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09 逸脱の条件

 女性試験官のビオンダが案内してくれたのは、魔法認定所の内部にある応接室だった。

 魔法認定所は闘技場と牢獄を合わせたような建物で内部にあまり期待はしていなかったが、応接室内には絨毯が敷かれ、絵画が掛けられ、銀の燭台や丈の低い木が配置されるなど予想していたよりもかなり豪勢だった。

 そして革張りの椅子に座らされて紅茶と菓子を出されるに至って、この快適空間には数多の私物が持ち込まれているとの確信に至る。


 コーヒーではなく紅茶が出てくる時点で、このエリアの支配者は間違いなく女だ。

 飲み物だけなら男女の力関係が五分五分と言う事も有り得るが、お菓子が出た時点で両陣営の力関係は絶対的だろう。それに付け加えるなら、ビオンダが休憩中の今現在も夫であるオーラス・クヴルール氏は別の受験者の試験に立ち会っている。

 同じ男性としてオーラス試験官には若干同情したが、転生者同士という同郷の話なのでここは仕方が無いかと割り切った。


「菓子まで出して貰って何だかすまんな」

「あ、気にしないで。自分で作ったクッキーだから」


 そう言われたので礼儀上クッキーを摘まんで囓ってみる。

 一噛みしたところでボロッ……と崩れ、クッキーの粉が口内にパラパラと纏わり付いた。粉っぽさと偏った甘さが独特の不協和音を奏でている

 なるほど、お菓子には飲み物が必要だ。


「転生ptを料理技能にも振れたら良かったけど、全然足りなかったわ」


 ビオンダは試験官らしく、自己評価もきちんと出来ているらしい。


 まあ俺がお菓子を作るよりは上手いから、俺が偉そうに何かを言うつもりは無い。

 そもそもクッキーとは、一体どう作るのだろう。

 パンを小さく堅焼きすれば作れるのだろうか。砂糖など混ぜれば出来そうな気もするが、そうやって作ってもビオンダより酷い結果になるのは間違いない。


「まあ確かに、転生ptがもっとあれば様々な技能を取得できるのにと思った事はある」


 転生ptが多ければ、人生の選択肢が増えたであろう事は間違いない。

 俺は転生ポイントが足りなくなったので冒険者ギルドの中堅職員に収まるような選択をしたが、もし転生ポイントが余っていれば一体どのような選択をしただろうか。


「私は26,300ptあったんだけど、老化軽減5を取ったら殆ど無くなっちゃって……」

「俺と同じ転生ptか!?」

「えっ、そうなの!?」「26,300ptだったんですか?」


 俺が偶然の一致に驚きの声を上げると、ビオンダも目を見開いて身を乗り出してきた。

 一方、隣に座って居るアリスは元々俺の祝福内容と冒険者免許の記載を把握していたので、驚きではなく確認するかのように落ち着いた口調で俺の言葉をなぞった。


 前世の記憶は曖昧だが、転生候補者51万6,277人や作者・読者の転生pt獲得基準などは細かく覚えている。

 最も高い作者が一体どれだけの転生ptを持っていたのかは全く分からないが、仮に51万人が同じ作品に10ptずつ入れれば510万ptを獲得できる。アリスの転生ptも俺より多いし、俺やビオンダくらいの転生ptだった作者は千人単位で居るのかもしれない。

 すると俺たちのように老化軽減5を持っている不老の転生者も、数百人単位でいるのだろうか。


「ああ。俺は20倍消費の不老を取って、残り2,300ptで技能の弓術3と鑑定2、魔法鑑定2と6種類の知識2を得た。あとは能力値の補正程度でMPは24。ビオンダはどうなんだ?」


 俺と全く同じ転生ポイントを他の作者がどう割り振ったのかには非常に興味がある。


「わたしは光属性と回復魔法4種類を3に上げて、それを使うための知識を2に上げて、それからステータス調整をしたわ。MPは20よ」

「回復魔法が4種類全て認定3なのか!?」

「ええ、不老以外は回復に特化したの」


 この都市には全回復魔法の認定5を持つ聖女が住んでいるので感覚がおかしくなっているが、本来は「1=資格持ち、2=玄人、3=達人、4=名人、5=最高位」だ。

 これを当て嵌めれば、村の診療所で回復魔法1、街の神殿で回復魔法2、大都市の神殿で回復魔法3、高名な使い手の住んでいる土地で回復魔法4が期待できるだろう。

 属性や魔法は成長期を過ぎてから伸びるのがかなり難しいので、村娘と結婚してから20年ほど住んでいる村の司祭であろうとも精々回復魔法2止まりだ。


 つまりアリスやビオンダのように4種類の回復魔法が全て認定3ならば、大都市でもトップクラスを長く維持できる凄腕の治癒師だと見做される。


「なるほど。光属性と4種類の回復魔法を認定3まで上げても『5種×400pt=2,000pt』で足りるし、知識の医学や魔法を取る事も出来る。そういう選択肢もあったんだなぁ」

「わたしは元々の職業が看護師だったからあまり迷わなかったのよ。不老と回復魔法に割り振って、余ったポイントをステータスにしただけ」

「それなら制限時間が足りなくなる事も無かっただろうな」


 仮に俺もビオンダのように回復特化で転生していたら、一体どんな人生を歩んでいたのだろうか。

 認定が全て3の治癒師は年収200万Gくらいありそうなので、もし望めば重婚して週一で違う家に帰宅する生活を送れていたかもしれない。

 そして不老と言う立場なら、何十年かのサイクルでハーレムメンバーが入れ替わっただろう。


 ただし俺は治癒師になりたい訳ではなかった。

 憧れの職業は冒険者で、他の転生者に比べて能力不足だと思っているので領地調査官や冒険者ギルド員を選択肢に入れた形だ。

 治癒師のように望まない仕事を続ければ、いくらハーレムが作れると言っても物凄くストレスが溜まりそうだ。


 それにハーレムメンバーが入れ替わると言う事は、どんなに気に入った娘でも数十年で老いて死んでしまう。

 相手に入れ込めば入れ込むほど別れが辛くなると言う事は、俺の心が定期的に深い傷を負い続けるか、それを恐れて相手に気持ちを注げないかのどちらかとなる。

 不老では無い相手と深く愛し合う関係になるのを恐れているのはアリスも俺も同じだ。


「……まあ、アリスがいるから現状で構わないけどな」

「あらあら」


 俺がそう言うと、ビオンダは緩む口元に手を当ててご馳走様でしたとばかりに笑みを浮かべた。


「それはとても素敵な人生ね。ところでアリスさんは、転生ptいくつだったの?」

「アリスで良いです。それと私は少し余裕があったので、不老と治癒魔法の認定3までをどちらも取れました。他には今日認定試験を受けにきた闇の麻痺3と幻覚3も取得しました」

「じゃあアリス、わたしもビオンダで良いわよ。麻痺や幻覚は自衛のために?」

「はい。でもまさか人生までステータス通りになるなんて思っていませんでした」

「あー、アリスは闇3だったわね」

「ええ」


 ビオンダはアリスの発言にうんうんと頷いている。

 その間に俺は、アリスが敢えて他の祝福を説明しなかった事をポーカーフェイスで聞き流しながら再びざらついた舌触りのクッキーを齧った。


 妬み僻みは女性の方がずっと根深い。

 ポイントが多くてマナや疲労回復、各種耐性、美容関係の祝福なんかも得られましたなどと自己申告してもあまり良い事にはならないだろう。

 アリスがあえて失敗を示して見せたのは、言うなれば自衛手段の一つだ。


「ところでビオンダは、どうして神殿ではなく魔法の試験官をやっているんだ。確かに試験官も安定職だが、治癒師の方が所持能力を活かせるだろう」

「あたしと同じ能力を持って居るアリスも、治癒師をしていないわよね?」

「ああ、俺と一緒に居させるためにな」


 そう答えて華奢なアリスの肩を抱き寄せると、アリスは若干困った風を装いながらも、そのまま身体を預けてきた。

 ビオンダは苦笑いを浮かべながらアリスに呟きかける。


「あらあら、アリスも大変ね」

「いえ、全然大丈夫ですよ」


 どうやら転生ptの話題を逸らす事には成功したようだった。


「わたしは少しだけ神殿で働いていたけど、疾患3の認定を受けた頃に高司祭の息子と結婚させられそうになったの。それで幼い頃からの知り合いで冒険者だった夫のオーラスと駆け落ちして逃げたの。転生自覚前だったわ」

「マジか」「そんな事があったんですか?」


 俺はアリスの肩から手を退け、アリスも素で驚きながらビオンダへ同時に聞き返した。

 治癒師の非倫理的な強要に驚く一方で、確かに地位や光属性を子孫に受け継がせるためにならやりかねない話だとも思った。

 そして笑いながら頷くビオンダの表情を見て、その話が事実らしいと確信した。


「マジで、そんな事があったのよ。アリスは無かったの?」

「短期間でしたし、私が借金を返すために稼いでいると皆が知っていましたから」


 よくよく考えれば、治癒師とは単に光魔法が使えるだけの人間である。

 治癒師ならそんな事はしないだろうというのは、治癒師には倫理的であってほしいという俺たちの願望であるに過ぎない。


「だからわたしが神殿で働くのは難しいわ。エイスニルは聖女様の御膝下だから他都市の神殿も圧力を掛けられないけど、わたしの気分的にね」


 ビオンダを見ていると、なんとなく好奇心旺盛な黒い子猫が思い浮かんだ。

 即決即断の行動派。そしてどんな状況に陥っても、そこからそれなりの判断をして上手く世の中を渡っていくタイプなのではないだろうか。

 俺はビオンダが転生自覚前に結婚してしまっていた事や不老の彼女と夫との行く末を案じたが、どうやらそれは余計なお世話であるらしい。


 一方でアリスを動物に例えるなら、牧羊犬のボーダー・コリーのような気がする。

 ルールを破れず従属的。定められた枠内に自ら収まってしまうので、従属先次第で成功者にも失敗者にもなる。

 借金は返さなければならないと考えてあんな叔母でも見限れないし、俺が買い取って餌を与えたら噛み付かずにアッサリと従った。


 アリスはチョロインじゃないかと不安になる。

 ビオンダのように賢くなれとは言わないが、せめて俺以外の人間に懐いて付いていかないようにして貰いたい。もちろん手放す気は無いが。


「そういえば興味本位で聞いてみるんだが、ビオンダは試験官だよな。他の転生者にはどれくらい会った事があるんだ?」


 ビオンダと話している間に、他の転生者という存在が気になった。

 俺が直接面識を得ているのは捕縛されたブロイルのアホと、筋肉馬鹿の転生ゴリラと、美少女チョロインのアリスと、駆け落ち娘ビオンダの合計4人だが、4者はとても同郷とは思えないほどに個性的だ。

 さらに聖女と言うより淫魔サキュバスなジルベット・ヴィクスや、一匹で世界大戦をしている転生竜なども、一体前世は何をやっていたのかと思うほどに突飛な生き方をしている。

 あるいは、人は力を持つと大きく変わってしまうのだろうか。


「わたしが試験官をしている6年間で出会ったのは、貴方達を会わせると14人かしら」

「それはかなりの数だな」


 個性の塊が14人もいると聞くと、それだけで俺のMPを持って行かれそうな気になる。

 それだけ転生者が集まる理由は交易都市である事と、聖女がいるからであろうか。


「でも今月は、もう少し出会うかも知れないわね」

「どうしてだ?」

「だって4日前に冒険者ギルドから、転生ゴリラ討伐の高ランク依頼が出されたでしょう。集まってくる高位冒険者の中には、きっと転生者が居るはずよ」















 案の定長話となった俺たちは翌日冒険者ギルドへ赴き、アリスの冒険者申請を行った。

 だが提出書類を全て整えた上での申請であったにも拘わらず、申請は却下されてしまった。


「すみません。ギルドの正面に張り紙をしてある通りで、リグレイズ王国民の免許申請は原則お断りしています」

「難民が多いからか?」

「フランツさんが仰るとおりです」


 我が国に流れてきたリグレイズ王国民は30万人とも50万人とも言われており、そんな彼らが身分の保証を得ようと日々申請を繰り返すのは目に見えている。

 然もありなん。冒険者免許を持っていれば都市への入地税が取られないし、滞在期限も無い。

 難民ならば皆こぞって欲しがるだろう。


「惜しいな」

「何がでしょうか?」

「アリスは治癒師免許を持っている。実力は4種類の回復魔法が全て認定3で、他にも麻痺3、幻覚3、火弾1がある。他にも短剣術2、護身術3、馬術2を持っていて、MPは24だ。エイスニル冒険者ギルドが優秀な冒険者を抱える絶好の機会だぞ」

「…………」


 俺はシンシアを手招きして、アリスの治癒師免許と、昨日ビオンダから発行して貰った魔法認定証を見せた。


「下級貴族の方なのですね。これだけの実力をお持ちでしたら、冒険者になるよりも神殿で働かれた方が良いんじゃないですか?」

「アリスは俺と同じ冒険者をやりたいんだ。創傷3や魔崩3を持つ冒険者がエイスニルのギルドに増えれば、依頼の処理も色々とはかどるんじゃないか?」

「そうですけど、受付はそんな事を決められませんよ」

「普通に申請書を受け取ってくれるだけで良いんだが」


 俺とシンシアがやんわりと折衝していると、それを目にしたアスムス氏が途中まで歩み寄って俺に向かって手招きをしてきた。

 どうやら面談室に来いという意味らしい。


「どうやら権限を持っている相手が来たようだ。シンシア、手間を掛けたな」

「いえ。頑張ってくださいね」

「おう。アリス、行くぞ」

「はい」


 俺とアリスはカウンターに出していた書類をサッと掻き集め、アスムス氏に招かれるまま奥へと入っていった。

 とは言っても迷子の部外者に紛れ込まれないように2度ほど廊下を曲がって、聞き耳を立てられないように二重扉としている面談室に入る程度の距離でしかない。

 俺は領地調査官時代や上薬草集めの依頼で何度も入った事があり、今回もそのまま付き従って面談室へと入っていった。


 前回までと違う点を挙げるとするならば、依頼ではないという点だろうか。

 アリスの件はアスムス氏に聞こえる距離ではなかったため、今回呼ばれた事とは無関係だろう。


「さて、どうして呼ばれたか分かるかね」


 受付のシンシアに迷惑を掛けるなと言いたいわけではないだろう。

 俺とシンシアが話していたのは数分で、声を荒げたり大きな動作をしたりと威嚇的な行動も取っていない。

 であれば、冒険者ギルドが討伐依頼を出している転生ゴリラの件しか心当たりはない。


「どうせ転生ゴリラの件だろう。討伐依頼は出したが、道案内が居ない」


 隊長だったブロイルは逮捕され、カトラルは俺に書類作成を丸投げするほど報告に不向きで、バールケはこの件で男爵家から公文書が届いているため安全に配慮せざるを得ない。

 そこへノコノコと領地調査官の前職まで持つ俺が現れたわけだ。

 アスムス氏にとっては、カモがネギを背負って歩いてきたにも等しい状況と言える。


「では、そもそもなぜ案内が必要なのか分かるかね?」

「出現位置の報告がある以上、調査隊メンバーの参加が不可欠というわけではない。だが現地へ行った事のある人間を同行させれば前回との差異に気付き、あるいは情報漏れをその場で補完出来る。討伐に万全を期したければ、普通は同行させる事を考える」

「他に思い当たる事は無いかね?」

「全く無いな」

「良いだろう。正解だ」


 アスムス氏は俺に転生ゴリラ討伐に関する書類を差し出してきた。

 受け取って目を通すと、どうやらブロイルの逮捕から3日後の8月8日に、交易路へ多大な害を及ぼす転生ゴリラに対して、都市を跨ぐ討伐依頼が出されたらしい事が分かった。

 依頼から1ヵ月後の9月7日に交易都市エイスニルを出発し、ドザーク山脈を山狩りしながら転生ゴリラを追い詰めてこれを撃破する計画らしい。

 討伐隊への参加は、ギルドに認められたBランク以上の高位冒険者だけだ。

 報酬は「参加でBランク1単位256点」「討伐成功で参加者全員の報酬が二倍」「直接倒した隊は単位が1ランク上がる」というものであるらしい。


 俺は転生ゴリラを倒した者の報酬がSランク1単位になるのだと思っていたが、参加者全員の報酬が一律に二倍上がったり、倒した隊の報酬が丸ごと1ランク上がるという変わった契約であった。

 これは各隊や個人で競争になって足の引っ張り合いが発生する事を避けるためなのだろうか。


「でも俺はDランク冒険者で、Bランク依頼なんて受けられないはずだが?」

「Cランク待遇で道案内と情報提供を要請する。だから君は戦闘に加わらなくても良い」


 アリスの冒険者免許を申請しに来たら捕まえられ、危険な依頼を押しつけられた。


(やれやれ、どうしたものか)


 そもそも俺の調査依頼は完了しているので、討伐隊への参加義務もなければ罰則や記録に残る事も無い。

 せいぜいギルド側から依頼のお声掛かりが無くなる事や、冒険者ギルドに就職しようと思った時にやり難くなる事くらいだろう。

 本来ならば当然お断りであるのだが、俺はふとこの状況を利用できないかと思った。


「条件次第では受けても良い」

「言ってみたまえ」

「ここに冒険者免許を申請しに来た将来有望な治癒師が居る」


 俺がアリスに視線を向けると、アスムス氏もそれに応じてアリスへ目を向けた。


「全ての回復魔法が認定3でMP24。他にも麻痺3や幻覚3、短剣術2や護身術3に馬術2もある」


 アスムス氏は俺とアリスが差し出した申請書を眺め始めた。


「それは確かに優秀だな。本来であれば全種類が認定3の治癒師は大抵神殿で働くが、なぜ収入の不安定な冒険者をやりたいのかね」

「俺の婚約者だ」


 そう言って俺は婚約指輪を見せた。

 最初はナンパされない目的で付けたのだが、今では嘘が誠に変わった形だ。

 彼はそれに一度だけ視線を向けると、再び書類に目を落とした。


「出自はリグレイズ王国の下級貴族。現在は俺との間に3年間の短期労働契約が結ばれている。彼女の免許を交付してもらえるのなら、今回の要請に応じよう」

「…………ふむ」


 アスムス氏は暫く書類を眺めた後にこちらへ目線を戻し、俺とアリスを眺めた後に威厳と落ち着きを兼ね備えた表情で重々しく頷いた。


「本来は許可していない。だが彼女も今回の討伐に参加して戦場での回復を行ってくれるというのならば、融通を利かせられるだろう」

「参加まで必要なのか?」

「例外を作るには理由が要る」


 安全な都市内で高収入を得られる高位の治癒師は、よほどの変わり者でも無い限りわざわざリスクの高い冒険者を選んだりはしない。

 危険な場所へ全認定3の治癒師を1人連れて行けるだけでも、作戦の成功率や安心感は一気に増す。


「私は構いませんけど」

「…………むぅ」


 俺が危惧するのは、転生ゴリラを探しに行くというリスクだ。

 俺もアリスも戦うわけではないが、かなりのハイリスクである事は間違いない。

 引き替えはアリスの身分保障という、本来リグレイズ王国民には与えられていないハイリターンだ。

 それと、生活費だろうか。

 Cランク1単位64点なら、転生ゴリラに出会わなくても領地調査官時代の1年半の年収に匹敵する。

 そして討伐隊が転生ゴリラを倒してくれれば、3年分の年収に匹敵する。


「…………出発前までに冒険者免許を交付してくれて、俺同様にCランク依頼を貰えるならな」

「バルデラス侯は一度での解決をお望みだ。MP24と全回復魔法が認定3ならば、従軍には全く問題ないだろう。それで、祝福などはあるのかね?」


 アスムス氏は俺たちに疑わしげな視線を向けながら、机に並べられていたアリスの申請書を手元に引き寄せた。

 どうやらアリスの冒険者免許申請は通ったらしい。


「転生竜や聖女様みたいに壊れた能力は持っていないから期待するな」

「ではそれ未満の期待はしておくとしよう」


 彼を食えない狸親父だと思ったのは、言い負かされた負け惜しみからだろうか。

 もしも俺が冒険者ギルドの受注課で働くことになった場合、上司の目が届きすぎてあまり手を抜けない事になりそうだった。

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