第175話 合流
「――ッ」
目が覚める。
白い天井が視界を覆う。
「そうか……ここはスノーが作った雪洞シェルターのなかか」
アイスを庇い腹部に傷を負い崖から落ちたオレを、スノーが助けてくれたんだ。
腹部の傷も彼女が治癒魔術で治してくれた。
ただ血までは魔術で作り出すことが出来ない。そのため貧血でまだ上手く体を動かすことが出来ずにいた。
「……スノー?」
雪洞シェルターは広くない。
せいぜい3畳ほどだ。
しかし、部屋に彼女の姿はない。
確かに昨夜、抱き合って眠っていたはずなのに……。
オレの上着が無くなっている。
「!? まさか!」
ふらつく体で、上着以外の衣服と装備を着て外へと這い出る。
吹雪はすでに止み、日も昇っている。
周囲は何もない平原だ。
人の気配が微塵も無い。
スノーの足跡ひとつ無いのだ。
(まさか……白兵士を引きつけるため、1人で外へ出ていったんじゃッ)
オレが傷を負って崖から落ち、それをスノーが助けた姿を白兵士達は目撃しているだろう。
前方組にはスノーの両親と、領主の息子アムが居る。
あの3人なら、アムの弟と白狼族の子供達を守りながら逃げるのも難しくはない。
敵の白兵士達が、足手まといのオレが居る白狼族のスノーを探すのは想像に難くない。
人質として捕まえ、アムやスノーの両親を引っ張り出すには最高の人材だ。
スノーはそれを理解し、適当な木材か何かにオレの上着を着せ、白兵士達の目を自分に集めるため移動したのだろう。
オレが敵の手に落ちないように……ッ。
『リュートくんがわたしのことを絶対に助けてくれるように、わたしもリュートくんに何があっても助けるよ。わたしだけじゃないよ、みんなも何があってもリュートくんを助けに来てくれるよ。わたしはみんなを信じているから』
昨夜、抱き合って眠った時、スノーの言葉を思い出す。
あの時点で、彼女は覚悟を決めていたんだ。
たとえ敵に捕まったとしても、絶対にオレ達が助けに来ると信じて。
「あの馬鹿、無茶なマネしやがって……ッ」
いや、馬鹿はオレだ。
不意打ちとはいえ、敵の攻撃を受け負傷し崖から転落。
結果、スノーはオレを守るため1人時間稼ぎに出たのだ。
「絶対に何がなんでも助け出してやる……ッ」
彼女が本当に白兵士に捕まったかどうかは、現段階では分からない。
兎に角、まずは皆と合流するのが先決だろう。
血が足りず、上手く動くことが出来ないが、武装は整っている。たとえ狼が群れで現れても全滅させられるほどの戦力だ。
大抵の魔物なら問題無く倒せるだろう。
そう、大抵の魔物なら――だ。
準備を整え、移動しようとすると、雷鳴に似た音が聞こえてくる。
『ズゥン……ズゥン……ズゥン……』
この音に聞き覚え上がる。
「おいおいおい……ついて無いにも程があるだろう」
自身の運の無さに思わず自嘲してしまう。
こちらを目指すように一体のはぐれ巨人族が歩いてくるのだ。
極まれに、巨人族の群れから外れる個体が居る。
そのはぐれ巨人族が、ルートに迷い運悪く街へ行くことがある。そうなったらもう戦って倒すしかない。
そんな巨人族対策のためノルテ・ボーデンなどには、巨大な城壁が建造されているのだ。
オレへと迫ってくる巨人族も、群れからはぐれた1体だろう。
大きさは10メートル程。
巨人族では小型な部類だ。
数も1体のみ。
手には本体と同じ素材で出来た長槍を手にしている。
血が足りないため体が思うように動かず、背を向けて逃げるのも不可能。
戦うしかない。
「巨人族の群れに遭遇するよりはマシと思うしかないな」
安全装置を解除。
セミ・オートマチックへ。
コッキングハンドルを引き、薬室にまず弾を1発移動。
AK47の銃口を向かってくる巨人族へと向ける。
ダン!
発砲。
7.62mm×ロシアンショートが巨人族の胸を撃つが、軽く弾かれる。
微かに表面を削っただけだ。
「クソったれ! やっぱりこんな小火器程度じゃ歯が立たないか!」
だが、こちらにはまだ『GB15』の40mmアッドオン・グレネードがある。
相手は巨人族だが、所詮は1体のみ。十分勝機はある!
オレは巨人族の胴体に狙いを定め、『GB15』の引き金を絞る。
『ドン!』と発砲音を鳴らし、狙い違わず巨人族の胴体へと吸い込まれるが――
「嘘だろ!?」
巨人族はAK47の時とは違い、槍を持たない左腕を楯にしたのだ!
結果、巨人族の左腕をもぐことは出来たが、倒すことは出来なかった。
「こいつ!」
オレは『GB15』に次弾を装填しようとしたが、巨人族はそれを許さない。
右手に握っていた槍を投げつけてきたのだ。
「ぐあぁッ!」
槍はオレのすぐ側に着弾。
勢いに吹き飛ばされ、雪原を転がる。
手からAK47と40mmアッドオン・グレネードの弾を手放してしまう。
「ち、ちくしょう……木偶の坊の癖に……ッ」
貧血と吹き飛ばされた衝撃でクラクラ回る視界。
巨人族は歩みを止めず迫ってくる。
ヤツに対抗する術はもう無い。
だが、オレは決して諦めず、サブアームである『H&K USP(9ミリ・モデル)』を抜き発砲。
ダン! ダン! ダン!
巨人族は9ミリの弾丸を受けてもまったく気にせず歩み続ける。
それでもオレは引き金を絞り続けた。
ダン! ダン! ダン! ――バガン!
「なッ!?」
最後の1発を発砲した直後、巨人族が爆発。
腰の辺りから真っ二つに折れ破壊されてしまう。
思わず手にしている『H&K USP(9ミリ・モデル)』に目を落とす。
「も、もしかして極限に追い込まれたせいで内に眠る力が弾薬に宿り巨人族を爆砕したんじゃ……」
「若様、ご無事ですか!?」
と、そんな都合良く内なる力に目覚めた訳ではなかった。
巨人族に隠れて気付かなかったが、クリス、リース、シア、メイヤ、そしてアイス達が揃っていた。
巨人族が爆砕したのも、シアが背後からパンツァーファウストを放ったお陰らしい。
皆がオレの側へと駆け寄ってくる。
『ギリギリで間に合ってよかったです』
クリスが涙目でミニ黒板を突きだしてくる。
「ああ、お陰で助かったよ。しかし、よく僕の居場所が分かったな」
「お香のお陰よ。それと……庇ってくれてありがとう。そのせいで凄く迷惑をかけちゃってごめんなさい」
「いいや、大丈夫。アイスに怪我が無くてよかったよ」
アイスが本当に申し訳なさそうに頭を下げてくる。
オレ自身が勝手にやったことで、彼女が居たたまれない気分になるのは筋違いというものだ。
また、お香とは確か、彼女から外れた時の緊急用に渡された物だ。
何でも白狼族の者なら、匂いが風に乗りかなりの長距離でも嗅ぐことが出来る品物らしい。そのお香をスノーが焚いてくれていたお陰で、オレの居場所を特定できたのだ。
駆けつけると丁度、オレが巨人族に襲われている所だった。
本当にギリギリで間に合ったらしい。
オレは改めて感謝する。
「本当にありがとう。お陰で助かったよ。それで今、どんな状況なんだ?」
皆、暗い表情で顔を合わせる。
皆は一度、白狼族の村に戻り体勢を立て直した。そして、偵察を行ったら他の白狼族やアム、スノーの両親が敵の白兵士達に捕まっていたことが分かったらしい。
白狼族は同族を見捨てることが出来ない一族だ。
どうやら敵は白狼族の子供達を捕らえ、人質にしたせいで大人達を皆、無条件降伏させたらしい。
その中でアムの弟のオールが、白兵士達を傅かせ指示を出していた。
白兵士達の会話を盗み聞くと、どうやら父・トルオが主ではなく、オールが本当の雇い主だったらしい。
オレ達はまんまと一杯喰わされたわけだ。
彼らは現在ノルテ・ボーデンへ移送中で、城へついたら地下牢獄へと監禁されるのだろう。
オレも話を聞き終えると、彼女達にこちらの状況を説明する。
スノーに怪我を治癒してもらったが、血を流しすぎたため貧血気味。スノーがオレを庇い、単身移動し白兵士達を攪乱していること。
しかし、現在はその攪乱も落ち着き、白兵士達は城へと引き上げてしまった。
恐らくだが……状況を考えると、スノーは彼らに捕まってしまったようだ。
こうして、現在の情報の摺り合わせを互いに終える。
オレは貧血の体だったが、怒りによって目を爛々と輝かせる。
「オールのヤツ、随分陰険なマネをしてくれたじゃないか……」
文字通り腑が煮えくり返るようだ。
白狼族に理解があるそぶりをしていたのは、全て演技だったのだろう。
ただの名誉貴族であるオレが、他国の上流貴族の城を攻め落とすなんて――と躊躇っていたが、こうなったら容赦はしない。
外交的にかなり不味い事態や下手に目立って、『オレの正体がばれるかもしれない』なども、もう関係ない。
アムやクーラ、アリル、他白狼族達を捕らえただけではない。
オレの大切な幼馴染みで、妻のスノーに手を出しやがったんだ!
オレ達のもてる全兵力を駆使して、スノーに手を出した奴等や救出の邪魔をする輩共は全員地獄へ叩き落としてやる!
「PEACEMAKERに喧嘩を売った落とし前を、きっちりつけてやる」
オレはスノーがいない、PEACEMAKERメンバーを見回し断言する。
「さぁ、戦争の時間だ……ッ」
ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
明後日、7月19日、21時更新予定です!
感想ありがとうございます!
先週の日曜日、デパートに小鍋を買いに行ったら、妖怪○ダルを買うための行列が出来てました。
親子連れが、『コミケかよ!?』ってぐらい列を作ってました。
今、本当に妖怪メ○ルって流行ってるんですねぇ……。