第115話 紅甲冑
店内に居る全員が闖入者――甲冑野郎に釘付けになる。
しかしよく見れば、ココリ街到着初日に襲ってきた奴より明らかに高級な甲冑だった。
色は鮮やかな紅色。表面に彫り込まれているデザインや質感、素材も明らかにこちらの方が数段上だ。
背には鞘に収めていない大剣を背負っている。
『ここが純潔乙女騎士団主催のパーティー会場であってるかしら?』
くぐもった声音。
魔術的処置を施しているのか、声質は男性、女性、子供、老人――どれにも当てはまるし、どれにも当てはまらないように聞こえる。
紅の甲冑はオレ達が唖然としている反応に満足しているような態度を取る。
紅甲冑は、さらに声をあげた。
『気付いているとは思うけどルー、じゃなくて私はこの街で起きている『魔術師殺し騒動』の元締め、元凶、主犯よ。私の指示の元、数体が魔術師をこの街で狩らさせてもらっているわ』
突然の告白に、その場に居る全員が身を堅くする。
つまり、今回の『魔術師殺し』は複数人数が組織だっておこなっているということか……?
紅の甲冑がオレへと視線を向ける。
『でも、この街での用事はあらたか終わったわ。だから、最後の締めにPEACEMAKER――貴方達を潰してあげる』
その場に居る全員の視線が今度は、オレへと降り注ぐ。
『ハイエルフ王国で私達の組織の獣人種族、アルセドを倒したでしょ? あんな雑魚でも倒されたら、私達の面子が立たないの。だから今回はいい機会だから、私が貴方達の首を刈り取って、組織に付けられた汚名をそそぐの。今日はその宣戦布告に来たわけ。もちろん、他軍団からの邪魔や横やりは大歓迎よ。PEACEMAKER諸とも粉砕してあげるから』
全身から自信を漲らせ、紅甲冑は宣戦布告する。
わざわざ敵の渦中に姿を現し宣言しただけあり、腕に覚えがあるのだろう。
そのため誰も目の前の紅甲冑を取り押さえようとはしない。第一、今日は合同会議の席だ。
誰も装備を調えていない。
ほぼ丸腰に近い。
そんな中、空気を読まず1人の少女――メイド服姿のシアが、オレを庇うように前へ出る。
「なるほど、つまりアナタは敵ですね?」
『そうだけど、なによ貴女は?』
「若様、危険なのでお下がりください!」
「!? し、シア、ちょっと待て――!」
シアは目の前の紅甲冑を敵だと認識すると、オレを背後に隠したまま皮で出来た旅行鞄の側面を紅甲冑へと向ける。
止める時間も与えず、取っ手に付いている――引鉄と安全装置が連動したスイッチを押し込む。
側面の銃口を隠していた名札を、9mm(9ミリ・パラベラム弾)が吹き飛ばす。
弾丸は紅の甲冑へと襲いかかる。
『な、何よこれ!? キャッ!』
紅甲冑は突然の嵐のような銃口にさらされ、狼狽する。
だが、甲冑の装甲が厚いためか、9mm(9ミリ・パラベラム弾)は弾かれてしまう。せいぜい表面に傷を付ける程度だ。
「ちッ、ならば!」
シアは9mm(9ミリ・パラベラム弾)程度では致命傷に至らないと悟ると、今度は旅行鞄の反対側側面を向ける。
スイッチオン。
ボシュ――やや抜けた音と共に、40mmグレネード弾が発射される。
『ッ!?』
室内に響く派手な爆発音。
さすがの紅甲冑も40mmグレネード弾の威力には逆らえず、入ってきたドアごと一緒に外へと吹き飛んでしまう。
店内に静寂が訪れる。
オレやガルマ、他軍団代表者達、店員などはテーブルや椅子影、カウンターの下に隠れて身動き1つしない。
その静寂を最初に破ったのは、この状況を作り出したシアだ。
「お怪我はありませんか、若様」
「無いよ! 無いけど、なんでいきなり発砲したんだよ!」
「ボクは姫さ――ごほん、お嬢様から若様の護衛を任せられています。相手があの甲冑野郎の関係者、ボク達の敵と判断したため発砲させて頂きました。初日の夜のように突然、襲いかかられては危険ですから」
護衛者の前に敵が出て来たため、先手必勝で銃弾を叩き込んだらしい。
前世の地球で言うなら、要警護者の前に拳銃を持ったテロリストが乱入してきたのと同じという事だろう。
シアはハイエルフ王国、護衛メイドとしての職務を全うしたに過ぎない。
ちなみにこの鞄の説明をすると――
前世の地球では、VIP・要人警護するシークレットサービスなどは要人を警護する際、周囲に銃を持っていることを気付かれないために鞄やアタッシュケースに短機関銃を内蔵していた。
そういった装備を『コッファー』と呼ぶ。
オレが複数ある短機関銃のなかで『MP5K』を製造した理由はここにある。
全長が約32cmしかないのに、火力が強い(毎分900発)。
別名、『部屋箒』は鞄などに収納するのに最も適している。
今回は市街戦がメインになるだろうと思っていた。
場合によっては、武器の持ち込みが出来ない場所に行かなければならなくなる可能性もあった。その時、リースが側に居ればすぐにAK47等を取り出すことは出来るが、居なかった場合は――
そんなことを考えて、嫁達の安全を守るためにも『コッファー』を作っておきたかったのだ。
しかし9mm(9ミリ・パラベラム弾)では魔物達が跋扈する異世界では心許ないため、単発のAKシリーズに無改造で装着出来る『GB15』の40mmアッドオン・グレネードを流用し追加しておいたが、まさかここで使用する事態になるとは思わなかった。
まさに備えあれば憂いなしだ。
しかし突然乱入してきた敵を排除したからと言って、場が収まるわけではない。
椅子影に隠れていた狼剣のゴウラが、青筋を立て激昂する。
「おいガンスミス! オマエ、話し合いの場にあんな物騒な隠し武器――暗器を持ち込むなんざどういうことだ! 純潔乙女騎士団とPEACEMAKERは、結託して俺様達と戦争がしたいってことなのか!?」
この意見に百合薔薇のラヴィオラが賛同。
「わ、私も狼剣と同意見ですわ! 紅甲冑は来るし、こんな非常識なことは生まれてこの方初めての経験です!」
2人がそう言うのも無理はない。
返答したいから、話し合いの席を設けました――と、手紙を受け取って出席したら、片方の軍団からは分かりやすい喧嘩を売られ、さらに魔術師殺しを自称する紅甲冑が現れ、片方の軍団は高威力の武器を使用。
彼らも部下を2人ほど連れて出席しているが、紅甲冑を吹き飛ばした威力を目の辺りにして、事の顛末に唖然とするのは当然だ。
オレは額から流れる冷や汗を拭いながら、とりあえず話をそらす。
「と、とりあえずお怒りは後にして、まずは外へ吹き飛ばされた甲冑の確認をしませんか? あれが今回の事件を引き起こしている『魔術師殺し』の主犯だと自分で言ってましたし。まずは捕らえて尋問しないと」
「――アタシもPEACEMAKERの意見に賛成よ。まずは彼女の確認をするべき。今まさに立ち上がって、こちらを攻撃してくるかもしれない」
(……ん?)
純潔乙女騎士団の団長ルッカの発言にオレは疑問を持ったが、その場で追求する訳にもいかず流してしまう。
皆はオレ達の提案に賛同し、警戒しながらも窓や壊れた扉から外の様子を窺う。
かなりの距離を吹き飛ばされた紅甲冑は倒れていた。
いくら分厚い作りの甲冑でも、ダメージ0とはいかず痛みに悶えている。
紅甲冑はよろよろと立ち上がると、背負っていた大剣に手をかける。
『お姉様からお預かりしている甲冑に傷を付けやがって! 返り血でしか汚してはいけない甲冑に傷をつけやがって! 殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す! 生きたまま腹かっさばいて、自分の臓物を喰わせてやるぞ!!!』
立ち上がった紅甲冑はびっくりするぐらい、マジギレしていた。
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明後日、3月21日、21時更新予定です!
歯医者に行ってきました!
ようやく歯の治療が終わりました!
しかし結構マメに歯を磨いているのに虫歯になるなんて……解せぬ。
後、今回の話は趣味に走っています。
趣味に走りまくっています!