「遅かったねー。どうだったの?」
稜哉が部屋に戻ったとき、太陽はすっぽりと姿を消した7時ごろだった。
「6時間近くもみっちりやっていたなんて、本当にごくろうさま」
ロランが紅茶を注ぎながら言った。
白いカップから、湯気がもくもくと立ち上っては、消えていった。
「講習自体は4時に終わったんだけど、それから図書館に行っていたんだ」
稜哉は紅茶を一口飲んだ。
とたんに、ほわっと冷え切った体中へ暖かさが広がっていく。
「何か課題でも出されたの?」
「そういうわけではないんだけど、隠れ里について調べたくなってさ」
「ふーん」
稜哉はもう少し話が続くかと思ったが、ロランはそれ以上聞いてこなかった。
2人の間には静かな空気が流れていた。
「ねぇロラン、"ゴッド・グリーン・レストレンジ伯爵"って聞いたことない?」
「ゴッド・グリーン・レストレンジ?さあ、どうして?」
稜哉は話し始めた。
隠れ里建国のメイン人物の1人かもしれないこと、なのに一切資料に名前が載っていないこと、図書館に言ったのは彼のことを調べるためだったこと、でも結局何も得られなかったこと、を。
「まあ、そんな人も1人や2人いるよ」
稜哉の話を聞き終えたロランは、退屈そうに、そう言った。
彼にとってはあまり気にならないことらしい。
「じゃあ、この話はどう思う?」
稜哉はあのABLのことを話した。
伯爵が、今も生きているかもしれないという話。
Dirty Vampireのことを話したとき、それまで眠そうだった彼の顔つきが一変した。
「ちょっと待って!」
「えっ?」
「今、"Dirty Vampier"って言った?」
ロランの顔は、恐怖と興奮とが入り混じった表情をしている。
「それが、どうかした?」
はぁっと一息ため息をつくと、彼は逆に稜哉に聞き返した。
「稜クン、"チェイサー"ていう全国指名手配の秘密結社を知っている?」
「"チェイサー"ってあのバンパイア狩りをしているって言う?」
ロランは静かにうなずく。
いつになく真剣な口調で続けた。
「"チェイサー"はね、純血バンパイアだけの世界を目指す集団なんだ。そのために、純血バンパイア以外のバンパイア、つまり人間とバンパイアのハーフは排除しようとする。この世から」
「それとDirty Vampireとどんな関係があるんだい?」
稜哉には話がまだ見えなかった。
「"チェイサー"には"カード"って呼ばれる5人の幹部がいるの。スペードのA、ハートのA、ダイヤのA、クローバーのAの4人と、さらに幹部の中でもリーダーに当たるJoker。 "チェイサー"はこの"カード"の5人の言うがままに動いている。チェイサー=カードって言ってもいいくらいなんだ。」
「じゃあチェイサーの人数は少ないの?」
ロランは首を振る。
「人数はもう把握できないくらい。でも彼らは皆、この5人に操られているだけなんだ。
"純血思想"が少しでもあるバンパイアの心の隙間に、彼らはつけ込む。そしてあっという間に自分たちの配下するんだ」
紅茶のカップからはもう、湯気はほとんど立っていない。
「そんな"カード"たちは、自分たちでなんとしても"純血"の理想を叶えたいと思っている。でもその理想は、今日明日で実現できるものじゃない。そこで彼らは考えたんだ。どうやったら理想を実現するころまで生きていられるかって。答えは出た。一生生き続ければいい。」
「それがDirty Vampire?」
「そういうこと」
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