第146話 ショットガンを作ろう
「メイヤ!」
「リュートの!」
「「武器製造バンザイ!」」
と、言うわけで打ち合わせ通りのタイミングで声を重ね合う。
場所は飛行船から荷物を移動して最近、新・純潔乙女騎士団本部内に専用の工房を作った。
その工房内でメイヤと2人っきりで声を上げる。
最初にオレが話を切り出す。
「さて早速、今日がこの工房での初製作になるわけだが……メイヤ、1つ訊いてもいいか?」
「何を仰いますリュート様! 1つと言わず、100でも、1000でもお聞き下さい! リュート様のご質問ならどんなことでもお答えしますわ! たとえば……わたくしの左腕のサイズなんかをご質問されたら、即座に詳細を口頭と文章、同サイズの腕輪を持参してお答えしちゃいますわよ!」
わぉ、メイヤさん初っぱなから飛ばすな。
彼女は左腕をさすり、ちらちらと顔を赤くしながら視線を飛ばしてくる。
ちなみにこちらの異世界では、結婚相手の女性に男性が腕輪を送る風習がある。
つまり前世の地球の言うところの結婚指輪にあたるのだ。
オレは気付かないふりをして、咳払いをする。
「そうか。なら遠慮なく質問させてもらうよ。どうしてメイヤは、メイド服を着ているんだ? しかもその上から白衣なんて羽織って……」
「リュート様は、メイド服がお好みだと耳にしましたので。喜んで欲しくて着てみたのですが……いかがでしょうか?」
メイヤはなぜかシアの護衛メイド達が着ているのと同じ正統派メイド服に袖を通し、その上からいつもの白衣を羽織っていた。しっかりと白手袋、頭にはヘッドドレスまで装着している。
メイヤは腕輪の話ではないことに、残念そうな表情を浮かべたがすぐに気持ちを切り替えその場で一回転。
ふわり、とスカートと白衣が広がる。
「『おかえりなさいませ、ご主人様!』。ふふふ、どうでしょうか、喜んで頂けましたか?」
メイヤは見よう見まねのお辞儀をして、こちらの反応を伺ってくる。
オレの反応はというと――
「調子に乗るなよ雌豚」
「……え?」
「正統派メイド服の上から白衣を着やがって、神聖なる正装を色物に貶める所業。名酒、美酒に腐った泥水を流し込む愚かな行為。さらに質が悪いのは、己の所業をまったく自覚していないことだ」
オレは『ギロリ』と涙目で震え上がるメイヤへ、敵意しか宿していない視線を向ける。
「今すぐ白衣を脱ぐか、別の服に着替えるかしろ。さもなくば僕の手で直々に地下墓地に送ってやるぞ……ッ」
「ひいっぃいぃぃぃぃぃぃぃッ!」
メイヤは悲鳴を上げると、慌てて羽織っていた白衣を破るように脱ぎ捨てる。
オレは別にメイド服にそこまで思い入れがあるわけではない。むしろ普段、メイヤが着ているチャイナドレスの方が好みだ。
なのに正統派メイド服の上から白衣を着ていることが許せなかった。自然と言葉が口から出てくる。
メイヤが普段着ているドラゴン・ドレス(チャイナドレス)+白衣は許せるのになぜだ?
正統派メイド服姿になったメイヤが泣き出す。
彼女は床に跪き、胸の前で拳を重ね、頭を深々と下げる。
竜人種族の伝統的なポーズ――前世の日本でいう土下座だ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。無知で愚かで愚鈍な一番弟子をどうかお見捨てにならないでください。リュート神様に忠誠を忠誠を、一心不乱、永遠の忠誠を。どうかこの憐れな雌豚にもう一度チャンスを……ッ!」
メイヤは頭を下げて姿勢のままブツブツと後悔、懺悔、謝罪、懇願、忠誠などを繰り返し、繰り返し呟き続ける。メイヤが流した涙で床が明確に濡れる。
まずい……ちょっと感情的に怒りすぎた。
跪くメイヤを無理矢理立たせて、流れる涙をハンカチで拭ってやる。
「こっちこそごめん。ちょっと感情的になりすぎたよ。もう怒ってないから、あやまらなくてもいいぞ」
「ひく、ぐす、ごめんなしゃい、おぇ、ひぐ、許して、ひく、ぐだしゃい」
「はいはい、許す許す。だから、もう泣き止んでくれ。可愛い顔が台無しだぞ。はい、ちーんして」
竜人大陸でもっとも有名な人物で全世界の人々が認める天才魔術道具開発者のメイヤ・ドラグーンが、鼻にあてがったハンカチに『ちーん』する。シュール過ぎる光景だ。
それでも落ち着かず、ぐしゅぐしゅと涙を流し、咳き込み、嗚咽する。
黙っていれば美人なんだけどな……黙っていれば。
メイヤが落ち着いたのは、それから約30分くらいだ。
席に座らせ、香茶を淹れてやり、頭を撫でながら慰め続けてだ。
メイド服が似合っている、可愛いと何度も繰り返した。
「そ、それで、ぐす、リュート様はいったい、ごほごほ、何をお作りになるのでしょうか?」
兎みたいに赤い眼で、ハンカチを両手で握り口元に当てながら尋ねてくる。
オレは彼女の興味を惹くためにも、いつも以上に気合いを入れて説明を開始する。
「これから作るのは『戦闘用ショットガン』だ」
「ひく、ぐす、けほ、『戦闘用ショットガン』ですか?」
まず……『ショットガン』とは何か?
ショットガン――日本語で言うと『散弾銃』は鳥を撃つために開発されたものだ。
『野鳥狩りファウリング・ピース』(fowl=家禽、大型の鳥 で fowling piece=鳥撃ち銃)という名称で過去呼ばれていたほどだ。
『水平二連中折れ式サイド・バイ・サイド』と呼ばれるショットガンが開発される。これは銃身が2本横に並んでいるショットガンで、2発撃ったら弾切れになる(これ以上の弾数にならなかったのは、ゲームとして楽しまれていたからだった)。
しかしアメリカに渡った人達は、ゲームとしてではなくショットガンを食料確保等のためのいち日用品として使用するようになった。
そして第一次世界大戦。
機関銃の登場により、敵陣に迂闊に近づけなくなってしまった。
結果、兵士達はなんとか接近しようと夜襲をかけたり、壕を掘ったりして接近戦に持ち込んで戦うことが多くなった。
俗に言う『塹壕戦』だ。
塹壕戦を経験し、ドイツ軍は短機関銃を開発・誕生させた。
一方、アメリカ軍はというと……アメリカ大陸開拓時代から長年愛用し、日用品レベルにまで浸透し使い慣れたショットガンを塹壕戦に投入した。
アメリカ軍はポンプ・アクション式のショットガンを開発し、塹壕戦に投入することで、大きな成果を上げた。
こうしてポンプ・アクション式のショットガンは『トレンチガン』と呼ばれるようになる。
さらにアメリカ軍はショットガンを軍隊に正式採用し、軍隊だけに留まらず警察や暴動鎮圧などにも幅広く使用している。
そして今回、オレが製作しようとしているのは『戦闘用ショットガン』だ。
『戦闘用ショットガン』の定義を提示するとしたら――
『トレンチガン』や暴動制圧などに使用する『ライアットガン』は民間用のショットガンをベースに作られた物だ。
一方、『戦闘用ショットガン』は初めから戦闘というコンセプトの元、作られたショットガンのことを指す。
状況に応じて多用な散弾装弾――ゴム弾、ガス弾などの非致死性の特殊弾やフレシェット弾が使用可能という利点を残しつつ、今回はアサルトライフルのような弾倉によって素早い弾薬交換を出来るようにする。
今回作るのは、イズマッシュ社がAKシリーズを基にして製作したセミオートショットガン『SAIGA12K』だ。。
スペックは以下の通りになる。
■SAIGA12K
使用弾薬:12ゲージ
全長:910mm
重量:3.5kg
銃身長:430mm
元になったのは、AK47を改良した突撃銃AKMだ。
またSAIGA12Kの銃身は短すぎて大抵の国の法律に抵触してしまう。そのため銃身を伸ばした『SAIGA12S』を作り出し、他国へと輸出している。
こちらのスペックは以下の通りになる。
■SAIGA12S
使用弾薬:12ゲージ
全長:910mm
重量:3.5kg
銃身長:520mm
今回、オレ達が作るのは『SAIGA12K』の方だ。
銃身長が430mmと多くの国の民間用では非合法とされる短さだが、異世界に居るオレ達には関係がないからだ。
それにSAIGAは、AKシリーズをベースに作り出されているため、今のオレ達には最も作りやすい戦闘用ショットガンである。
これが出来れば先日のような立て籠もり事件の時、窓から侵入せず、扉の鍵をショットガンで破壊して侵入することが出来るようになる。
以上のことを、メイヤに聞かせられない部分を省いて説明した。
彼女はまだ目が赤いが、新しい銃器の説明を聞けて笑顔を取り戻す。
「なるほど! 今度の武器はただ敵を倒すだけではなく、弾を変えると殺傷せず無力化することが出来るのですね! さすがリュート様ですわ! この柔軟な発想! 神のような閃きこそ天才が天才たるゆえんなのですね!」
「ははは、そうですねー(棒)」
さすがに先程泣かせてしまったため、ある程度好きにさせておく。
メイヤは大きな瞳をきらきらと輝かせ詰め寄ってくる。
「それでは早速、製作いたしましょう! まずは何からお作りしましょうか!」
「いや、ちょっと待ってくれ。他にも作っておきたい物があるんだ」
「なんと! 戦闘用ショットガン以外にもですか!」
「ああ、そうだよ。戦闘用ショットガン以外に今回作る物は――」
メイヤはオレの言葉に注意深く耳を傾けた。
そんな彼女にオレは話し聞かせる。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
明後日、5月22日、21時更新予定です!
と、いうわけでメイヤが主人公に怒られる回でした!
たぶんメイヤが本気で怒られたのってこれが初かな?
次も武器製造回です!
さすがに量が多すぎて分割しました。
ではではお楽しみに!