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第3章
第60話 ケージ使い
「ただいまー」

約5分後、ロランは戻ってきた。

「おかえりー、って!?」

稜哉はロランと一緒にいる人物を一目みて驚いた。

「ジャスティン!?なんで?」

「なんでって、とり憑き専門家だもん」
「??」

上手く状況が飲み込めていない稜哉に

「とり憑き専門家じゃなくてケージ(監獄)使い。ちゃんと名前があるんだからそう言ってよ。ケージ(監獄)使いはね、ロードをつくって霊を呼び寄せたり移動させたりできるの」

と、ジャスティンがB5ほどのサイズのポーチから、鏡をとり出しながら答えた。

「要するにさ、稜クンのその変な夢の原因がとり憑きものの仕業なら、この方法で解決するわけよ」

ロランは椅子にゆったりと腰掛けると、ジャスティンの行動を興味深そうに眺めた。

ジャスティンは2m四方くらいの真っ黒な絹織物をしわ1つできないよう丁寧に床に広げていた。

織物の中央には、真っ赤な糸で、はっきりと、奇妙な模様の刺繍が施されている。
人がゆったり座れるくらいの大きな六角形の中に、それと2周りほど小さい六角形。
さらにその中に、11本の柱で囲まれたケージ(監獄)の絵。
そして、むき出しの棘をつけたツルをもつバラが、グルグルグルッとその絵を包囲するようにして描かれている。
1番外側の、六角形の各頂点に縫われたローマ数字は、いかにも怪しいオーラを放っていた。挿絵(By みてみん)

ジャスティンは内側の六角形の各頂点に、内を向くようにして1枚ずつ鏡を立てていった。
手のひらサイズのその鏡は、かなり古いものらしく、所々さび付いている。
決してきれいなものとは言えなかった。
鏡の周りを縁取る黄ばんだ銅版にも、鋭く棘を光らせるバラの装飾が施されていた。

全体を見たその光景は、まるで、何か異世界のなにかを召喚するときのセットのような光景だった。

「ねぇ、ジャスティン。疑うわけじゃないんだけどさ、僕、どこか飛ばされたりしないよね?」

目の前の状況がとても日常的状況とはかけ離れている様子に不安になった稜哉は、思わず聞いた。

「このミラー()が生み出すロードを行き来できるのは、霊とか怨霊とか実体を持たないものだけよ。だからちゃんと体のある稜哉君は通れないから大丈夫」

ジャスティンは答える。

「でもさ、霊を取り去るはずが間違って呼び出しちゃう、なんてことはあるんでしょ?」

と言うのはロラン。

「そうね、まぁ、そういう時も無いことは無いわ」
「もしそうなったら?」

稜哉にはその最悪の事態の結末が見えたような気がした。
ジャスティンは平気な顔をしてあっけらかんと言ってのけた。

「そういうときは霊が稜哉君に乗り移るだけよ」
「……」

("乗り移るだけ"ってそれは重大なことでは?)

「まあ、そうなったときはそれで何とかなるよ。あははっ」

きっと青ざめていたであろう稜哉の顔を見て、ジャスティンは屈託無く笑った。

(僕、大丈夫かな?)

期待:不安=1:50くらいの割合の気持ちを抱えた稜哉には、着々とセッティングを進めるジャスティンを見ているしかなかった。

「さぁ。準備できたわ」

目の前には、全ての六角形の頂点に1枚ずつ鏡が立てられ、いつでも召喚できますよ、とでもいうよなセットが完成していた。
鏡に反射する光は中央一点に集中している。

「僕は……どうするの?」
ケージ(監獄)のとこに座って」

稜哉は言われたとおり、ケージ(監獄)の絵の上に体育座りした。
鏡に電気のライトと窓からの日光が反射し、直線で顔を照らしていて眩しい。
とてもまともに目を開けていられなかった。

「じゃあ、始めましょうか。ねぇロラン、電気を消してくれる?」

室内の電気が消え、部屋を明るくするのは陽の光だけになる。
それらは鏡を跳ね返り、ケージ(監獄)へと続く6本の道を作った。

いつになく真剣な表情のジャスティンは稜哉の真後ろ――ローマ数字"Ⅰ"――のところに両手を置いた。
室内に、稜哉が今まで聞いたことのないジャスティンの低い声が、静かに響いた。

ケージ(監獄)よ、開け」
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