挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。

スイーツ()の暗号

作者:貞治 参
「ねえ、それ何?」

 ケイコが、私の手元を覗き込む。

「さっきの授業中に拾った。何かのレポートみたい」

 3時間目が終わり、10分休憩。移動教室から帰ってきた私は、席に着き、ホチキスで留められたA4の紙の束を眺めていた。

「うわぁ、英語じゃん」

 ケイコがうんざりした声で言う。レポートの表紙には、大きく次のように書かれていた。

 HOW TO MAKE SOME DELICIOUS SWEETS

 私はその英文をつぶやき、続けて言った。

「『おいしいスイーツの作り方』ってところかな?」

「ブンちゃん、スイーツ好きだよね? 読んでみよう」

 ブンちゃんとは私のことである。ともあれ、これはスイーツのレシピをまとめたものらしい。表紙をめくってみると、目次らしきページが目に入った。

 ICE cream 2

 CHOCOlateSTICK 4

 COKE CANDY 6

 CHEESE cakeBROWN SUGAR 7

 grape GUM 10

 MAGIC MINT cookie 13

 MARY JANE 17

「アイスクリーム、チョコレート(スティック)、コーラキャンディ、チーズケーキ(ブラウンシュガー)、グレープガム、ミントクッキー、メアリージェーンかな。最後のは人の名前っぽいけど、外国のお菓子なのかなあ」

「数字はページ数みたい。でも、これじゃあ、すぐには読めないね」

 ケイコは勝手にパラパラとページをめくりだした。

「作り方まで全部英語じゃん! 訳すの超面倒くさそう。よくわかんない単語たくさんあるし」

 ケイコの言うとおり、スイーツのレシピが記されている内容部分は、二段組みの英文で細かく埋め尽くされている。

「英語の部分はあとで訳すことにして、と。こっちのが問題かな」

 私はレポートのある部分を指し示した。このレポートの難解さは言語だけではない。ケイコが最大の疑問を口にする。

「何なんだろうね、この意味不明な図形」

 英文の合間に、たびたび何かの幾何学模様が描かれているのだ。折れ線、二重線、矢印、丸、六角形、いや、変な形の多角形もある。意味が分からない。

「なんか暗号みたい」

 私たちが頭を抱えると、授業開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。ケイコは去り際、こう言い残した。

「暗号か……。ならさ、聞いてみようよ、秀才クンに。あいつなら何でも知ってるでしょ!」



 昼休み。私たちは、机でブルーバックスを読んでいる秀才クンこと、リケーくんに問題のレポートを見せた。リケーくんは何枚か紙をめくると、とたんに黙り込んだ。問題の図形を凝視している。

「どう? なにかわかりそう?」

 ケイコがせかす。それには反応しないまま、すべてのページの図形を確認したリケーくんはこう言った。

「ブンさん、これどこで……。いや、そんなことはいい。とにかくこれを早く先生に見せないと!」

 言いつつ、リケーくんは椅子から立ち上がり、急いで教室を出て行った。あっけにとられた私たちも、彼を追いかけていったのだった。



 職員室に入り、キョロキョロと見渡すと、リケーくんの姿があった。化学担当のそばだ。近づいてみると、その先生はパソコンの画面と問題のレポート用紙を見比べていた。私は先生に声をかける。

「先生、それって一体……」

「……これはブンが持ってたんだったな」

 先生は私をギョロリとにらんだ。

「はい、そうですけど……」

「何を考えとるんだ、このアホがァ!」

 いきなり凄い剣幕で怒鳴られた。 

 ――泣きそう。



 要約すると、こういうことだった。問題のレポートは、麻薬の合成方法を記したもの。アイスは覚せい剤、チョコ・スティックは大麻、コーク・キャンディーはコカインの俗称らしい。他のスイーツもそれぞれ別の化合物を意味する。私とケイコが悩んでいたあの図形は、麻薬の合成過程を表す化学反応式。有機化合物の構造式は、あのような謎の幾何学模様で描かれるのだそうだ。

 私はレポート発見の経緯を先生に説明した。ケイコは涙を流す私を慰めながら、先生に謝罪を要求した。先生はテキトーな感じで私に謝ってくれた。

「にしても、よくこれが麻薬だってわかったな。化学専門の俺ですらネット見てわかったよ。さすがだ」

 誤魔化すかのように話をそらし、リケーくんの肩を叩く先生。

「それに比べて、お前らときたら化学式だということもわからんとはな……」

 精神を消耗した気がした。ともあれ、スイーツレシピ事件はこれにて一件落着したのである。

 *

「結局、先生が怒鳴ってブンさん泣かせて終わりか。面白いことが起こると思ったけど、犯人探しすら始まらないとは。爆弾の方が良かったのかな」

 電気を消した自室。呟いているうち、自分の醜い感情に気づく。

「……つくづく小心者のクソ野郎だな、俺は」
ブログ『彼女は魔法を信じない』もよろしく!

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ