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第121話 ルッカの過去

 純潔乙女騎士団、団長であるルッカは、グラウンドで射撃練習をする副団長ラヤラの姿を本部から眺める。

 気付けば無意識に歯茎から血が滲むほど歯ぎしりしていた。


(ただのお飾りとはいえ、伝統ある純潔乙女騎士団副団長が、あんな訳の分からない魔術道具の練習をするなんて……ッ)


 ルッカは今すぐにでも、魔術道具を握っている副団長の腕を切り落としたい衝動に駆られるほどだった。


 彼女の美意識的に数日前、紅甲冑を撃退したリュート達の魔術道具は邪道でしかない。

 ルッカは飛び道具を否定するつもりはない。

 しかし、リュート達の魔術道具――銃器は、彼女にとって美しさがまったくない。

 ルッカが理想とする純潔乙女騎士団にそぐわないのだ。


 だから、許せない。

 それを手にしているだけ殺意すら湧き上がってくる。


 同時に悲しみが濁流のように押し寄せてくる。


(昔はよかった……本部にも活気があり、支部も賑わっていた。団員達は皆、純潔乙女騎士団に敬意を持ち、気高くあろうと常に高い意識を保ち、努力していたというのに……)


 ルッカは目を閉じる。

 彼女はどんな時でも、目を閉じ思い返せば、初めて純潔乙女騎士団と出会ったシーンを思い出すことが出来た。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 獣人種族、イタチ族のルッカは獣人大陸の寒村に産まれ、育った。


 彼女が幼い頃、村は魔物に襲われた。

 両親、兄弟姉妹はあっという間に殺され食べられてしまった。

 ルッカもすぐに魔物のエサになろうとしていたが――暗い絶望を赤い風達が吹き飛ばしてくれたのだ。


 純潔乙女騎士団メンバーが、村の危機を知り助けに来たのだ。

 当時、全盛期の純潔乙女騎士団は強く、村を襲っていた魔物達はまさに鎧袖一触。瞬く間に魔物達を殲滅してしまう。


 助けられたルッカは彼女達、純潔乙女騎士団はお伽噺に出てくる勇者様達のようだと感動した。

 両親、兄弟姉妹が殺されたというのに、悲しみより『彼女達のようになりたい』という強烈な憧れに身を焦がしたのだ。




 そして、当時の純潔乙女騎士団は本部があるココリ街以外にも、支部をいくつも持っていた。

 そのため羽振りもより、孤児院も経営していた。


 両親を亡くし、頼れる親族も居ないルッカは、純潔乙女騎士団が営む孤児院へと入れられる。

 ルッカはすぐさま『純潔乙女騎士団に入りたい!』と願い出て、彼女達が主催する稽古に参加するようになった。


 ルッカに魔術師としての才覚はなかったが、剣の筋は良く彼女はひたすらその腕を磨き続ける。


 当時の純潔乙女騎士団の団員達は皆強く、魔術師B級やBプラス級なども抱えるほどだ。

 冒険者斡旋組合(ギルド)のクエスト依頼で遠征に行き、魔物を退治し、野盗を捕らえ、他軍団(レギオン)や街の危機などを何度も救った。


 彼女達が本部があるココリ街に遠征から戻ってくると、民衆は街を上げて帰還と上げた武功を祝った。

 吹雪のように花びらが舞い、広い道を埋め尽くすほど人々が集まり、帰ってきた純潔乙女騎士団のメンバー達へ歓声を喉が潰れるほど送る。

 そんな中をメンバー達は赤い甲冑を纏い、角馬に乗って手を振り声に応える。

 キラキラと光る宝石のような光景。


 ルッカはそんな姿を前に再度、憧れた。

 将来、自分も彼女達のようになりたいと――身を内側から焦がすほど憧れたのだ。


 そして入団試験を受けられる年齢になる。

 ルッカはなんとか試験に受かり、一番下っ端から見習い団員生活を始めた。

 訓練と雑用生活。


 しかし彼女はまったく苦にならなかった。ずっと憧れてきた純潔乙女騎士団の団員としての生活なのだから。


 魔術師の才能が無いぶん、剣術の練習にのめり込んだ。

 真摯で真面目生活態度と剣の腕前を見込まれ、同期の中でも早く正規団員として引き上げられた。

 長年、夢見ていた舞台にようやく立つことが出来たのだ。


 彼女は夢の舞台に少しでも長く経ち続けるため、さらなる剣術練習に傾倒する。その成果のお陰で、戦に出ても危なげなく魔物や敵対者を屠ることが出来た。

 気付けば、純潔乙女騎士団随一の剣の腕前を持ち、団長にまで任命された。


 ルッカはその事に絶望した。


 魔術師でもない自分が団長になってしまうほど、純潔乙女騎士団の全体的なレベルが落ちてしまっていたのだ。


 原因は主力だった魔術師の団員、他実力者達が結婚や怪我や一身上の都合により退団してしまったからだ。

 また純潔乙女騎士団の入団試験も、組織の弱体化させた原因だ。


 純潔乙女騎士団は女性なら、試験に合格すれば入団することが出来る。


 故に一発逆転を狙い貧しい農村、商人、貴族の女性が試験を受ける。

 大抵、魔術師の才能がない者達だ。

 希望者の割合として魔術の才能の無い者が多かった。試験に合格さえすれば、そんな彼女達を採用する。結果、組織は弱体化してしまった。


 他軍団(レギオン)が台頭し、優秀な人材が流れたり、奪われたりしたのも原因の一端だ。

 こうして気付くと、支部まであった純潔乙女騎士団は本部を残し縮小してしまう。


 ルッカはなんとか弱体化に歯止めを掛けようと対策に乗り出すが、何もかもが遅すぎた。

 OGには肉体の老化、妊娠、子育て等で断られる。

 選抜試験の厳格化はシビアになりすぎて、合格者が出ない状況に。さらに受験者のやる気を削ぐ形になり、翌年の受験者は大きく数を減らしてしまう。

 他、有力な冒険者や魔術師のスカウトも失敗。


 完全な手詰まりに陥った。


 そんな彼女は――レースやフリルでゴテゴテ着飾ったノーラ、組織『黒』の所属者に話しかけられ、『魔動甲冑』の存在を知る。


 確かに魔動甲冑さえあれば、純潔乙女騎士団の再起は確実だろう。


(しかし、本当にこのまま魔王の手先のようなノーラに協力し続けてもいいのだろうか……)


 純潔乙女騎士団の団長にしか知らせない決まりの隠し砦で彼女と会話した時、最後は上手く乗せられて同意するような発言をしてしまった。

 今はあれから大分時間が経ち、『このままでいいのだろうか……』という慚愧の念が産まれているのも事実。


 ルッカは手を痛いほど握り締め、何度も己の心に問いかける。


 そんな彼女の決心を固める事件が起きるのは、それから数日のことだった。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明後日、4月2日、21時更新予定です!

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