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宇宙人文化研究

 1938年10月30日、アメリカのラジオ番組内で、火星人が地球に来襲したという放送が流れた。
 もちろん、これはフィクションで、オーソン・ウェルズによるラジオ番組『宇宙戦争』の一幕だったのだが、その放送に多くのアメリカ人は恐怖し、アメリカ国内にパニックを引き起こしたとされる。ただし、実際にはそれほどの騒ぎにはならなかったとも言われ、パニックが起きたという話は、後のメディアによる誇張というのが有力な説だ。もっとも、それでも当時のアメリカ人にとって“火星人”という存在がある程度のリアリティを持っていた事を示すエピソードではあるだろう。
 宇宙人というと、ただそれだけで馬鹿にする人も多いが、こういった事柄を考慮するのならば、実際に宇宙人が存在しているかどうかは別問題として、一つの文化として、それが意味を持つ事は否定できないはずだ。文化相対主義の観点からも、それを一概に否定してはいけない。
 地球の人間社会において、自然科学が急速に発展をし工業文明として確かな功績を残し始めると、それまでの前時代的なものは非科学的なものとして否定されるようになっていった。その過程で、新たなオカルト的存在として、未確認動物やUFO、そして地球外知的生命体、つまりは宇宙人も盛んに取り上げられるようになっていった(その存在の可能性は、それより以前から考えられていたが、近代科学の成熟以前とは捉えられ方が、根本的に異なっている)。
 しかし、そこに自然科学的世界観の影響が強く見出されたとしても、宇宙人という存在が、人間社会に古くからある信仰と同じ根を持つという可能性は否定し切れない。宇宙人と、外部からの霊的な存在を歓待する「マレビト信仰」との繋がりを指摘する声もある(実際、霊と宇宙人を結びつけて考えている人々は多くいる)。少なくとも、心理的には同種のものである可能性は大きい。ならば、文化人類学や、民俗学で、妖怪や神や霊などを研究対象として扱うのと同じ様に、宇宙人に関する文化を研究するという意義は大いにあるのではないだろうか。
 人間社会では、様々な形態の宇宙人が考えられ、人間の想像力により進化してきたが、それら宇宙人がインターネットが普及した今、その中でどのように扱われているのかに、ボクは特に興味を惹かれた。その昔、電話が普及した時代、日本では、受話器の向こう側にいる存在が人間であるかどうかに不安を感じ、初めに「もしもし」と二回続けて呼びかける文化が定着したという説がある(徐々に廃れているが)。これは、お化けの類は、続けて二回同じ事を言えないと信じられていた為で、「もしもし」と言えた事で、相手がお化けではないと確認しているのだ。このように、新たなテクノロジーの進化は、人間社会に新たな文化の定着をもたらす。同じ様な心理が、インターネットが普及した現代にも存在するのであれば、その影響がインターネットの宇宙人文化にも現れているかもしれない。
 そこでボクは、インターネットを用いて、地球の日本を対象とし、今回、研究を行うこととした。

 幸いにもネットでの検索により、宇宙人の実在を信じる人々との接触にボクは成功した。彼らは宇宙人研究のコミニティを形成しており、そこでそれぞれ宇宙人に対する意見や情報を交換し合っているらしい。ボクは自らの目的を素直に打ち明け、宇宙人の存在に関しては、半信半疑である事を伝えた上で、取材への協力を要請し、快く承諾してもらった。
 ボクはまず、A(仮名)という人物へのインタビューを試みた。実施は、スカイプにより二人きりで行った。
 彼は宇宙人の実在を素直に信じており、インターネットが普及した今、宇宙人はネット世界を監視しているはずだと主張していた。確かに、宇宙人の実在を信じるのなら、今の時代にネットの活用を想定しないはずがないだろう。
 Aは、ボクにこう言った。
 『彼らは非常に友好的なんです。だからインターネット上でも、我々人類に対して、警告を発してくれている事が多い。もちろん、我々を心配してくれているからです』
 直ぐにボクは、どうして、宇宙人が友好的だと分かるのかと疑問に思ったのだが、それを尋ねる前に、別の質問をする事にした。
 『警告を発してくれる事が多い。という事は、実際にあなたは、その宇宙人の警告を見た事があるのですか?』
 “質問”というのは、攻撃の言葉としても捉えられる場合がある。そうなるのを、回避したのだ。それに、ボクは彼らと議論をしたい訳ではない。飽くまで彼らの考えや意見を聞きたいだけだ。
 Aはこう答えた。
 『もちろん』
 そして、しばらくの間の後で、こう続けた。
 『例えば、原子力発電の問題点を、丁寧に説明してくれていたりします。匿名の場合も多いですが、地球人を騙っているケースもあるようですね』
 『なるほど。宇宙人は、地球人が間違った方向へ文明を進めてしまわないように、働きかけをしている訳だ』
 『その通りです。もし仮に、宇宙人が敵対する意思を持っていたら、我々は既に滅ぼされていますよ。それくらい偉大な存在なんです。戦争なんて、非生産的な行いはしない。損になるだけだと分かっているからです』
 それを聞いてボクは察した。どうやら今の説明が、宇宙人は友好的という事の論拠になっているらしい。次にボクはこう訊いてみた。
 『宇宙人は、どうして地球人の前にその姿を現さないのでしょうか?』
 『姿を現せば、絶対に人間は彼らを差別的な偏見の目で見るでしょう。そして彼らの的確なアドバイスにも耳を貸さない。それどころか、一方的な敵意を向ける。それを分かっている宇宙人は、敢えて姿を現さないのです。本当なら、優れた技術なども教えたいと思っているはずですが、人間の攻撃性を危惧してできないでいる。大量破壊兵器などにも、応用が可能だからですね』
 ここまで話を聞いて、Aは宇宙人を慈悲深い神のような存在として捉えているだろう事が分かった。宗教などに近い印象を、ボクは受けた。それからボクは、彼が宇宙人をどんな姿として捉えているかに興味を抱いた。それで、こう質問をした。
 『なるほど。ここで少し質問を変えますが、宇宙人は、どんな姿をした存在だとあなたは考えていますか?』
 その質問には、彼は少し困ったようだった。悩んでいたのか、少しの間の後でこう言う。
 『分かりません。と言うか、僕は宇宙人は様々な形状になれるのだとそう思っている』
 『自由に、姿を変えられると?』
 『ええ。ほら、様々な姿の目撃例が宇宙人にはあるでしょう? あれはきっと、色々な姿になれるという事なのですよ。姿形なんて、彼らにはあまり意味がないんだ。恐らく、どんな人間の前に出るかで、その姿を効果的に変えているのでしょう』
 精霊的な存在。ボクは直ぐにそれを連想した。彼自身は、霊という言葉を使わなかったが、Aの中での宇宙人という存在は、恐らくはそれに近い。ボクは次に、こう質問をした。
 『宇宙人の移動手段は、どのようなものだと考えていますか。どうやって彼らは、地球まで来たのでしょう?』
 宇宙人を霊的な存在として捉えている場合、この移動手段は必ずしも必要ではない。そもそも、初めから情報として、身近な宇宙に存在しているという考え方も可能だからだ。が、Aはその問いに対して、こう答えた。
 『分かりません。何しろ、彼らは僕らには想像も付かないような超科学を持った存在ですからね。僕なんかに、理解できる移動手段ではないのでしょう。だから、何億光年離れていようと問題になりません。
 大切なのは、そんな点ではないのです。大切なのは、彼らが地球にいて、そして、僕らを救ってくれる存在だという事なんだ』
 そこまでを聞いて、ボクはAが宇宙人に対して何を求めているのかが分かった気がした。Aは宇宙人を、科学的な興味対象としては、捉えていない。理屈抜きで、自分達を超えた超存在として認識し、そして、恐らくは依存しているのだろう。その後も、彼との会話はしばらく続いたが、その内容は割愛し、次の相手に進めたいと思う。
 次にボクが取材をしたのは、B(仮名)という人物だった。彼はボクが、前にAへのインタビューを行ったと話すと、明らかに嫌悪感を示した。
 『アイツと俺らを一緒にして欲しくないね。他にも酷いのはいるが、アイツは、その中でも特に酷い一人だよ。意見を交換する意味もない』
 ボクは彼の態度に、多少の不快感を覚えたが、それは抑えてこう訊いた。
 『という事は、あなたは彼とは全く違う意見を持っているのですか?』
 『その通り。と言うか、アイツのはそもそも意見なんてもんじゃないだろう? ただの信仰だよ。いや、思考を放棄しているんだ。俺が宇宙人の移動手段について話をしようとしたら、アイツは何と言ったと思う? そんな事を考えるのは、彼らへの冒涜だと言うんだよ。分かろうとするべきじゃないと』
 少し間があったが、恐らくBはパソコン画面の前で肩を竦めているのではないかとボクは想像した。彼は続ける。
 『宇宙人を考察する上で、最も重要なのは移動手段なんだよ。地球以外の星にも生命が存在しているのはほぼ確実だろう。だが、人間がそれらと接触する事はほぼない。言うまでもなく、移動手段がないからだ。惑星の外へ出るのすら難しいのに、何万光年って彼方の地にどうやったら辿り着ける?
 と言う事は、仮に宇宙人が地球にやって来ているとするのなら、その問題を解決しなけりゃならないんだ』
 『なるほど。では、あなたは、それについての考えがあると?』
 『まぁな』
 と、そう答えると、Bは説明をし始めた。どうやら、彼は誰かに自分の考えを話したくて仕方なかったようだ。その自分の自信のある考えを、Aに根本から拒絶されたからこそ、Aに対して嫌悪感を抱いているのだろう。
 『まず、物理的に移動した、と考えるのには無理がある。いくら何でも距離が離れ過ぎているからな。はっきり言って、地球まで辿り着く事はできない』
 物理的な移動が不可能ならば、彼もやはり霊的な存在として宇宙人を捉えているのだろうか。ボクはこう尋ねてみた。
 『それでは、どうやって地球まで来たと?』
 すると、彼はこう答える。
 『来ちゃいないんだよ。宇宙人は、単に地球に向けて情報を発信しただけだ』
 『情報を発信した?』
 『そう。と言っても、ただの情報じゃない。それ自体が情報生命とでも呼べるような代物だ。電磁波なのか、放射線なのかは分からないけどよ』
 『なるほど。その情報生命こそが、宇宙人だとあなたは、言うのですか?』
 『ちょっと違うな。その情報は、地球の生命に例えるのなら、遺伝子みたいなもんなんだよ。何かがそれを受信すると、データとして残ったそれが、生命を組み立て始める。もちろん、受信する機械がなくちゃできない。だから、これはある程度の文明が発達した惑星じゃなければ、発生しない』
 それを聞いてボクは面白い発想だと、そう思った。カテゴライズするのなら、霊的な宇宙人と、それ以外の宇宙人の複合型のようなものだろうか。
 『ははぁ、それで人間が文明を発達させた近代において、宇宙人は初めて地球に発生したと』
 宇宙人は古代より地球に来ていたと考える人間もいるようだが、どうも彼は、そうは考えていないようだ。
 『その通りだよ。宇宙人は、何億光年以上の彼方から、絶えずこの情報を発信し続けているんだ。生命や文明の存在しそうな星に向けて。もしかしたら、本人達は既に滅びているかもしれない』
 『目的は何でしょう? 宇宙人は、何故、そんな事をやっているのか……』
 『それは簡単だよ。繁殖だ。宇宙人は、そうして自分達を発生させたなら、他の惑星の人間社会に働きかけて、同じ様な情報発信装置を造り上げさせるんだよ。そうして、また別の星に向けて情報を発信させる。それで繁殖していてるって訳だ。つまりは、広大な宇宙を舞台にして生きる、宇宙生命体なんだな。
 だが、これは俺達にとってみれば、寄生虫みたいなもんだ。無駄な仕事をさせられるんだからな。邪魔者以外の何者でもない。駆除しなけりゃいけない』
 Bの意見も、かなり荒唐無稽だが、一応、話の筋は通っている。しかし、彼の話には致命的な欠陥がある。
 『それを示す証拠はあるのでしょうか?』
 そう質問した後で、ボクは後悔した。飽くまでボクは彼から話を聞くだけの立場に徹しなければいけないはずなのに、彼に反論したような形になってしまったからだ。彼はボクの言葉に少し困ったようだった。
 『証拠はないよ。明確な証拠は。だけど、だからこそ、俺はこうして情報を交換し合っているんじゃないか。もしかしたら、奴等は既に肉体のようなものを手に入れているかもしれない。ロボットのようなものなのか、それとも他の何かなのかは分からないが。手遅れになってからじゃ遅いんだよ。奴等を駆除しなくちゃいけない。もし宇宙人の痕跡を見つけたら、ウィルス対策ソフトのようなものを開発して、インストールを義務付けるんだ。既に肉体を得ている宇宙人にも警戒をして…』
 ボクの心配は的中して、彼はそれから饒舌に語り続けた。どうも、興奮させてしまったようだ。その後は、彼への取材で、目立った収穫は何もなかった。
 それからボクは数人へ取材をしたが、AやBほど顕著な考えを宇宙人について持っている者とは、なかなか巡り逢えなかった。幾つのかの目撃談や体験談は興味深かったが、それ以外には特筆すべき点はない。ただ、そのうち、ボクが取材をしているという噂を聞きつけたのか、C(仮名)という人物がボクに接触してきた。そして彼は、少々、宇宙人に関して面白い考えを持っていたのだった。
 『Bに聞きましたよ。私達に取材をしているのだそうですね。Aにも話を聞いたとか。物好きな方だ。あの二人の相手をしたとなると、私達に対して、とても愉快な印象を持ったのじゃないでしょうかね』
 Cはそう語った。そのインテリ風の言葉遣いからは、プライドの高さが感じられた。
 『いえ、二人とも、大変に興味深かったですよ』
 ボクがそう答えると、Cはこう言った。
 『そう警戒しないでください。私の立ち位置は、どちらかと言えば、あなたに近いものですよ。私は宇宙人の存在なんて、根っから信じている訳じゃありません』
 『と言うと?』
 『Aは、宇宙人に対して科学的興味を持っている訳じゃなくて、単に信仰しているだけでしょう? まぁ、それも、彼の半生を知れば納得いくと思いますが。Bはもっと単純だ。右翼ってんでしょうかね? そういう性質は遺伝子との相関関係があると聞きましたが、きっとそういうタイプなんですよ、彼は。ま、飽くまで相関関係であって因果関係ではないので、もっと彼の事をよく知れば、他の要因も見えてくるのかもしれませんが』
 ボクはそれを聞き終えると、こう尋ねた。
 『つまり、あなたは彼らを観察しているのですか。それが目的で、あのコミュニティに参加している? 宇宙人については、何も考えを持っていないのでしょうか』
 『いえ、まぁ、自分なりの仮説のようなものは持っていますよ。宇宙人の実在に関するね。当初は、それで所属したんだ。ただ、飽くまで仮説だとは分かっているし、情熱を注いでいる訳でもない。なんとなくコミュニティに所属していて、ずっといるうちに、徐々に人間観察って言うのか、それに近い事をするようになってしまったんです』
 『なるほど。それで、あなたは彼らに対してどんな考えを持っているのですか?』
 そうボクが尋ねると、Cは少し迷った後でこう応えた。
 『本来なら、こういう話は語るべきではないのかもしれない。ほら、プライバシーの侵害ってやつです。Bについては、表面上しか知らないが、私は、Aについて、多少は彼の家庭環境を知ってしまっている。飲み会で何度か話した事がありましてね。
 彼は、問題はあるが、良い奴でして。私としては、彼が誤解されたままでいるのは忍びない』
 ボクはそれを聞くと、こう応えた。
 『ボクはAさんに対して、悪い印象は持っていませんが、分かりました。いずれにしろ、名前は伏せるつもりですし、一般公開もするつもりはありません。ですので、話してもらっても問題はないと思いますよ』
 それを受けてCは『それで、安心をしました。では、少しだけAに関しての話をしましょう』と、そう言った。こう続ける。
 『Aの父親はアルコール依存症です。詳しくは語らないが、どうやら子供の頃は暴力を振るわれていたらしい。それで彼は、恐らくコミュニケーション障害になってしまった。周囲と上手く接する事ができず、孤独な少年時代を過ごしたようですね。しかし、彼が高校生の頃に、ある事件が起きた。
 彼の言葉によるとですね。何でも、学校の屋上でUFOを見たのだという。それも、小さな星のようなものではなく、光り輝く存在だったのだとか。宇宙人に遭ったとまでは言ってなかったが、彼はその体験に衝撃を受けたんです。そして、いつしか、自分もUFOで連れて行ってもらう、という願望を強く抱くに至った』
 ボクはそれにこう返した。
 『なるほど。神秘体験ですね』
 『その通りでしょう。人間が宗教を信じる切っ掛けの一つ、神秘体験。例えそれが幻覚であろうと、個人にとってみれば、真実の体験になる。無理もない。そして、彼の場合は、それが宇宙人だったんですよ』
 それを聞いて、ボクは確かにAとBとでは同じように宇宙人の実在を信じていると言っても、立ち位置がまったく違うとそう思った。Cは続ける。
 『因みに、彼は今、少年時代に彼を苦しめ続けた父親の生活を支えている。まぁ、そうなると、経済的にも結婚なんてできないでしょう。一体、何に文句を言えば良いのかも分からない。人生を呪うしかないって感じですか。本当に皮肉な話ですがね。馬鹿馬鹿し過ぎて、笑い話にすらなりそうだ。正直、同情しますよ』
 そのCの語りから、何かしらAに対する優越感のようなものを感じてしまったのは、ボクの穿ちすぎだろうか。
 ……日本民俗学の創始者、柳田國男は“みなし児幻想”とでも呼ぶべき、別世界に対する憧れを、その説の中に反映させたのだと言われている。自分の本当に、いるべき世界を求める衝動。隠れ里、山人、常世の世界。
 或いは、Aの中にあるのも、そんな想いなのかもしれない。ここではない、別の何処かへの救済。
 『とにかく、Aは宇宙人に自分の人生に対する救いを求めているのです。嘘か、真実かは彼にとっては、だからあまり意味がない。まぁ、それは私も同じかもしれませんが。だから、真実でなければいけないBとは相容れないのでしょう』
 そのCの発言が、ボクには少し気になった。それでこう質問する。
 『嘘か真実かは、重要ではない。と言うと、あなたもAさんと同じ様な何かを宇宙人に求めているのですか?』
 すると、Cは慌ててこう答えてくる。
 『いやいや、やめてくださいよ。Aとは違いますよ。言ったでしょう? 私にとって宇宙人仮説はただの仮説なんです。そして、仮説のままで充分だとも考えている。それに、私の説はどちらかと言えば、Bに近いんです』
 『ふむ。できれば、あなたの仮説を聞かせてはもらえませんか?』
 『良いですよ。ま、そんなに面白い話だとも思えないが』
 そう返すと、Cは自分の宇宙人仮説を説明し始めた。
 『私もBと同じ様に、宇宙人が地球に到達する事はないと考えている。フェルミのパラドックスはご存知でしょう? 地球外知的生命体が存在する可能性はかなり高いが、地球まで到達する技術は存在しないと考えるのが妥当だ。ですが、それでも他の惑星への働きかけができない訳じゃない。これも、Bと同じですが、何かしら宇宙に向けて情報を発信し続ければ、それは可能だ。実際に、人類も似たような事をやっていますしね』
 『なるほど。確かに、内容はBさんと同様のものに聞こえますね』
 『ええ、かなり近いですよ。ただし、私は文明が産む出した受信機がなくても、情報を受け取る事は可能だと考えていますが。というか、高度な受信機になると、その情報をどう解釈するのかといった問題が出てくるから、むしろ無理があるでしょう』
 『もっともな意見だと思います。ですが、だとすると、どうやって宇宙人は地球に情報を受信させているのでしょう?』
 『簡単です。宇宙人の発した電磁波は、有機体の生成を促し、そして生命の誕生を促すのですよ。その生命は、長い時をかけて知性を持つに至ります。知性を持った生命は、宇宙に憧れを抱き、そして、宇宙に旅立とうという願望を持つが、それは先にも述べた通り、技術的な限界から、不可能だ。結果、その代替手段として、宇宙に向けて情報を発信しようとする。人類が、少しずつ行っているように。以後、他の惑星でも同じ様な事が繰り返され、繁殖していく……』
 ボクはそれを聞いて察した。彼の説は、つまりは“生命宇宙起源説”だ。Bと同じで、霊的な宇宙人の変形とも捉えられる。
 『要するに、地球人こそが、宇宙人だという事になるのですかね?』
 『そうですね。地球が宇宙にある限り、地球人は宇宙人だなんて、くだらない冗談を言うつもりはありませんが』
 『ですが、あなたの説には問題があります。生命は宇宙からやって来た。しかし、ならばその生命は、どうやって誕生したのでしょう? それに、この説の証拠は、極めて得難いのではないでしょうか?』
 それを聞くとCは即答した。
 『ええ、その通りですよ。私の説には弱点がある。仮に、大元の生命がどう誕生したかなんて分からない、と開き直ったところで、証拠を得る方法もなさそうだ。
 ですがね、先に述べた通り、私にはそれで充分なんですよ。私は仮説を楽しんでいるだけだ。いや、仮説なんて大仰なものでもないかもしれない。単に、夢想を楽しんでいるだけなんですよ』
 それを聞いて、ボクはある意味ではCはAと同じかもしれないと、そう思った。Aとは別の意味で、彼は“宇宙人”という文化を求めている。
 それでCへの取材も概ね終わりだった。

 それからしばらくは目立った成果は何も得られなかったが、やがて奇妙なコンタクトが彼らの一人からあった。D(仮名)という人物。Dはボクにメールを送ってきて、その中で宇宙人に遭える可能性があると、主張していた。
 Aなら目を輝かせてこれを受け入れるか、逆に怒りだしてしまうかもしれない。Bはきっと、懐疑的に思いながらもこの情報に惹かれるだろう。Cはきっと、あまり信じないに違いない。
 ボクはそれに、何処でどのようにして遭えるのか、具体的に教えて欲しいとメールを返信した。すると彼は、東京のある街を指定して来た。そこで会合があり、そこに宇宙人が現れる可能性が大きいらしい。いかにも胡散臭い話だが、ボクは更に詳細な情報を求めた。すると、Dはこれ以上は、行く約束を得られないと教えないという。ここまで来れば、よくある手口の一つだと直ぐに分かる。しかしボクはそれでも行ってみる価値はあると判断した。これは恐らくインチキだろうが、そこに集まって来る人々は、宇宙人の存在を信じているのだろう。ボクはその彼らを見てみたかったのだ。
 しかし、それから急遽、Dはボクの参加を断って来た。ボクはそれを不思議に思ったが、それからE(仮名)という人物から、コンタクトがあった。彼とは、取材時に一度話した事があり、スカイプで二人で話す事になった。
 『どうもすいません。主催者側が、あなたを不安に思いましてね。来させてはならないと判断したらしい。どうも、あなたが違法行為を調査しているのじゃないかと疑っているみたいで。
 あ、一応、断っておきますが、違法行為はやっていませんよ。いや、もちろん、ギリギリだってのは分かっていますが。あ、でも、詐欺罪で訴えられたら、危ないかな?』
 Eがボクに悪いと思っている事は分かった。しかし、どうして彼がボクにこんな事を言って来るのかまでは分からなかった。
 『つまり、やっぱりインチキなんですね?』
 『インチキって言われるとあれだな。宇宙人に遭える可能性があるってのは、本当の話ですよ。飽くまで“可能性”ですがね。もっとも、主催者側が嘘の情報を掴まされている可能性もありますが』
 嫌な言い回しだと、それを聞いてボクは思う。Eは続けた。
 『それで、ですね。どうか、僕等の事をあまり不愉快には思わないで欲しいのです。ま、あなたは既に分かっていると思いますが、違法かどうかは置いておいて、確かに僕等はお金を稼いでいますよ。この宇宙人のコミュニティで』
 飽くまで想像だが、それを聞いてボクはこう考えた。彼ら主催者側は、恐らくは初めから宇宙人ビジネスの為に、このコミュニティを創り上げたのだろう。そういう話に惹かれる人物を集めて、何かしらイベントを行い、料金を取る。Eはまだ続けた。
 『ですが、それはインチキ宗教のようなものとは違うんです。望遠鏡とかを売ったりとかはしていますが、宗教とは根本が違う。受け取っている金額は、ちゃんとしたサービスの対価だ。
 あなたも取材をして分かったでしょう? AもBも、宇宙人のお蔭で楽しめているんだ。このコミュニティは彼らの役に立っている』
 そこまでを聞いてボクはEの目的を察した。それで、Eにこう言う。
 『つまりあなたは、ボクにコミュニティを崩壊させるような発表はしないでくれ、と言いたい訳ですか?』
 Eは安心したのかこう言う。
 『ああ、なんだ、分かっているじゃないですか。僕にはあなたの目的が、そんなものじゃないとは分かっていますが、でも、あなたの行為が我々にとって脅威になるとは思っているんですよ』
 ……民俗学の研究者には、こんなジレンマがあるらしい。彼らの多くは、霊や神といった文化を好んでいる。だからこそ、研究対象にしているのだが、その研究結果を発表して世に伝える事で、むしろその文化を解体してしまうというのだ。
 その文化の来歴、他の文化からの影響、社会の中でどんな機能を持っているのか。そういうものが明るみになると、自分達の文化が多くの中の一つに過ぎないと実感できてしまうものらしい。そして、自分の抱えている幻想は崩壊する。人間が創り上げてきたものだと分かるのだから、それも当然かもしれない。幽霊は存在しない、と実感するのには、自然科学を学ぶよりも、社会科学を学んだ方がより効果的なのだ(実は、自然科学的手法では、幽霊の存在を否定する事はできない)。それを知っているボクには、彼の主張は充分に理解できた。それで、
 『分かっています。安心してください。これ以上、あなた達に関わるつもりは、ボクにはありませんよ』
 そう告げた。ただし、最後にこんな事を言ってみる。
 『でも、別の可能性もありますよね?』
 『別の可能性?』
 『ええ。実は、あなた達は本当は宇宙人を発見している。それを外部に漏らさない為に、ボクのような存在を拒絶している』
 そう返すと、彼は笑った。
 『ハハハ。面白い事を言いますね。宇宙人なんている訳ないじゃないですか。まさか、本気でそんな事を考えている訳じゃないのでしょう?』
 『もちろん。単なる冗談ですよ』
 それからボクらは接続を切った。ボクはもう二度と、彼らと接触する事はないだろう。

 ――ある企業のシステムセンター。その隅に、黒い箱が二個置かれている。誰もその箱を不審に思っている者はいない。見た事もない機器だが、恐らくは、サーバの負荷を確認するだとか、セキュリティの為とか、その類のものだろう。だから、それらがケーブルに接続されていて、激しくランプが明滅していても特に気にしない。
 明滅している箱の一つが、もう一つに向けてこんなメッセージを送る。
 『しかし、お前も物好きだよな。現地の文化なんか調べて何になるんだよ?』
 もう一つの箱は、こう返す。
 『いやいや、大変に興味深いよ。我々が失ってしまった精神性と社会的機能の綿密な関係を、彼らの文化からは強く感じる』
 『それも含めて、何になるのかと、そう言ってるんだよ』
 恐らくは、この二つの箱は、明日になれば消えているだろう。しかし、それらが消えても、誰も気にかけないはずだ。
 2012年7月。
 地球人が、彼ら異星人の存在に気付く気配は、未だに観られない。
これで、僕が宇宙人だったなら、いいオチがついたのですが、残念、僕は地球人なんですよ(本当です! 本当ですよ?)

……もっと、普通っぽいSFにしても良かったのですが、こーいうお祭りだと、天邪鬼な血が騒いで、少し変なのを書いちゃいます。SFの略が、サイエンス・フィクションなら、そのサイエンスが、”社会科学”でも良いじゃないか、って、以前から思っていたってのもありますが(因みに社会科学は、社会系学問の総称です)。
空想科学祭FINAL

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