挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。

最後のファンタジー

作者:野々花子
「遂にここまで来たね」

 揺れる焚火を見つめながら、魔法使いのテオドア・ユーグルミング・エクソ・ラグナ・ヴァージニアンが言った。

「長い長い道のりでした。世界の人々のため、未来のため……そして、ここまで来られなかった彼のためにも、私たちは負けられません」

 手にした錫杖をぎゅっと握りながら、決意を込めた表情で僧侶のエヴァシュヴァッシュ・フォン・キスルルハン・ハンダーアンダー・クエスチョネスもつぶやく。

 彼女たちの言葉に、俺は散っていた同志のことを想う。
 俺は勇者なんて呼ばれているが、もしも『勇敢なる者』をそう呼ぶならば、アイツこそが真の勇者だったと、俺は思う。

 夜空を見上げると、そこにアイツの笑顔がぼんやりと浮かんでくるようだ。

 口は悪いけど、誰よりも優しかった重戦士のデゴステゴステコズ・パンナンナパパパナン・テリーマントル・ジュニア。

 あいつは魔王四天王・土の『あ』から俺たちを守るために、身を挺して犠牲になった。
 今でも、テゴステゴステゴス・パンナンナンパパン・テリーマンノ・ジュニアの最期が脳裏から離れない。


 ◇◆◇◆


「おい! クソ勇者のベベベベッツー・ウェンズリンドンシャン・ドンチャン・ドン・コ・ヘンリーダーポポポヤンヌ・ヤンス! こいつは俺に任せて先へ行け! すぐ追いつくから、後で特上の酒をおごれよな!」

「や、やめろ、デゴスデゲスデコスケ・パンナンナンパン・テリーマン・ジュニア! 相手は魔王四天王だぞ!?」

「そうです! デコスケ・パンナンパンナコッタ・テリーマンさんが残るなら、私も残ります!」

「へへっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか、僧侶のエバシュバシュ・フォン・キスルルハン・ハイヤーアンダー・クエスチョンちゃんよぉ。……俺はよ、ずっと黙ってたけど、あんたのことが好」

「あ、ちょっといいですか? 違います、エヴァシュヴァッシュ・フォン・キスルルハン・ハンダーアンダー・クエスチョネスです。エヴァシュヴァッシュの『ヴァ』はどっちも『va』であって『ba』ではありません。下唇を噛む方の、ヴァ、です。あとハイヤーアンダーって何ですか、高いのか低いのかどっちやねんってなるじゃないですか、そんな名前おかしいって子どもでも分かりますよね? ハンダーアンダーです。で、何回も言ってますけど、クエスチョンじゃなくて、クエスチョネスですから、私の苗字。ふう。…………嫌! そんな告白、今聞きたくないです! そんなことを言うなら死なないでちゃんと私を幸せにしてください、デコスケ・テリーマンさん!」

「そ、そうかい……、そ、そいつぁ嬉しいな。じゃあ、生きて帰ったら俺の嫁になってくれるかい? あと、名前間違えてほんますまんかった」

「はい、絶対生きて帰りましょう! そして、私のこと幸せにしてくださいね、デコスケさん! それと、今度名前間違えたらしばきますよ!」

「俺ぁ、あんたのそういう、本当は気の強いところが大好きだったんだぜ……、エヴァシュba……ヴァッシュ・フォン……?」

「フォン?」

「フォン……キスルルル?」

「……チッ」

「あ、ちょい待ち。えーと、フォン・キスルル……ハン?」

「ハン?」

「キスルルハン・ハンダー……、アンダー……ええと……」



「グハハハ! 何をゴチャゴチャ言っておる人間ども、貴様らはここで死ぬのだ! 地獄奥義・ハイヤーアンダーグレートデスゴースト!!!!!!」



「ガードマジック『わりと固い』!」


 ピキィィィン!


「何ィ!? 我が地獄奥義を防ぐとは!?」


「助かったよ、魔法使いのテオドア・ユーグルミング・エクソラグナ・ヴァーずニア! いつの間に『わりと固い』を覚えたんだ?」

「『どちらかと言うと固い』、『そこそこ固い』の両方を会得して、さらにレベルが5.78411112484アップしたら覚えるのよ。さっきの戦闘で、レベルが0.4441278上がったから。ところでクソ勇者のベベ・なんとか・ドンチャン・なんとか・ポポポヤンヌヤンス、私のミドルネームはエクソラグナじゃなくてエクソ・ラグナだからちゃんと区切ってほしいわね。あと、田舎なまりのせいで、苗字のヴァージニアンがヴァーずニアになるの、まだ直らないのね?」

「ハハ、辺境育ちなもんでさ。そうか、さっきの中ボス『犬』を倒す前は、レベルが62.7973517だったもんな」

「違うわ、62.7974518よ。相変わらず計算が苦手なのね、クソ勇者」

「そうだっけ? どうも小数点以下4桁になると暗算がな……」

「ふうっ、そんなんだからいつまでたっても上級魔法を覚えられないのよ。あなたが使える攻撃魔法、『やや熱い』『着ると暑いけど脱ぐと寒い』くらいでしょ」

「面目ない……」

「まあいいわ、その代り肉弾戦は任せたわよ! 脳筋クソ勇者のベベ・ドンチャン・なんとか・デ・ヤンス!」

「おうよ! まがしどけぇぃ!」

「また訛ってるわよ!」



「ぐあああああああああああああああ!!」



「どうした! デコスデコスケ・テリーマン・ジュニア!?」

「大丈夫!? 職業重戦士の人!」

「だ、大丈夫だ、クソ勇者のベルベット・ウェンズデー・ドン・ヘンリー・ダ・カーポと魔法使いの手をドア・身ぐるみ剥いで・いっそ・楽に・ヴァージニアン!」

「クソ勇者の名前はそんなにかっこよくないし、私の名前はそんな犯罪を匂わす感じじゃなかったと思うけれどまあいいわ! ……まっ、まさか私の『わりと固い』でも防げなかったというの!?」



「グハハハ! 相も変わらず何をゴチャゴチャゴチャゴチャ言っておる人間ども、貴様らはここで死ぬのだと言っておろう!」



「い、いや、土の四天王『あ』の放ったハイヤーアンダーチョコレートデスコは『わりと固い』で防げたんだがな、それのせいで、エヴァシュヴァッシュ・フォン・キスルルハンの名前の続きがハイヤーアンダーだったか、ハンダーアンダーだったか、ハイヤーアイヤーだったか、もうワケが分からなくなっちまってな……」

「なんてこと!!」

「それで怒ったアイツに、殴られちまったってわけさ」

「そりゃそうよ! 女の子の名前を間違えるなんて最低よ! それに、職業僧侶の人はそういうのを一番嫌がるって、あなただって知ってるでしょ?」

「そうだぞ、デコスケ!」

「最低ね、デコスケ! ほら、本人からも言ってやりなさい!」

「そうですよ、デコスケ野郎にはがっかりしました! せっかく私だってそこそこタイプだと思ってたのに! まさか、ちゃんと名前も覚えてもらっていなかったなんて……エヴァ、がっかりです!」

「そ、それなら提案なんだがよ……」

「何ですか、デコスケ野郎」

「あんた、自分のこと『エヴァ』って言ってるだろ……? だから、俺もそう呼んだらダメか? そ、そしたら、絶対間違えねぇしよ」

「キモいな! このデコスケが!!!!!
 何調子に乗って距離詰めようとしてんですか! 引くわー無いわーマジあり得ないわー。いきなりファーストネームのしかも短縮形で呼ぼうとかどんだけですか!? 世界を救うための冒険を合コンかなんかと間違えてんじゃないですか!?」



「グ、……グハハハ! いい加減、何をゴチャゴチャペチャクチャお喋りしておるのだ、人間ども! 貴様らは、キサマらは、ここで、死ぬ・の・だ!!!!!」



「俺もいきなりエヴァは無いと思うよ、デコスケをあしらったパンナコッタに季節のテリーマンを添えてジュニア」

「そうよ、私の名前で言えばいきなり『てっちゃん』って言うくらいの距離感よ、それ」

「そ、そんなにか……?」

「そもそも、ホントに私のこと好きだったんですか……? デコスケさん、なんか見せ場っぽいところだから、死亡フラグっぽいこと言って盛り上げようとしただけだったんじゃないですか?」

「ち、ちげえよ! ホントに俺は、おまえらを守って一人残ろうと!」

「それで勢い余って告白か~。そのタイミングでコクられたらエヴァちゃんも断りづらいよね。もしかして迷惑かもとか思わなかったわけ? デコスケ?」

「んなことねぇよ!? って言うか、なんだ? おめぇは『エヴァ』って呼んでんのかよ!?」

「いや、だって女同士だし」

「私もテオドアさんのことは、『グルミちゃん』って呼んでますよ?」

「そこ!? よりによって、テオドア・ユーグルミング・エクソ・ラグナ・ヴァージニアンの中のグルミかよ!?」

「あー……私の名前は覚えてないのに、グルミちゃんのフルネームはすらすら言えるんですね。やっぱり、私のこと好きだっていうの、本気だと思えないです」




「ぐ、ぐ、……グハハハハハッハハハハハハッハハ!! よく喋る人間のみなさん! 貴様らはここで死ねよ、もう! 悪魔奥義・バーストアシッドバラエティーパープルヘイズ!!!!」




「アンチマジック『もらったその場ですぐ捨てる』!」


 パシュゥゥゥン!


「助かったよ、魔法使いグルミン! いつの間に『もらったその場ですぐ捨てる』を覚えたんだ?」

「『そっとタンスにしまう』、『知り合いにあげる』という2つの中級魔法を掛け合わせることで生み出される高等魔法よ! ところでクソ勇者ペペローション・DE・ドンチャン騒ぎ・DE・ヤンス、どさくさに紛れて私のことグルミンって呼ぶのやめてもらっていいかしら? あなたと私の関係はビジネス、それ以上でも以下でもないからね?」



「ぐあああああああああああああああ!!」



「どうした! デコスケ!?」

「大丈夫!? エヴァちゃんへの距離感を間違ったデコスケで重戦士の人!」



「普通に俺だけ喰らったあああああああああああ!!!!!!!!!!!」



「デコスケェー!!!!!!」

「ごめんデコスケ、この魔法、三人乗りなのよね!」

「おのれ、土の四天王『あ』! よくも……よくもデコスケさんを!
 あなたは代々プルグエリファス・レンズレンソゴン・マドスティーマダガスティー正教の地母神に仕える僧侶クエスチョネス家に伝わる『闇を切り裂く一条の光、その光の尾は銀河にばら撒いた金平糖の如し』の意味を持つ二つ名ハンダーアンダーを受け継ぎ、父方のおばあちゃんからいただいたフォンの名前と母方の上の叔母さんから一文字、下の伯母さんからも一文字もらっていい感じに仕上げたキスルルハンの名前をミドルネームに持ち、ファーストネームはスイーツ脳の母がキラキラネーム大辞典から単語を組み合わせて付けたこのエヴァシュヴァッシュ・フォン・キスルルハン・ハンダーアンダー・クエスチョネスが許さない!!
 喰らえ!! 僧侶系究極魔法『癒し系に見えてメンヘラ』!!!!!!!」



 どかーん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(衝撃波とともに敵の脳内に『ねえ来ちゃった大好きねえねえ一緒に死のう?嘘つき嘘つき嘘つき大好きって言ったくせに私のカラダだけが目的だったんだ見て?この手首の傷はふたりの愛の証だよだーいすき一生一緒だよ♪離さない離さないねえその女なんなの殺すあなたを殺して私も死ぬえへへできちゃったあなたの子ども♪住所変えても電話番号変えても無駄だよーだってだって運命なんだもんねえ好きって言って?言わなきゃ殺す』などの言葉が津波のように押し寄せる!!!!!!!!!!!!!)



「グワアアアアアア! 人間如きが、我に、我にィィィィィ!? だ、だが、これで終わりと思うなよ人間風情が! 他の四天王は俺よりも強大な魔力を持ち、さらに魔王『べ』様は我ら四天王全員が束になっても敵わぬほどのお方! 先に地獄で待っているぞォォォォォォォォんんんんん…………!」



 シュゴォォォォォ……………………………………。




「デコスケさん、デコスケさん!」

「パンナコッタ!」

「テリーマンジュニア!」

「ううう……、せめて、統一してくれ……」

「死ぬな! 戦士!」

「魔王のところまで四人で行くって言ったじゃない、重戦士の人!」

「嫌、嫌ぁ! お願い、死なないでください、前衛担当!」

「色々、気に、なるが……も、もういい……訂正してる間にマジで死んじまいそうだ……。最期に、お願いがあるんだ……」

「最期なんて言うな!」

「ぐっ……最期に、エ、エヴァシュヴァッシュ・フォン・キスルルハン・ハンダーアンダー・クエスチョネスちゃんよ……」

「そうです! 一字一句間違えずに言えたじゃないですか……もっと、呼んでください……だから、だから……死んだら許しませんよ!」

「……あのよ、最期に……あんたの、名前を、呼びながら、死にたい……。いいだろう、一回だけ、恋人みたいに……呼ばせてくれ……」


「…………えっ」


「……ダメか?」


「……いいえ、呼んでください……恋人みたいに。私も、ちゃんと、返事しますから……」


「…………ありがとよ。…………エヴァ」










「さんを付けろよ! デコスケ野郎!」





 がくり。



「デコスケーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 ◇◆◇◆

 俺たちは焚火を消し、最後の休息をとった。
 明日はついに魔王との決戦だ。
 散っていったアイツのためにも、俺たち三人はこの世界マリール・デガギリッツ・フォーフォーセンバルジティーン・ケッシュシュシュンコ・マジデマジデ・パーリラン・ポゥ・メッケコスンコンドランドを救わなくてはならない。



(「最後のファンタジー」・おしまい)

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項をご確認ください。

名前:

▼良い点
▼気になる点
▼一言
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ