次の日、結局、稜哉は1日授業に出なかった。
途中から行くつもりだったものの、なんとなく気だるくなってしまったのだった。
とくに部屋の中で何をするわけでもなく、だらだらとベッド上で横になったり、見るページもないのに雑誌を眺めたりしていた。
そんなこんなしているうち、あっという間に日は落ちて窓の外は薄暗くなっていた。
「稜クン大丈夫?ジョルジョ先生から手紙もらってきたよ」
ロランは1日の授業を終え、帰ってくると茶色い封筒を差し出した。
「授業には出なさいって」
稜哉はため息をついた。
「先生、怒ってた?」
「ちょっと怒ってたけど、半面、悲しそうだったよ。そうそう、これから週に2回、稜クンだけの個別授業もするってさ」
「個別授業!?」
声がうらがえった。
「なんで?なんのために?」
稜哉のゆがんだ表情にロランは困ったように肩をすくめる。
「その手紙に、何か書いてあるんじゃない?」
同じころ、ポーグラントから遠く離れたところにある城に5人の吸血鬼が集まっていた。
薄暗いオレンジ色のシャンデリアが照らす部屋に、大きな縦長のテーブルが1つ。
それを囲むように彼らは赤ワインの入ったグラスを片手に話をしている。
「本当に一人で平気なのか、リュカ」
穏やかな、でもどこかに強さを感じさせるような響きの声で、ゴッド・グリーン・レストレンジ伯爵は言った。
「お前は戦闘には向いていない。事が大きくなれば――失敗するぞ」
リュカと呼ばれた若い男は、赤い目で伯爵の澄んだブルーの瞳をまっすぐ見据えて答えた。
「相手は13歳の男の子一人。戦闘なんていう大げさなことにはなりませんよ、伯爵。それに――」
リュカは正面に座るヴァレリア・スペンサーをちらと見た。
「僕は誰かさんとは違って、争い好きではありませんから。僕の能力なら、いざこざが起こる間もなく彼を連れてこられます。もちろん、無傷で」
ヴァレリアのシャープな赤い目がリュカをにらんだ。
「最近、彼はどうしている?」
ブルーの瞳と、3つの赤い目が、紺のマントを羽織っている、20歳くらいの男に集中した。
男は一口ワインを飲むと
「最近は3人のクラスメートとよく一緒です。隠れ里での生活にも慣れてきたようです。ただ、少し精神が不安定になっています」
と言った。
「不安定?どういうことだ?」
「操者である自分に不安を感じています。今日は、ついに1日授業を休みました。このままだと、登校拒否になる可能性も」
「かわいそうに……」
突然、ハープのような声が小さく響いた。
視線が、今度はヴァレリアの隣の女の子に注がれる。
腰まである黒髪をくるくると巻いた彼女は、年頃は、まだ15,16歳のように見えた。
「自分の能力に怯えることほど、惨めなことは……」
リューシャ・ヤグーディナはそうつぶやいて、血の気のない、青白い自分の両手のひらを見た。
胸元で、ダイヤの形の真っ赤なネックレスがキラリと光る。
「そのとおりだ、リューシャ」
伯爵はうなづくと、椅子から立ち上がった。
その拍子に黒いマントがひらりとはためく。
「我々の計画に、稜哉は必要だ。彼を除いては計画は成し遂げられない、というのが予言されている。リュカ、期待しているぞ」
リュカ・リヴァロルは
「任せてください」
と胸をはった。
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