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第15話 冒険者斡旋組合

 リュート、10歳。

 装備:S&W M10(リボルバー)

   :AK47(アサルトライフル)




 アルジオ領ホードの孤児院を出て約2ヶ月。

 エル先生の妹であるアルさんがいる街、海運都市グレイに辿り着く。

 この街は海運貿易で栄えており、孤児院がある町とは比べものにならないほど大きい。

 街を治めている貴族の屋敷を中心に街の真ん中には高級住宅街が広がり、東は港、南は商店、北は一般的な庶民の住宅地、西は冒険者関連が集まっている。


 街に着いたのが夕方で、荷物も多い。

 この状態でアルさんを尋ねるのはさすがに迷惑だろう。

 オレは西の冒険者区画で大銅貨5枚の中堅宿を取った。

 明日、起きたらアルさんの所へ向かうことにしたのだ。


 借りたのは、鎧戸有り、部屋の扉に鍵付き、ベッド、机、椅子がある簡素な部屋だ。前世でのビジネスホテルといったところか。

 もっと安い宿もあったが、魔術液体金属(金目の物)があるため戸締まりがしっかりしている方を選んだ。


 宿の隣にある飲み屋で食事を終え、さっさと戻り眠ることにする。

 護身用にリボルバーを枕の下に入れて横になる。


「………………やっぱ枕の下は無いな」


 根が小心者のため誤って暴発したら――と考えてしまったらもう駄目だった。疲れているのに眠りに落ちる気配がまったくない。

 オレは諦めてリボルバーを枕の下から取り出し、テーブルの上に置いた。

 お陰で眠りはすぐに訪れる。

 結局、旅の疲れから翌日の昼近くまで眠ってしまった。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




「アル? ああ、あのダメ獣人。その子は前の住人よ。あの子なら借金の形に奴隷として売られたわ。行き先は魔物大陸だから、まず生きては戻ってこられないでしょうね」


 エル先生の手紙に書いてあった住所を頼りにアルさんを尋ねた。

 場所はいかにもな裏路地。

 日があまり差さないせいか、どんよりと重く湿っている気がする。濡れた洗濯物を1週間置いてたらキノコが生えそうな感じだ。


 道ばたには酔っぱらいが昼間から酒瓶を煽り、浮浪者がぶつぶつと壁に寄りかかりながら何かを呟いている。男と女の怒鳴り声が響き、物が荒々しく倒れる音が続く。さらに前世でいうマフィア風の集団が、ちらちらとこちらに視線を向けている。……今にも拉致されそうな空気だ。


 裏街道、スラム街、売春窟――そういった裏社会の空気がプンプンする。


 目的の建物を見つけて扉をノックすると、夜勤明けなのか眠そうな人種族の色っぽい女性が顔を出す。

 ネグリジェ姿で、上に薄いカーディガンのようなものを羽織っている。

 エル先生の妹だから、獣人種族(じゅうじんしゅぞく)では? と疑問を抱き尋ねると、先程の返答が帰ってきたのだ。


「ここじゃ有名だったわよ。飲む、打つ、買うは当たり前、冒険者仲間に借金してはよくトラブル起こす問題児。喧嘩っ早くて、弱い物には強く、強い者には弱い。ほんと、ひどかったわよね」

「アルさんは女性ですよね。飲む、打つは分かりますが、買うって……」

「女の子好きなのよ。新人の女冒険者に親切な先輩を装って近づいて、クエスト中に襲ってものにしたって酒場で自慢してたこともあるわ」


 女性なのに女好きって……。


「冒険者の誰からもお金を借りられなくなると、危ない筋に手を出してね。結局、ギャンブルで破産。返せなくて奴隷堕ちして魔物大陸行きよ。でも、あいつ『自分には孤児院を経営する姉がいる! 孤児院を卒業したガキ達が、大金を送ってるからその金を借りれば借金なんてすぐに返せる。姉なら絶対に払ってくれるから!』って騒いだのよ」


 魔物大陸――いまだに5種族英雄でも倒せなかった魔王がいると言われている大陸。魔王の影響のためか、他大陸とは段違いに魔物の数・質とも高い。

 魔物大陸に行ったら、まず生きて戻れないのがこの世界の常識だ。


 そしてそれよりも重要なのは、エル先生の存在が話に出てきた所だ。


「えぇっ、姉に借りるって、アルさんはそんなこと言ってたんですか……!?」

「有名よ、姉が私財を投じて、孤児院を営んでるって話。あいつ、酔っぱらってよく話してたから。でもさすがにその筋の奴らも、天神様みたいなお姉さんからお金は取り立てられない、むしろ、このクズ獣人をこれ以上彼女や子供達の側に近づけさせないほうがいいってことで、奴隷に落として魔物大陸に送ったって話よ」


 その筋の人達にもクズ呼ばわりされる先生の妹って……いや、確かに話を聞く限りクズだけど。


「この世界には生きてちゃいけない、死んだ方が世のためって輩がいるのよ。どんなつもりであいつに会いに来たか知らないけど、関わらずに済んでよかったわね」

「ですね、運が良かったかも……」


 エル先生の紹介だから尋ねてきたのだが、本当に弟子入りしなくてよかった。

 弟子入りしたら搾取される未来しか見えない。


「お姉さんの孤児院を出た子供でしょ? だったら今の話、お姉さんにはしないほうがいいわよ。どんなクズでも、血を分けた家族だからね。魔物大陸に行ったなんて耳にしないほうがいい。知らない方がいいことなんて、世の中いっぱいあるから」

「もちろんです。むしろ先生に出す手紙に、妹さんは遠いところに旅立ったとでも書いておきますよ」

「物わかりのいい子はお姉さん好きよ」


 女性は苦笑して、くしゃくしゃとオレの髪を撫でた。

 ネグリジェ越しに胸がぷるぷる揺れるのを堪能したのは言うまでもない。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




「さて、どうするか……予定が大幅に狂ったぞ」


 オレは表通りに戻り腕を組む。


 表通りは貿易の街だけあり妖精種族(ようせいしゅぞく)獣人種族(じゅうじんしゅぞく)、人種族の姿が多い。そしてそれらに比べれば数は圧倒的に少ないが、竜人種族(りゅうじんしゅぞく)魔人種族(まじんしゅぞく)の人達も何人か見掛けた(たぶん額に角が生えていたり、コウモリの羽を生やしていたりしたから魔人種族(まじんしゅぞく)だと思う)。


 さらに、屋台や市場も人で賑わっている。

 子供達が小遣いを手に、甘い菓子の屋台に並ぶ姿は微笑ましい。


「エル先生の妹に冒険者として弟子入りするはずだったけど、どうしたもんか……」


 選択肢は3つある。


 ①スノーの後を追って魔術師学校側の街で冒険者をやる。

 ②孤児院に戻る。

 ③この街で冒険者を始める。


 理想を言えば①だ。

 やはりオレも好きな人とは一緒にいたい。

 スノーには卒業したら会おうと言っていた訳だが、こうなったのもある種運命かもしれないし、頼る人がいなくなった以上ここにいても仕方が無い。


 だが着いたばかりですぐに移動するのも精神的に辛い。

 車・電車・飛行機を知っている身からすると、馬車や徒歩での移動は本当にしんどい。


「とりあえず③かな。この街で冒険者をやってみて、ある程度感触を掴んだらスノーの所へ行くか」


 幸いリバーシのお陰で資金には大分余裕がある。

 倹約すれば数年暮らせるぐらいは持っている。


 そうと決まれば早速、冒険者斡旋組合(ギルド)へ行くことにする。

 今居る場所は冒険者関連が集まった区内。

 歩けばすぐに冒険者斡旋組合(ギルド)の建物が見えてくる。


 冒険者斡旋組合(ギルド)の建物は、3階建ての木造だ。

 体育館ほどの大きさで、冒険者らしき人達がひっきりなしに出入りしている。


 人種族、妖精種族(ようせいしゅぞく)(エルフやドワーフなど)、獣人種族(じゅうじんしゅぞく)がメインで、竜人種族(りゅうじんしゅぞく)魔人種族(まじんしゅぞく)の姿は少ない。


 銃刀法などはもちろん無い世界のため、大型の剣を背中にさげた獣人、長い槍を持つドワーフ、ローブを纏ったいかにもな魔術師、フルアーマー姿の人種族らしき人物などが、外の掲示板に張り出されている文章に真剣に見入っている。


 オレはその人混みを掻き分け中へと入る。


 中は銀行や市役所のようにカウンターが並び、一定の間隔で区切られていた。

 その区切られた空間に受付嬢が座り、冒険者達と会話をしている。


「いらっしゃいませ。今日はどういった用件でしょうか?」


 田舎者のようにキョロキョロ中を見回していたオレに、民族衣装っぽい衣服に袖を通し、頭に三角巾を結び、白いエプロンを腰に巻いた女性が声をかけてくる。


 冒険者斡旋組合(ギルド)で働く女性スタッフは皆、同じ恰好をしていた。

 彼女は案内係なのだろう。


「冒険者の登録をしたいのですが」

「でしたらこちらの用紙に記入をお願いします。失礼ですが、代筆は必要ですか?」

「大丈夫です。読み書きはできますから」

「では、この札の番号が呼ばれましたら、カウンターまでお越し下さい」


 木の札には『33』と焼き印が押されていた。


 案内された机は簡素なもので、銀行や郵便局のように2つ向かい合わせ×6――合計12個が等間隔で置かれている。


 渡された用紙に羽ペンとインク壺を使い、必要事項を記入していく。


 名前、年齢、出身地、種族、信仰する宗教、魔術師か否かその場合のランク、前職、使用する基本的な武器、使用言語、使用文字等々。


 死亡、事故、病気に一切冒険者斡旋組合(ギルド)側は関与しない、さらに冒険者登録料金に銀貨1枚が必要との但し書きもある。


 全て読み、問題無しに○を書く。


 約10分ほどかかって全てを埋めた。


 ちょうど声をかけられる。


「33番でお待ちのお客様、こちらにどうぞ」


 受付の女性がオレを呼ぶ。


 受付嬢は魔人種族(まじんしゅぞく)らしく頭部から羊に似た角がくるりと生え、コウモリのような羽を背負っている。


 年齢は20台前半。前世で例えるなら短大を卒業して、就職した女性社員といった風体だ。

 冒険者斡旋組合(ギルド)服がよく似合っている。


 オレは用紙を手に、足早に駆け寄った。

 用紙と『33』の木板をカウンターに出して、席に座る。


「よろしくお願いします」

「お預かりいたします。リュートさんですね。今日は冒険者登録で問題ありませんでしょうか?」

「はい」

「一応、冒険者斡旋組合(ギルド)に所属するのに年齢制限はありませんが、病気、怪我、死亡事故、各種トラブルなど、全て本人の自己責任になってしまいますが、本当に冒険者に登録しても問題ありませんか?」


 年齢制限は無いが、冒険者として登録するにはオレは若すぎると言いたいのだ。


 周囲を見回しても同い年くらいの子供はいない。

 歳が近そうなのでも15歳ぐらいだろう。


「大丈夫です。問題ありません。なので手続きの方よろしくお願いします」

「分かりました。それでは登録料、銀貨1枚になります」


 オレは取り出した革袋から銀貨1枚を取り出し、木でできた受け皿に置く。


「それではあらためて、冒険者についてご説明させていただきますね。冒険者とは――」


 受付女性が説明を始める。


 要約すると……冒険者とは基本的には何でも屋である。


 また冒険者によって、得意分野が違ってくる。


 魔物退治専門なら ――モンスターハンター

 遺跡、迷宮専門なら――トレジャーハンター

 護衛任務専門なら ――ガーディアン

 対魔術師専門なら ――魔術師殺し

 対人戦専門なら  ――傭兵、賞金首ハンター


 などなど、いくつもの種類がある。代表的なのがこの辺だが、さらに細かく専門分野が分かれている。

 冒険者はある意味、足の軽い専門家の集まりなのだ(もちろんいくつも専門分野をこなす冒険者もいる)。


 冒険者のランクは――

 レベルⅠ

 レベルⅡ

 レベルⅢ

 レベルⅣ

 レベルⅤ


 5段階に分類される。

 初心者はレベルⅠ。

 最高がレベルⅤ。


「こちらがリュートさんの冒険者登録タグになります。タグに記されている数字『Ⅰ』が現在の冒険者レベルとなります」


 この薄い金属で出来たタグが、冒険者を示す資格票になる。

 大きさは前世の兵士が持っているドッグタグほど。

 名前、冒険者レベル、魔術の有無、信仰する宗教が、魔術によって刻まれている。


 タグについて禁則事項も聞かされた。


 本人以外の使用禁止。

 貸し出し禁止。

 タグの売買禁止。

 偽造・勝手な内容変更禁止(特殊な防止魔術が施され、本人確認が行われるため偽造は不可能らしいが)。


 盗難・紛失の場合、すぐさま使用不可にするので、すぐに冒険者斡旋組合(ギルド)へ届けを出すこと。


 再発行する場合、面談と再発行料(銀貨5枚)がかかる。


 以上の決まり事に反する行為を行った場合、レベルの降格。

 最悪、ギルドから退会させられ二度と登録してもらえなくなる。


 また、もしクエスト中にタグを発見した場合、ギルドに持ち帰ると謝礼金が出る。


 仕事を受ける方法は5パターン。


 ①募集掲示板から、仕事を選択し依頼を受ける。

 ②窓口で相談の上、仕事を選択する。

 ③依頼主から直接、依頼を受ける。

 ④ギルドから本人に直接、仕事を依頼する。

 ⑤その他(突発的に依頼仕事に巻き込まれる等)。


 レベルⅠの冒険者が、レベルⅤの仕事を請け負うことはできない。

 高レベル冒険者が受けたレベルⅤのクエストに、レベルⅠの冒険者を同行させることも禁止されている。


 レベルⅤのクエストは高い報酬金が支払われるが、命にかかわる極限状況が殆ど。足手まといを増やし、貴重なレベルⅤの人材を最悪死亡させてしまうケースもあるため禁止されている。


 逆にレベルⅤの人が、レベルⅠの仕事を受けても問題なし。

 罰則は存在しない。


「ただし暗黙の了解として、そのような行為は眉を顰められるため本当に必要な場合以外はしないことをお薦めします」

「本当に必要な場合って……レベルⅤの人が、レベルⅠの仕事を受ける必要がある場合ってどういうのでしょうか?」

「個人の繋がりなどでの依頼……とかでしょうかね。レベルⅠだとちょっと極端で滅多に無いと思いますが、レベルⅢ程度であれば、空き時間があったから等の理由で仕事を受ける方もいらっしゃいます」


「レベルを上げる方法は、依頼をこなしその実力に応じてギルド側が順次あげていきます。その判断基準は常に公平。種族差別は一切ありません。5種族英雄の名に賭けて」


 5種族勇者達が魔王を封印した後、未だ全世界に跋扈する魔物退治を弟子達に行わせた。

 それが、冒険者斡旋組合(ギルド)の始まりだ。


 そのため冒険者斡旋組合(ギルド)の看板には、5種族英雄のシルエットが焼き印されている。


「ここまでの説明で分からなかった点などはありますか?」

「分からない点じゃないんですが。将来的に軍団(レギオン)を立ち上げたくて。創設条件があれば教えて頂いてもいいですか?」

「はい、もちろんです」


 初心者なのに軍団(レギオン)を立ち上げたいという台詞に、受付嬢は嫌な顔ひとつせず快活に答える。

 好感が持てる女性だ。

 こういう人が職場のマドンナとして冒険者達の憧れの的になり、誰かと結婚して退職、皆から惜しまれつつ祝福されるんだろうな。


 そんなことを考えていると、受付嬢が軍団(レギオン)創設条件を説明してくれる。


軍団(レギオン)創設には、発起人としてレベルⅤ×1人に加えてレベルⅣ×2人以上の署名が必要になります。軍団(レギオン)を旗揚げした場合、毎年売り上げ金額によって、冒険者斡旋組合(ギルド)に一定額の税金を納めて頂きます」


「税金を納めるんですか?」


 意外な条件に思わず聞き返す。


「税金を納めて頂く代わりに優良クエストやご希望のクエストを優先的に斡旋し、ご希望の人材を紹介させて頂いております」


 なるほど一応メリットはあるわけだ。


 もちろん税金の数字を誤魔化した場合、追加徴税があり最悪、軍団(レギオン)の権利を剥奪される。

 最後に軍団(レギオン)の揉めごとには一切、冒険者斡旋組合(ギルド)は関知しないと断言された。


「それでは最後に、クエストの紹介をさせて頂きます」


 いよいよ、冒険者らしくなってきた!


 説明によると、


 レベルⅠなら草むしり、引っ越しの手伝い、行方不明のペット捜索、家庭教師のバイト(これはやや高額)――基本金額、大銅貨5枚~銀貨1枚。

 完了すれば、1日の宿&食事には困らない。


 レベルⅡなら周辺の魔物退治――基本金額、銀貨1~3枚。


 レベルⅢなら遠出する必要があるものや、高レベルの魔物退治、荷馬車の護衛など――基本金額、銀貨5~金貨1枚応相談。

 ここから預け金が発生する。

 仕事だけ受注して参加しないのを防ぐための制度だ。クエスト後は返金される。

 またここまでが個人の仕事になる。


 レベルⅣなら仕事は要相談。金額も要相談。重要人物の警護や賞金首の魔術師退治など。


 レベルⅤならはぐれドラゴン×1、巨人族×1などの退治。


「レベルⅣ、Ⅴになりますと個人ではなく、チームの評価となります」

「チームと軍団(レギオン)とでは何が違うんですか?」

「まず軍団(レギオン)の場合、軍団(レギオン)名があります。チームは名前がなく、面識のない不特定の冒険者達が一時的に集まる場合を指します」


 チームのメリットは人数制限がとくに無く、税金がかから無い等。

 デメリットは軍団(レギオン)に回されるような美味しいクエストを依頼されにくい、人材を引き抜かれても文句が言えない等。


 軍団(レギオン)のメリットは、美味しいクエストを依頼されやすい、入団試験を設けられるため一定水準の人材の確保ができる等。また退団条件や軍規を作ることも出来、違反者にペナルティーを科す事も出来る。違反者が目に余る事をした場合、最悪冒険者斡旋組合(ギルド)からの追放もありうるらしい。


 デメリットは冒険者斡旋組合(ギルド)に税金を納める必要がある、一度入るとなかなか抜け出せないため入団するのに二の足を踏む場合が多い、等だ。


「リュートさんはレベルⅠのため、今受けられるクエストは『家庭教師』『ペット探し』『買い物代行』『店番、手伝い』『土木工事手伝い』『薬草取り』等ですがいかがですか?」

「できれば魔物と戦うクエストはありませんか?」


 口には出さないが、AK47――現代兵器がどの程度この周辺に住む魔物達に通用するかを試したい。

 勝手に戦うのもありだが、弾だってタダじゃない。

 できるならお金を稼ぎたいのが人情だ。


「リュートさんのような初心者はまずこういった簡単なクエストを受け、慣れていくのが常道です。この業界は自信のある方ほど、無理をして命を落とします。ここは無難に少しずつこなしていくのをお薦めしますよ」

「もちろん分かります。ただ自分の力がどの程度通用するのか、今後のためにも知っておきたいんです。だからレベルⅠで魔物退治できる仕事ってありませんか?」


 うるうると下から上目遣いで見上げる。

 子供の体だからこそできる姿勢だ。

 もし30歳過ぎのおっさんがこんなマネしたら、殴られても文句は言えない。


「……はぁ、分かりました。ですが、危ないと思ったらすぐに逃げてくださいね。命はひとつしかないんですから」


 受付嬢は悩んだ末に折れる。

 オレに釘を刺した後、1枚の書類を出す。


「レベルⅠの中でも危険度が高い仕事です。ガルガルという四つ足歩行の魔物を1匹以上駆除してください。クエスト期限は無期限です」


 書類を読むとガルガルは肉食で、壁外で畑を耕す人や家畜を襲う魔物らしい。

 報酬は1匹につき、銀貨1枚。


 高レベルの冒険者にとってガルガルはたいしたことがないモンスターだが、動きが素早く倒すのが手間らしい。

 その上報酬金は低いため、高レベル者はほとんど手を出さない。


 低レベル、とくにレベルⅠの冒険者にとっては動きが素早く、攻撃を当てるのが難しい強敵だ。

 だから、このガルガルが倒せるか否かが、レベルⅡになれるかどうかの基準となるようだ。


 倒した後は、その証として、尻尾を根本から切って冒険者斡旋組合(ギルド)換金所へ持ち帰る必要がある。

 尻尾1本につき、銀貨1枚との交換だ。


 出現場所は南、西、北門を抜けた森沿いや畑の周り等。

 畑を耕す人や家畜を襲うためだ。


 また魔物を退治した後は、死体は埋めるか燃やすか等で処理する必要があると言われた。

 放置すると死体をエサに、他の魔物が繁殖してしまうからだ。


 お勧めは魔術薬水(まじゅつやくすい)での処理らしい。

 冒険者斡旋組合(ギルド)お勧めの薬水を死体にかけると、この辺の魔物が嫌がる匂いを発する為、魔物たちは死骸を食べない。

 また死体を分解する作用もある為、3日もすれば骨も残らない。


 冒険者斡旋組合(ギルド)協賛店は、出て左隣に建っている。

 そこで魔術薬水(まじゅつやくすい)を買うのを勧められる。

 タグを見せると他の道具屋より若干安くなるらしい。


「それじゃこの『ガルガル討伐』クエストをお願いします」

「……では、タグをお貸し下さい」


 受付嬢が魔術道具らしき羽ペンでタグに書き込んでいく。


 返却されたのを見ると、名前などが書かれている場所の裏に、クエストの受注内容等が刻まれていた。


「ではお気を付けてください。本当に無理だと判断したら、すぐに逃げてくださいね」

「ありがとうございます! 精一杯がんばります」


 そしてオレは初めてクエストを受注した。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明日、12月7日、21時更新予定です。

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