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第158話 スタン弾

 アイス達、白狼族からの依頼――『トルオ・ノルテ・ボーデン・スミスの長男、アム・ノルテ・ボーデン・スミス誘拐』クエストを受けて、七日後の夜。


 技術開発がメインのメイヤを残し、オレ達、PEACEMAKER(ピース・メーカー)は再び地下道を通って北大陸最大都市であるノルテ・ボーデン内部へと侵入する。


 狙うは帰還パーティー後の『アム・ノルテ・ボーデン・スミス』の身柄だ。

 彼が今夜、友人達のパーティーに招待されることを、白狼族の協力者達から情報を得た。白亜の城から馬車で出て、パーティー会場に本人が入ったのも確認済みだ。


 襲撃はパーティー疲れと気が緩む帰宅時を狙う。

 行く時は、時間的に人目が多すぎるという理由もあるが。

 もしパーティー会場に使用されている屋敷に宿泊するなら、リスクは高くなるが寝静まった深夜、侵入し誘拐する予定でいる。


 幸運なことにターゲットは屋敷に宿泊せず、馬車に乗って帰宅している最中だ。


 夜、人気の無い大通り。

 建物影に潜むオレとスノーは、ターゲットが通りがかるのを待つ。

 オレ達の手には、それぞれセミオートショットガン『SAIGA12K』が収まっている。


 反対側の周りより背の高い建物の屋根にはクリス、リース、シアが待機している。

 彼女達は馬車が来たら合図してくれる手筈になっている。

 あの白い兵士達が襲ってくるとも限らないので、リース&シアにはクリスのガードに付いてもらっている。


 また視力がいいクリス、気配察知に長けているシアが高いところから周囲を警戒することであの白い兵士達の奇襲をいち早く察知するという目的もある。


 ちなみにクリスはSVD(ドラグノフ狙撃銃)。

 リースが汎用機関銃ジェネラル・パーパス・マシンガンのPKM。

 シアはMP5K内蔵アタッシュケースのコッファーだ。


 今回の目的は要人誘拐。

 無駄な血を流すつもりは無い。そのためシアにもショットガンを勧めたが……


『いえ、コッファーで。むしろなぜ若様達はコッファーではないのですか?』と逆に疑問の表情を浮かべられた。


 最近、シアはコッファーに偏った信頼を寄せている気がする。

 昔は『ナイフの方がいい』とか言ってたくせに。


 待ち伏せは夜。

 運良く、吹雪にもならず襲撃をかけるには絶好の日だ。


 オレとスノーは建物の影に隠れながら、待つ間の暇潰しに会話をする。


「そういえばスノーは、昨日もアイスと色々話していたよな」


 作戦決行までの約6日間。

 オレ達は先遣隊の臨時村に滞在させてもらった。

 その間、スノーは同世代で同い年のアイスと親しくなり何度も会話をしていたのを目撃している。

 ちなみに今回の誘拐作戦にアイスは参加していない。

 彼女は魔術師としての才能がない。


 荒事なのでいざと言うとき自身の身を守ってもらうため、今回は魔術師の白狼族男性が地下道案内を担当してもらっている。

 そのため彼女は今頃、臨時村でヤキモキしているだろう。


「うん、色々話してるよ。特に領主の長男さんが通っていた魔術師学校が妖人大陸だったらしくて。学校の雰囲気とか、授業内容とか色々教えてあげてるの。やっぱり好きな人のことは色々知っておきたいんだね」

「これから攫う長男って妖人大陸の魔術師学校に通ってたんだ」

「そうだよ」


 オレはある種のひっかかりを覚えた。


 上流貴族、アム、妖人大陸の魔術師学校に通っていた……


 北大陸へ行く準備、新・純潔乙女騎士団に当分のあいだココリ街の治安維持を任せる手続き、飛行船が飛んでいる間も防寒装備を準備するのでずっと忙殺され続けてきた。

 そのためすっかりアイナが言っていた人物名が、頭からすっぽりと抜け落ちてしまったのだ。


「リュートくん、合図来たよ」


 スノーの言葉で我に返る。


 クリス達がいる建物屋根から灯りが点滅する。

 光を利用したモールス信号だ。

 元純潔乙女騎士団メンバーを鍛える時、教練(ドリル)で教授した。スノー達にもやり方などを覚えてもらった。

 これがレシーバーや携帯代わりに、遠距離で連絡し合う代替案だ。


 モールスで現在地、進路、護衛数、護衛者の位置、装備、他に伏兵がいないかの情報を送ってくる。

 どうやら馬車は1台。護衛者は6人で、騎馬に跨り甲冑を装備して手には槍、腰から剣を下げている。護衛は馬車を左右から挟むように3人ずつ並走している。他に付き従う伏兵は無し。あの白い兵隊はいないらしい。

 進路は予定通り、このまま行けば襲撃ポイントにまっすぐ到達するとのことだ。


 襲撃ポイントに到着するまで時間が無い。


 スノーは顔を隠すため、ポケットから取り出したフェイスマスクを被る。

 オレも慌てて彼女に習った。


 手にしている戦闘用(コンバット)ショットガンに装着する弾倉(マガジン)が、『非致死性装弾(ショットシェル)』なのを確認してから入れる。


 この非致死性装弾(ショットシェル)とはなにかというと――元々、ショットガンは狩猟用の銃である。

 そのため状況や目的に応じて複数種類ある装弾(ショットシェル)を選択できるのが、ショットガンの利点である。


 装弾(ショットシェル)は拳銃等の弾薬(カートリッジ)より圧倒的に大きい(たとえば散弾の代表的な9粒弾には、装弾内部に約8mmの弾が9つも入れることができるのだ。故に『9粒弾』と呼ばれている)。そのため中に色々な物が詰め込める。結果、多くの特殊装弾が考え出された。

 その中に、相手を殺害せずに無力化する『非致死性装弾(ショットシェル)』というのが産まれたのだ。


 非致死性装弾の代表格はやはり、『スタン弾』だ。


 本来、相手を殺害するため弾は金属素材で作り出されるが、『スタン弾』の場合はゴム製の弾を撃ち出す。

 建前上、弾がゴムなので柔らかく確かに人はしなないが、当たり所が悪ければ最悪、死亡する場合もある(なので専門家によっては『「非致死性」ではなく「低致死性」と呼ぶべき』という声もある)。

 だから、相手を殺さないからといって使用方法や扱いが雑になっていいものではない。


 だが、この異世界では前世にあったようなゴムが無い。

 ゴムはゴムの木か、化学的に合成して作るしかない。

 最近、ココリ街で見付けたゴムっぽい魔物の部位を見付けたが、実際に使用出来るかどうか実験している最中だ。


 そのため今回、オレが戦闘用(コンバット)ショットガン、SAIGA12Kに装填したのはスタン弾と同じ効果を持つ『ビーンバッグ弾』と呼ばれる非致死性装弾(ショットシェル)である。


 手のひらに乗るサイズの小袋に砂を詰め、お尻部分に命中精度をあげるための長いヒモが付けられている。

 たとえば『ブラックジャック』と呼ばれる袋に砂を詰めて、相手を殴る武器がある。

 それを装弾(ショットシェル)で実現したのだ。


 砂が詰まった袋が高速で撃ち出され、相手に激突し意識を奪う。


 こうしてオレ達は準備を終えて、クリスの合図を待った。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明後日、6月15日、21時更新予定です!


活動報告を書きました。よかったらご確認ください!

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