第111話 話し合い①
飛行船に戻り、居残り組――スノー、クリス、メイヤにガルマから聞いた現状を伝えた。
場所は食堂兼リビング。
太陽が沈みかけた夕方で、スノー&クリスが準備してくれた夕食を摂りながらオレ達は状況について話し合う。
「……なんだか面倒な事態になってるね。ただ『事件を起こしている犯人を捕まえれば解決』って感じじゃなさそうだし」
『各軍団の思惑、利権闘争に巻き込まれちゃったってことですか?』
「けど、実際、僕達はあくまで純潔乙女騎士団に助力を請われた立場。現地の利権争いに首を突っ込む気はさらさらないよ。『PEACEMAKER』の拠点は一応竜人大陸なんだから。事件の犯人を見付けて、倒して純潔乙女騎士団に押し付ければ終わりさ。難しいことなんてないよ」
「リュート様の仰りたいことは分かりますが……」
メイヤが珍しく歯切れ悪く、2通の手紙を取り出す。
手紙を受け取ると、彼女が説明を始めた。
「実はリュート様達が純潔乙女騎士団本部に行っている間に、その利権を奪うためココリ街に来た2つの軍団――『狼剣』『百合薔薇』からそれぞれ手紙を受け取ったのです」
それぞれの手紙の封蝋には『剣を銜えた狼の頭』『百合と薔薇』の軍団旗が記されていた。
ちなみに『PEACEMAKER』の軍団旗は、オレの貴族紋章と同じ『リボルバーと6発の弾丸』だ。
メイヤが手紙を受け取った時の詳細を語る。
「それぞれ軍団メンバーがわざわざ届けに来ましたの。手紙の内容は話し合いの日時、場所が書かれている招待状だと仰ってましたわ」
「話し合い?」
「詳しい内容は、実際に顔を合わせて話したいそうですわ」
封を切り、内容を確認する。
どちらも定型文に場所、時間指定しか書かれていない。
「顔を合わせて話し合う内容……一体どういうものでしょうか」
「想像は付くけどな。恐らく共闘か、今回の件から手を引けって言いたいんだろうな」
リースの疑問に、オレが答える。
皆も同意見らしく、反対の声は上がらなかった。
唯一、シアが付け加える。
「若様のご指摘通りだと思います。もし断った場合、逆上してその場で襲いかかってくるかもしれません」
「なら私達、全員で行きましょう。もし相手が逆上し襲ってきても返り討ちにしてやります」
リースの意外な好戦的態度に驚く。
こういうのはメイヤが言い出すのが常だったのだが。
オレの表情を見て、リースが慌てたように頬を赤くして俯く。
「い、いえ……そのリュートさんが襲われている姿を想像したら、とても我慢出来なくなってしまって――。す、すみません、はしたないマネを」
「そんなことないよ! リースにそこまで想われて本当に嬉しいよ。けど流石にこちらから喧嘩を売るようなマネはしないほうがいいと思うから、全員で行くのは止めておこう」
「なら、外から何時でも突入出来るように監視しておく?」
スノーの提案に腕を組む。
「……即答は出来ないな。一応、検討には入れておいた方がいいかもな」
こちらにはクリスがいる。
相手が実力行使に出るなどいざという時には、SVD(ドラグノフ狙撃銃)で、援護射撃する方法もとれる。
「それで結局、若様はこの軍団の方達にお会いになるのですか?」
「……もちろん、会って話を聞くつもりだよ」
シアがお茶を淹れて周りながら尋ねてきたのに答える。
「天下の大天才魔術開発者であるリュート様も呼びつけるなんて不敬ですわ! むしろあちらから手土産を持って、挨拶に来るのが礼儀なのに!」
「落ち着けって、僕達はまだ新興の軍団。若い奴が挨拶に行くのが世間一般では礼儀だろ。いいじゃないか、若手は若手らしく、手土産持って挨拶に伺えば」
そっちの方が色々好都合だ。
続いて、他にも皆で話し合いをした。
飛行船を純潔乙女騎士団の訓練グラウンドに停める許可を貰ったこと。
宿泊先も騎士団本部の一室を借り受けた。
さすがに今日は日が落ちてしまったので、再度飛行船での睡眠になる。
今夜の歩哨スケジュールを昨夜と同じで問題ないだろう。
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手紙を貰った3日後の夜。
一応事前に、純潔乙女騎士団の顧問であるガルマに他軍団と会うことを告げている。
招待の手紙を貰った手前、挨拶がてら話内容と顔を見に行くだけだが。
まず初め会う約束を取り付けたのは、『狼剣』だ。
ガルマの話で軍団ランキングは、『銀』。ベテランレベルである。
ちなみにオレ達、『PEACEMAKER』は結成したばかりのため軍団ランキングはまだ『銅』。新人レベルだ。
話の内容は想像つくが、念のため聞いておく必要がある。
指定された建物へと赴く。
場所は南の外れ――冒険者斡旋組合などもある商業区。
そこにあるレストラン、『レッド・ミリオン』が今回の顔合わせ場所だ。
ここは表通りの商業通りとは違い、ココリ街の市民達が利用する商店が密集している。
表通りの商業通りは、獣人大陸奥地へ向かう品物などが集まっている。
ここで品物を買うことは出来るが、基本は商店向け。
前世の日本で言うところの築地のような場所だ。
プロが扱う場所のため、素人は基本的にお断り。
呼び出し場所に向かったのはオレとシアだけだ。
スノー達がバックアップに付いている訳でもない。
後方支援について、周囲を警戒している軍団メンバーと遭遇した場合、争いが起こり厄介事になるかもしれなかったためだ。
一応、念のための保険はシアが持つ旅行鞄に入っている。
オレ達は指定されたレストラン前に到着する。
「さて蛇が出るか、鬼が出るか」
「出てくるのは人ですよ?」
オレの独り言に、背後に控えるシアがツッコミを入れてきた。
オレは微苦笑し、『気にするな』と手を振った。
そしてオレ達は、レストラン内部へと足を踏み入れる。
シアが意味ありげに手にしている旅行鞄の重さを確かめていた。
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明後日、3月13日、21時更新予定です!