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第187話 深谷前

「危なッ!?」


巨人族から投げられた岩石をオレはギリギリで回避する。

 場所は深谷前、背後は底が見えないほどの谷。前からは約70体の巨人族がこちらに向かって侵攻してくる。


 彼らから逃げようにも、深谷を繋いでいた橋は破壊されてしまった。

 肉体強化術で無理矢理渡ろうにも、巨人族が岩石を投げつけてくるためそんな隙がない。

 オレとスノーは、敵が投げつけてくる岩石をひたすら回避していた。

 スノーには『巨人族が雪崩に流されているうちに逃げよう!』と言っていたが、その前に巨石に当たり命を落としそうだ。


 雪崩を待たずにここから逃げ出す方法を考えるべきか?

 回避しながら案を考えていると、反対側の岸から声をかけられる。


「リュートさん! スノーさん! どうしてまだそちらに!?」

「お二人の危機にこのメイヤ・ドラグーン! メイヤ・ドラグーンが馳せ参じましたわ!」

「リース! メイヤ! どうしてここに!」


 ノルテ・ボーデン城壁で、街に向かった巨人族に対応する筈の2人が深谷を挟んだ反対側の岸に立っていた。

 疑問は多々あるが、兎に角ナイスタイミングだ!


「橋が壊されてそっちに行けないんだ! 2人とも! この状況をなんとかできないか!」


 現状、オレとスノーは回避に専念するしかない。

 ここはリースとメイヤに頼むしかなかった。


「な、なんとかと言われてもどうしたら……」

「ここはリュート様の一番弟子にして、右腕、腹心のメイヤ・ドラグーンにお任せください!」


 リースの困惑に、メイヤが重ねるように宣言する。

 どうやら何か作戦があるようだ。


「リュート様! スノーさん! 今からそちらに向かってロープを投げますので受け取ってください! わたくし達がちゃんと支えますからご安心を! リースさん、今から言う物を出してもらってもいいかしら?」

「は、はい!」


 リースはメイヤの要求する物を、『無限収納』から取り出し手渡す。

 彼女が要求したのは――手榴弾、長い金属製ロープ、小樽に入った魔術液体金属の3つだ。


 手榴弾、魔術液体金属は説明不要だろう。

 金属製ロープは『何時か必要になるかも』と魔術液体金属で作っておいた物だ。


 彼女はそれらを受け取ると、まず手榴弾を手に取る。手榴弾に金属製ロープの端を魔術液体金属で接着してしまう。


「リュート様! スノーさん! 今からこの手榴弾を投げるので受け取ってくださいね!」

「おお! さすがメイヤ! ナイスアイディアだ!」


 金属ロープだけでは、投げにくくこちらまで届かない。

 魔術液体金属で手榴弾に金属ロープを固定することで、投げやすくオレ達まで届くように工夫したのだ。

 谷と谷の間は約100m。

 吹雪だし、風が強いが肉体強化術で身体を補助した状態なら、余裕で届く距離である。

 さすが天才魔術道具開発者だ!


「メイヤ! 投擲頼んだ!」

「お任せくださいリュート様! それでは行きますね!」


 メイヤは元気よく返事をすると、体全体を肉体強化術で補助。

 金属製ロープ付き手榴弾を掴み、ピンを抜いて・・・・・・反対側の岸へと勢いよく投げる。


「あっ……!」


 彼女も途中で気付いたらしく、中途半端な投擲をする。

 結果、ロープ付き手榴弾はオレ達から大きくそれて崖下に衝突――爆発した。


「こ、こらー! メイヤ! なんでピンを抜いて投げてるんだよ!」

「す、すすす、すみません! つい、流れで!」


 恐らく手榴弾を投げるということで、条件反射でピンを抜いてしまったのだろう。

 流石のメイヤも申し訳なさそうに何度も頭を下げてくる。


「リュートくん、遊んでる場合じゃないよ。あれ見て!」


 遊んでいるわけじゃなかったが、スノーの声に振り返る。

 雪山から雪崩が起き、一直線にこちらへ向かって迫っていた。

 クリスが狙撃に成功したんだ!


 その光景は――まるで白い津波。

 激しい爆音が響き、そして地震と間違うほどの振動が辺り一面に広がる!


 約1年半、溜まりに溜まった雪が一気に崩壊し、せまってくる。その光景は、見ている分にはとても幻想的な光景だ。


 そう、見ている分にはだ。


 巨人族があっというまに雪崩に飲み込まれる。

 オレ達の想像以上に、雪崩の速度が速い!

 巨人族を飲み込んだ雪崩が、オレ達にまで迫ってくる。まるで見上げるように高い白城壁が高速で迫ってくるようだった。


「リュートくん! 時間が無いから、ここからジャンプしよう」

「わ、分かった! メイヤ! ロープを頼む!」

「今度こそお任せください!」


 オレとスノーは、肉体強化術で身体を補助。

 2人同時に息を合わせて、岸から飛び立つ!


 巨人族が投げた岩が進路を塞ぎ、長い真っ直ぐな距離が取れない。さらに予想以上に速い雪崩のせいで満足に助走出来ず、中途半端なジャンプをするしかない。

 もちろん勢いが足りず、約50mほどで失速して落下を開始。

 背後では白い飛沫が飛び散っている。


「リュート様! スノーさん! お掴まりくださいですわ!」


 メイヤが新たに作った金属製ロープ付き手榴弾を投げて渡してくれる。しかし、運悪く、強い横風が吹き付ける。

 肉体強化術で身体を補助し、投げられた手榴弾だったが、速度はあっても質量が足りず横風に流されオレ達からはやや位置がずれてしまう。


 腕を伸ばしても絶対に手が届かない!


 クソ! このままじゃ巨人族と一緒に落下してしまう!

 どんな魔術を使っても、底が見えないほど深い谷底に落ちたら一発でおだぶつだ!


「リュートくん! 手を!」


 スノーが伸ばした手を掴む。

 彼女はがっちりと掴んだと同時に、高々と呪文を唱えた。


「我が手に宿れ氷精! 踊り、狂って縛りたまえ! 氷蔓(アイス・ヴァイン)!」


 彼女の空いた腕から氷の蔓が伸び、金属ロープ付き手榴弾を絡め捕る!

 そしてオレ達の方へと引き寄せた。


「リュートくん、後はお願い!」

「任せろ!」


 スノーは蔓でロープを引き寄せる。

 オレは空いた片腕で金属製ロープを無事、キャッチ!


 そこで完全にジャンプした勢いは無くなり、失速。

 重力が谷底へ引っ張ろうとするが、金属ロープのお陰で巨人族の後を追わずに済む。

 オレ達は振り子の原理で、反対側の崖にぶつかりそうになるも2人で足に魔力を集中。崖を蹴って勢いを殺し、激突することなく無事にぶら下がることが出来た。


「ぐぅうッ」


 右腕にロープが食い込むが、魔力を薄く集中すれば自身とスノーぐらい支えるのは問題ない。


「リュートさん! スノーさん! 大丈夫ですか!?」

「すみません! 最後、狙いがはずれてしまって! こうなったらリュート様の手で、わたくしの体に罰してくださいまし!」

「大丈夫、オレにもスノーにも怪我は無し! 無事だよ!」


 頭上からリース、メイヤが声をかけてくる。

 オレは声を上げ無事を伝えた。

 というかメイヤは反省してないだろ……。


 彼女達が肉体強化術で身体を補助し、オレ達をロープで支えている。

 一度、木に固定してから引き上げるため、少々時間をくれと言ってきた。もちろん了承し、返事をする。


 今、オレは右手でロープを掴み、左手でスノーの体を支えている。彼女はオレの首に腕を回し密着していた。

 右腕にロープを巻き付けているため、ある程度時間がかかっても問題無し。肌にロープの痕が付くぐらいだ。


 オレ達は暫し、空中浮遊を楽しむことになる。


「見て、リュートくん。まだ雪崩(雪滑り)が落ちてくるよ」

「ほんとだ。どんだけ雪が溜まっていたんだよ」


 一緒に巨人族が谷底へと落ちていく。

 何体も、何体も……。


「……ギリギリだったね」

「だな。少しでも何か歯車がずれていたら僕達、死んでいたかもしれないな」


 想像しただけ背筋が寒くなる。

 今後はさっきみたいなピンチのために飛行できる乗り物を造っておきたいな。でも、さすがにそこまで行くと自分の専門外だし……


「でも、ね」


 オレが思案していると、耳元でスノーが口を開く。


「リュートくんと一緒に死ねるなら、それはそれで幸せだけどね」


 ……スノーさん、どんだけオレのこと好きなんだよ。

 まぁ、気持ちは分からなくないけど。


「でも、僕としてはやっぱり生きたままの方が幸せだな」

「それはそうだよ。死んじゃったら、リュートくんの匂いをふがふが出来ないしね」


 スノーは首筋に顔を埋めて匂いを嗅いでくる。

 こいつは本当にぶれないな!


 気付けばオレ達は顔を見合わせていた。

 そして、いつのまにか笑っていた。楽しげに、幸せそうに、2人で顔をつきあわせ笑い合う。

 一通り笑い終えると、自然と唇を重ねていた。

 ロープに掴まり、空中に揺られながら、オレとスノーは幸せなキスをした。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明後日、8月12日、21時更新予定です!


ベタですが子供の頃は『台風一過』を『台風一家』と勘違いしていました。

後、『イタ飯』をなぜか『釜飯』と勘違いしてたっけ。

だから大学生時代、女性は『イタ飯が好き』と耳にして、『そうなんだ。女性は『釜飯』が好きなんだ』と脳内変換勘違い。

女の子とデートへ行く機会があったら小さい形の釜に入った『釜飯屋』に連れて行こうとデートプランを立てていました。

1度も使う機会がなくて、恥を掻くことがなかったからいいけどね!

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