第148話 神器製造
本日は、用事で嫁達+メイドが外出している。
メイヤはオレの指示で工房に引き籠もり、武器製造に取り組んでいる。
「チャ~ンス」
オレは千載一遇の好機に不敵な笑みを浮かべる。
この機を逃さずかねてより完成が遅れている神器を完全な物にしよう。
オレは笑いを零しながら、新・純潔乙女騎士団の少女達全員を大部屋に集めた。
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ココリ街は港に入った荷物を獣人大陸の奥地へ運ぶために作られた中継地点街の1つだ。
そのため多種多様な荷物が運ばれてくる。
ゴムの代替品になりそうな魔物の部位やトイレットペーパー並に柔らかい植物、他使えそうな品物が流れ込んできては出て行く。
現状、新・純潔乙女騎士団本部には、ウォッシュトイレが3箇所しか無い。
オレ、スノー、クリス、リースが使う私室。
メイヤの私室。
飛行船、以上3箇所だ。
団員達は一度も使用してない。
ウォッシュトイレの改良は暇を見付けては地味におこなってきた。
現在の性能は以下となる。
『シャワー機能』
『シャワー機能強弱』
『温水機能』
『ノズル位置は手動操作』
『便座を温める機能』
『温水使用後、お尻を乾燥させるため熱風を出す機能』
『脱臭機能』
以上だ。
新規に追加したのは『シャワー機能強弱』だ。
今までは火と水の魔石が2つ並び、それらに触れながらノズルから出る温水の勢いを操作していた。
初心者は勢いをつけすぎ、またノズルもハンドル操作で位置を自身でおこなわなければならない。そのため酷い目にあってしまう。結果、この異世界でオーパーツとも呼べる奇跡のウォッシュトイレを拒絶するという人物を生み出してしまった。
この偉大な奇跡を堪能できないなんて、なんて不幸なのだろう!
そんな不運な子羊を生み出さないため、今回はノズルから出る水流の勢いに強弱を付ける機能をつけた。
水流を操作する水魔石を大中小の3つ用意。
魔石の大きさを変えることで3つの水流を生み出すようにした。
小は弱。
中は中
大は最大。
これにより手をかざし念じるだけで簡単に水流の勢いを操作することが出来るようになる。
しかし問題はまだある。
小の魔石は魔力容量が小さく、頻繁に使用するとすぐに魔力が切れる。
今まで『シャワー機能強弱』が無いウォッシュトイレを使用してきた人物にとっては、自分好み・慣れた勢いを作り出すことが出来なくなってしまった。
つまりオートマチックとマニュアルの違いだ。
まだまだ改良の余地は残っている。
そして今のところの最大の問題は2つ――『ノズル位置の自動化』と『音楽演奏機能』だ。
『音楽演奏機能』については、品物が集まるココリ街なら何時か『代用品が手に入るのでは?』と淡い期待を胸に抱いている。本来ならレコードやCD、オルゴールなどを自作すればいいのだが……どうやって作ればいいのか分からない。
興味の方向性を偏らせ過ぎた、と今更後悔している。
しかし『ノズル位置の自動化』については目処がついている。
あれは結局、情報の蓄積、最大公約数の数値化である。つまり、ノズルをどの位置に移動させればいいか、人数を動員すれば分かることだ。
今までは多くても自分達ぐらいしか実地データを得られなかったが、現在は30人の少女達がいる。
協力を要請しない手はない!
そして、新・純潔乙女騎士団の団員達が大部屋に集められる。警邏や待機、休日の団員関係なく全員だ。
部屋の机と椅子は隅に片付けられているため、彼女達は3列に並び待機している。
オレはその前に立ち、腹から声を出す。
「諸君! よくぞ集まってくれた!」
『サー・イエス・サー!』
少女達は慣れた様子で整列、直立している。
オレは合図を出し、休めの姿勢に変えた。
少女達を前に早速、話を切り出す。
「諸君等に集まってもらったのは他でもない。ある極秘の作戦に参加してもらいたいためだ。その極秘作戦とは――ウォッシュトイレという、神器の開発だ」
少女達は『ウォッシュトイレ』という単語にやや表情を変える。『何だろうそれ』という表情だ。
仕方がないので、オレはウォッシュトイレの素晴らしさを語って聞かせる。
その話を聞いて、さらに少女達は表情を変えた。まるで狂人を見るような目つきになる。
そんなに魔石を使ってお尻を洗うことに驚かなくてもいいじゃないか。
さらにノズルを自動化するため、お尻や他部位の位置を教えて欲しいと話をしたら、彼女達がざわつきだした。
オレはざわつきが止むまで待つ。
落ち着いた所を見計らって口を開いた。
「疑問に思うのは分かる。抵抗があるのも分かる。しかし! これは神器完成にどうしても必要なことだ。君達は確かに一時の恥を受けるだろう! 場合によっては一時ではすまないかもしれない。だが、それは尊い犠牲だ! 世界のため! 人々のため、その若い肉体を差し出すのだ! 今こそ一億総火の玉の精神だ!」
さすがにオレの演説を受けても、皆は動揺した態度を崩さない。
ここは多少強引に行くか?
ウォッシュトイレを完全な物にするためだ。オレは涙を呑んで鬼となろう……!
きっと彼女達も完成したウォッシュトイレを体験すれば、自分達が提出したデータがどれほど価値ある物か分かってくれるはずだ。
むしろ感動し、自分達がこの偉業に参加出来た喜びを体全体使って表現してしまうかもしれない。
オレは順番に名指しして、ウォッシュトイレを使用させ位置を特定しようとしたが――
「リュートさん、いったい何をなさっているのですか?」
「り、リース! みんな!? どうしてここに! まだ帰ってくる時間じゃないだろ!?」
そこには用事で本部を留守にしていたスノー、クリス、リース、シアが居た。
馬鹿な! 彼女達が戻ってくるまでまだたっぷり時間があったはずだ!
「リュートさん、何をなさっていたのですか?」
リースが冷たい声で再度問いかけてくる。
(ど、どうにかして誤魔化さないと!)
しかし行動を起こす前に、先手を打たれてしまう。
「シア」
「はっ! ミーリア、前へ! 何があったか説明するように!」
「了解であります!」
シア直属の護衛メイド見習いの1人、妖精種族のミーリアが前へ出て説明する。
オレのウォッシュトイレ完成計画はあっけなく嫁達に露見してしまった。
嫁達がそれぞれ反応を見せる。
「リュートくんって本当に変な所に力を入れるよね」とスノーが呆れ口調で告げる。
『私の可愛い部下達をあんな魔王兵器の犠牲にしようとするなんて! お兄ちゃんでも許しませんよ』とクリスが可愛らしく頬を膨らませてプンプン怒る。
「まったく……予定より大分早く用事が済んだので戻ってみれば女の子達にそんなことを聞こうとしていたなんて。リュートさんには少々デリカシーという物が足りませんよ」とリースが溜息を漏らす。
「で、でも! ウォッシュトイレという神器を完成させるためにはどうしても必要なことなんだ! その犠牲は決して無駄にならない! ウォッシュトイレが完成することにより皆はウォッシュトイレと1つになれるんだ! それはすなわち歴史に名を刻み、人々を癒し、永遠に輝く存在――神に等しき階位に進めるということだよ! これほどの名誉がこの世の中にあるかい! いや無い!」
「……シア、リュートさんを私達の私室に連行して、お話をしますから」
「はっ! ミーリア! サラマ! 若様をお部屋にお連れしろ!」
指名された護衛メイド見習い達が、オレの腕を両側から掴みズルズルと引き摺っていく。
「待って! 待ってくれ! 体験すれば! ウォッシュトイレの素晴らしさを理解することが出来る! 1回だけ、1回だけでいいから! ちょっと、ほんのちょっとだけでいからぁぁぁあ!」
オレの必死の訴えはドップラー効果となり、廊下へと響いた。
――その後、自室でクリス&リースから手酷いお説教を受けた。
ウォッシュトイレのノズル位置は、希望者のみ提出という形になる。
お陰で十分なデータを取ることが出来なかった。
まだまだ完成の目処は遠いらしい。
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