稜哉は今まで見たことのない、とある一室にいる。
いくつかの本棚は倒れて本が散乱し、引き出しという引き出しは全て開けられていて、中身は床に散らばっていた。
上等な机と椅子も亀裂が入り、窓のカーテンは引きちぎられ、昼間の心地よい風が全開の窓から容赦なく吹き込む。
割れたティーカップからは紅茶がこぼれ、床に敷かれた赤ワイン色の絨毯の上にしみをつくっていた。
まるで、泥棒に入られた直後のような状態の部屋だった。
どうやらここは書斎のようだ。
それも、お金持ちが住んでいそうな。
絨毯の上に、若い女がうつぶせに倒れていた。
絨毯と同じような上品な色のガウンは、あちこちが破けていたり、擦り切れている。
肩までの長さであろう、そのつやの美しいブロンドの髪は、ぼさぼさに乱れていた。
稜哉は女の顔を見ようとして、近づいた。
だがとっさに物陰に身を隠した。
女のそばに男が立っていたのだ。
稜哉に対して後ろ向きに立っているその男は、全身を真っ黒のマントで包み、両手で何か絵の入った額縁を持っている。
「やっと……見つけた……」
男は澄んだ、でも何か底知れない邪悪さを含んだような声で言った。
「どれほど長い間、探し求めていたか……!」
そうして、不気味なほど甲高い笑い声を上げた。
男が額縁を高く掲げたとき、稜哉は一体それが何の絵か、見ることができた。
(あの絵は……?)
もっとよく見ようと立ち上がりかけた稜哉は、そばのティーカップの破片を踏んづけた。
しんとした室内に、パキッという音が響き渡る。
「誰だっ」
その音に反応した男は、稜哉の隠れているほうに向き直った。
そして一歩一歩近づいてきた。
横に倒れた本棚の後ろに隠れている稜哉は、息も詰まる思いで、ただただ、じっとしていた。
(見つかったら確実に僕も……)
殺される。
稜哉には、そもそもなぜ自分がここにいるのか分からなかった。
今はもう、必死に見つからないよう祈っていた。
「出て来い!」
男と本棚との距離が1mを切ったように思われたとき、再び男の持っている絵がチラリと見えた。
(やっぱりあの絵は)
男が本棚の後ろを覗いた。
(ああ、見つかる!)
そのときだった。
「……さん……客さん……お客さん……」
誰かに肩をつかまれた稜哉は、そのまま真後ろに、別の空間に吸い込まれていくような気がした。
本棚が、男、部屋全体が、徐々に遠のいていく。
(一体どこに行くんだ――?)
「お客さん!終点ですよ!」
目を開けると、そこは汽車の一室だった。
「お客さん、終点です」
駅員の若い男が稜哉の顔を覗き込む。
「ここは……?」
「Fanapone駅、終点ですよ。その制服、ポーグラントの子でしょう」
黒髪をくるくるさせたその駅員はやや迷惑そうに言った。
「あ、すみません」
「早く降りてください。点検を済ませますから」
駅員に急かされるようにして汽車を降りた稜哉は、雪化粧した道に両足で足跡をつけていった。
(またあの変な夢だ。それにしても)
ポーグラントの敷地内に入り、天使像の脇を通った稜哉はロランのいる305号室へと、エレベータに乗った。
(あの絵は間違いなくゴッド・グリーン・レストレンジ伯爵だった!)
あさってから地獄の中間試験weekでござりまする。
なので更新は6月入ってからになると思います。
(せっかくいい調子だったのに(泣)
お楽しみにぃー★
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