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第9話 AK47

 リュート、7歳。


 ゴブリン撃退後、エル先生はオレ達の怪我の有無を確認。

 気絶した少女が転んだ拍子に切った傷だけだったので、エル先生が治癒魔術であっという間に完治させる。


 その後先生はオレ達を連れて孤児院へ。


 町から自衛団を呼び、周囲を警戒させる。

 エル先生はその間、1人で森に入って逃走したゴブリン2匹を瞬殺。

 軽く森を見て回り、他に脅威となる魔物がいないか探索し戻ってきた。

 ゴブリン以外、見あたらなかったらしい。


 その日の夜、町長の家で会議が開かれる。


 議題は今日の夕方に起きた『ゴブリン襲撃事件』についてだ。


 魔物が単独で町を襲うことはあったが、魔物が集団でというのは初めてだった。


 第一、ゴブリンのような凶悪な魔物がこの森で発見されたことはない。

 町始まって以来の事件だ。


 村人の1人が冗談で『魔王でも復活しているのではないか?』と言った。

 町長が不謹慎だと非難し、黙らせる。


 不幸中の幸い、オレとスノーの活躍で怪我人は出たが死者は無し。

 かなり幸運な結果だ。


 しかしそう何度も幸運は都合良く訪れはしない。

 会議の結果、約30日に一度、自衛団とエル先生が一緒になって森を見て回り危険な魔物がいないか巡回する決まりになった。


 今夜は念のため自衛団が交替で町の周辺を警戒する。


 皆のオレとスノーへの感謝の言葉は、翌日に持ち越された。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 ゴブリン襲撃事件後、オレに対する評価が一転した。


 元々、町人達の間でオレはリバーシや他玩具開発でお金を稼ぎ、孤児院始まって以来一番貢献しているが、一方でその資金を使って妖しい魔術道具の研究をしている気味の悪い子供――という悪評のほうが有名だったらしい。


 オレ個人としてはハンドガン作りに没頭していたため、悪評に全く気付いていなかった。


 この事件をきっかけに『魔術師としての才能は無いが、それを補ってあまりある魔術道具を開発した大天才』という評価に変わったらしい。


 なんという手のひら返し……。


 特に町長の手のひら返しが酷かった。


 スノーと一緒に助けた子が町長の孫娘で、彼女は助けてくれたオレに一目惚れ。

 町長を通して自分の婿になって欲しいと迫ってきた。

 町長も乗り気で、彼女と結婚して末永くこの町を守って欲しいと言い出す。


 もちろんお断りした。

 この町は好きだが、一生守り続けるわけにはいかない。


 また褒められるのは嬉しいが、自分としては実戦を経験して反省点のほうが多かった。


 練習では思い通り魔力コントロールできていたのに、実戦では雑になってしまった。

 そのせいで無駄に魔力を消費してしまう。


 またリボルバーのリロード速度、弾数、火力不足を痛感する。


 数が少なかったからよかったものの、後数体多かったら、スノー達を守りきれなかっただろう。

 今思い返しても背筋に冷たい汗が流れる。


 事件前は『S&W M10』リボルバーを元にマグナム弾が撃てる『S&W M19コンバットマグナム』を試作するつもりだった。

 今は趣味に走っている場合ではないと目を覚まされた思いだ。


 M19は一時凍結して、オレは突撃銃(アサルトライフル)製作に取りかかる決意をする。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 昼食を済ませると、男子部屋に戻る。


 試射場で突撃銃(アサルトライフル)製作に必要な物を揃えるためだ。


 ゴブリン襲撃事件以降、町長が町の決まりとして子供達だけで河原に行くのを禁止した。

 だが、オレだけは魔術道具開発のため許されている。


 やや過保護な傾向を持つエル先生は渋い顔をしていたが、結局ゴブリンを倒したのはオレ自身なので黙認という形で許可を出す。


 まさか孤児院内で突撃銃(アサルトライフル)を作る訳にもいかず、エル先生には申し訳ないと思いつつも、毎日当番仕事が終わったら試射場に向かっていた。




 今日も部屋の隅から、魔術液体金属が入った樽を取り出す。


 護身用のリボルバーには弾薬を装填し、ガンベルトから吊す。

 念のため金属製の弾薬ケースから38スペシャル(9mm)がみっちり入った木箱をひとつ手に取った。


 木箱を樽の上に乗せ、孤児院の裏庭を通って試射場を目指す。


 途中、裏庭を通るとすでに魔術師基礎授業を受ける生徒達が集まっていた。


 そのうちの1人、スノーがオレを見付けると尻尾を振りながら駆け寄ってくる。


「リュートくん!」


 彼女は躊躇い無く抱きついて来る。

 手に持っていた樽と木箱を落としそうになった。


「スノー! 危ないから、突然抱きつくなっていつも言ってるだろ」

「うん、分かった。今度から気を付けるね」

「昨日も同じこと言ってたよな……って、こら匂いを嗅ぐな、ふごふごするなよ。くすぐったいだろ」

「だってリュートくんの匂い、とっても良い香りで落ち着くんだもん」


 スノーは制止を促しても耳を貸さず、首筋に顔を埋めて匂いを嗅いでくる。

 彼女の犬耳やすべすべの頬、呼吸が本当にくすぐったい。


 スノーは北大陸に住む白狼族と呼ばれる少数種族の捨て子だ。

 イヌ科だけあって、匂いを嗅ぐのが好きらしい。

 最近はよくこうして抱きつかれて匂いを嗅がれている。


 オレは諦めの溜息をついて樽と木箱を脇に抱えて、スノーの頭をやや乱暴に撫でる。


 彼女は嫌がるどころか、気持ちよさそうに『えへへへ』と微笑んだ。


 スノーの態度もゴブリン襲撃事件以降、ずいぶんと変わった。


 以前は一番仲が良い幼なじみという距離感で、たまに『あれ、こいつオレに惚れてるんじゃね?』という程度。


 しかし事件以降は、こんな風に積極的に好意を示すようになる。

 食事も絶対に隣同士で食べ、時間があればオレの側を決して離れずどこへでも付いて来る。

 トイレにまで一緒に入ろうとした時はさすがに参った。


 ボディータッチの回数など数えるのが馬鹿らしくなるほど増大する。


 今みたいに抱きついてくるのは当たり前で、手を繋いだり腕に絡んできたり、部屋でリボルバーのメンテをしていると後ろから首に腕を回してきたりもする。

 その時もやっぱり匂いを嗅ぐ。


 スノーはオレの匂いが好き過ぎて――女子部屋の女の子達から聞いたのだが、破れて着られなくなったオレのシャツをもらった夜以降、ずっと匂いを嗅ぎながら眠っているらしい。

『ふごふご』うるさいからなんとかして欲しいと、苦情が入ったほどだ。


 スノーに夜寝る時は匂いを嗅ぐの止めるよう説得すると、彼女はこの世の終わりのような顔で、犬耳をペタンと閉じ、尻尾をダランと垂らした。

 そんな彼女を見ていられず、『周囲に迷惑をかけないよう静かに嗅げ』と妥協してしまった。

 どうしてもスノーに対しては甘くなる。




 これは勝手な推測だが――元々スノーは、本人が自覚していなかっただけでオレに好意を抱いていた。

 それが事件を切っ掛けに、本人が自覚したのだろう。


 こんな可愛くて、性格もいい幼なじみが居て、惚れられているなんて。

 この異世界に転生して心底良かったと思える。


 問題があるとすれば……


「リュートくん、どこに行くの?」

「試射場に行って、新しい銃を作れるか実験するつもり」

「わたしも一緒に行っていい?」

「ダメに決まってるだろ。スノーはこれから魔術師基礎授業があるんだから」

「うぅぅ、そうだけど……」


 スノーはオレと一緒に居られるなら、簡単に優先事項を覆すようになってしまった。

 ちょっとだけ、アホの子化している。


「夕方まで試射場にいるから、授業が終わったら来いよ」

「……分かった。試射場でまたリュートくんのリボルバー、撃たせてくれる?」

「もちろん。だからちゃんと授業がんばれよ」


 スノーは事件後、リボルバーに興味を持った。


 彼女が銃を怖がらなくなったため、オレはスノーに積極的に撃ち方を教えるようにしている。魔力が切れた時など、いざという時の護身用だ。

 将来的にはスノー専用の護身銃を作るつもりだ。


 エル先生が裏庭に顔を出す。


「それでは皆さん、これから魔術師の訓練を始めます」

「ほら、スノー。エル先生が始めるって」

「もうちょっと、もうちょっとだけふごふごさせて」

「駄目だって、みんな待ってるだろ。ほら、行った行った」

「うぅぅ……リュートくんの意地悪」


 彼女は文句を言いながら名残惜しそうに体を離す。


「それじゃまた後でな。エル先生たちに迷惑かけるなよ」

「うん、また後でね」

「……スノーくん、言動が合ってないぞ。手を離してくれ」


 スノーはオレのシャツの裾をつまみ、悪あがきする。

 指摘すると、いじけた表情をするが最後は笑顔で手を振り、エル先生の元へと駆け足で戻る。


 オレは樽を持ち直し、試射場へと向かった。




 試射場へ着く。


 樽以外の荷物を邪魔にならないよう小脇に置いた。


 樽の蓋を開け、両手を入れる。ひやりとした金属の感触が皮膚に広がる。

 その冷たさを味わいながら、改めてこれから作る銃のことを考える。


 これからオレが作ろうとしている銃は、ソビエト連邦が生んだ傑作突撃銃(アサルトライフル)の『AK47』だ。

(AKMなど様々な改良バリエーションが存在するが、とりあえずAK47と便宜上呼称する)


 なぜ数ある突撃銃(アサルトライフル)の中で、AK47を選んだかというと――構造が一番シンプルだからだ。


 しかも兎に角頑丈で、極寒の北極圏やアフリカの砂漠、東南アジアのジャングル地帯だろうが、ろくに手入れもせず泥水に浸かった後でもバリバリ快調に撃ちまくれる。


 一説には水田に埋められ、数ヶ月後に掘り起こされたAK47でも問題無く発砲できたらしい。


 この利点から、前世の世界でもコピーが大量に作られ地球の隅々に出回った。

 色々な国の国旗等にも描かれ、世界中のゲリラによって現在も第一線で使われ続けている銃器。


 この武器によって毎年何十万人もの人々の命が奪われていると言われている。

 そのため『小さな大量破壊兵器』とも呼ばれていた。


 だからこそ、この未開発の異世界に最も適した突撃銃(アサルトライフル)ともいえる。


 だが、問題がふたつある。


 ひとつは、構造がシンプルとはいえ自動式(オートマチック)


 弾薬が発射される際に生じるガスを使って、次弾を装填する方式をガス利用式と呼ぶ。


 AK47の場合、銃身上にガスピストンを位置させた設計をしている。

 これをガス・オペレーテッド方式と呼ぶ。

 この方式がちゃんと動作するよう作れるかどうか……。


 知識はあっても、実際やるのとは天と地も差があるとリボルバー製作の時に嫌でも学んだ。


 ふたつ目は、弾薬(カートリッジ)だ。


 ライフルの弾薬(カートリッジ)は、ハンドガンと外見・中身共にまったく違う。


 まず弾薬(カートリッジ)の外見は細長く、ワインボトルのように途中でくびれている。


 中身の発射薬(パウダー)はライフルのほうが、ハンドガンより燃焼スピードが遅い(時間にして1000分の何秒程度だが)。

 燃える速度が遅いと薬莢(ケース)銃身(バレル)のなかの密閉空間で圧力が高まり、速度が速く貫通力が高い弾丸を発射することが出来る。


 その発射薬(パウダー)を再現するのに、途方もない実験を繰り返す必要があった。


「まぁ、でもオレは完成形を知っている。答えを出すため試行錯誤する必要が無い分、まだ楽だよな」


 弾薬(カートリッジ)の設計は銃本体よりずっと複雑だ。

 弾道学の専門家の間でも活発に意見が交わされる。

 弾丸の重さ、先端形状、発射薬(パウダー)を少し変えるだけでまったく違う武器になってしまうほどだ。

「……作り出すことが出来たら、頼もしい武器になるだろうな」


 オレは改めて軽く息を吐いて、目蓋を閉じる。

 リボルバー制作で培ったイメージ力を最大限引き出す。


「まず最初に作る部品は……」


 そっと冷たい液体金属の中に手を入れた。





ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明日、12月1日、21時更新予定です。


今回はいつもより短めなので、ついでにキャラクター紹介を追加しておきます。

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