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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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089:あんぐろどん

翌日も昨日に引き続き農場の出入り口で作業をしていた。
朝一番に区画を指示し、大量の種苗を渡すと農業班は植え付け作業に入っていく。
自分は10本並んだ若々しい苗木の中心に立ち、地面に魔力を流しながら成長促進を唱える。
魔力を吸い上げる為の根が伸びて安定し、それから徐々に上に上に成長し幹がしっかりしてくる。
「頑張れー、頑張れー」途中から肩の辺りから応援の声が聞こえてきた。

「緑の精霊さま、おはようございます」
「おはよー、あれ?もう止めちゃったの?」
「ええ、大分成長したので。後は当日にやります」
「ん?当日ってまたパーティーでもするの?」
「今回はこの農場の紹介なんです、うまく行けばもっと大きな農場に出来るかと」

緑の精霊さまはうっとりしていた。
「ねえねえ、ここは精霊の園に似てるね」
「そうですか?」
「うん、僕とおじいちゃんの精霊の園は似てるんだけど、ここはどちらかと言うと僕達の場所に近いかな」
「詳しくは分からないですが、気に入ったならゆっくりしていってください」
「ありがとー、たまに・・・その」
「みんなに見えないようになら持っていっていいですよ」
「やったー」

緑の精霊さまが飛んでいくと、次は昨日の放水用魔道具が職員でも使えるかチェックに入った。
すぐに女性職員が二人やってきて森区画の散水を始めた。
後ろを歩いて質問してみたけど、魔力量も移動方法も問題がないようだった。
料理班とも打ち合わせをして、手配は済ませておく。そしてあっという間に当日を迎える事になった。

その日は朝食を取るとすぐに寮を出る事にした、ローラは馬車で迎えがくるらしく他のメンバーは準備をしてから少し遅れて来るらしい。農場に着くと早速樹木の仕上げをする事にした。
ゆっくり成長促進を唱えて絶妙な成長で止める、風に揺られ満開に咲いた枝垂桜がゲストを歓迎しているように見えた。
若干強めの桃色が放射状に広がり、後で農場関係者を集めて花見をしたら楽しそうだなと思っていた所で1台目の馬車がやってきた。

王妃さまとローラ王女がかなり早めの時間にやってきた。
「「まあ・・・」」
「おはようございます、王妃さま・ローラさま」
「リュージさん、今日は宜しくお願いします」
「リュージさん、そこは呼び捨てにしてください」
「今日は公式の場だからダメですよ」
「それにしてもこの花、素晴らしいですね」
「ええ、見事に咲いてくれました」
ガレリアがやってくると桜の下で世間話をしていた、どうやら王妃達は出迎えをするのが常らしく一番早く来るようだ。

王妃とローラの衣装は学園の農業科用に売られている農作業用の制服であり、学園の農業科の9割以上が着ることはないものだった。ローラは農業科だけど王妃までその衣装で来るとは意表をつかれたと言うか何というか・・・。
寮からは今日の見学の対応をしてくれるメンバーが正門前に集まってきたので、一言「今日は宜しくお願いします」と頭を下げた。
少しすると次々と馬車がやってきた。

二番目に来たのはポライト男爵家で老齢だけどきりっとした身長150cmくらいの女性だった。
事前に聞いていて礼儀やマナーに精通しており、男爵家ながら当主は外交にも強い由緒正しい家だった。
馬車から降りる時、レンの家から手伝いに来た侍女がさりげなくエスコートをする。
限りなく平民が着る衣装だけど品の良さというか動き易さというか、今日の見学で貴族が着る最高の衣装だと思う。

特待生組も合流し、肩には緑の精霊さまが乗ってきた。
その後公爵家・伯爵家・子爵家と来て最後に男爵家が2台の馬車で2人ずつ降りてきた。
馬車から降りてくる婦人達はみんな正面の枝垂桜を褒めていた。
服装は後半に行くにしたがって・・・、貴族だから突っ込んではいけないだろうか?きっと王妃達が特別なんだと諦める。

王妃が中心になって挨拶で埋め尽くされるこの場をなんとか纏めていると、「パキッ」っという音が聞こえ全員の視線がその男爵夫人へ向かった。
「まあ、素敵なお花ですこと。これは王妃さまにお似合いですわ」
さっそくやってくれた・・・要注意人物その1のミスディ男爵家夫人。
誰もが言葉を失っているのでここは自分が声をかけるしかない、そう思い少し前に出たら肩から「許せない」と声が聞こえた。
目頭を押さえ緑の精霊さまへ「後できつく言いますので、ここは堪えてください」と小さく言うと、ミスディ男爵夫人は「何ですの皆様」と手元の花を無造作に放り投げた。

慌てて王妃が謝罪をすると空気が読めない、要注意人物その2のレクション男爵夫人がそんなに責める事はないのではないかと抗議をしてきた。ちなみにこの家はスパイを度々送り込んできた家で、捕まえても「当家には一切関わりはありません」としらをきるので有名だった。

「リュージさん、本当に何て謝罪していいか」
「自分はいいのですが、緑の精霊さまが肩の辺りにいまして・・・」
王妃は視線を少しだけずらして懸命に謝ると、緑の精霊さまはひとまず落ち着いてくれたようだった。

それからは荷物がある方はいったん預かり、前回案内してくれた男性を先頭にガレリアとザクスと自分で見学コースを見て周る。
他のメンバーには最初の打ち合わせ通り動いてもらえるようお願いをした。
列からはみ出ないように最後尾を歩く。後半にいる要注意人物が道を逸れようとしたり、勝手に色々拾おうとするのでその都度注意するのは骨が折れた。
そもそもそんな歩き難い服装と履物で農場の見学に来ないで欲しい。
いっそ、黒装束で来ればいいのにと思ったけどそんなことは口に出せない。

さりげなくポライト男爵夫人が列の最後尾に移動してきたのでその隣を歩くことにした。
するとどうだろうか、要注意人物その1その2の夫人達が若干大人しくなったではないか。
ようやく見学モードになったので少し農場らしいイベントを披露したいと思う。
手を大きく振ると見学者に「あちらをご覧ください」と告げる、圧縮された水が森区画に霧状に広がり虹が発生した。

「わぁぁぁ、きれいですねー」
「見事な演出ね、きれいだけじゃなく実用的な散水だと思います」
「あの道具はいくらしますの?是非うちでも使いたいですわ」
「申し訳ありません、あれは試作機でして1台しかないのです」
「では、あれでいいわ。いくらかしら?」
周りに冷たい視線を浴びせられたレクション男爵夫人。
後でしっかり道具置き場を整理して、施錠を徹底するように通達したいと思う。

それからは研究加工棟に移動してザクスに説明をしてもらったけど、こちらもうちと専売契約を結べと例の2男爵夫人が騒いでいた。
貴族家とは基本的に上に行くにつれてまともになるらしい、新興の男爵家は何か秀でるものがなければ上には進めない。秀でるものがあればあれもこれも手を出す必要はないのだ。
武家として秀でるなら子息にはそういう教育を施し、財力・外交・領地経営など出来て当たり前のものではダメなのだ。

今日初めて会ったポライト男爵家はかなりの異色な貴族だった。
教育係りとして上位の貴族家でも仕事の依頼が入るようで、どうしようもない粗暴な子女も完璧に動ける侍女も教えを受ければ尊敬の念を持ちつつ素敵なレディーに仕上がると噂だった。
ポライト男爵夫人の何度目かの咳払いでようやく見学は一通り終わった。
ヘルプの侍女とレンとナディアにお願いして化粧直しが必要な人を案内してもらった。

見学が終われば昼食を食べて終了だ、緑の精霊さまへは先にアイスレモンティーを出して落ち着いてもらっている。
順次テーブルに着くと改めて王妃より見学のお礼の言葉を頂いた。
こういう席は座る場所が決まっているものだし、さすがに食事で騒ぐ程迷惑な人はいない・・・と信じたい。

「今日はお昼なので軽く食べたい方やしっかり食べたい方に対応できる方式で行きます」
「「ビュッフェスタイルね」」
「いわゆる食べ放題です、説明するのでこちらに並んでください」

お盆を持って列を作ってもらうようにお願いをすると王妃とローラが並び、それを見てから公爵夫人と伯爵夫人と子爵夫人が並んだ。
「あら、こちらでは侍女の仕事を貴族にさせるつもりかしら?」
「やはり平民はダメですね。同じ飲食店でもあちらの店では貸切にしなさいと言えば素直に従ったのに」
「貴族の質も落ちましたわね、あなた達はそこに一生座っていなさい」
ポライト男爵夫人がため息をつきながら列に並んだ、さすがに「一生いられても困ります」と言いたかったけどプライドもあるだろう。
「皆様方へはこちらで給仕します、そちらでお待ちください」

侍女に手伝ってもらいながら4名の食事を適当に見繕っておく。
2名の男爵夫人は並ぼうとしたけど、タイミングを逸したようだった。
ビュッフェスタイルだとワンプレートなどが多いけど、今回は女性が多いので小鉢やグラスで見た目を重視した器を多用した。
前もって覚悟はしたけど、これ以上何も起きないように祈りたい気分だった。


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