでPEACEMAKER&新・純潔乙女騎士団メンバー達の装備を支えるのには限界があるのだから。
「まぁまぁ、メイヤっちもそんな気を落とさないで。あんまり落ち込まれると、ルナが二人の邪魔をしてるみたいで申し訳ない気持ちになるし。それに……」
ルナはメイヤの耳目を集めるようにワザと一拍置く。
「堪えつつも、夫の仕事を支え続けるのが良妻の仕事だとルナは思うなぁ~」
「リュート様、今後人数が増えてもご安心ください。このメイヤがリュート様の右腕として、部下達を引っ張って行きたいと思います。なのでわたくしに遠慮せず、どんどん人数を増やしてください。全てわたくしが取り仕切って見せますわ!」
「お、おう……」
ルナの一言で、メイヤはまるで生まれ変わったように瞳を輝かせ断言する。
見た目年下のルナにいい様に転がされる彼女の将来が心配でならない。
とりあえず、気持ちを切り替え製作に取り掛かる。
「それじゃ今日はクリスが要望を出していた『MP5SDのようなスナイパーライフル』作りに取り掛かりたいと思う」
「クリスちゃんのために頑張って作るよ! ルナは何をすればいい?」
「やる気になるのは有り難いけど、とりあえずルナは今回が初参加だし見学しててくれ。もし手伝えることがあったら指示を出すから」
「りょーかぁい!」
ルナは無邪気に返事をする。
「では、リュート様、今回は『MP5SDのようなスナイパーライフル』をお作りになるということですが、一体それはどんなライフルなのですか?」
「今回、僕達が作るライフルは『VSS』だ」
VSS(露語をラテン表記した『Vintovka Snayperskaya Spetsialnaya』の頭文字をとったもの。日本語に直訳すると『ライフル・狙撃・特殊』で、特殊狙撃銃、つまりサイレンサー狙撃銃)とは――旧ソビエトの特殊部隊向けに開発された消音狙撃ライフルである。
ロシアの特殊部隊などで使われて来ており、現在でも多数が継続して使用されているらしい。
消音狙撃ライフルの名から分かる通り、『減音器』――銃声を『減音』させるための器具、または装置が銃身に取り付けられている特殊なスナイパーライフルだ。
減音器が機関部先端から銃口までカバーしており、発射音と発射炎を最小にする効果を持っている。そのため銃身は通常のより太く、見た目がとても特徴的なデザインをしている。
作動メカニズムはガス利用式でAK47をベースに発展させている。そのため現在オレ達がもっとも製造しやすい消音狙撃ライフルだ。
特徴的なのは外見だけではない。
SVD(ドラグノフ狙撃銃)とは違って、減音器がほどこされた銃身とストックを機関部から取り外しアタッシュケースなどに収納出来る。
なぜ携帯性を重視されているのかというと――VSS(サイレンサー・狙撃銃)が単に軍だけではなく、単独で敵地に潜入する工作員などが使用することも考慮されているためだ。
もちろん今回、VSS(サイレンサー狙撃銃)を製造するにあたり、ちゃんと携帯性を重視し分解・収納出来るようにするつもりだ。
別に誰かを暗殺したりするつもりはないが。
では、こんなに優れたスナイパーライフルがあるのに、なぜSVD(ドラグノフ狙撃銃)が存在するのか?
全部、VSS(サイレンサー狙撃銃)で統一すればいいのではないか? と疑問に思うかもしれない。
しかし、VSS(サイレンサー狙撃銃)にも問題……というかVSSに統一することが出来ない特徴があるのだ。
その特徴とは――射程がスナイパーライフルとしては短く、300~400mしかないのである。
そのためスナイパーライフルを全部、VSS(サイレンサー狙撃銃)にすることは難しいのだ。
さらにVSS(サイレンサー狙撃銃)の特徴として、9mm×39の専用の亜音速弾を使用する。
亜音速弾とは発射薬を調整して、弾丸が音速を超えないようにした弾薬である。
音速を超えると激しい音がする。
雷が激しい音を鳴らすのも、音速を突破し衝撃波を発生させるからだ。
極力音を出さないようにするため減音器と亜音速弾を使用するのが一般的である。
例外としてMP5SDのように亜音速弾を使用しなくても、消音される銃器も存在するが。
ちなみにスペックは以下の通りになる。
口径:9mm×39
全長:894mm
銃身長:310mm
重量:3180g
装填数:10発/20発
オレは一通りの説明を終えメイヤとルナに向き直る。
「と、言うわけでこれからVSS(サイレンサー狙撃銃)と専用の亜音速弾を作っていきたいと思う。ルナは初めてのことで色々と戸惑うこともあるだろうけど、頑張って慣れて欲しい」
「了解、リューとん」
「メイヤも兵器製造・開発の先輩として面倒を見てやってくれ」
「お任せくださいリュート様! このメイヤ! リュート様を陰になり日向になり支えさせていただきますわ!」
あからさまに先程のルナの一言を意識した台詞を口にする。
曖昧に笑って流しておく。
そしてオレ達はVSS(サイレンサー狙撃銃)と専用の亜音速弾の製造に取り掛かった。
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「失礼します」
オレ達がVSS(サイレンサー狙撃銃)と亜音速弾製造に取り掛かって数週間後――シアが扉をノックして工房に顔を出す。
「あれ、どうしたシア、なにか用事か?」
「今朝お伝えしていた通り、そろそろ天神教の使者様達がお目見えになります。なのでお支度の準備をお願いいたします」
そうだった! 確か今朝、シアから今日にでも天神教の使者が来ると報告を受けていたっけ。
VSS(サイレンサー狙撃銃)等の製造に集中し過ぎて、すっかり忘れてしまっていた。
オレはメイヤとルナに振り返り声をかける。
「それじゃ今日はここまでにしよう。二人とも、後片付けを頼んでもいいかい?」
「了解。リューとんは遠慮無く準備に取り掛かっていいよ」
「あの、リュート様」
メイヤがなぜが神妙な顔つきで一歩前に出る。
「我が儘を言って申し訳ないのですが、出来れば今日の会談にわたくしも出席してよろしいでしょうか?」
「天神教との話し合いに?」
「はい」
「またどうして?」
素朴な疑問に、メイヤは苦渋の表情を浮かべる。
「実は昔、天神教関係で、とある噂を聞いたことがありまして……」
「それってどんな噂だ?」
「申し訳ありません。たとえリュート様でも、いえ、リュート様だからこそ話すことが出来ません。本当に申し訳ありません!」
メイヤが深々と頭を下げる。
あのメイヤがオレに話せないほどの噂ってなんだよ。
なんだか背筋が寒くなる。
「と、とりあえず、言いたくないのなら無理強いするつもりはないから安心してくれ。それじゃメイヤにも出席してもらおうかな。ルナ、申し訳ないが、ここの片付けを頼んでもいいか?」
「うん、いいよ。なんだか訳ありみたいだしね。片付けは任せて!」
ルナは笑顔で引き受けてくれる。
「それじゃ汚れた恰好のままじゃまずいから、メイヤも一緒に準備に取り掛かってくれ」
「はい、ありがとうございます!」
そしてオレとメイヤは、天神教使者に会うための準備に取り掛かった。
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