プロローグ:昔語り。
山の麓に少しの生暖かい風が吹く。
それはそこに佇む一軒の家の縁側にある風鈴を揺らし、一時だけ涼しさを与えた。
昔と変わらぬ景色。変わるものと言えば季節と家の中くらいだろうか。生まれてこの方、変わったののなど見たことがない。一人になってからは、特に。
チリンチリン……。
頭上にぶら下がる風鈴がまた小さな音を立てる。
この音も変わっていないねえ……。
ふと、遠くから小さな足音がしだした。
それはだんだんと大きくなり、それに加え、まだ幼い男の子の声も混じってくる。
「おばーちゃあーん」
「おや」
男の子は縁側までやってくると、きょろきょろとあたりを見回した。茶色く焼けた肌に透明なしずくが伝う。
その様子を見て、彼女はよっこらしょ、と腰を上げる。
「あ!いた!」
「おやおや浩太君、久しぶりねえ。そうね、もうそんな時期になるのね」
「うん!夏休みでね、また来たんだよ!」
「そう。遠いのにこんなところまでありがとうね。おばあちゃんは元気?」
「元気だったよ。今日もね、朝から畑で野菜たあっくさん取ってたよ」
「そう、よかった」
まだ元気だという親友の姿を浮かべて、ふっと自然に笑みが漏れる。
「でね、今日もね、おばあちゃんにお話し教えてもらおうと思ってきたの!」
「おや、今年もかい?そうさねぇ……何がいいかね……。神様の子供の話はしたしねえ……、山に眠る夫婦の話もしたね……。ああ、可哀想な神様と、お姫さまの話はしてなかったね。よし、それにしよう。その前にスイカでも切ろうかね。ちょっと待っててね」
そう言って彼女は台所へ向かう。
男の子は縁側に飛び乗り、スイカと昔話を心待ちにしていた。
「はい、お待たせ。たんとお食べよ」
「うん!!」
男の子はきらきらと目を輝かせ、スイカにかぶりつく。
「さて、じゃあ話そうかね。これはたくさんに人間と、沢山の神様に嫌われてしまった神様のお話なんだ」
「神様なのに、嫌われてるの?」
「そう。神様だって、いい人ばかりじゃないんだ。昔は鬼だって、神様と呼ばれていたんだからね」
「へえー」
彼女はどこか遠くを見つめるように、空を見上げる。
ゆっくりと息を吸い、語りだした。
これは、ヒトが神様のことを忘れはじめ、ヒトから人間になろうとしていたときのことです。
昔々、あるところに、一人の嫌われ者の神様がいました。
その神様はとても強いチカラを持っていたので、沢山の人からも、沢山の神様からも嫌われていました。
それは、すべてを作った神様ですらも恐れるほど、強いチカラ。
神様はそんな力を持ってしまったことを嘆いていました。
――ねえ、嘆くって何?
――嘆くかい?うーん……哀しく思っていたんだよ。悲しくて、苦しかったのさ。
けれど、それでも神様にはやらなければならないことがあります。その恐ろしいチカラを使って。
そして、そんなとき。
神様は、一人の少女に出会うのです――………
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