鏡の国戦記〜EPISODE SHAMAI・3〜『モンスーン』(7/9)縦書き表示RDF


鏡の国戦記〜EPISODE SHAMAI・3〜『モンスーン』
作:亜玲



第7話


‡第七話‡


「くはっ……!」



父が膝をつくと同時に、対峙していた全身タイツも地に倒れ伏した。



こちらは完璧に絶命している。その左胸には、父の愛用の短剣が深々と突き刺さっていた。



「……無事か、トンナム……」



「あ……あ……」



父の体を抱き起こしたトンナムは、その冷たさにぞっとした。





雨が降りしきる戦場は、舞い戻ってきた突攻隊の助力によって、ほぼミラ軍を制圧しつつあった。





「なんで……なんで、俺のことなんか……」



荒い息をつく父の顔を凝視しながら、トンナムは震える声を絞りだした。逞しい胸から流れ出る血が膝を濡らす。



血が止まらない――



「どうしてだよ……俺のこと、嫌ってたんだろ……本当の子供じゃない、から……なのに……」





「……知ったのか……」



「俺なんか、ただ、後継ぎのための道具……なんだろ……だから」



「トンナムっ!」





胸に、刄を突き立てたままの父が、必死に血塗れの体を起こし、






トンナムは、生まれて初めて、父に抱き締められた。






「……すまなかった……今まで16年間……お前に、辛い日々を……送らせて……」



「父上」





「確か、に……それも……あった……それは、いいわけ……できぬ……だが、お前を、授かった時……お前の、成長を見たとき……私は純粋に、父親として……本当に嬉しかった……」



「っ……喋るなよぉっ……!」



父が言葉を発する度に、その口から、傷口から血が零れる。



だが父は、何か言い残す事を恐れるように、擦れた声で語るのをやめない。





「いつか……この日が来た時のために……お前が傷つかぬように……私は、お前を……愛さぬよう……冷たくあたり続けた……」





「……え……?」





「だが、それは……間違いであったのだな……結局は、こんなにも……お前を傷つけて……私は……」





トンナムは、わが耳を疑った。



散々嫌い合ってきた今になって、何故そんな事を言う?



失血がひどくて朦朧としているのかも知れない。



最期まで嘘をついて、なんとか王朝を継いでほしいのかもしれない。



でも、じゃあ、この手はなんだ。



ゆっくりと伸ばされた父の手が、息子の頬を包む。



冷たくなっていく体に反して、ひどく暖かい手だった。



「父上」



「私が憎いかトンナム……憎いだろうな……だが……例え血が繋がっていなくとも、愛している……私がいなくとも、お前ならば……」





その言葉を聞いた瞬間、トンナムは父にしがみついていた。



「嫌だ!! 逝くなよっ……逝かないでくれよっ……!! 俺だって、俺だって、父上のことが好きだったんだ……」





「トンナム……」





父の笑顔が自分に向けられるなど、これが最初で最後かもしれない。



「父上……」



「泣くな……お前は……エルナンの王子なのだから……我が……息子……よ……」






「父上……?」





「父上……」






「――――――!!!!」






ゆっくりと倒れた父の体を抱き、トンナムは声にならない叫びをあげた。





それは、16年間すれ違い続けた想いが溢れだした、叫びだった。



[続く]












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