第147話 サブアーム
「リュート様、はい、『あーん』してください♪」
「あ、あーん」
オレはメイド服姿のメイヤが差し出すフォークに刺さったケーキ片を口にする。
オレがケーキを食べると、彼女は嬉しそうに声を漏らす。
「はあぁぁっぁあ~~~♪ リュート様にご奉仕出来るなんて……ッ! これ程の幸せがあるのでしょうか。いえ、ありませんわ!」
最初、正統派メイド服に白衣を着たメイヤに対して、怒ってしまった。
そのため現在、罪滅ぼし&休憩も兼ねてなすがままにされている。
彼女はケーキを食べさせたり、香茶を飲ませたりするたび心底、恍惚とした表情を浮かべる。正直、ちょっとだけ怖い。
オレは一通り彼女が満足するまで奉仕をさせてから、改めて戦闘用ショットガン――『SAIGA12K』以外に作る物の説明を始める。
――前回、ルッカと最後に決闘した際、オレはAK47の弾倉も『GB15』の40mmアッドオン・グレネード弾も使い切ってしまった。
残されたのはサブアームであるリボルバーのみ。
スノー達――仲間が駆けつける間、相手の注意を引きつけるために使用したが、やはり装弾数6発は心許なかった。
その経験も踏まえ、サブアームとして新しく開発しようと思うのが『オート・ピストル』だ。
そもそもサブアーム――ハンドガンとは一体どういう物なのか?
ハンドガンとは『携帯性に優れ、片手ないし、両手で使用する拳銃』のことだ。
その作動方式から大きく2種類に分けられる。
現在、オレが使っている回転式の拳銃、リボルバー。
そして弾丸を発射後、自動で次弾を装填するオート・ピストルだ。
ではいかにしてオート・ピストルは開発されたのか?
オート・ピストル開発の切っ掛けになったのは一八八四年、ハイラム・マキシムが発明したマキシム銃である。
マキシムは発砲時に生じる反動を利用し、トグル・リンクが曲がったり伸びたりする動作(尺取り虫のような動き)によって弾丸を次々と発射する『トグル・アクション』でマキシム銃を製造した。この原理を一八九四年にピストルに採用し、『ボーチャードC93』という初の自動拳銃を作ったのが、ドイツ人のヒューゴ・ボーチャードだった。
その後同じくドイツ人のゲオルグ・ルガーはボーチャードが開発した銃の欠点(大型過ぎて拳銃としては使えなかった)を改良して実用的、かつスマートにした『ルガーP〇八』を一九〇八年に完成させる。
話を戻す。
こうして拳銃サイズのオート・ピストルが開発されて以降、数々の名銃が誕生する。
今回、オレはその中で製作しようと考えているのは――『H&K USP(9ミリ・モデル)』だ。
USPは『Universal Selfloading Pistol』の略で訳すと……『汎用自動式拳銃』となる。
USPは銃本体に当時最先端技術の強化プラスチックを使用しながら、内部機構は極基本的なモノを採用し作り上げた銃だ。
そのお陰で信頼性が高く軍や特殊警察にも受け入れられた。
USPの口径は複数有るが、今回製作するのは9×19――9ミリ・パラベラム弾モデルで、減音器が付けられる『USP タクティカル・ピストル』だ。
タクティカル・ピストルとは、『戦術ピストル』と訳される。
モデルUSPタクティカル・ピストル(9ミリ・モデル)は、減音器を付けるため、通常のより銃身先端が長い。
銃身先端マズル部分の外周部にネジを切るためだ。
このネジ切り部分に減音器部品をクルクルとねじ込み、装着出来るようにする。
また減音器部品を外している間は、ネジ切り部分をカバーするためのプロテクターを準備するのが一般的らしい。
モデルUSPタクティカル・ピストル(9ミリ・モデル)を作り出すことが出来れば、減音器を装着し、室内でも使用することが可能になる。
いざという時には大変心強い。
こいつを製作することが出来れば、頼もしいサブアームになってくれるだろう。
メイヤは一通りの説明を聞くと、次を促してくる。
「それでは他に何をお作りになるのですか?」
「戦闘用ショットガン、オート・ピストルを作り終えたら、次に手を出すのは『KTW弾』だ」
別名『警察官殺し』と呼ばれるハンドガン用の徹甲弾の一種である。
『KTW弾』の『KTW』とは何かの略語ではなく、開発者3名の頭文字を並べたものだ。
Paul J・KopschのK。
Dan TurcusのT。
Don WardのW。
合わせてKTW弾だ。
この弾は本来、『警察などの法執行機関向け』に開発された物だ。
一般的なハンドガン……オート・ピストルに高い貫通性能を持たせたいというコンセプトのもと開発された。
通常の弾丸は弾芯を銅などの金属の被甲で包み込む。
KTW弾は弾芯を真鍮のような硬い素材にして、被甲をテフロン加工することで貫通力を高めることに成功。
しかし今度は貫通性が高すぎて、当時の警察官が着込む防弾チョッキを無力化するほどだった。
本来、民間市場で一般流通する弾薬ではなかった。あくまで『警察などの法執行機関向け』に開発された物だからだ。
しかしマスコミが『防弾チョッキを着た警察官だって一撃。KTW弾は警察官殺し』という論調を切っ掛けに、連邦法によって軍・警察などの公的機関を除いて正式に規制の対象になってしまう。
たまに映画等で『テフロン加工した特殊弾』として登場したりもする。
ルッカとの決闘で、リボルバーの弾丸は彼女の手で防がれた。
もしこの時、オート・ピストルとKTW弾のような徹甲弾があれば――指の隙間などを貫通し相手の頬などを切り裂き血を流させ、警戒心を与えることが出来たかもしれない。
また今後、魔動甲冑のような相手が出てくるかもしれない。
その時、この二つが準備されていたら、頼もしい武器になる。
だから今回、製作しようと思い立ったのだ。
メイヤが一通りの話を聞いて納得する。
「なるほど、確かに保険という意味でもこの二つは準備しておいて損はありませんわね」
「だろ? 一応作る順番としては戦闘用ショットガン→オート・ピストル→KTW弾だ。もちろん途中で必要になる武器・防具が出てきたらそっち優先で作るつもりだけど、基本的にはこの順番で作ると思ってくれ」
「了解しましたわ! それでは微力ながらこのメイヤ・ドラグーンもお手伝いさせていただきますわ!」
メイヤは正統派メイド姿のまま胸を張る。
最初、叱ってしまったため落ち込んでいたが、どうやら調子を取り戻したらしい。
必死に慰めたり、奉仕を受けた甲斐があったというものだ。
オレはそのまま機嫌を損ねないように、メイヤと武器製造に取り掛かった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
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明後日、5月24日、21時更新予定です!
最近で一番の感想を頂き驚きました!
メイヤ大人気過ぎるだろ……。
次はウォッシュトイレ回です。
楽しんで頂けると幸いです。
ではでは。