表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

186/509

第182話 迫撃砲

「どうだ、スノー。上手く滑れそうか?」

「うん、大丈夫。問題無しだよ」


 オレとスノーは迫撃砲の準備を一通り終えると、巨人族が来るまでの間にスキーの練習をした。


 オレも最初こそ久しぶりだったため体の動かし方を忘れていたが、練習をしているうちに感覚を取り戻す。

 スノーも少し体を動かしたら、問題なく滑れるようになっていた。

 さすがに運動神経抜群だ。


「よし、それじゃスキーの練習はこれぐらいにしておくか。巨人族が来たらすぐに迫撃砲を撃てるようにしておかないとな」

「分かったよ。でも、もう少しだけ滑っておいてもいい? 最後にもう一度、滑る感覚を確認しておきたいから」

「いいぞ。でも、そろそろ巨人族が来るから滑るのに夢中になるなよ」

「分かったよぉ」


 スノーは返事をして、スキーを滑らせる感覚を体に染みこませる。

 オレはそんな彼女を一瞥してから、念のためもう一度だけ準備された迫撃砲の点検&確認を行う。

 オレ達の肩に、ノルテ・ボーデンの街と万単位の住人達の命がかかっているのだ。

 神経質になって、過ぎることはない。


 では、まずおさらいとして――迫撃砲とは何か?


 前世の地球、第一次世界大戦時代。

 当時、機関銃(マシンガン)が開発され、兵士達はなんとか接近しようと夜襲をかけたり、壕を掘ったりして接近戦に持ち込んで戦うことが多くなった。

 俗に言う『塹壕戦』だ。


 そのため敵味方とも塹壕に篭もるせいで、ライフルや大砲では有効打を与えることが難しくなった。

 そこで手で手榴弾を投げ合うようになった。

 しかし、次第に陣地を作る際に相手との距離が開き、手で投げても届かなくなる。


 その結果、自然な流れで手榴弾を手で投げる以外の方法で、飛距離を伸ばす戦法が発生した。

 最初はライフルの先から手榴弾を打ち出す『小銃擲弾(ライフルグレネード)』だ。

 そして次に『小銃擲弾(ライフルグレネード)』を大型化した迫撃砲(擲弾発射器)が誕生する。


 構造は至って単純。

 砲身(バレル)台座(ベースプレート)、調整ハンドルが付いた(バイポッド)、以上だ。


 迫撃砲の利点は『大量の炸薬を入れることができるため破壊力、殺傷力が高い』『構造が簡単なため持ち運びやすく、取り扱いが楽』『ライフリングを付ける必要が無いため製作コストが安い』『上空から落下するため、より破片がばらまかれ殺傷能力が高い』。


 逆にデメリットは『迫撃砲は砲弾を撃ち上げて垂直に近い角度で落下する兵器のため、弾速が遅く横風の影響を受けやすい』『砲弾が落ちる時の音で敵に攻撃を感知されやすい』などだ。


 迫撃砲にもいくつか種類があるが、通常、砲の口径(サイズ)が、60mmクラスの迫撃砲は5~6人前後の分隊で射撃をおこなう。


 観測手が目標までの距離、風向き、方角など砲撃に必要な情報を割り出す。

 照準手が与えられた情報に従い照準をおこなう。

 装填手が砲弾(弾薬)を筒へと装填――入れて発射する。

 残りの2~3名が弾薬手として、効率的に砲撃できるように砲弾を準備しておく。


 今回、オレ達が使用する迫撃砲は、『M224 60mm軽迫撃砲』だ。

 スペックは以下の通り。


 口径:60mm

 砲身長:110cm

 重量:21.1kg

 発射速度:連続20発/分

最大30発/分

 射程距離:最小70m 最大3490m


 アメリカ軍がベトナム戦争の経験を基に、軽く強力な歩兵用兵器として開発した物だ。口径は60mmながら81mmに迫る攻撃力がある。


 さらに『M224 60mm軽迫撃砲』は、軽いので1人でもハンド・ヘルド射撃が出来る。


 やり方としては、(バイポッド)(砲の中心近くを支える脚のこと。見た目はカメラにつける脚に近い)を使用せず、台座(ベースプレート)も専用のアルミ製の小さなものを使用。(バイポッド)の代わりに手袋を装着した左手で砲身バレルを掴み、照準を行う。


 さらに(セフティ)にセレクターを設定して後に砲弾を装填後、(セフティ)を解除し((トリガーファイア)にセレクターを変更)、右手でトリガーを操作して敵に向かって弾を放つ(通常の迫撃砲は弾を前から落とし込むように装填した時点で撃針に雷管が触れて自動的に発射されるが、M224はセレクター式となっている)。


『M224 60mm軽迫撃砲』なら攻撃力も高く、いざというとき1人で使用出来るためメイヤに手伝ってもらい製作した。


 今回はスノーが居るので、1人で手持ち(ハンド・ヘルド)射撃をする必要はない。




 スノーがスキーの練習を終えて戻って来る。

 迫撃砲からはやや離れた位置にストックと板を突き刺していた。


「スキーってけっこう汗かくね」

「そうだな。厚着しているせいもあるけど、服の下が汗で濡れちゃったよ」

「ごくり」

「……スノーさん、なぜ喉を鳴らす」

「い、いいよね。2人っきりだし、雪原で誰の目も無いし匂いを嗅いでもいいよね!」


 スノーは目の色を変え、息を荒げて迫ってくる。

 ブレねー!

 まったく子供時代からブレなさ過ぎるだろ!?


「い、いや、スノー、一応巨人族が何時来るか分からない訳だし大人しく待機していた方がいいんじゃ……」

「ちょっとだけ、ちょっとだけふがふがするだけだから! ちょっとだけだから!」

「どんだけ必死なんだよ!?」


 スノーはオレのツッコミを無視して、匂いを嗅ごうと迫ってくる――が、その動きを振動が止めた。


『ズゥン……ズゥン……ズゥン……』と雷鳴に似た音も一緒に聞こえてくる。


 ノルテ・ボーデンを目指し突き進む巨人族の群れが姿を現す!


「来た来た来た! スノー、弾薬準備!」

「了解!」


 スノーは指示に従い迫撃砲の弾薬に手を伸ばす。

 オレは改めて侵攻する巨人族を確認し、照準を調整する。

 前世の地球の場合、GPS&弾道計算コンピューターのお陰でピンポイント攻撃に向かない迫撃砲でも正確な砲撃が出来るようになったとか。だが当然ここにはそんなものはないので、全て自分達でおこなわなければならない。

 スノーから弾薬を手渡される。


「はい、リュートくん、弾薬」

「ありがとう」


 オレはスノーの返事を聞くと、受け取った弾薬を砲身(バレル)に半分ほど入れる。

 今回使われる弾薬は、アメリカの物ではなく、ドイツのを採用し製作した。

 それが39式跳躍迫撃砲弾だ。


 普通の迫撃砲は、地表面で爆発するが、地表面が泥や雪の場合、深く埋まって効果がなくなってしまう。そのため時限信管を使用し空中で爆発させていた。

 しかし、現場の兵士にとって、戦場でいちいち信管をセットするのに射表や面倒な計算などに時間を割くのは喜ばれない。

 ただ弾薬を装填して発射する方が好ましいに決まっている。


 そこでドイツ陸軍が、画期的な弾薬を開発した。

 それが39式跳躍迫撃砲弾――バウンド・ボムだ。


 一見すると見た目は在来型の弾薬と似ているが、三九式跳躍迫撃砲弾は弾頭部と弾体(胴体の部分)に分かれており、弾頭部はピンによって弾体と結合している。

 弾体には短延期信管(着弾後ほんの少しの間を置いて爆発するよう調整された信管)が使われており、弾頭部には、推進薬と遅延のない着発信管(瞬発信管)が使われている。

 弾着すると同時に弾頭部の瞬発信管が作動し、推進薬が爆発。

 弾頭部と弾体を繋いでいるピンが破壊され、弾体が空中へ跳躍。

 弾体がある程度の高さに達した頃に、短延期信管によって弾体(主炸薬)が爆発。


 複雑な時限信管を用いなくても、望ましい空中爆発が得られるというわけだ。

 労力を考えたら、時限信管よりバウンド・ボムに手を出す方が賢明である。


「それじゃ行くぞ? 覚悟はいいな?」

「もちろん! いつでもいいよ!」


 スノーの返事を聞いて、オレは力強く頷くと弾薬の手を離す。


「発射!」


『ドン!』という発射音を鳴らし、弾薬が約1キロ先を侵攻中の巨人族へ向かって発射される。

 ぐんぐん伸びて一度地表で小爆発、本体が空中へ持ち上がりメインが爆発する。

 作戦開始の爆発音(ゴング)が鳴り響いた。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明後日、8月2日、21時更新予定です!


活動報告を書きました。

よかったらご確認ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ