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第104話 ウォッシュトイレ2

「……ッ」


 竜人大陸。

 街の一角にある魔石を扱う商店。

 その主であるオヤジは苛立っていた。


 今日はまだ一度もウォッシュトイレを使用していないからだ。

 店番をしながら、机を苛立ちながら指で規則正しく叩く。


 ある日、竜人大陸で国王に比肩する有名人、メイヤ・ドラグーンの師匠であるリュートが自分の店を尋ねてきた。

 あの魔石姫の師が、自身の魔石店を訪ねてくる。

 本来はとても名誉あることで、諸手をあげて歓迎するべきことだった。

 しかし、訪ねてきたメイヤの師であるリュートはこともあろうに魔石をトイレに使用したいと言い出したのだ。


 魔石を扱い、それで食べさせてもらっているオヤジからしてみれば、これほどの侮辱は無い。

 相手は魔石姫の師。

 だが、オヤジは魔石店のプライドと誇りのために彼を追い出した。


 なのに後日――彼の自宅で、魔石を使った『ウォッシュトイレ』を半ば強引に体験させられた。正直、最初は高をくくっていた。


「たかがお尻を洗うだけじゃないか……」


 ぶつぶつと文句を付きながら、壁に書かれてある仕様書通りに使う。

 使った所で自分は絶対に認めるはずがない。


 だが結果はまったくの逆。

 彼の宣言通り、一度使用しただけでオヤジはウォッシュトイレの虜になってしまったのだ。

 世界が一変してしまうほどの体験。


 以後、気付けばオヤジは自宅のトイレをウォッシュトイレへと変えていた。

 無駄な抵抗と知りながら、魔石店を営む主のプライドとして、何度も使わないよう我慢した。

 今も、朝から使わず我慢している。

 ウォッシュトイレの魔力になど、屈しない。

 彼は自分に何度も言い聞かせ、沸き上がる誘惑に耐えようとしていた。


 机を叩く指先の速度が上がる。

 足は無意識に貧乏揺すりまで始めた。


「こんにちは」

「……ッ」


 そんなオヤジの苦労も知らず、のんきな声で1人の男が入ってくる。

 オヤジをここまで追い詰め、苦労させている張本人――魔石姫、メイヤ・ドラグーンの師匠であるリュート・ガンスミスだ。


 最近、冒険者として功績を挙げ軍団(レギオン)を立ち上げ、ハイエルフ王国から名誉士爵の位まで授与されたと耳にしている。


 そんな話題の人物が店を訪ねてきたが、だがオヤジは歓迎の表情ではなく、悪魔を目の前に姿を現したような驚きを浮かべた。


「り、リュート様!? なぜここに……ッ」

「そりゃもちん新しいウォッシュトイレ開発のため、魔石の相談に来たに決まってるじゃないですか」

「くッ……」


 リュートはオヤジの心情にも気付かず、無害な笑顔で告げた。

 オヤジの額から冷たい汗が頬を伝う。


(新しいウォッシュトイレ!? まさかあれより上があるというのか!)


 今のウォッシュトイレさえ、違法魔術薬に負けない依存性・快楽性があるというのに、それ以上とは……!?

 ただの魔石店の主である自分には想像もつかない領域。


 リュートは嬉々とした笑顔で追加機能を告げ、それに必要な魔石が何かを相談し始める。


 便座を温める機能。

 温水使用後、お尻を乾燥させるため熱風を出す機能。

 脱臭機能。


 ――ここまでは、分からなくもない。しかし、最後の要望がオヤジには皆目理解できなかった。


 音楽演奏機能。


 トイレに音楽演奏をさせる?

 なぜそんなことが必要なのか?


 もう常人には到達出来ない狂気の領域に、オヤジは無意識に背筋を震わせる。


「そ、その、最初の3つは従来の魔石で対応可能かと思いますが、最後のは難しいと思います。魔石に音楽や歌を込めるといった力を持った物はありませんから」

「では魔術文字と魔石を組み合わせて、作ることって出来ますかね?」

「すみません、そこまで行くと私の専門外でして……」

「そっか。ならやっぱりメイヤに相談した方が早いかな。これはオレの趣味みたいなもんだから、あんまり迷惑をかけるようなことはしたくないんだけど……」


 オヤジの言葉にリュートは顎に手を当て考え込む。

 考えをまとめると、一度メイヤに相談してから再度魔石を買いに来ると言う。


 次はどうやら衣服店に向かうらしい。


 衣服店に行き、彼はどんな狂気的行為を行うのだろう……。常人には千年経っても到達しえ無い発想で、無茶な注文をするに違いない。

 オヤジは想像しただけで、冷や汗が滝のように溢れ出る。


「くそっ……ヤツは魔王か。どれだけ俺達を追いつめれば気が済むんだ」


 同時に、リュートと出会い、会話をしたせいでウォッシュトイレの素晴らしい快感を思い出してしまう。


 奥歯を噛みしめ耐えようとするが、一度思い出した欲求は留まらず、時間が経つことに増大していく。


 リュートが店を出ると、もう我慢が出来ないレベルまで到達してしまった。

 お尻がどうしようもなく疼くのだ。


「くッ……!」


 今朝から我慢していたがもう耐えられない!

 魔石店の主としてウォッシュトイレを使用しないと誓い、何度も挑戦するが、1日だって耐えられないでいた。


 オヤジは店の扉に『準備中』の札をぶら下げ、奥へ――ウォッシュトイレへと駆け込む。


 こうして魔石店の主としてのプライドは折れ、何度目かも分からない敗北を喫した。





以下、番外編。新ウォッシュトイレ(現在まだ試作段階)を使用した時の反応。


スノーの場合。

使用中――『お、お尻に温風が当たって! ひゃぁ!? なにこれ、むじゅむじゅする!』


使用後――『温風がお尻に当たって凄かったよ! 後、蓋の部分が温かくなってて、これなら冬でも困らないね!』




クリスの場合。

『怖いので、絶対に使いません!』




リースの場合。

使用中――『お、お尻に直接、んんぅッ……温風が当たるなんて……ッ。ひゃぁッ! 温水が当たるのとはまた違った刺激……ですが、元ハイエルフ王国、エノール第2王女、リース・エノール・メメアが温風を当てられるぐらいで負けるはず――』


使用後――『やっぱり勝てませんでした……もう温風機能の無いウォッシュトイレ無しでは生きていけません……』




ルナの場合。

使用中――『何これっ、もうくすぐったい……ッ。ちょ、ちょっと! どこに風を当ててるのよ!』


使用後――『女の子に使い心地を聞くなんてリューとん、サイテェー!』




シアの場合。

使用中――『ンん……』


使用後――『ボクは護衛メイドですから、尋問や拷問訓練等はもちろん経験済みです。お尻に温風が当たる程度の刺激ぐらい耐えるのは容易いです』




メイヤの場合。

使用中――『り、リュート様ぁあああっぁッ! りゅ、リュート様!? リュート様あぁっぁっぁ!!!』


使用後――『うふふふ、さすが天才を越えた天才のリュート様。あのウォッシュトイレのまだ先があるなんて……ッ!」




クリスは相変わらず怖がって使用してくれなかった。

ルナにトイレの使い心地を聞いたら、顔を真っ赤にして怒られた。その恥じらう姿がちょっと可愛かったのは内緒だ。

そしてメイヤ……ぶれなさすぎ。それにトイレから、自分の名前を連呼されてちょっと怖い。

基本的には好評だったが、まだ試作品段階。

音が鳴る機能もまだ搭載できていない。

まだまだ改善点有りだ。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明日、3月1日、21時更新予定です!


何気に明日からもう3月。ついこないだ正月だと思っていたのに……。

時が経つのは早いですねー。

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