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11 狩るもの狩られるもの

 行軍11日目の9月18日。

 俺たち西側の第一隊は予定通りに転生ゴリラとの遭遇ポイントへと到着した。

 なにしろ調査隊の人馬の残骸が転がっていたので、ここで遭遇したことに間違いは無い。


「フランツ、これは調査隊の連中で間違いないのか?」

「ああ、副隊長だったクレランドとメンバーのコルケットだ。クレイモアの柄が残っている方がクレランドで、そっちの頭蓋骨はおそらくコルケットだ」


 山中に野晒しのクレランドやコルケットは、大小の魔物や動物に食い尽くされたらしく、金属部分や大きな骨、馬の鞍など食べられそうに無い部分のみが僅かに残るのみであった。

 この討伐隊に俺が同行していなかったら、この残骸が調査隊であるのか否かまでは判別が付かなかったかも知れない。


「部位が足りなさすぎて、ゾンビやスケルトンになっていなかったのは幸いだったな」

「CランクとDランクだろう。アンデッド化したところで問題あるまい」

「いや、まあそうだけどな。煩わしいだろう」


 狐獣人ライムントと犬獣人バウルの言葉には容赦が無かった。


(まあ冒険者に限らず、死んだらそんなものだな)


 俺は目の前の惨状に対して何とも思っていないわけでは無い。

 頭で死後の身体がどうなるのかという理屈を理解し、目の前の現実を受け入れ、冒険者の末路を見た心の衝撃を軽減しているのだ。


 目の前の光景は紙一重の差で俺の末路であったし、そうで無くとも死体から連想してしまうことはいくらでもある。

 例えば事故に遭った子供の遺体を一時間も掛けて黙々と縫い合わせ、親に会えるようにしてやった医者。命というものを色々と考えさせられたりもした。


 だがかつての同郷である転生ゴリラを殺すことは、最初からの既定路線である。


 あらゆる生物が全員で仲良く平和に暮らしましょうと言うためには、全生物に配っても配り切れないほど世界中にあらゆる資源が満たされていなければならない。

 だが世界に資源は限られており、富の偏在や獲得競争がある。

 転生ゴリラは都市エイスニルにとって資源獲得の障害となるが故に、冒険者に金を払ってでも排除するという決定が下された。

 だから俺は、転生ゴリラの討伐隊に参加して対価を得る。

 俺は心の整理を付け、周辺の状況を観察して疑問を口にした。


「…………槍が足りない。1投目で馬がやられ、2投目でクレランドが足を削られ、3投目でコルケットが背中を貫かれた。それが全部無い」

「遠投武器の回収か?」

「3本全て無い事から考えるに、おそらくそうだろうと思う」


 転生ゴリラは単なるゴリラではない。

 知性にどれだけのマイナス補正があるのかは知らないが、その辺の木材を投げるよりも人間が作った武器を投げる方が高威力だという事など理解していて当然と考えるべきだ。

 なにしろ相手は下位竜を倒したこともある。


「槍の種類は何だった?」

「ショートスピア2本とコルセスカ1本。俺達の前に遭遇した西側の調査隊の武器だと思う。矛先はBからDランク冒険者が持つような鋼鉄製あるいは硬い鉱石だろう」

「槍の種類で遠投音の違いはあったか?」

「…………いや、分からなかった」

「どちらの槍から投げてきた?」

「コルセスカだ」

「それは不味いな」


 狼獣人ギュンターは顎の下に手を当て、渋い表情を浮かべていた。


「どういう事だ。コルセスカから投げると、どう不味いんだ?」

「自分で考えてみろ」

「…………コルセスカは矛が幅広くて高威力な代わりに速度が遅いから、第一投に選択するならコルセスカからと言うことか。そしてそういう事を考えられる転生ゴリラは手強いと?」

「あんたよりは頭が良いみたいね」


 姉猫のエジェリーが妹を盗られた恨みとばかりに、すかさず俺を貶してきた。

 別に盗った訳では無く、フェリシーが都会で暮らしたいという希望を持っているから支援してやると言っただけである。そもそも妹は姉の所有物では無い。

 まあそういう話が通じないことは重々承知しているので、俺はあくまで仕事の方で反論した。


「しかし転生ゴリラは、鳴き声を出して自ら自分の位置を知らせてきたぞ」

「理由も無く声を上げる野生生物が居るものか。遮蔽物が邪魔だったから、お前達の位置取りを変えたかったのだろう」

「もう少し頭使ったら?」

(ぐぬぬ……)


 ギュンターの言葉に続いて、姉馬鹿のエジェリー余計な一言を付け加えた。

 だが俺個人の冒険者としての経験が浅かったのみならず、調査隊全体がギュンターの足下にも及ばないのは確からしい。

 悔しいがこれではギュンターたちが討伐隊の主軸となるはずである。

 なお追従しかしていないエジェリーにどの程度の能力が見込めるのかは謎であるが。


「それで他に気付いたことはあるか?」

「クレランドはクレイモアとイヤーダガーを持っていた。コルケットは直刀の二刀流だった。だがクレイモアと直刀2本が足りていない」

「ふむ。槍はともかく、剣など投げても当てられるものなのか?」

「近接戦闘に使うんじゃ無いの?」


 ギュンターとエジェリーは転生ゴリラがそれらの武器を持っていったと仮定した上で、用途について首をかしげた。

 それに答えを出したのは、リーダーである竜人フリーデグントであった。


「転生時、投擲という能力があった。オレは得ていないが、転生ゴリラは得たのだろう」

「そんな技能もあるのか。だとすれば4か5くらいか」

「不味いわね」


 フリーデグントの言葉を聞いた俺たち全員が、緊張の度合いを高めながら周囲を警戒した。

 転生ゴリラは槍3本とクレイモアと直刀2本の合計6本を持っている可能性がある。


「それだけではない。ここは狩りには絶好のポイントだ。何しろ調査隊が襲われたのもここで、今回はそれに加えて死体が転がっているからオレ達は必ずそちらへ注意を向ける」

「前回転生ゴリラが居たのはどこよ?」

「渓谷の反対側だ」


 俺が指差した渓谷の反対側へ全員の視線が向いた時、風を切って突き進む音が聞こえた。

 咄嗟にアリスを引き寄せようとした俺よりも早く、フェリシーが俺を引き摺り倒す。

 その刹那、大きな着弾音が、俺の左前方5メートルほどの至近から聞こえた。


 ドゴオオオオンッ


 咄嗟に地面へと身を投げ出した調査隊の手から離れた馬達が何頭も同時に逃げ出す。

 俺が理解できたのは、現時点で自分が無事であった事と、あまりに近すぎて討伐隊の誰かしらが被害に遭っているであろう事の二点だ。


「馬を麻痺で押さえろ!」

麻痺パラライズ3』


 ギュンターの第一声が上がった頃には、飛翔音で転生ゴリラの大まかな位置を把握したギュンター以外の討伐隊員が駆け出していた。

 彼らは残っていた馬の手綱を背負っていた食料に括り付けて地面に投げ出し、走りながら武器を引き抜いていく。

 アリスは指示されたとおりに魔法を使って、駆け出した3頭のうち2頭を動けなくさせた。ギュンターはそれを確認すると駆け始めた。


麻痺パラライズ3』


 アリスの二度目の魔法で反対側に駆けだしていた最後の馬が大人しくなった。

 俺への指示は無いが、出来る事と言えば残された荷と馬を確保して魔物から守る事くらいだろうか。動きが早いBランク冒険者たちの近接戦闘中に弓を飛ばすと、味方を射抜いてしまいかねない。


 率直に言うと俺以外の転生ゴリラを含めた全員が有能で、あるいは俺だけが突出して無能だった。

 何より驚愕すべきはフリーデグントだろう。

 彼は第一投を弾いた時に右手首から先を半ば失ってダラリとぶら下げながらも、治療を受けるのではなく転生ゴリラ打倒を優先して駆け出したのだ。


 俺は手早く食料の荷に括り付けられていた馬の手綱を近くの木々に縛り付け始めた。麻痺した馬たちはどうせ逃げられないので後回しとする。

 直後、接近しつつある討伐隊へ二投目の槍が投じられた。


 ドゴオオオオンッ

 そんな激しい音とともに、左足のつま先部分を抉られたフリーデグントが地面に転げた。


(…………拙い)


 最大戦力であるフリーデグントが無傷であれば、それを補佐する獣人たちが2人程度でも勝率は5割を超えていたはずだ。

 だが転生ゴリラは、最接近している犬獣人バウルではなく竜人フリーデグントを的確に叩いている。


雷矢サンダーアロー2』


 フリーデグントは転げながらも半身で起き上がり、魔法を放って転生ゴリラに見事直撃させた。

 転生ゴリラはそれを受けて身じろぎしながらも構えていた3投目の槍を手放すことなく、大きく振りかぶってから勢いよく身体を方向転換した。


「アリス、フリーデグントへ創傷回復…………なにっ!?」


 転生ゴリラの間近まで迫っていた犬獣人バウルに、3本目の槍が投じられた。

 ドゴオオオオンッ


「ぐぉおおおおっ」


 槍の矛先がバウルの腹部を食い破って背部から突き出る。

 バウルは串刺しとなり、バランスを失って倒れた。


「ちっ」


 バウルが倒される間に接近したライムント達に対し、未だ無傷の転生ゴリラは足元のクレイモアを掴んで力いっぱい振り回し始めた。

 攻撃を受け流すことを諦めて避けたライモントの目前を、ブオオオンッと大気を引き千切るような音が鳴り響いていく。

 風圧にすら威力が生まれる攻撃を躱して懐に潜り込んだフェリシーが、両手の手甲鉤を伸ばして転生ゴリラのぶ厚い毛皮を裂いて傷を作った。

 振るわれたクレイモアが引き戻されて迫り、フェリシーは後ろ跳びに素早く避けた。

 フェリシーと入れ替わるようにエジェリーが細剣を突き出し、転生ゴリラの胸部を浅く突き刺す。


「まだっ!」


 エジェリーは突き刺した細剣を横に薙いで傷を広げながら飛び退き、そこへ出遅れた狼獣人ギュンターが牽制に入って転生ゴリラの追撃を逸らした。


 一方俺たちの方は、俺が窪みに隠れたフリーデグントの足を縛って止血する間にアリスが回復魔法を掛け始めた。

 転生ゴリラに接近するというリスクを冒してまで槍で串刺しにされたバウルを助けるよりも、戦線復帰できそうなフリーデグントの回復を優先するというのはやむを得ざる所だ。

 最終的な犠牲者の数は、フリーデグントを治癒する方が少なくなるはずである。


創傷治癒ヒーリング3』


 このような接近戦に至っては、雷矢での援護は不可能である。

 それにフリーデグントの雷矢は認定2程度で無力とは言わないまでも決定打には遠いし、俺の水弾3だって属性としてはダメージを与えるのに不向きである。

 水浸しにした後に雷を飛ばせば電気伝導率が上がってかなりの威力になるかもしれないが、味方まで巻き込むリスクは冒せない。


「何分で回復する?」


 フリーデグントは冷静な声で確認した。

 アリスの創傷回復3では失った部位の再生までは不可能だが、今のフリーデグントが言う回復とは戦闘への復帰に必要な時間の方だろう。

 なにしろフリーデグントは「何分で」と聞いている。

 本当に完治を目指すなら、再生治療の上位版である創傷回復5を持っている治癒師を別として数分では不可能だ。


 だが動くだけなら数分で可能となる。

 フリーデグントはつま先こそ失っているがかかとの方は無事なので、回復魔法でつま先部分の止血や縫合が済めば立ち上がること自体はできるようになるはずだ。

 本来なら動くなと言いたいところだが、現状ではそんな訳にもいかないのだろう。


 ちなみに創傷回復ヒーリングの効果の目安は以下の通りである。


 1=自然治癒力で治る軽い傷病の治療

 外傷を塞ぎ、自然治癒の効果を高める

 2=外科的手法を必要とする損傷の治療

 骨接合術程度まで可能

 3=自然治癒がほぼ不可能な損壊の治療

 脊損修復程度まで可能

 4=後天性の欠損部位を再生治療

 脳以外の部位の再生まで可能

 5=先天性の欠損部位を創生治療

 先天的に無いものまで創り出せる


 但し、治癒師の力量によって効果には大きな差が出る。

 例えば同じ脊損でも、脊柱・頸椎・胸椎・腰椎・仙椎のどの部分の障害までを回復できるのかはとても大きな違いだし、治療に掛かる時間も治癒師ごとに大きく異なる。

 そしてアリスは認定2から3に上がって1~2年程度であり、魔法の威力はともかく操作能力としてはかなり下の力量だろう。


「短時間の戦闘が可能になるまで7分です」

「半分でやれ」

「…………『創傷治癒ヒーリング3』」

「ぐっ」


 無茶を言われたアリスは、途中まで使っていた回復魔法を放棄すると最初から魔法を掛けなおした。

 これはマナの多重投与だ。

 メリットは、回復効果のあるマナを大量に送り込むことで回復までの時間が多少縮められる事だ。

 デメリットは、魔法の使用中に重ね掛けしてもアリスの処理能力を越えてしまうために大半のマナが操れず無駄となる上に、アリスのMPとフリーデグントの体力が二倍削られる事だ。


 本来であれば、これはMPマナポイントの無駄遣いだ。

 アリスは現時点でMPを12も消費しており、転生者でなければこの時点でMPが尽きていてもおかしくはない。

 道理で冒険者ギルドに対するアリスの登録申請が通るわけである。


 さすがにフリーデグントはそれ以上の要求を出さず、黙って治療を受け始めた。

 だが首を窪みの上に出して、戦況はのぞき見ている。


「フリーデグント、俺は水弾3と水矢3を持っている。転生ゴリラを水浸しにすれば電気伝導率が上がるから、雷矢の威力が跳ね上がるはずだ」


 俺の契約は現地での情報提供までだが、アリスの契約は討伐隊への治癒なので、この場を放り出して逃げるわけにも行かない。

 である以上、彼らに負けて貰っては困るのだ。

 水魔法を飛ばすだけなら遠距離から比較的安全に可能なので、俺が戦いに手を貸す事も吝かでは無い。


「MPはいくつだ?」

「24。束ねて撃っても8回飛ばせる」

「少ないな」


 俺は平均的な人間の2.4倍ものMP量を持っている。

 これで少ないというのなら、戦闘型のAランク冒険者に純血の人間は殆ど居ないのではないだろうか。


「転生者とはいえ単なる人間型に無茶を言うな。その代わり弓術3の技能があるから、水矢3に限れば命中率はかなり高いはずだ」

「お前は矢に塗る猛毒を持っていたな?」

「ああ、確かにあるが」

「飛ばす水矢に毒を混ぜろ。お前の言う伝導率を上げると同時に、あの化け物を雷矢で焼いて全身の傷口から猛毒を注ぎ込む」

「…………うげぇ」


 フリーデグントの発想力は、知性と経験の一体どちらに由来するのだろうか。

 だがいずれであっても、知性にマイナス補正が掛かる竜人が実は油断のならない種である事を戦う前に理解できた事は幸いであった。


 そんなフリーデグントは、黙して治療中の左足と戦況とを交互に見比べている。

 戦いは転生ゴリラが手にしていたクレイモアを投げつけてギュンターを弾き飛ばし、流れるような動作で犬獣人バウルに突き刺さっていた槍を引き抜いて、槍の矛先をエジェリーの咽に突き立てたところであった。

 転生ゴリラは力だけで大振りをしていた剣と、流線のように捌いていく槍とで動きがまるで違っている。

 フェリシーが素早く転生ゴリラの背後に回り込もうとするが、転生ゴリラは矛先のエジェリーをフェリシー目掛けて振るい飛ばす事で追撃を避ける。


(あの転生者、槍の技能を持っている!?)


 クレイモアから槍に装備が変わったことで、戦況が一変してしまった。

 ギュンターは致命傷ではないが、4人がかりでも苦戦していた転生ゴリラを相手にフェリシーとライムントだけで戦線を支えるのは不可能ではないだろうか。


水弾ウォーターボール3』『水弾ウォーターボール3』『水弾ウォーターボール3』


 俺は警告も出さずに転生ゴリラとフェリシー、ライムントとの間に2発の水弾を放ち、残る一発は転生ゴリラを直接狙って飛ばした。

 フェリシーとライムントは、そちらには当たらないように撃った水弾を躱す。一方で避けきれなかった転生ゴリラも、単なる水弾の命中では殆ど無傷だった。


「二人とも下がれっ。フリーデグントに合流しろ……『水弾ウォーターボール3』『水弾ウォーターボール3』」


 俺が水弾を連続して飛ばして僅かな時間を稼ぐ間に、フェリシーとライムントに続いて転がされていたギュンターもこちらへ向かって駆け始めた。

 正直に言うと、俺はフェリシーが姉を置き捨てて素直にこちらへ駆けてくるかどうかについては全く自信が無かった。

 頭に血が上って転生ゴリラに突撃するのでは無いだろうかと思ったが、戦闘に関しては冷静な判断が出来たのか、あるいは人では無く猫獣人であるからなのか、あるいは姉妹仲が宜しくなかったからなのか、いずれにしてもフェリシーは素直にこちらへ駆けてくる。

 そして背後からは出遅れた転生ゴリラが、槍を掴みながら物凄い勢いで迫ってきた。


 転生ゴリラが跳び上がったタイミングを見計らい、俺は手持ちの猛毒を全て混ぜた水矢を着地予想ポイントに向けて撃ち放った。


水矢ウォーターアロー3』『水矢ウォーターアロー3』『水矢ウォーターアロー3』


 3本の高速矢がバシュン、バシュン、バシュンと音を立てて転生ゴリラの身体を射貫き、その瞬間に猛毒を浴びた転生ゴリラの悲鳴とフリーデグントの雄叫びとが重なった。


「グォオオオオオッ」

雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』

雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』


 雷光が視界を焼き、転生ゴリラの悲鳴が耳へ轟く。

 転生ゴリラの身体からは蒸発する白煙が上がり、フリーデグントからは途切れることの無い雷が迸り続ける。

 彼は認定2の威力である雷矢を、その膨大な発射数で補っているのだろう。

 だがフリーデグントのMPは一体いくつあるのだろうか。瞼を閉じてもなお届いてくる光は一向に途切れる様子が無かった。


 なるほど、これこそがリグレイズ王国で大暴れしている転生竜が未だに討伐されない所以であろう。どれほどの大軍で攻め込んでも、上空から魔法の豪雨を降り注がれては壊滅に追いやられるより他に無い。

 そんな攻撃を防ぎ切れる方法があるとすれば、転生竜の得意魔法が効かない属性型の竜人部隊を用意するか、祝福の『魔法耐性』を持った転生者を揃えるくらいだろう。

 例えばアリスは魔法耐性3を持っており、フリーデグントの雷矢2ならば-1にまで下げて攻撃としてはほぼ無効化できる。認定0が認定を貰えない最低レベルの攻撃とすれば、-1は攻撃としての威力すらまともに持たない。

 だが転生ゴリラは属性特化も魔法耐性も持っていなかったようで、フリーデグントの雷矢に全身を焼き尽くされていく。


「グォオオオオッ…………」

雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』

雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』


 皮肉なことに転生ゴリラが手にしている槍の尖端こそが、雷を呼び寄せる「導雷針」となっているようだった。

 フリーデグントが雷矢を放つ度に、転生ゴリラの鳴き声に着雷の手応えが響いてくる。槍を掴んでいる手が痺れているのか焼け焦げているのか、転生ゴリラは槍を手放した様子が無い。

 あるいは猛毒も効いているのかもしれない。転生ゴリラは戦闘で小さな傷だらけであったし、そこへ猛毒の水を浴びせて雷を落としまくれば竜だって堪ったものでは無いだろう。


 もしもフリーデグントの雷矢の威力が認定4や5のレベルであったならば、とうの昔にこの戦いの決着は付いていただろう。

 だが雷矢2と言う中途半端な魔法攻撃で瞬殺する事は叶わず、転生ゴリラは永く悶え苦しんでいた。


「ォ…………ォ……」

雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』『雷矢サンダーアロー2』

雷矢サンダーアロー2』


 一定の感覚で撃ち続けていたフリーデグントの魔法が停止し、目に悪い光の奔流がようやく収まった。

 左足のつま先を削られて転倒したときの雷矢と併せれば27回の発射で、どうやらフリーデグントは最低でもMP54を持っているらしかった。


 光が収まった後に転生ゴリラが居た方向を見ると、一部炭化した黒い塊が崩れ落ちていた。

 そんな塊に向かって、狼獣人ギュンター、猫獣人フェリシー、狐獣人ライムントの3人がトドメを刺しに駆けていく。


(抜け目のない事で)


 ギュンターの槍が転生ゴリラの死体を突き倒し、フェリシーの手甲鉤が倒された死体の首を裂き、ライムントの剣が突き立てられて死体を大地に縫い止めた。


 俺たち西側第一隊は、2名の犠牲者と1名の重傷者を出しつつも転生ゴリラの討伐に成功した。

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