第172話 移動
敵から襲撃を受け、移動する途中。
スノーの両親から、オレの過去――異世界で生まれ変わった両親や出来事を聞かされた場所を通り過ぎる。
「ここから先は暗くて分かり辛いが、左側が急な斜面になっているから落ちないように気をつけるように」
白狼族の緊急避難地点へと先導してくれるスノーの父、クーラが後ろに続くオレ達へ声をかけてくる。
言われて左側に視線を向ける。
暗すぎて分かり辛いが、『急な斜面』というより崖に近い気がするのだが……。
進む順番はクーラ、アリル夫婦。領主の息子であるアム、オール兄弟。白狼族の子供達に白狼族の少女アイス。最後に後方を警戒しながらオレ達が進む。
すでに村から大分離れたせいか戦闘音はもう聞こえてこない。
空は今にも吹雪きそうな曇天のせいで、星の光すら遮られる。暗すぎて、すぐ目の前を歩くアイスの背中すら見失いそうだ。
「――若様! アイスさん! 危ない!」
オレの後ろを歩いていたシアが、背後から飛びかかってくる。
オレとアイスの衣服を掴み、引き摺り倒す。
ほぼ同時に、頭上を鋭い擦過音が通り過ぎる。
雪に刺さったそれは、魔術で作られた土矢だ!
敵襲!?
「シア、助かった!」
オレは手短に礼を告げ、土矢が飛来してきた右側森林へとAK47を発砲。
雪に倒れながら、暗闇へ弾丸を発砲する。
スノー、リースも続き引鉄を絞る。
銃弾の切れ間。
再び、複数の土矢が襲いかかってくる。
オレは立ち上がり、肉体強化術で身体補助!
アイスの手を引き後方へと下がろうとする。
だが――咄嗟の行動とはいえ、それは裏目に出た。
オレ達が進む隊列に敵が割って入り、『スノー両親、アム、オール、白狼族子供達前方組』と『オレ達とアイスの後方組』という形で分断されてしまう。
しかも、相手はオレ達の飛行船を襲ったあの白い兵隊――敵の秘密兵士隊だ。
「またこいつらか! しかも待ち伏せって!? どうして移動した先に居るんだよ!」
さらにまた魔術による攻撃を察知することが出来なかった。
魔術師は魔力に反応する。
そのため魔術師を魔術で襲撃、奇襲をかけて殺害するのは難しい。
襲う前に魔力の流れに気付かれてしまうからだ。
なのに、こいつ等は魔力を使用しているのに感知することが出来なかった。方法は分からないが、何かしらの方法で一定以上の魔力の流れを感知させないことが出来るようだ。
つまり、魔術での暗殺がやりたい放題ということだ。
もしそうだとしたら、チート過ぎるだろ!?
シアが土矢に気づけたのも魔力を察知したのではなく、飛んでくる擦過音を鋭敏に察した結果だ。
全身を白い甲冑で覆った兵士が肉体強化術の身体を補助した鋭い動きで迫ってくる。
オレはAK47の銃口を向けるが、
「くっ――」
直前で発砲を思いとどまる。
腰からナイフを抜き、相手の手刀をいなす。
前方には『スノー両親、アム、オール、白狼族子供達』が居る。
このまま発砲して、敵に銃弾を回避されたら彼らに当たってしまう。
敵もそれを理解しているため、オレ達の間に入って来たのだ。
オレはすぐさま、後ろにいるスノー達に指示を飛ばす。
「正面の敵へは発砲するな! 前に居る味方に当たる! 右側面から襲ってくる敵のみ発砲するんだ! メイヤとアイスはオレ達の内側に回れ!」
クリス達が返事をすると、彼女達は側面から襲ってくる白兵士達を相手取る。
白狼族の少女であるアイスは魔術師ではない。
メイヤは魔術師だが、開発メインの素人だ。
彼女達を守るため、オレ達は2人を囲うような陣形を取る。
メイヤ、アイスを内側に。
彼女達の楯のようにクリス、リース、シアが側面を担当。
前方正面をオレとスノーが相手をする。
正面の敵は2人。
オレとスノーは肉体強化術で身体を補助。
腰からナイフを抜き、AK47の先端へ装備。銃剣にして敵との白兵戦へと望む。
白兵士は両腕から刃を生やし、振るってくる。
その動きは素早く、よく訓練された動きだった。
オレとスノーは銃剣を装備したAK47のリーチを生かして、敵を牽制する。
時には前方に居る仲間に当たらないよう発砲するが、白兵士達にはヒットしない。
肉体強化術で身体を補助しているのもあるが、前方の仲間に当てないよう配慮した撃ち方のためどうしても発砲タイミングが簡単に読まれてしまうのだ。
さらに悪いことに、側面の白兵士達は抑えられるが、オレとスノーが相手をする前方は人数が増え出した。
現在は5人ほど居る。
お陰で後退を余儀なくされる。
前方のスノー両親組とはすでに約2~30メートルは離されてしまっただろう。
無理に前へ進もうにも、こちらには守るべきメイヤ、アイスが居る。
オレは胸中で舌打ちした。
(クソ! このままではジリ貧だ。だからと言って、犠牲覚悟で無理をするわけにはいかないし……ッ。特殊音響閃光弾で敵を混乱させて、一気に駆け寄るしかないか!?)
ダン!
牽制のための射撃。
白兵士達が警戒して大きく距離を取る。
オレはその隙に、側面を防衛するリースへ声を掛けようと振り向く――その時、オレの後ろにいたアイスがミスを犯してしまう。雪に足を取られ、バランスを崩してしまったのだ。
「きゃぁっ……!」
1本の土矢が間を抜け、体勢を崩したアイスに高速で飛来するのをオレは視界端で捕らえる。
強化された視覚だからこそ認識出来たのだ。
アイスでは間違いなく回避は不可能。
オレはとっさに彼女の前に立つ。
次の瞬間――オレの腹部に深々と土矢が突き刺さる。
「……ッ!!」
防寒具は着ていたが、防弾チョッキ(この異世界の素材を使用した皮の胸当て的な見た目の防具)は奇襲だっため装備していない。
オレは土矢の勢いと激痛に蹈鞴を踏み、倒れてしまう。運が悪いことに倒れた場所は急な斜面――ほぼ崖だったせいでそのまま滑り落ちてしまう。
「リュートくん!」
一瞬の無重力感。
視界一杯にスノーが飛び込んでくるように腕を伸ばしてくる。
彼女に抱き留められ、崖に背中をぶつける。
オレが覚えていられたのは、そんなところまでだった。
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明後日、7月13日、21時更新予定です!