冬季休業に入って1週間目の27日の夜――。
稜哉、ジョン、オリバーは例によって稜哉の部屋にいた。
「稜、明日だろ?ポンポの個別指導」
オリバーに稜哉は苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。
明日の1時から2時間、ポンポニャク先生との里史の補習だった。
「ポンポ先生を狙っている女生徒は多いんだぜ。もっと喜べよ、稜」
「あのねぇ、ジョン、僕は男だし、そういう趣味もないんだけど」
稜哉は乱暴にテキストとノートをスーツケースに放り込んだ。
その弾みでもともと入っていたペンケースが外にこぼれる。
稜哉にとって里史の補習はただただ苦痛でしかなかった。
あの無様はM.E.の結果を思い出すだけで胃がキリキリ痛むのに、ましてやこれから3回も補講だなんて。
考えただけでも目の前が真っ暗だった。
「ちょっといいかしらー?稜、あなた明日から補習よね?」
ジェーンおばさんがドアから顔をのぞかせた。
「そうなんですよ」
「29日まで宿舎で過ごしたらどうかしら?そうしたら往復2時間かからなくて楽じゃない?」
稜哉はその提案に乗ることにした。
中身がごちゃごちゃのスーツケースに、服も追加する。
「よし」
小さくつぶやいて、スーツケースを閉めた。
「お、準備OKってか?」
気楽そうなジョンに、稜哉は重々しく頷いた。
次の日、稜哉は自分が憎らしくなるくらい気持ちのよい目覚めを体感した。
カーテンをサーッと引くと同時に、冬の晴れ空が部屋中を水色にライトアップしている。
稜哉にとってはむかつくくらい快感な目覚めだった。
(……まぁ久々にロランたちに会えると思えば……)
休暇中、ロランは宿舎に残ることになっていた。
「いつでも寂しくなったら来てよね。ボクが抱擁してあげるから」
(……!だーれが男なんかに抱擁してもらうもんか)
別れ際にロランに言われたことを思い出し、顔がほてった稜哉は左右に頭を振ってとっぱらった。
そして真っ黒な制服に身をつつみ、階下におりた稜哉はジェーンおばさんが腕によりをかけた、らしい朝食を食べた。
おばさんは稜哉の食事中、
「アンドレ先生はすばらしい先生だわ」
とか
「気楽にやっていらっしゃい。でも里史は大切な教科だからしっかりやるのよ」
とか言うので、ますます気が重くなるばかりだった。
結局、いつもなら10分で食べ終われる量を倍の20分かけてゆっくり食べ終え、そそくさと部屋へ戻った。
「稜、ちょっといいか?」
部屋で一通りものを片付けているとき、オリバーが入ってきた。
「なに?」
彼はそれには答えず、部屋のなかをうろうろしている。
「もう、荷物はまとめたのか?」
「うん。あとはもって行くだけ。」
「そうか」
「どうしたの。何か変なものでも入っている?」
稜哉はスーツケースの中身をまじまじと見られているのに気がついて言った。
「いや、別に。きちんと整理されてんなー、と思って」
「どこがさ」
オリバーはスーツケースを閉め、
「稜」
「?」
「頑張って来い」
やけに真面目な顔でそう言い、そのまま部屋から出て行った。
(なんだったんだ?)
片付けも終わり、大きく背伸びをした稜哉は、部屋の明かりを消した。
そしてスーツケースを持ち上げたとき、パサッと何かが落ちた。
「?」
音のしたあたりを手で探り、明かりをつけると、それはRUNNER EXPRESSだった。
いわゆる"新聞"で、アーサーおじさんの勤めている会社が発行しているものだ。
(オリバーが忘れたのか?)
玄関に行くついでに返そうと思ったとき、ふとある欄に目が止まった。
わざわざマーカーで目立たさせられている。
一通り記事に目を通した稜哉はそのままそれをスーツケースにしまうと、玄関に向かった。
(オリバーが部屋に来た目的はこれだったんだ――)
彼の挙動不審だった動きの意味が分かったような気がした。
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