第183話 スキー
『ドン! ドン! ドン!』
連続で『M224 60mm軽迫撃砲』から弾薬が発射される。
39式跳躍迫撃砲弾――バウンド・ボムが適切な高さに本体を持ち上げ爆発。
ノルテ・ボーデンへ侵攻していた巨人族の群れを爆発の波へと飲み込む。
爆音を奏で、雪煙が舞い上がる。
あまりに上がり過ぎて一時は、巨人族の群れを隠してしまった。
それでも構わず砲身に弾薬を入れ、退避、耳を押さえを繰り返す。
巨人族の群れをオレ達に引きつけるため、今あるありったけの弾薬を全部つぎ込む。この弾薬で巨人族全部を倒しきろうとなんて思っていない。
ただ相手の気を引きつけ、進路を変更してくれればいいのだ。
ぶおん!
オレ達の真上を岩の固まりが通り過ぎ、着弾。
落下地点は大分離れているとはいえ、自動車ほどの岩が投擲されてくるのは心底肝が冷える。
迫撃砲により破壊された仲間の体を、他の巨人が投擲してきたのだ。
さすがにそろそろこの場に居続けるのは止めておいた方がいいだろう。
リスクが高すぎる。
「スノー、退避、退避だ!」
「了解だよ!」
オレ達は迫撃砲をそのままに、スキー板を履いてストックを手に滑り出す。
大分距離が開くと――元居た場所に岩石が落ちてきて、残っていた弾薬が誘爆する。
「「――――――ッ!!!」」
背後で爆発音が響く。
オレとスノーはまるでハリウッド映画の爆破シーンのような出発を強いられた。
だが、お陰で最初から勢いが付いてかなりのスピードが出る。
後ろを振り返ると、予定通り巨人族の群れがオレ達を脅威と悟り、進行方向を変更。
だが、ある程度の数については――恐らく30体はいないと思うが――引きつけるのに失敗した。
それでもオレ達を数十体の巨人族が追いかけてくる。その様はまるで悪夢のようだった。
夢の中なら、踏みつぶされても目を覚ますだけが、これは現実だ!
追いつかれたら確実に殺されてしまう。
「スノー! もっと速度を出すぞ!」
「分かったよ!」
オレ達はストックを雪原に突き刺し、勢いを付ける。
肉体強化術の補助と緩やかな斜面のお陰で、ストックを動かすたびスピードが加速する。もしスキーでなければ、とっくに巨人族に追いつかれていただろう。
彼らの歩幅は圧倒的に大きく、生命体では無いから疲労を感じない。厄介極まりない相手だ。
だが、このままいけば追いつかれることなく、目的地に辿り付けるかと思われたが――
「リュートくん! 槍! 槍、構えてるよ!」
スノーの声に振り返ると、彼らが手に持っている巨大な槍を振りかぶっていた。
そして勢いを付け、投擲!
1本ですら通常の城壁を楽に砕くであろう質量兵器が、数十本同時に投げられる。
槍はオレ達を目指しぐんぐん迫ってくる。その迫力は肝が冷えるどころか、凍り付くほどの恐怖だ。
「スノー回避! 回避!」
声を上げるだけで精一杯だった。
抵抗陣で防げるレベルではないし、肉体強化術で弾くことも当然出来ない。
ただひたすら視力を強化して、降り注ぐ槍の群れの影を見極めて回避に専念する。
大抵の槍はオレ達に届く前に失速し、後方へと落ちる。
しかし全部という訳にはいかず、すぐ側を槍が突き刺さり雪を舞い上げる。視界が白く染まる。白いカーテンを抜けると、再び槍で舞い散った雪に視界を閉ざされたりする。
冷や汗が背中を滝のように流れるのを実感した。
「きゃぁぁッ!」
槍がスノーの側に着弾。
体重の軽い彼女が衝撃に耐えきれず体ごと空中へと浮き上がる。
「スノー!」
「リュートくん!」
飛ばされた方向が良かった。
彼女は肉体強化術、魔力量の多さでオレよりスピードが出て、先行していた。飛び上がった方向もちょうどオレの正面。
オレは落下してくるスノーを抱き留める!
彼女をお姫様抱っこで無事抱えることが出来た。
「あ、ありがとうリュートくん、助かったよ」
「怪我はなさそうだな。無事でよかった」
オレは心底安堵する。
スノーはストックを今ので手放してしまう。
右足のスキー板も飛び散った石のせいか折れてしまっていた。
これでは滑ることが出来ないが、もうすぐ急な斜面になる。なら、このままオレが抱えて滑った方がいいだろう。
彼女にそう伝えようと口を開きかけるが、突如震度5の地震と勘違いするほどの衝撃がオレ達を襲う。
「…………ッ!」
正面に巨人族が投げた巨大な岩石が落下し、進行方向を塞ぐ。
スピードが乗りすぎて左右に避ける余裕がない!
このままだと激突するか、勢いを殺して止まるしかない!
どちらにしろ巨人族に追いつかれて殺されてしまう!
「りゅ、リュートくん! どうしよう!」
脳みそがフル回転する。
「す、す、スノー! 氷漬け! オレ達が滑る箇所を氷漬けにするんだ!」
「! 了解だよ!」
スノーはこの指示でオレの意図を理解したのか、腕を突き出し魔術を行使する。
「我が呼び声にこたえよ氷雪の竜。氷河の世界を我の前に創り出せ! 永久凍土!」
氷、氷の複合魔術だ。
オレ達が滑る進路が氷漬けにされる。
まるでそれは前世、地球で言うところのスキージャンプ台状態になる。
オレはスノーを抱えたまま、バランスを崩さないように気を付けて滑り台を階段ではなく逆側から進路を塞ぐ巨石を滑り登る。
オレ達はそのまま勢いに逆らわず、即席スキージャンプ台からジャンプ!
「うひゃぁぁぁぁあ!」
「あはははっは! 凄いねこれ!」
オレの口からは情けないことに悲鳴のような物が漏れ、スノーは楽しげな笑い声をあげる。
想像して欲しい。
魔術で肉体や視力などを補助しているからといって、素人がオリンピックで使われるようなスキージャンプ台から飛び立つのだ。
怖がってしまうのはしかたないことだろう。
オレは体全体を魔術で数秒だけ強化。
スノーが舌を噛まないように、膝の柔らかさを意識して雪原へと無事着地。
こんなことは二度としたくない。
心臓に悪すぎる!
しかし悪いことばかりではない。
『I can fly!』状態のお陰で、巨人族からかなりの距離を稼ぐことが出来た。
スピードもすでに自動車並に加速し、斜面を滑り降りる。
最終コーナーを左折。
後はこのまま真っ直ぐ滑れば予定ポイントの渓谷へ到着だ!
目標ポイントへ近づくと徐々にスピードを落とし、最後は完全に停止する。
深谷を繋ぐ橋からはやや距離がある位置でスキー板を外す。
あまり側を狙って停止した場合、誤って落ちる可能性があったため距離を開けておいたのだ。
底が見えないほど深い谷間のあいだを、木材と丈夫そうな紐で作られた橋が繋げている。
谷のあいだは約100m程。
オレはスノーを下ろすと、橋を渡る前に合図を送るため、腰に落ちないように装着していた『GB15』の40mmアッドオン・グレネードを取り出す。
GB15はAKシリーズに無改造で装着出来るし、単体で使用することも出来る。
「リュートくん、急いで! なんだか天気が悪くなってきたよ」
オレが準備に手間取っているとスノーが急かしてくる。
確かに先程から天気がおかしい。
軽くだが吹雪き出している。
本格的に降り出したら、合図の照明弾を発射しても確認出来ないかもしれない。
「ごめん、もう少しで出来るから」
オレは口を動かしながら、手を止めない。
右手を伸ばし腕で片方の耳を押さえ、反対側を左手で押さえる。
右指でGB15のグリップを握り、ダブル・アクション・トリガーを絞り発射!
無事照明弾が上がり、一時的に周囲を強烈な光で覆い尽くす。
吹雪き始め&強烈な光のせいで、オレは一瞬だけ反応が遅れる。
「リュートくん、伏せて!」
「!?」
スノーが飛来する岩に気付き、撃ち終わり気を抜いてしまったオレへと覆い被さる。
そのすぐ上空を岩石が通り過ぎた。
巨人族達が投げつけてきたのだ。
スキージャンプのお陰で未だ巨人族との距離は結構開いている。
今までの大きさの岩石なら、ここまでは届かなかっただろう。
しかし、先程彼らが投げつけてきたのは、いつものより小さい岩だった。
今までの岩石を人で例えるならバスケットボールサイズだったが、今回は野球ボールほどの大きさを投げてきたのだ。
質量は大幅に軽くなるが、その分飛距離が伸びる。
お陰でまだ距離があるのにオレ達まで届いてしまったのだ。
「ありがとう、スノー。助かったよ」
「ううん、大丈夫。それよりリュートくん、後ろ。橋が今ので壊されちゃったよ!」
「ええぇッ!?」
スノーの指摘に振り返る。
彼女の言う通り今の岩石攻撃が橋に激突。
木材がメインで使用された橋は、呆気なく破壊されてしまった。
別の橋まで数十キロ移動しなければならない。
谷と谷の間は約100m。
肉体強化術で身体を補助して、助走を付けてジャンプすればもしかしたらギリギリ渡れるかもしれないが――巨人族が投げつけてくる岩石攻撃を回避するのに専念しなければならないため、そんな余裕がない!
さらに吹雪いてきたため、視界が悪く、横風が強くてコンディションは最悪だ。
オレ達はとにかく肉体強化術で身体を補助!
スノーと一緒に岩石回避に集中する。
「ど、どうしよう、リュートくん!」
「とりあえずまだ生き残る方法はある! クリスが雪崩を起こすから、巨人族が一緒に押し流されるはずだ。その時になったら岩を投げている暇はないはず。その隙に谷を飛び越えるんだ!」
オレは焦るスノーに返事をする。
どちらにしろ、雪崩が起きなければオレ達の命はない。
しかし、雪崩を担当するのはPEACEMAKERの狙撃手――クリス・ガンスミスだ。
雪崩は絶対に起きる。
オレとスノーは、クリスを信じて降り注ぐ岩石を前に回避だけに専念した。
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明後日、8月4日、21時更新予定です!
今日の夕飯はピザを食べました! もらった割引チケットの期限が近かったためですが、たまにピザを食べると美味いですね。コーラと一緒に流し込むと最高です! ……身体的な色々は明日考えると言うことで。