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マオマオくん……ツッコミどころはそこじゃない 作者:楠木恵介
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第一章・嫌われ勇者と魔王の息子

〔第一章・嫌われ勇者と魔王の息子〕


『しょーがないじゃん……勝手に、この世界のこの時代に生まれちゃったんだから……綺麗なコトも醜いコトも、ひっくるめて世界の一部なんだから、全部受け入れて生きていくしかないじゃん』

 地中人童話【不快な国のアリリリス】の主人公、アリリリスの言葉より


 と、ある異世界……魔物が徘徊しているのが日常の世界。

 旅を続けてきた勇者のパーティーは、ついに最終目的地の『魔王の城』に辿り着いた。

 仲間の戦士が目の前にそびえる、外堀に囲まれた城塞都市の城壁を見上げて呟く。

「ついに、ここまで来たな……長く苦しい旅だった」

 侵入と情報収集を得意とする盗賊の娘が言った。

「魔物もたくさん倒して、村々から謝礼もたんまりもらってきたことだし、ちゃっちゃと魔王も倒しちゃおうよ」

 トンガリ帽子を被った、魔女がリーダー格の勇者に向かって言った。

「これが最後の戦い……気を引き締めないと」

 魔女の言葉に唇を噛み締めた勇者は、苦しかった今までの旅を思い出す。

 勇者の後方に整列する、旅の途中で次々と仲間になって膨れ上がったメンバーたち……忍者、サムライ、騎士、武道家、馬賊、海賊、遊び人、道化師、踊り子、花魁、岡っ引き、僧侶、牧師、猛獣使い、幻術師、陰陽師、狩人、野人、軍師、傭兵、農夫、漁師、木こり、商人、弁護士、料理人、医師、鑑定士、詐欺師、議員、愛人、サラリーマンetc……総勢、百人以上の大パーティー。

 勇者は、そいつらを眺めて目に涙を浮かべる。

(思えばほとんどが、この連中の食いぶちを稼ぐ旅だったような気がする……メンバーが増えるたびに当初の旅の目的から、かけ離れていったなぁ……だがそれも今日で終わりだ)

 一年半前に魔王に連れ去られた王女を救出するコト、各地で暴れ回っている魔物を退治して魔王を倒すコトが目的の旅……だが勇者の心中には特別な思惑があった。

(魔王を倒して救出した王女を、国王のところに連れて行けば……オレを気に入った国王が、ぜひ王女と結婚してくれと頼まれて王女はオレの妻に。必然的にオレはこの国の次期国王に……そのくらいの見返りがなきゃあ、勇者なんざやっていられねぇや!)

 勇者の邪心など知らない仲間の戦士は、城の周辺に植えられ咲き乱れている、四季の花々や森でさえずる鳥の声に首をかしげる。

「それにしても旅の最初にイメージしていた魔王城とは、だいぶ違うな……もっと、黒雲が渦巻いて天空を覆っているような、禍々しい城を想像していたが?」

 清々しい涼風が吹き抜けてくる森の方では、鹿の親子が仲良く葉っぱをついばんでいるのが見えた。

「魔王城に近づくたびに、魔物数が減ってきてここ数日間は、まったく現れなくなったのも奇妙だな……あっ!! こらっ、狩人と蛮賊。弓矢で鹿の親子を狙うんじゃない!!」

 勇者は城門を睨みつけて、剣の柄を握りしめる。

「このまま城塞の閉じた跳ね橋を叩き壊して、魔王城に突入するぞ全員突撃!!」

 雄叫びをあげて進撃する大パーティー軍……その時、城正門の跳ね橋が下りてきて、微笑む執事姿の男が現れた。

 突撃していた大パーティーの足が跳ね橋の前で止まる……上品な雰囲気を漂わせた執事姿の男が言った。

「お待ちしておりました……勇者ご一行様、長旅でお疲れでしょう。宴の用意ができております」

 勇者は訝しそうな表情で、執事を凝視する。

「魔物が用意した宴だと!? ふざけるな!! 何か魂胆があるんだろう!!」

「どう思われてもご勝手ですが。魔王さまは、あなた方と争う意思はありませんので……城内の他の魔物にも、誠意を持って勇者のご一行を歓迎するように指示されています……どうぞ城内へお進みください」

 執事が背を向けて歩きはじめると、勇者たちもしかたなく剣や槍の武器類を鞘に収めて進んだ。

 魔物たちが暮らす城塞都市内は、市場があり活気に溢れていた。勇者一行はゾロゾロと市場内を前を行く執事に従って進む。

 歩きながら戦士が勇者に呟く。
「まさか、魔物たちが楽市を行っているとは驚きだな……魔物の文化水準は、思っていたよりも高いな。それにしても、あの人間の姿をした執事の魔物……隙がない」

「騙されるな、オレたちを油断させる作戦かも知れない……なにしろ、相手は魔物だからな……疑い深くて卑劣で、自尊心と虚栄心の固まりみたいな連中だからな」

 勇者の言葉を聞きながら、戦士は「それ全部あんたのコトだろう」と、内心突っ込んでいた時……仲間の盗賊の娘が、何やら焼かれて串刺しにされた肉片を持って勇者のところにやってきた。

「ねぇねぇ、そこの屋台で売っていたこの肉、なかなか美味しいよ……なんでもバロメッサの肉なんだってさ……ついでに肉売っていた隣の店で、ストラップ買っちゃった『魔王城ゴール記念ストラップ』だって」

「そんな、ふざけたもん買うな!!」

 勇者は盗賊から、ストラップを奪うと遠くに放り投げた。

「なにすんのさ!! あたいが買ったモノを!! バカ勇者!」

 怒った盗賊の娘は、放り投げられたストラップを拾いに行く。戦士が呆れ顔で勇者をたしなめる。

「おまえなぁ……人が買ったモノを投げることは無いだろう……見ろよ、他のメンバーだって魔物の店で土産買ったり、買い食いしているぞ」

 戦士の言葉通り、後方のメンバーたちも魔物の店で思い思いの買い物をしている……まるで観光気分だ。

 キレた勇者が怒鳴る。

「ガーーーーッ!! おまえらぁ!! 何しに魔王の城に来たんだ!!」

 そうこうしている間に、城下町を抜けた勇者一行は、魔王が待つ城の中庭へと入っていった……中庭には椅子とテーブルが並べられ、宴の料理や酒が用意されていた。

 そこには顎鬚と頬髯を貯え、頭に羊の巻き角を生やした魔王もいた。

 勇者たちを案内してきた執事が、魔王に向かって一礼する。

「魔王さま、勇者さまご一行を、お連れしました」
 羊の巻き角を頭に生やした、若い魔王が言った。

「さあっ勇者どの長旅でお疲れでしょう……料理と酒で旅の疲れを癒してくだされ、城内には天然温泉の浴場もありますので」

 勇者が魔王に向かって、剣を抜き払って怒鳴る。

「魔王覚悟!! 宴を装って、油断したオレたちを茹でて喰うつもりだろう!! 騙されないぞ!!」

 仲間の戦士と盗賊と魔女が、無言で勇者の後頭部を拳や棍棒で強打すると。

 頭を押さえてうずくまったバカ勇者から、勇者の剣を取り上げた戦士が言った。

「さすがに一緒に旅を続けてきたが、ここまで疑り深いバカとは思わなかった」

「あたいは、最初から気づいていたけれどね……お宝さえ手に入れば良かったから」

「最低……この男」

 少し困り顔をしている魔王に、戦士が深々と頭を下げる。

「バカな勇者に代わって、非礼をお詫びいたします……このような宴の場を、ご用意してくださり感謝します」

 魔王を倒しに来た者が、その魔王に頭を下げて詫びる……奇妙な光景だった。

 穏和な顔つきの魔王は特に気にしている様子もなく、勇者を自分の隣の席に着かせると『魔王と勇者の宴』がはじまった。

 宴も進み美酒の酔いで勇者たちと魔物たちの間に交流が生まれ、雰囲気も和んできた頃……魔王が勇者に訊ねた。

「ときに勇者どのは旅の途中で遭遇した魔物を、数多く退治してきましたな」

「あぁ……退治して斬り捨ててきた、それが何か?」

「いや、退治された下等な魔物は人に害を成す言わば害獣のような存在……退治されても当然であろう。だが中等な人語を解する知性のある魔物まで、下等な魔物同様な扱いはいかがなものかと」

 酒を仰ぎ飲む勇者。

「あぁ!? なんだぁ、その言い方は。まるでオレが罪のねぇ魔物まで退治してきたような言い方じゃねぇか……オレを誰だと思っている、選ばれた勇者さまだぞ!」

 勇者の配慮を欠いた言葉に、一瞬……宴の場が凍りつく、しばらくして酒を仰ぎ飲みながら戦士が「おまえは罪の無い魔物も結構、退治してきたがな……無抵抗な魔物の村を焼き討ちしたり」と、呟く声が聞こえた。

 魔物の兵たちが剣の柄に手を掛けて身構える、勇者のパーティーたちの数人が武具を構える……一触即発の状況に魔王は、こわばった笑みを浮かべながら片手で魔物たちを、落ち着くように制した。

 魔物の兵士が怒りを押さえながら、剣の柄から手を離すと魔王が勇者に言った。

「おぉ、そうだ……勇者どの実は数日前、わたくしの妻に男子が生まれましてな」

「ほぅ……魔王の息子は、どんな化け物だ」

 ガチャガチャと魔物たちの甲冑が触れ合う音が聞こえ、再び剣の柄に手がかかる。

 勇者側のパーティーもさすがに、この勇者の無神経な発言はマズいと感じて……代表して戦士、盗賊の娘、魔女の三人が勇者の頭を殴る。

 ベコッ! ポコッ! ペケッ! まるで熟れたスイカを叩いたような音が、勇者の頭から響く。 

 殴られた頭を抱える勇者を眺める魔王が、頬を痙攣させながら必死の笑みを浮かべる。

「勇者どのは、ご冗談がお好きのようで……生まれた息子は化け物ではありませんぞ、お見せいたしましょう」

 魔王が近くの執事に耳打ちする、一礼した執事が退室してしばらくすると。産布に包まれた乳飲み子を抱えた女性が執事に付き添われて宴の場に現れた。

 その女性の顔を見た戦士が、思わず声を張り上げる。

「王女さま!? 一年半前に城から魔王に連れ去られた王女さまではありませんか!! あなたさまを探して旅を続けてきました」

 国王の城に仕えていた戦士が、乳飲み子を抱えた王女の前にひざまづく。

 王女は戦士を一瞥して一言。

「あなた……誰?」

 と、言った。城で存在感が薄かった戦士は激しく落ち込む……王女と乳飲み子と魔王の三人を、繰り返し見ていた盗賊の娘が呟く。

「そりゃあ、一年以上も男女が一緒にいれば、こういう結果にもなるわな」

 魔王が頭を掻きながら照れ顔で言った。

「いやぁ……息子ができて、父親になると。わたしもこれからは少しは考えて魔王として、息子の手本となる責任のある行動をしていかなければと痛感しましてな」

 執事が横から言葉を添える。

「誘拐してきた王女さまが、ご懐妊して……ご子息さまができたと聞いてからの魔王さまは、本当に変わられました……それまでは、若く血気盛んな魔物たちの先頭で魔竜に乗って、周辺に爆音を轟かしていた『暴走竜族』チームも解散させて、ヘッドも引退なされました」

「あの時のわたしは、若かさゆえに周りが見えていなかった……そうだ、この機会に勇者どのに、この子の名づけ親になってもらおう。王女よ、勇者どのなら素晴らしい名を授けてくれると思うが……どうだ?」

「ダーリンのお考えに、お任せします……わたくしは、あなたさまの妻ですから」

 王女の言葉を聞いてショックを受けた戦士が「うおぉ! うおぉ!」と、叫びながら幾度も柱に頭を激突させる。

 勇者は器に入った酒を飲みながら、面倒くさそうに。

「魔王の息子だから『まおう』でよくねぇ?」

 と、投げ遣りに言った。『魔王Jr』とか『魔王二世』というイカした呼び名にだけは、絶対にしてたまるか!! と、いう勇者の嫌がらせだったのだが魔王は勇者が名づけた名前を真摯に受け止めてしまった。

「まおう……真緒か、良い名だ……今日からおまえの名前は、『魔王 真緒』だ! 勇者どの、我が子に良い名の祝福を感謝しますぞ」

 我が子を頭上に掲げて、笑みを浮かべている魔王を横目で見ながら勇者は、隣に座っている魔女に。

「今夜、魔物どもが油断して酔い潰れたら一斉に攻撃するからな……他のメンバーに伝令しておけ……皆殺しだ」

 と、呟いた。その夜……魔王城と城塞都市の魔物たちは魔王共々、少数の魔物を残して。勇者の卑劣な夜襲が行われる前に姿を消していた。 

 閑散とした城内で、歯軋りをして悔しがる勇者。

「ちくしょう!! 魔王の野郎、逃げやがった!! 勇者の面目丸つぶれだ!!」

 勇者が仲間に向かって言った。

「こうなったら城に残っている魔物を一掃だ!! 次に国内の魔物の残党狩りをしてから、逃げた魔王一派を地の果てまで追うぞ!! 新たな旅のはじまりだ!!」

 勇者の言葉に戦士は、頭を掻きながら返答する。

「ちょっといいか……やっぱオレ、これ以上あんたには、ついていけそうにないわ……王女を救い出す目的で一緒に旅を続けてきたけれど、王女が魔王とあんな関係になっちまったのを見たら……もう、どうでも良くなった」

 盗賊の娘も、手にした金銀に宝石を散りばめた、装飾品を眺めながら勇者に言った。

「あたいも、魔王城のお宝が目当てだったんだけど……残った城の財宝は魔物や勇者のパーティー好きなように分配していいって、魔王が言い残してあったみたいだから……パーティーへの分配も終わったから、もういいや……あの魔王、結構いいヤツだし」

 魔物の書籍倉庫係りから贈与された、分厚い禁断の魔導書を読みながら魔女が呟いた。

「あたしたちは、魔物という呼び方や外見だけで、偏見や固定観念で魔物たちを見ていたのかも知れない」

 勇者が言った。

「はぁ!? おまえたち何言ってんだ!? おまえ戦士だろう、オレの代理で戦わせるために仲間に、加えてやったんじゃないか」

「オレ、今回の旅が終わったら、鍛冶屋やっている親父から家業を継げって言われているんだ……これからは故郷の村で、鍋とか包丁を作って過ごすから……それじゃ、そういうことで現地解散!! お疲れさん」

 戦士の言葉で、勇者の大パーティーはバラバラと分散していく……慌てる勇者。

「おい、待てよおまえら! まだ旅は終わっちゃいないぞ! もどってこい、恩知らずども!!」

 気がつくと残っているのは、勇者と魔女の二人だけになっていた。勇者が魔女に言った。

「残ったのは、おまえだけか……魔女」

 魔女は、金額が書き込まれた用紙を、勇者に見せるように差し出した。

「今まで、あたしが立て替えてきた飲食代や宿泊代……全額返済してもらうまでは離れねぇからな」

 魔女に背を向けた勇者が、ワナワナと背中を震わせながら呟く声が聞こえてきた。

「ちくしょう……こうなったのも、全部あの魔王のせいだ……人の顔に泥を塗りやがって……地の果てまでも探し出して一太刀浴びせてやる……ブツブツ」

 魔女は陰険な勇者の背中に、蔑みの視線を向けながら。

(この男、最低)と、思った。 

 十八年後の……現代世界。

「真緒さま、朝ですよ……起きてください、また学校に遅れますよぅ」

 メイドの瑠璃子に揺すられた、高校生の魔王 真緒は面倒くさそうに寝返りを打つ。

 部屋の中には人気テレビアニメ……『閃光王女狐狸姫』のポスターが壁に貼られ、棚にはフィギュアが飾られている。

「う~ん、あと五分だけ……あと五分間だけ寝かせて」

「ダメですよ、この間もそう言って、遅刻する寸前まで寝ていたでしょう……起きないと、あたし」

 瑠璃子の目がギラリと光る。

「変身しちゃいますよ……あの、おぞましい姿に」

 瑠璃子の言葉を聞いた真緒は、ベットから跳ね起きる。

 起きた真緒こと……愛称『マオマオ』に向かって微笑む瑠璃子

「顔洗って歯を磨いて、制服に着替えたら、食堂に来てくださいよ……二度寝したらダメですからね」

 瑠璃子が部屋から出ていくと、真緒は寝ぼけ顔で洗面所に向かい、顔を洗い歯を磨き、パジャマから制服に着替えた。

 屋敷の食堂に真緒が行くと、執事の荒船が白いテーブルクロスが敷かれたテーブルの上に、花瓶に入った花を飾りつけている最中だった。

 荒船が真緒に朝の挨拶をする。

「おはようございます、真緒さま」

「おはよう、荒船さん」

 執事が引いた椅子に座ると、朝食を乗せたワゴンを押した瑠璃子がやってきた。

 軽く焼いてハムを挟んだマフィン、野菜ジュース、ミルク、スクランブルエッグの盛られた皿が、真緒の前に並べられていく。

 真緒は、朝食を食べながら執事の荒船に訊ねる。

「そういえば昨夜、なにか中庭の方で騒がしかったみたいだけれど……何かあったの?」

「たいしたコトではございません……正義のヒーローの残党が屋敷に侵入してきたので、わたくしと瑠璃子と数名の戦闘員で追い払っただけでございます」

「ふ~ん、まだ正義のヒーローって残っていたんだ……世界は、とっくに征服されちゃったのに」

「彼らにしてみたら平穏な世界は、自分たちの存在意義が脅かされるモノですからな」

「そうなんだ……ねぇ、学校には車で送迎してもらったらダメなの? ボク、世界征服を成し得た魔王の息子だよ」

「そのような特別扱いは、将来的に真緒さまの為にはなりません…亡くなった魔王さまは真緒さまも、一般市民と同じように徒歩での通学をなさるコトを希望しておりました……それでなくても、真緒さまは少々、軟弱気味のところがありますから……徒歩通学で、心身を鍛えなければ。そのためのボディーガードもつけてあります」 

 瑠璃子が食事を済ませた、真緒に告げる。

「真緒さま、果実さんが屋敷の正門で、お待ちです」

「わかった……すぐに行くから、録画した『閃光王女狐狸姫』の第一話を、最初の五分間だけ観てから」

 荒船が押さえた怒りで、唇を震わせながら言った。

「真緒さま、それは学校から帰ってきてからになさいませ……もう、何百回も繰り返し、ご覧になっているはずでは」

 突如、荒船の姿が剛毛を生やした、クモの怪人へと変化する。

 真っ赤な単眼が並ぶ、クモ顔を真緒に近づけながら、クモ男に変身した荒船が言った。

「屋敷の表で、クラスメイトの果実さんが待っていてくれるのですよ」

「わかったから荒船さん……その鋏角〔きょうかく〕が動く顔を近づけないでよ」

 荒船の姿が人間形態へともどると、真緒は急ぎ足で食堂を出て行った。

 魔王の息子が退室すると、食器を片付けはじめた瑠璃子が、タメ息混じりに執事の荒船に呟いた。

「この先、大丈夫でしょうか……真緒さまはあんな調子で、他界された魔王さまの後継者として、世界征服された世界を継続させていけるのでしょうか? 心配です」

「今は見守るしかない……真緒さまが、魔王さまの後継者として一人前になるまでは」

 そう言って、荒船と瑠璃子は、食堂の壁にかかっている魔王の肖像画を眺めた。


 屋敷の正門まで広い敷地内を、セグウェイに乗って移動してきた真緒は、門番に乗ってきたセグウェイを預けて門から出た。

 門の外には幼馴染みでお目つけ役で、クラスメイトの女子学生『暗闇 果実』が学園の制服姿で真緒が出てくるのを待っていた。

「お待たせ、果実」

「遅い! さっさと学校行くから」

 そう言うと果実は、先に立って歩きはじめ、真緒は慌てて果実を追う。

 歩きながら、真緒は果実に話しかける。

「ねぇねぇ、昨日の『閃光王女狐狸姫』観た? すごかったね……身勝手で利己主義な正義の主張を押しつけて市民を苦しめている、戦慄戦隊ジャアクマンを。化身転身した狐狸姫が懲罰ムチで折檻するシーンは圧巻だったね……それと狐狸姫が変形して」

「うるさい! あたしはあんな萌えアニメに、興味ないんだから、話しかけるな!」

「どうして果実は、ボクと居る時はそんなにカリカリしているの? あっ、わかった果実はツンデレキャラを目指しているんだ、それでかぁ」

「あんたねぇ……保育園からの腐れ縁じゃなかったら、ぶっ飛ばしているところよ!」

 会話しながら歩く真緒と果実の前方に、明らかに行く手を阻むように、大型タンクローリーが道路を塞いでいるのが見えた。

 それを見て舌打ちする、暗闇 果実。

「チッ……また、正義のヒーロー残党か」 

 果実がそう呟くのを待っていたかのように、タンクローリーの上に人影が現れた。

「待っていたぞ! 魔王の息子!」

 革のジャケットを着て、出前時に料理を入れて運ぶ、アルミ合金製の岡持ちを提げた男がポーズを決める。

 果実が迷惑顔で呟く。

「この朝の忙しい登校時に……ったく」

 タンクローリーの上に立っている男は、真緒を指差して叫ぶ。

「おまえの亡くなった親父のせいで、オレが所属していた『銀河探偵機構』は壊滅させられ!! ヒーローとして庶民からチヤホヤされていた、輝かしいオレのヒーロー時代は終わった……きさまら【悪の組織】のせいだ!! おかげで正体をカモフラージュするためにやっていたラーメン屋の店主が、今は本職みたいになっちまったじゃねぇか!!」

「はぁ、完全な単品ヒーローの個人的な逆恨み……器ちっちゃい男……マオマオ、どいていてチャッチャッと片付けちゃうから」

 暗闇 果実から手渡された手提げカバンを受け取った真緒が、指をポキポキと鳴らすのを見て、真緒は緊張感の無い口調で言った。

「果実……女の子の喧嘩はいけないよ。それに……ラーメン屋の極神さん、同じ町内の高校生相手に本気モード?」

 タンクローリー上の元銀河探偵、極神 狂介〔ごくがみ きょうすけ〕が、怒りに全身を震わせて真緒を指差す。

「うるさい!! おまえの親父が設立した【悪の組織】に、銀河探偵機構が壊滅させられ。敗北が確定した時に怪人たちから『敵対していたヒーローでもいいから、うちの組織に来ない? 優遇するよ』って情けをかけられたヒーローの気持ちがわかってたまるか!!」

 岡持ちを置いた極神 狂介が変身ポーズと同時に変身のかけ声を叫ぶ。

「爆〔バオ〕!!」
 銀色の粒子を含んだ光りが極神 狂介に天空から照射され、狂介はメタリック色の戦闘スーツを装着したヒーローへと変身した……ただし上半身だけ。

「刻んで炒めて、へいお待ち!! 銀河探偵ザ・ステンレス!!」

 ポーズを決めた狂介の、小声で「決まった」という声が聞こえた。真緒が半分戦闘スーツの狂介に訊ねる。

「ねぇねぇ、どうして半分だけ装着しているの? 全身スーツの方が安全じゃない」

「う、うるさい! 銀河探偵機構が壊滅させらてから、今は民間企業が管理している宇宙ステーションからの転送照射費は自腹なんだよ! 全身照射まで金が回らないんだよ……一回の照射費が、結構な金額なんだよ」

「大変だね……それじゃあ、ボクから荒船さんに頼んで、変身に必要なお金を出してもらおうか? それなら極神さんも気兼ねなく変身できるでしょう」

 狂介が、戦闘メタリックスーツの拳を震わせながら「悪党から援助してもらってまで、変身したかねぇよ」と、呟いていたコトに気づく様子もない鈍感な真緒は、狂介の装着しているスーツの赤く変色している部分を指差して指摘する。

「そこ……なんか錆びみたいなのが浮かんでいるよ? 宇宙合金製だって前に言っていなかった?」

「うるせぇ!! これは心の汗だ!! 人が一番気にしている部分にツッコミやがって、頭っきたぁ!! 来いゴクドーブレード『魔刀・血祭り』!!」


 狂介の手の中に、幅広な青竜刀が転送される。

「覚悟しろ、魔王の息子!! ひっひっひっ」

 やや狂気に染まったヒーローの姿に、果実は「やれやれ」と首を横に振る。

「しかたがない、バカで暇な大人の相手をしてやるか……変身」

 果実の姿が、狼のように鼻先が突き出した、コウモリ怪人に変貌した。

 怪人化した果実は、手の平を上に向けると狂介に向かって「かかってこい」のボディランゲージで挑発する。

 青竜刀を振りかざして、怒鳴る狂介。

「怪人のくせに、ヒーローをナメんじゃねぇ!!」

 コウモリ怪人が口から発した、超音波砲の振動で割れるガラスの音と。ザ・ステンレスの悲鳴が住宅街に響き渡る。

 数分後……果実にボコボコにされて、芋虫のようにピクピクと道路に横たわっている、極神 狂介の姿があった。


 怪人形態から人間形態にもどった果実が、軽くスカートの埃を払う。

「ったく……忙しい時に」

 真緒が果実から預かっていたカバンを、果実に手渡しながら言った。

「やっぱり、果実はスゴいね……吸血コウモリの怪人は、誰が見てもインパクトあるなぁ」

 果実は不機嫌そうに、真緒を睨みつける。

「あのねぇ……何度も言うけれど」

 果実の顔だけが、コウモリ怪人の顔に変わる。

「よーく見なさいよ、鼻面が突き出ているでしょう……あたしは果物を主食にしているフルーツバットの怪人なんですからね。そこらの吸血怪人と一緒にするな」

 果実の顔面が美少女の人間顔にもどる。

 真緒が頭を掻きながら、すまなそうな表情で言った。

「ごめん、うっかりしていた。今度から気をつけるよ……果実は気にしていたんだ。てっきり、怪人化できるのを喜んでいると思っていたから……コウモリ怪人の家系って怪人界ではクモ怪人と並んで、名門のステータスだから」

「あたしだって、最初は知らなかったよ……両親がコウモリの怪人だったなんて。十五歳の誕生日の日に親から『おまえも、大人なんだから……そろそろ変身してみたらどうだ?』って言われて、いきなり変身したんだから……今では怪人化した自分も、嫌いじゃないけれどね」

 そう言って果実は、腕に止まったヤブ蚊をピシャリと叩き潰した……どうやら、吸血されるのは嫌らしい。 

 二人が道端でそんな会話をしていると、学校の方角からチャイムが聞こえてきた。

「ほらっ、マオマオ……走って、道連れで遅刻なんていやだからね」

「待ってよぅ! 果実」

 真緒と果実が走り去ると、狂介は「ちくしょう……ちくしょう」と、呟きながら起き上がった。

「バカにしやがって……戦闘スーツが完全装着できてりゃ、あんな怪人の一匹や二匹……ちくしょう!」

 怒った狂介は、近くにあった清涼飲料の自動販売機を蹴った。

 誰かが投入した硬貨が、機械の中で詰まっていたのか? ボタンを押してもいないのに缶が一つ……ゴロンと、取り出し口に落ちてきた。

「おっ、なんかラッキー! 今日はついているな」

 数分前に暗闇 果実からボコボコにされていたコトも忘れ、缶のプルトップを狂介が引っ張り開けた……次の瞬間、缶の中から液体ではなく、灰色の煙が勢い良く吹き出してきた。

(爆弾か!?)

 慌てて缶を投げ捨てて、物陰に身を潜める狂介。

 煙の中から、咳き込む老人の声が聞こえ、まるで異世界の勇者のような格好をした白髪で腰を屈めた老人と。

 尖った魔女帽子を被り、腰には練金術で使うような試験管や、実験器具が入った小型のボックスなどが装着されたベルトを巻いた、太った老婆が煙の中から現れた。

「けほっ……これが魔王の居所を示す、最後のヒントの場所か」

 煙の中から現れた老人は、枯れ枝のような自分の手を眺める。

「おい、魔女……おまえが召喚した悪魔とかいう化け物の呪われた契約で、小出しにしてくるヒントに対価で払ってきた年齢の時間から。こんなジジイの姿になっちまったぞ……本当にこの世界に今度こそ魔王がいるんだろうな」

「間違いない」

 魔女と呼ばれた太った老婆は、フーフー息を切らせながら取り出した羅針盤のような魔具で、真緒が通っている学校の方角を示した。

「あっちの方角から、魔王の反応がある」

「よーし、待っていろ魔王!! おまえを倒して老いの呪いを解いてやる!」

 異世界から出現した、老勇者と老魔女はヨタヨタと真緒の学校の方へと歩いて行った……二人の姿が見えなくなると、狂介は物陰から出てきた。

(いったいなんだ? 今のジイさん? 魔王を倒すとか言っていたな……おもしれぇ、少し成り行きを見てみるか)

 岡持ちを自転車の荷台に乗せた狂介も、老勇者と同じ方向へと向かった。 

 真緒と果実がいつも通りに授業を受けていると、校庭の向かい側に走る道路の方から急停止する車のブレーキ音と「バカヤロー!! 死ぬ気かジジイ!!」と、いう男性の怒鳴る声が聞こえてきた。

 見ると奇妙な格好をした老人と老婆が、横断歩道の無い道路を横断して若者から怒鳴られているのが見えた。

 逆ギレした老人は怒鳴ってきた若者の車に向かって。柄の先端にある金属製の球体に凶悪なトゲトゲがついた、モーニングスターと呼ばれる凶器を振り回して連打する。 

 若者の悲鳴と怒号……フロントガラスが砕け、車体がボコボコになっていく様子を窓際席の真緒はボケーッと眺めていた。真緒は隣の席に座っている果実を指でつついて、校舎近くで起こっている老人の暴挙を知らせる。

「ねぇねぇ、果実……あの、おじいさんスゴいよ。車をボコボコにしちゃった……あ、校内に入ってきた」

 校門の閉じているフェンスを、モーニングスターで叩き壊し……校庭に侵入してきた老勇者が、校舎に向かって怒鳴る声が聞こえてきた。

「出てこい!! 魔王!! この城に隠れているのはわかっているんだ!! オレと勝負しろ!!」

 クラスメイトの視線が一斉に、真緒に集中する。怯えるマオマオ。

「どうしょう、果実……あの、おじいさん。亡くなった父さんの知り合いみたいだよ……世界征服した後に、父さんが亡くなったコトを伝えた方がいいかな」

「マオマオ、ツッコミどころはそこじゃない……どう見たって、魔王さまに遺恨を抱いている人物だろう」

 少し腕組みをして、思案していた暗闇 果実は、頭を掻きながら椅子から立ち上がった。 

「今日学校で動ける怪人衆は、あたしだけか……戦闘員見習いの満丸は、神経性の下痢で学校休んでいるから、戦闘員の援護は期待はできないし……しゃーない、相手してやるか」

 果実は真緒の首ねっこをつかむと、椅子から立たせた。

「ほらっ、真緒……校庭の不審者が、あんたの父親の名を呼んでいるから行くよ」

「ど、どうしてボクが?」

「これも世界征服を成し遂げた、魔王さまの後継者である、あんたの役目なんだから」

「い、いやだぁ!! あのおじいさん、なんか怖そうだよ!!」

 抵抗する真緒を引っ張って、果実は校庭へと出てきた。

 勇者が訝しそうな表情で、果実と真緒を眺めながら言った。

「なんだ、おまえたちは? 魔王はどうした」

「あなたが探している魔王さまは、もうこの世にはいない……他界した。ここにいる魔王の息子の真緒が話しを聞く」

「魔王はもういない? おまえが話しを聞く?」

 勇者は真緒の顔をしばらく凝視してから、気づいた口調で真緒を指差して言った。

「お、おまえは!? あの時の赤ん坊か!? 魔女、どういうコトだ?? 説明しろ!!」

「おそらく、時を管理している神が違うから……時間の流れも異なっているのだと思う」

 真緒が、いつもの調子で口を開く。

「おじいさんは、ボクを知っているの?」

「オレはジジイじゃねぇ!! まだ二十代だ!! そうか……おまえが魔王の息子か、あの時に始末しておけばよかった」

「えっ!?」

 勇者は凶悪なモーニングスターを振り上げる。

「オレの恨み、思いしれ!! 小僧!!」 

 果実が真緒の前に進み出て、勇者の前に立ちはだかる。

「下がっていて真緒、どうやら話しの通じる相手じゃなさそうだから……あたしが相手をする、変身」

 コウモリ怪人に変身する、暗闇 果実……老勇者が驚きの声を発する。

「この世界にも魔物がいるのか!?」

 空中に飛んだ果実がコウモリの翼を羽ばたかせ、突風攻撃を勇者と魔女に浴びせる。

 咄嗟に魔女が、魔術円の障壁を空中に描き出現させる……太った老魔女の呟く声が聞こえた。

「風の防御円」

 果実の起こした風圧が、魔法円に吸収されて相殺された。

「!? 何? 魔法なんてそんなのあり? それならこれよ」

 果実の口から超音波砲が、発射された……魔女は別の魔法円を空中に描く。

「音の防御円」

 またも、果実の超音波が相殺無力化される。

 自慢気に腰に手を当てて、胸を反らした勇者が、上から目線で言った。

「どうだぁ!! 魔女の魔力には、さすがの魔物も歯が立たないだろう……わっははは、いてててっ腰が……」

 腰痛に腰をトントンと叩きながら、勇者が魔女に命令する。

「魔女、そのまま続けて魔王の息子と、コウモリの魔物を呪殺しちまえ!! 正義は勝つ!! ざまぁみろ!!」

 勇者の言葉を耳にした魔女は、防御円を解除すると……スタスタと勇者から離れて魔法円から取り出した木製のデッキ・チェアに座り、パラソルを広げて傍観しはじめた。

 魔女の行動に、勇者は眉を歪める。

「おまえ何しているんだ? 闘え」

 魔女は、どこから取り出したのか? トロピカルドリンクを、渦巻きストローで飲みながら勇者を一瞥する。

「おまえが自分でやれ……最低勇者」

 魔女の言葉に、少し動揺する勇者。

「おい、そりゃないだろう……おまえ、オレのパートナーだろう」

「誰が」

 魔女は取り出した請求書を勇者に見せる。

「全部払い終わるまでは絶対に離れないからな……それまで、死んだら困るから守っているだけだ」

「ふざけるな魔女!! あんなコウモリの化け物に魔法も使えないオレが、かなうワケないだろう」

 コウモリ怪人姿の暗闇 果実が、ポキポキと指の関節を鳴らす音が聞こえた。

「どうやら、形勢逆転のようね」
 果実が手の平を上に向けると、指先をクイッと「かかってこい」のポーズで曲げる。

 自暴自棄で、モーニングスターを振り回しながら、果実に突進していく勇者。

「こうなりゃヤケだ!! くたばれぇぇぇ!! 化け物!!」

 数秒後……コウモリ怪人にボコボコにされた、勇者の悲鳴が響き渡った。

 瀕死の青虫のように、ピクッピクッと校庭で蠢いている老勇者を横目で見ながら、人間形態にもどった果実が真緒に言った。

「教室にもどるよ、真緒」

 マオマオは、倒れている老勇者に向かって「おじいちゃん、ムリしないでね」と、ねぎらいの言葉をかけて果実と一緒に去って行き。勇者は小声で「オレはジジィじゃねぇ……」と答えた。

 しばらくして勇者は起き上がった。

「ちくしょう……ちくしょう」

 くやしいそうに勇者が呟いていると、どこからともなく「爆!!〔バオ!!〕」と、いう声が聞こえ。

 校庭の塀の上に立った、頭部だけに銀色の戦闘スーツマスクを被り、一回り小さい青竜刀を持った男……極神 狂介がポーズを決める。
「刻んで炒めて、へいお待ち!! 銀河探偵ザ・ステンレス!!!」

 ザ・ステンレスに変身した狂介は、いきなり勇者に向かって青竜刀を振り上げながら塀から飛び降りる。

 咄嗟に勇者はモーニングスターの柄で、青竜刀の刃を受け止めた。

 不敵な笑みをマスクの中で浮かべながら、狂介が言った。

「オレのゴクドーブレード、魔刀『血祭り』の攻撃を受け止めるとは……ジイさん、あんた只者じゃねぇな」

「オレはジジィじゃねぇ……そういうお前も、なかなかの腕前だな……オレのブラッディ・モーニングスター、呪撃『地獄竜』が、血の匂いに喜んでやがる」

「最近、オレの魔刀『血祭り』は、宇宙犯罪者の血を吸ってねぇから……欲求不満だ」

「お前もか……オレの呪撃『地獄竜』も魔物の血を浴びていねぇ……それもこれも」

 狂介と勇者がハモる。

「全部、魔王のせいだ!!!」

 互いに何か似かよったオーラを感じたのか? 狂介と勇者は青竜刀とモーニングスターを収め離れる……狂介が言った。

「物陰に隠れて見ていたが、どうやらジィさんも魔王と、なにかしらの因縁があるようだな」

「オレはジィさんじゃねぇ……呪いでこんな姿をしているだけだ、そういうお前も魔王に私恨があるみたいだな……魔王が亡き今は、あの魔王の息子に標的は移っているが」

 
「どうだ、ここはひとつ協力しないか……力になるぞ」

「いいだろう、オレもこちらの世界に来て、わからないコトばかりだからな……仲間が欲しいと思っていたところが……ふふふ」

 狂介と勇者がガッチリと握手する……力強く手を握りながら狂介は内心。

(このアホな勇者には、オレの捨て駒になってもらおうか……なんとかとハサミは使い用だからな……わっははは)

 と、策略を巡らせ、勇者の方も。

(ふふふ……このザ・ステンレスとかいう男は、バカそうだが使える……せいぜい利用させてもらうぞ……ふあははは)

 と、企みを膨らませた。そんな二人の様子を眺めながら魔女は小声で。

「悪党同士が手を組んだみたいだ」と、呟いた。

 その時、勇者の腹の虫がグルルルルと、空腹を訴えて鳴く声が聞こえてきた。ラーメン屋を営む狂介が勇者に訊ねる。

「腹減っているのか?」

「あぁ……この世界に来てから何も口にしていない」

「それなら、オレの店に来い……まかない飯くらいなら、食わせてやるから」

「そうしよう」

 勇者と魔女は極神 狂介に連れられて、狂介が店主をやっている『極神軒』へとやって来た。

 店内に入った狂介は、忙しそうにテーブルを濡れタオルで拭いていた、エプロン姿で三角布を頭に被った、若い女性に向かって言った。

 
「おーい、秘色……知り合いを連れてきたぞ、なにか食わせてやってくれ」

 秘色〔ひいろ〕と呼ばれた女性は、少し上目気味に狂介を睨みつける。

「出前の丼を回収するのに何時間かかっているのよ……まったく開店前の準備で忙しいこの時間帯に……また犬や猫の子を拾ってくるみたいに、知らない人連れてきて……今度は何? 地底人? それとも海底人?」

「そう文句を言うな、異界から来た勇者さまだぞ……あそこでテーブルを拭いているのが、オレの探偵助手の秘色だ……そう言えば、まだ勇者とだけで名前を聞いていなかったな。オレは極神 狂介……銀河探偵のヒーローだ」

「勇者メッキだ、こっちが……」

 指差された太った老魔女が、ぶっきらぼうな口調で名乗る。

「魔女・桜牙〔おうが〕……よろしく」

 テーブルを拭き終わった秘色が、額の汗を拭いながら狂介に向かって言った。

「忙しいから、まかない飯しか作れないけれどそれでいい?」

「あぁ、十分だ……オレも少しこの二人と話したら、厨房に入るから」

 秘色が店の奥へ消えると、狂介はこの世界の現在の情勢を、異界の勇者と魔女に説明した。

「……と、いうワケだ。この世界は魔王の作った【悪の組織】に支配されている……オレたちヒーローは、この悪に支配された世界を奪ってオレたちのモノに……もとい、人々を解放するために日夜闘い続けている」

「なるほど、わかった……あの魔王の息子とやらが実質、この世界の支配者なんだな。あの真緒とか呼ばれていた小僧を倒せばいいんだな」

「まぁ、そういうことになる……かな」

 狂介とメッキが悪巧みをしていると。出来上がった、まかない飯をトレイに乗せた秘色が厨房から出てきた。

「お冷はセルフサービスだから……餡かけチャーハンだけれど口に合うかどうか……狂介、そろそろチャーシュウと煮玉子の切り分けに入ってよ」

「わかった、勇者メッキ。後で綿密な計画を立てよう……二階に空き部屋があるから、自由に使ってくれ」

 そう言い残して狂介は厨房に入って行った。

 狂介の後ろ姿を眺めながら、秘色は溜め息混じりに魔女・桜牙に向かって呟いた。

「はぁ……どう見てもラーメン屋の店主の方が、天職だと思うのに絶対認めようとしないのよね……自分は銀河探偵、ザ・ステンレスだって言い張って……もう、銀河探偵機構は無いのに……悪いことは言わないから、あまり狂介には関わらない方がいいよ」

 魔女・桜牙は、餡かけチャーハンをレンゲですくって口に運びながら。壁に飾られている写真の一枚に、銀河探偵時代のポーズを決めている狂介に寄り添うように、茶色革のフリンジベストと、黒い革のミニスカート姿で宇宙銃を構え立っている、

秘色の姿を眺めた。 

 ラーメン屋の軋む階段を上がり、二階の部屋に入ったメッキと桜牙は、部屋の窓を開けて外を見た。

 道路側に面した窓からは、山や河が見えたが……もうひとつの窓からは、隣接した建物のコンクリート壁が見え。さらに、もうひとつある窓を開けると裏の墓場が見える。

「うわぁ……なんだかわからないがスゴい部屋だな……あの黒光りしている石柱群はいったいなんだ? 木製の剣のようなモノが立てられているが? あれは武器の一種か? 後で集めに行ってみるか」

 メッキが、卒塔婆を武器だと思って眺めている間に、桜牙は畳の上に魔法円を描きはじめた……勇者と魔女のいた世界に、畳は存在しない。

 
 魔法円を描き終わった魔女に、勇者が訊ねる。

「また、あの悪魔を呼び出すのか?」

「こんなババアの姿は、もうイヤだ」

 魔女が呪文を唱えると、魔法円の中心から白煙が沸き上がり……煙の中から鼻唄が聞こえてきた。

 煙が晴れると西洋風の足つきバスタブの中で、泡だらけになって青藍色の背中をブラシで擦っている、ヒトデのような生き物が現れた。

「ふんふん♪ おわッ!? いきなり召喚するな! こっちにだって都合があるんだからな……悪魔にだってプライベートはあるんだからな!」

 青灰色の管足が歩帯に並ぶ体の中央に一つ目がある、ヒトデ型の悪魔が、星形の体を捻って手で股間を隠すようなポーズをする。

 
 桜牙が、太った老体でフーッフーッと息を切らせながら、呼び出した悪魔……『インディゴ』と召喚時に名乗った、失せ物探し専門の悪魔に言った。

「与えられたヒントを解いて、魔王の逃げた世界に辿り着いた……ヒントのたびに対価として奪ってきた、あたしたちの年齢の時間を返して……この老いの呪いを解け」

「どうしょうかなぁ……ボクも悪魔の端くれだから、一度奪ったモノを返したくはないからなぁ……でも、桜牙ちゃんの頼みなら聞いてあげなくもないよ……ボクとデートして、恋人になるって約束してくれたらぁ」

 悪魔の態度に怒った勇者メッキが、モーニングスターを構える。

「ごちゃごちゃ言ってないで、オレから奪った年齢の時間を返せ!! オレだけ元の姿にもどして二度と現れるな!! もう、おまえは用済みなんだよ!!」

 勇者の横柄な態度に、カチンときた悪魔が中央の目で「アッカンベー」をする。

「ぜーーたい、おまえだけは元の姿にもどしてやんねぇ……いてててっ、胴体の一つ目にボディソープの泡が入った」

 その時……部屋の入り口の方から「うわッ!? なにこれ!?」と、いう驚き声に続いて、秘色の震える怒鳴り声が聞こえてきた。

「な、な、何やってんのよ!!! あんたたち!!!」

 心配して様子を見にきた秘色の視線の先には、魔法円が描かれた畳と、悪魔が入浴しているバスタブのお湯でビショビショに濡れた畳があった。

 怒った秘色はバスタブを悪魔ごと持ち上げると、墓地に面した窓に向かって。

「出ていけぇぇ!!」

 と、放り投げた。ガラス窓を突き破って墓場に落下したバスタブの悪魔に向かって、秘色は太股に装着していたガンホルスターから引き抜いた、銀色の宇宙銃を乱射した……悪魔インディゴは、宇宙銃から発射される光線を避けながら。

「ひーーッ!! きゃん、きゃん」と、悲鳴を発っしながらピョンピョンと跳ねて逃げて行った。

 メッキと桜牙が、唖然とする中……振り返った秘色が、強い口調で二人に言った。

「狂介の顔を立てて、今回だけは見逃してあげるけれど……今度、変な生き物を部屋に入れたら叩き出すからね……うちは飲食店やってんだから、衛生上ペット禁止!!畳の上で風呂に入るのも厳禁!!」

 そう言って秘色は宇宙銃を、太股に装着したガンホルスターに収めた。


 『極神軒』が開店してから数時間後……学校が終わり帰宅途中の真緒と果実は、狂介のラーメン屋へとやって来た。

「いらっしゃ……いッ!?」 

 暖簾を掻き分けて店内に入ってきた、真緒と果実を見て厨房内の狂介は少し複雑な笑みを浮かべた。

 真緒と果実は特に表情を変える様子もなく、カウンター席に並んで座る。

 普段は、お客にセルフサービスさせている冷水を秘色はコップに注ぐと、笑みを浮かべながら真緒と果実の前に置いた。

「いらっしゃい、今日は早いのね、何にする?」

「ボクは味噌ラーメン、果実はいつもの醤油ラーメンで」

 秘色が厨房の狂介に向かって言った。

「味噌と醤油ラーメン、チャーシュウ三枚づつトッピング」

 厨房の中の狂介が聞き返す。

「おいっ、チャーシュウのトッピングなんて、注文には入ってないだろう」

「いいじゃない、いつも来てくれるお得意様なんだから……そのくらいサービスしなさいよ」

「チッ! 店の外なら客じゃねぇからな……覚悟しろよ」

 狂介が調理している間、秘色が真緒に訊ねる。 

「うちの狂介、また真緒くんに、バカな迷惑かけていない?」

「大丈夫ですよ」

「それならいいけれど……真緒くんも大変よね、亡くなったお父さまが世界に与えた影響力が大きかったから、今だにヒーローの残党たちから狙われているんでしょう」

「いつものコトで慣れてますから……荒船さんの話しだと、世界中のみんなが『世界は【悪の組織】に征服されているんだ』って意識を持ってくれれば……特に生活の自由を奪うようなコトはしませんから」

「偉いのね、真緒くんは……あたしも、銀河探偵機構が壊滅した時はショックだったけれど……その後に真緒くんの、お父さんは弾圧とか圧政は一切しなかったし。世界征服されている今の方が世界は紛争や内乱も少なくて平和よね……あたしも、この世界は征服されているんだなぁ。って自覚を、いつも持つように努めているから」

「ありがとう……秘色さん、ボクは何も強制するつもりは無いからね……それに、そんなコトをしたら果実が美味しいって絶賛している、極神軒のラーメンが食べられなくなるかも知れないから」

 暗闇 果実が「マオマオも、ここのラーメンのファンのクセに」と、呟く声が聞こえた。

 やがて、調理されたラーメンが厨房の狂介から、カウンター席の真緒たちの方に出される。

「ほいっ、チャーシュウトッピングの味噌と醤油お待ち! 餃子一皿はオレからのサービスだ……ラーメン、誉めてもらったからな」

 真緒たちの方に、背を向けた狂介は小声で。

「美味いって言ってくれて、ありがとうよ……今夜、九時に屋敷を襲撃するからな……覚悟しておけ」

 と、聞こえるように呟いた。

 厨房の中で背中を向けて片付けをしている、狂介に苦笑しながら秘色が言った。

「もういい加減に世界は【悪の組織】に支配されているって現状を受け入れて……真緒くんにちょっかい出すのやめたら。いつまでも、ヒーローの過ぎた栄光にこだわっていないで……やっぱり、狂介はラーメン屋の店主が天職だよ」

「今さらやめられるか……秘色だって、銀河探偵助手で活躍していた時は、CDで歌手デビューしたり、水着写真集出したしていたじゃないか……あの輝いていた日々を忘れたのか」

「そんな過去のコトは、忘れたよ」

 カウンター席で狂介と秘色のやりとりを聞いていた真緒が、麺をすすりながら二人の会話に割り込む。

「ボク、買いましたよ……秘色さんの、初版限定版サイン入り水着写真集……今でもボクの宝物です」

 真緒の言葉に秘色が微笑む。

「買ってくれたの、嬉しいな……ありがとう、真緒くん」

 真緒と秘色の会話を黙って聞いていた、狂介と果実がほぼ同時に「けっ!」と、吐き捨てるような小声が聞こえた。

 その時、ラーメン屋の階段を軋ませながら下りてきた。勇者メッキの声が聞こえてきた。

「何か飲むモノはないか……喉が乾い……!? おまえは魔王の息子とコウモリの魔物!?」

 カウンター席で、チャーシュウを頬張っている真緒と果実を発見した勇者メッキは、モーニングスターを振り上げて怒鳴る。
「覚悟しろ!! 魔王の息子!!」

 咄嗟に秘色が、片方の手で店内にあるビールやジュースを冷やしている、四面のガラス冷蔵ショーケースを開けてコーラ瓶を取り出しながら……もう片方の手で太股のガンホルスターから引き抜いた、宇宙銃の銃口を勇者に向けて構え立った。

 その場に膠着する勇者と、銀河探偵助手。

「店の客に手出ししたら、承知しないからね」

 銃口を向けた秘色が差し出したコーラ瓶を、ゆっくりと受け取った勇者は、秘色を刺激しないように後退しながら階段を上っていく。

 狂介がメッキに言った。

「魔王の息子がいる屋敷の襲撃時間は、今夜の九時にしたからな……いいか、間違えるなよ九時だぞ……二階の魔女にも伝えておけ」

「わかった」

 うなずきながら、勇者メッキが二階へ姿を消すと、秘色は宇宙銃をホルスターに収めた。

 真緒が、勇者が姿を消した階段を見て言った。

「あの人たち、ここに居たんだ……良かった、行くあてがなかったらボクの屋敷に来てもらって、滞在してもらおうと思っていたから」

 隣に座っている果実が、丼の底に残っていたスープを飲み干しながら。

「マオマオ……そこはツッ込むところが、違うだろう」

 と、呟く声が聞こえた。

 果実は、その日の極神軒の入り口に『都合により本日は夜、十時で閉店させていただきます』の貼り紙がしてあったのを思い出していた。

 夜十一時過ぎ……狂介は、店の後片づけを秘色に任せて、勇者メッキと魔女桜牙を引き連れて、真緒が住む屋敷へとやって来た。

 屋敷を取り囲む高い塀を見上げながら、狂介が勇者に説明する。

「この塀の向こうに魔王の息子がいる……油断するなよ、塀の上には高圧電流が流れていて。敷地内にはトラップや侵入者を感知する赤外線カメラなんかも設置されている……密林や砂漠なんかもあって。未知の遺伝子組み替え動物が、対侵入者迎撃用に離し飼いされている」

「この壁を見ていると、魔王がいた強固な石壁の城塞を思い出すな……襲撃する時刻は、九時だと聞いたが?」

 
「それは、あの場に魔王の息子がいたからだ……ふふふっ、この世界にはな『敵を欺くには味方から……味方を欺くには、身内から……夫の浮気はすぐバレる、妻の浮気はバレにくい』って諺があるんだ」

「なるほど、よくわからないが……奥が深い諺だな」

 メッキが高い塀を見上げながら……どうやって中に侵入するのか考えていると、狂介の呼ぶ声が聞こえてきた。

「二人とも、こっちだ」

 見ると、狂介が塀にある勝手口のような扉を開けて、勇者と魔女を手招きしていた。

 扉には『ヒーロー残党様専用侵入口』のプレートに書かれた文字が……一気に気が抜けた勇者メッキが怒鳴る。

「なんだ、そのふざけた扉は!?」

「頻繁に塀を壊されたり、乗り越えて着地に失敗して骨折する、ド素人ヒーローが続出したから【悪の組織】が作ってくれた侵入口だ」

 狂介たちは侵入口から敷地内に入った……敷地には通路が整備されていて、通路の両側に広がる密林は金網で隔離されている。

 時々、ジャングルの奥から響いてくる、得体の知れない猛獣の咆哮を聞きながら、先頭を進む狂介にメッキが訊ねた。

「いいのか? こんな安易な方法で侵入して……本当にいいのか?」

「無謀な勇気は真の勇気とは言えない、危険を回避する勇気もヒーローには必要だ……それに【悪の組織】が用意してくれた、せっかくの好意をムダにしたら悪いだろう」

 
「この世界では、そういうものなのか?」

 やがて狂介たちは広い場所に出た、特撮モノの戦闘シーンで撮影に使われるような場所だった……森の向こう側に屋敷の屋根が見える。

 そこには、執事の荒船、メイドの瑠璃子、制服姿の暗闇 果実と、光るクラゲ模様のパジャマを着た真緒の姿があった。

 勇者が、月明かりの下に立つ、執事の荒船を見て言った。

「おまえは、魔王の城にいた執事の魔物!? この世界に来ていたのか!?」

 荒船・ガーネットは、白いヒゲを撫でながら勇者と魔女に両目を細めた。

「おや? あなたは、勇者さまではありませんか……お久しぶりです、こちらの世界では怪人と呼ばれております」

 メッキに続いて狂介が驚いた表情で、真緒たちを指差す。

「おまえたち、どうしてこの時間にココにいる!? 襲撃は九時だと、ほのめかして伝えたはずだぞ!? オレの巧妙な策略が、なぜバレた?」

 果実が狂介の店から剥がしてきた『本日は都合により……』の貼り紙を狂介の方に広げ見せる。

「最初から、バレバレだよ」

 果実は傍らに立つ、光るクラゲパジャマを着た真緒を見ながら言った。

「真緒まで、外に出てこなくても良かったのに」

「うん、でも極神さんたちはボクに用があって侵入したんだから。魔王後継者のボクも一応は顔を出さないといけないのかな? と、思って」


 狂介が対峙している人数と、こちらの人数を数えて不満を漏らす。

「4対3なんて卑怯だぞ!!」

「なにをおっしゃいますか……あなた方、ヒーローも。一体の怪人相手に多人数で攻撃して、おまけに最後は強力な合体武器でトドメを刺したりしているではありませんか……一度くらいは怪人五体の合体武器で、リーダー格のレッドが吹っ飛ばされてみて……どれだけ怪人が痛い思いをしているのか、実感してみてください」

「それは、オレみたいな単品ヒーローには関係ねぇ……文句だったら戦隊グループの奴らに言え。とにかく、そっちの人数を減らせ!!」 

 真緒が手を上げる。

「あっ、ボク見学だけだから……それならいいでしょう」

 そう言って、光るクラゲパジャマのマオマオは、果実たちから少し離れた場所に移動する。

 月明かりの中……不敵な笑みを浮かべる極神 狂介。

(ふふふっ……バカめ、こちらには高度な魔術を操る魔女がいるんだ……3対3なら魔女の瞬殺魔法で、イチコロだ!)

 狂介がそう思った時……今度は魔女・桜牙が片手を上げた。

「悪いけれど、あたしも見学……ヒマだからついてきただけだから。あんたたちに、加勢する気ないから」

 そう言うと、スタスタと真緒の近くに移動して……魔法円からベンチを取り出して座った。

 
 魔女は座ったベンチの空いている場所を、ポンポンと軽く叩いて真緒を誘う。

「マオマオくん……だったっけ、立っていると疲れるから、座った方がいいよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 真緒と桜牙が並んで座る。そんな二人に向かって狂介が怒鳴る。

「おまえたち、体育の授業の見学者か!! こうなりゃ自棄だ!! 爆!!〔バオ〕」

 夜空から光りの筋が狂介に向かって照射され、銀色の戦闘スーツが狂介の体に転送されてきた……ただし顔の前面パーツのみ。

 今回転送されてきた、顔面部分を触って、狂介が言った。

「刻んで炒めて、へいお待ち! 銀河探偵ザ・ステンレスって……なんだこりゃ? 顔の前面しか戦闘スーツが転送されていねぇじゃねぇか。夜店で売っているセルロイドのお面かよ!! ゴクドーブレードもカッターくらいの、大きさしかねぇ!!」

 お面を被って、カッターのようなミニ青竜刀を持った狂介の姿に、すかさずメッキがツッコミを入れる。

「おまえ……変身するたびに、パワーダウンしているぞ」

「うるせぇ、転送の残高不足だ……あんな奴ら、このくらいの戦闘スーツで十分だだだだ」

 足を震わせながら強がっている狂介を見ていた真緒が、貼り紙の裏に何やら書かれたモノを持って、対峙している両者の中間地点に来て言った。 

「みんな、ちょっと集まって……3対2じゃ、さすがに極神さんたちに不利だから。アミダくじ作ってみた……これで組み合わせ決めれば、公平じゃないかな」

 ヒーローと怪人は真緒が書いた、アミダくじの近くに集まる。

 果実が少し呆れた口調で言った。

「さっきから、何か書いていると思ったらこんなモノを作っていたのか」

「なるほど、こちらの怪人が一体、ハズレになるように工夫されていますな……これなら2対2の組み合わせになります」

「早くやろうぜ、オレのブラッディ・モーニングスター『地獄竜』は血に飢えている」

 
 五人がそれぞれ選んだ線を、歌いながら辿る。

「アミダくじ~アミダくじ~」

 その結果、狂介は荒船と、メッキは瑠璃子との組み合わせが決まった……果実はハズレで傍観者だった。

 荒船・ガーネットが、独特の一連ポーズをしながら言った。

「それでは、わたくしも戦闘体勢に移行しますか……変身」

 荒船の姿が、ナゲナワグモの怪人姿に変わる。

 メッキが凶悪な武器のモーニング・スターを、ブンブンと振り回しながら言った。

「オレの相手は、大人しそうな女給か……ふふふっ」

 メイド服姿の瑠璃子が、恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「お手柔らかにお願いします……ここで闘うと、他の方の迷惑になりますので……あの、パン焼き小屋の裏側で」

 瑠璃子が指差した先には、薪が積まれた赤レンガのパン焼き小屋があった。

「いいだろう……ギタギタにしてやる」

 狂介がメッキに忠告する。

「その女を甘く見ていると痛い目に合うぞ……おいっ、聞いているのか」

「何か言ったかのぅ……歳を取ると耳が遠くなってのぅ」

「都合がいい時にだけ、年寄りのフリをするな!!」

 勇者メッキと瑠璃子の姿が、パン焼き小屋の裏に消えた直後……小屋の裏からボフッ! と、いう鈍い爆発音とキナ粉色の爆煙が広がり、メッキの断末魔に近い絶叫が響く。

「うごぅぅぅッ!?!?」

 
 そしてパン焼き小屋の裏から、頬を恥ずかしそうに薄ピンク色に染め。鼻と口をハンカチで押さえた瑠璃子が小走りで、果実たちの方にもどってきて言った。

「おわりました……屁ぇ、こいてきました」

 瑠璃子=スカンクに似た、白と黒のストライプ模様をしたゾリラという動物の能力を持つ怪人……ゾリラもスカンクと同様に、敵に向かって刺激性がある悪臭の分泌液を噴出する。

 瑠璃子の武器は悪臭をガス化させた屁だった。 

 ナゲナワグモ怪人に変身した荒船の方も、水滴状の粘着物質が先端についたクモ糸を、ザ・ステンレスに付着させてグルグルと頭上で振り回していた。

 荒船に回され遊ばれている狂介は、すでに意識を失っている……荒船が瑠璃子に言った。

「今回は早かったですね……お風呂に入って染みついた臭いを落としてきなさい、明日も真緒さまの朝食の準備がありますから」

「はい……それでは失礼します」

 瑠璃子は足早に、屋敷の方へ駆けて行った。

 荒船に振り回されていた狂介が、地面に叩きつけられる。パン焼き小屋の裏では白目を剥いたメッキがヒクッヒクッと痙攣していた……残党ヒーローの完敗だった。

 真緒が倒れている狂介を見て、人間形態にもった荒船に言った。

「ねぇ、荒船さん前々から考えていたんだけれど……極神さんたちヒーロー残党の人たちも、頑張って襲撃してくれているから……ポイントカードみたいなの発行してみたらどうかな?」

「それは良い提案ですな早速、今までの襲撃ポイントを加算したカードをお作りして、ヒーローの方々にお送りするとしましょう」

 真緒と荒船の会話を、少し意識がもどった状態で聞いていた狂介が小声で……「ちくしょう、バカにしやがって」と、呟くのが聞こえた。

 翌朝……極神軒には『臨時休業』の貼り紙があった。

 店内の椅子には、顔に絆創膏を貼った狂介が、不機嫌そうな表情で座り。秘色が掃除をしている光景を眺めている。

 拭き掃除をしている秘色が言った。

「また、派手にやられて……本当に懲りない人なんだから」

「うるせぇ……全身パーフェクト装着していれば、怪人なんかに負けはしねぇよ……いてて、勇者の奴はどうしている?」

「二階の部屋で寝込んでいる、とりあえず消臭剤大量に置いてきたけれど……オナラで敗北したのが、相当ショックだったみたいね」

「ふ~ん」

 その時、郵便受けにコトッと配達物があった。

 配達されてきた封筒を手にした秘色は、狂介に手渡す。

「はい、狂介宛てだよ」

 開封すると、中にスタンプが押された、襲撃ポイントカードが同封されていた。

「ふざけやがって!! なんだこんなもん!!」

 破り捨てようとしていた狂介は、押されていたスタンプの数を確認する。

「結構、ポイント貯まっているな……ここでやめたら、オレが負けを認めたみたいじゃねぇか。どうせならカードが、ポイントスタンプでいっぱいなったら、破り捨ててやる」

 と、呟いて少し複雑な表情で、デニムジーンズのポケットにカードを入れた。 

 その日の夕方……マオマオが住んでいる屋敷の塀外にある、ゴミステーションに生ゴミを出しに出てきた瑠璃子は、ゴミ袋を漁っている奇妙な生物に遭遇した。

 青藍色をした等身のヒトデが、こちらに背を向けて野良猫のようにゴソゴソと内容物を漁っている光景に、思わず瑠璃子は目を細める。

(かわいい……あたしの、ペット兼舎弟にしたい!)

 瑠璃子は、エプロンのポケットからビスケットを取り出すと、ゴミを漁っているヒトデに向かって差し出した。

 振り向いた悪魔インディゴは、中央にある一つ目で瑠璃子を見る。

「お腹空いているの? おいで……」

 恐る恐るビスケットを受け取った悪魔は背を向けると、貪るようにビスケットを食べた。

 瑠璃子は、さらに数枚のビスケットを取り出して悪魔を誘う。

「あたしと一緒に来れば、もっと美味しいモノあげるよ」

 プライドと食欲のどちらを取るべきなのか、一瞬悩んだ野良悪魔は数分後……「きゃん、きゃん」と、愛らしい声で媚びるように鳴きながら、四脚歩行で瑠璃子の後をついて屋敷内へと入って行った。

 悪魔インディゴは、この日……プライドを捨てた。
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