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第3章
第56話 いよいよ明日なんです
冬季休業に入って1週間目の27日の夜――。

稜哉、ジョン、オリバーは例によって稜哉の部屋にいた。

「稜、明日だろ?ポンポの個別指導」

オリバーに稜哉は苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。
明日の1時から2時間、ポンポニャク先生との里史の補習だった。

「ポンポ先生を狙っている女生徒は多いんだぜ。もっと喜べよ、稜」
「あのねぇ、ジョン、僕は男だし、そういう趣味もないんだけど」

稜哉は乱暴にテキストとノートをスーツケースに放り込んだ。
その弾みでもともと入っていたペンケースが外にこぼれる。
稜哉にとって里史の補習はただただ苦痛でしかなかった。
あの無様はM.E.の結果を思い出すだけで胃がキリキリ痛むのに、ましてやこれから3回も補講だなんて。
考えただけでも目の前が真っ暗だった。

「ちょっといいかしらー?稜、あなた明日から補習よね?」

ジェーンおばさんがドアから顔をのぞかせた。

「そうなんですよ」
「29日まで宿舎で過ごしたらどうかしら?そうしたら往復2時間かからなくて楽じゃない?」

稜哉はその提案に乗ることにした。
中身がごちゃごちゃのスーツケースに、服も追加する。

「よし」

小さくつぶやいて、スーツケースを閉めた。

「お、準備OKってか?」

気楽そうなジョンに、稜哉は重々しく頷いた。




次の日、稜哉は自分が憎らしくなるくらい気持ちのよい目覚めを体感した。
カーテンをサーッと引くと同時に、冬の晴れ空が部屋中を水色にライトアップしている。
稜哉にとってはむかつくくらい快感な目覚めだった。

(……まぁ久々にロランたちに会えると思えば……)

休暇中、ロランは宿舎に残ることになっていた。

「いつでも寂しくなったら来てよね。ボクが抱擁してあげるから」

(……!だーれが男なんかに抱擁してもらうもんか)

別れ際にロランに言われたことを思い出し、顔がほてった稜哉は左右に頭を振ってとっぱらった。
そして真っ黒な制服に身をつつみ、階下におりた稜哉はジェーンおばさんが腕によりをかけた、らしい朝食を食べた。
おばさんは稜哉の食事中、

「アンドレ先生はすばらしい先生だわ」

とか

「気楽にやっていらっしゃい。でも里史は大切な教科だからしっかりやるのよ」

とか言うので、ますます気が重くなるばかりだった。
結局、いつもなら10分で食べ終われる量を倍の20分かけてゆっくり食べ終え、そそくさと部屋へ戻った。

「稜、ちょっといいか?」

部屋で一通りものを片付けているとき、オリバーが入ってきた。

「なに?」

彼はそれには答えず、部屋のなかをうろうろしている。

「もう、荷物はまとめたのか?」
「うん。あとはもって行くだけ。」
「そうか」
「どうしたの。何か変なものでも入っている?」

稜哉はスーツケースの中身をまじまじと見られているのに気がついて言った。

「いや、別に。きちんと整理されてんなー、と思って」
「どこがさ」

オリバーはスーツケースを閉め、

「稜」
「?」
「頑張って来い」

やけに真面目な顔でそう言い、そのまま部屋から出て行った。

(なんだったんだ?)

片付けも終わり、大きく背伸びをした稜哉は、部屋の明かりを消した。
そしてスーツケースを持ち上げたとき、パサッと何かが落ちた。

「?」

音のしたあたりを手で探り、明かりをつけると、それはRUNNER EXPRESSだった。
いわゆる"新聞"で、アーサーおじさんの勤めている会社が発行しているものだ。

(オリバーが忘れたのか?)

玄関に行くついでに返そうと思ったとき、ふとある欄に目が止まった。
わざわざマーカーで目立たさせられている。
一通り記事に目を通した稜哉はそのままそれをスーツケースにしまうと、玄関に向かった。

(オリバーが部屋に来た目的はこれだったんだ――)

彼の挙動不審だった動きの意味が分かったような気がした。
57話は夜、7時かそれくらいに更新します★
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