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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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086:不穏な空気

主がいない謁見の間で王子が宰相を伴い、3名の貴族による報告を受けていた。
「此度の一件王より私に一任されてる。報告を聞かせて欲しい」
「はっ、今回の事件について報告させて頂きます。大きく分けて今回の事件は王宮への古いワインを送りつけた事と、ワインを扱う酒場などへの営業妨害がありました」
「営業妨害については当家が支援しているデントス商会が主導して行ったようです。あの男爵家のワインがなければ彼の領のワインが流行ると思ったそうです。輸送等一任されていたのと義憤だそうです・・・」
「私にその相談が来たなら断る事が出来たのですが、我ら3領では隣接しているせいか家族の者がそれぞれ親しい付き合いをしているのです」
「これは当伯爵家の者より男爵家へ行った、間違った農業支援がそもそもの始まりのようです。それにより葡萄が病気に罹り多くの被害を出してしまいました」
「ほう、そちらについては個別に相談して当事者同士の誠意ある対応を求めよう」

「以上を鑑みまして、当家と子爵家は罰金を支払いデントス商会は解体。煽動をしていたゴレアを含む半数は王国の法に照らし合わせて処分を致します。ただ、デントス商会の残りのメンバーと男爵家の子息には寛大な処置を賜りたく思います」
「どの程度だね」
「はっ、グレイヴ氏より何名かの身元を引き受けると打診を受けております。身元引受人がいる者は罰金刑相当として頂ければ我ら3名は再発防止として商業ギルド並びにグレイヴ氏達を支援出来ます」
「なるほど、問題ない。至急名簿を作成し出来次第、官吏に提出するように」
「「「はっ」」」
「古いワインにつては我が子爵家のゴレアが主犯です。とある貴族への私怨と言えば良いでしょうか?」
「私怨というならそう言う事だろう、王国は法治国家だ。恨みがあるからといって実力行使をしてはならないのは分かるな」
「はっ、ワインと言えばあの領というのも気に食わなかったようです。ただ、どこかの時点で古くなった白ワインにチェックが入るので王宮へのぼるこ・・・」
「ちょっと待て、あの者達はあの場で捕縛されていたが何故ワインが白だと?」
「警吏の立会いの下での会話でも、【白ワイン】と言う言葉は出てきませんでした」
王子の疑問に宰相が答える、伯爵と男爵は頭を垂れている子爵をみつめていた。

おもむろに激しい咳をする子爵が「失礼」と言うと、懐からやけに黒ずんだ飴らしきものを取り出して、王子に見せないように口に含んだ。
「お主も関与していたのだな」
王子の後ろに控えていた近衛2名がはっきりと姿を現すと、子爵から離れるように一歩距離を取る伯爵と男爵。
「・・・」
「沈黙は肯定と受け取るが構わないか」
子爵は小刻みに震えていた。周りは自分の罪が露見した為の震えだと思っていたが、子爵の肩甲骨の辺りから突如血が噴出した。
「王子お下がりください。緊急事態だ」近衛が叫ぶと、騎士が雪崩れ込んできて子爵を囲む。
伯爵と男爵は騎士により保護された為、二名の近衛と騎士が子爵を囲むように対峙した。

吹き出た血は何故か地面に落ちずに、どす黒く変色してコウモリの翼を象る。
顔を上げた子爵の髪はブロンドから真っ白に変色していて、身体と水分が抜けて皺くちゃになっているように見え、全体的にどす黒く変色していた。
「生死は問わない、捕縛しようとは思わずに討伐せよ」王子の指揮に一斉に剣を構える騎士たち。
緩慢な動きで顔を上げた子爵は、王子に向けて慇懃無礼に鋭く伸びた爪を見せながら背を曲げてお辞儀をした。
「あの姿はガーゴイルなのか・・・」近衛の一人がポツリと溢すと、ノルド子爵の背後から一人の騎士が片手剣を叩きつけた。
「ふっ、下賎な騎士どもが・・・」くぐもった声で答えるノルド子爵、翼の位置に当たった剣は半ばから折れていた。
「大人しくしてれば危害は加えない、元に戻すことも約束しよう」
「王子、お戯れを。歯向かう者には制裁を加えるのが貴族ですぞ、勿論私は捕まる訳にはいかないのですが」
「この人数相手に逃げ切れると思うか」
「では、ご覧にいれましょう」
バッサと翼が広がると背後に向かって闇の欠片が撒かれる、すると騎士からうめき声が聞こえて来た。
「脆弱な・・・。王子、せいぜい残り少ない余生を怯えながらお過ごしください」
ノルド子爵がそう告げると上部にあった窓をあっさり破り飛んでいった。

「厳戒態勢だ、子爵家及び伯爵家と男爵家に兵を向かわせる。子爵家は家人を捕縛し一時牢へ、2家はそのまま警護体制を整えろ。冒険者ギルドには緊急依頼をかけ先触れと一緒に子爵領の代官を確保するのだ」
王子の言葉によりそれぞれが指示を出す、その流れは迅速であった。
そして身内への連絡も忘れない、密かに指令を出していた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「アア、シュジン。ソコノローブヲモラウゾ」店員が出てくる前に姿を消した者がいたようで、金貨1枚置かれていた。
きちんと会計も済ませず困った客だなと思った主人は、金貨を確認すると大いに喜んでいた。
そこに出ていたローブは冒険者向けで、大柄な者が暖を取る用の安い物が多かったからだ。

「貴方さまでしたか、よくローブを纏う事に頭が回りましたね」
「アイカワラズクチガワルイナ、アタマハハッキリシテオル」
「これは失礼しました、外はまだ騒ぎになっております。地下で不自由されるとは思いますが何日かは匿えると思います」
「シカタガナイ、ナジムマデオトナシクシテオコウ」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

その日学園では夕方まで学園内に居るように通達があった。
何が起きたかは知らされなかったけど、騎士科と冒険科が合同訓練と称して普段木剣を持つ練習が実技形式で行われていたのが印象的だった。
魔法科ではサリアル教授が先頭に立ち、大掛かりな盾の作り方を指導していた。
自分が習得しているストーンウォールもそうだけど、魔法使いのみで戦う事は正直少ない。
冒険者の一員になるとしても綿密な連携は必要だけど、大前提としてこういう時にはこう動くというお約束がある。

急な訓練にも関わらず文句も出ずに夕方には終了した。
今日は帰宅し明日無事に登校するまでが訓練と、遠足みたいな事を言われたので集団下校をすることになった。
ローラの護衛は内々にティーナとレンに任されていて、特待生全員で依頼を受けている。
勿論この事はローラには秘密であり、信用出来る友達を作りなさいと言われていたようだ。

その日、王都では騒ぎは起きたが驚くほど静かな一日だった。
ノルド子爵家の家人は表面上保護されており、伯爵家と男爵家は王国により警護がつくことになった。
この警護代金は勿論その家の負担になった。

プレオープン二日目では学園の教授や、前日に参加した教え子達が多く集まっていた。
ザクスも来ると言っていたけど、あまり参加者が多いと寮が手薄になるからと今日は断った。
サリアル教授からは出来れば今日は顔を出さないようにと言われたけど、早めに戻る事を告げると了承を得ることが出来た。何かがあったのか質問しても今日は言えないの一点張りだった。

ガレリアとセルヴィスからは本日はプレオープンなので早仕舞いをする事が告げられた。
ただ、時間の許す限り思う存分ワインを楽しんで欲しいと言うと歓声があがった。
早くからお腹にたまる料理が出されて、ピザコールが起きていた。

「ここはワインバーだが・・・、まあ今日は仕方ないな」
「まあまあ、飲んで食べて騒げる環境が大事ですよ」
「そんなものか・・・、やっぱり商売人は難しいな」
「セルヴィスさん、今時こんな活気がある酒場はないもんだよ。私も通わせて貰おう。昨日は顔見せ程度の紹介しか出来なかったが、今度は是非みんなでワインでも飲んで語ることにしようじゃないか」
「難しい話は出来ませんよ」
「構わんよ、美味いワインさえあれば自然と楽しくなるもんだ」

今日は雪山訓練の時の隊長も来ていた、ワインを一杯呷るとピザを急いで腹に収める。
隊長も貴族家の出らしく、今日は珍しく帯刀していた。
他のメンバーも何名か武装しているようにも見えた、昨日に比べるとピリピリ感はなく、それでも警戒だけは欠かさないような感じがした。

GR農場では特に問題なく管理・生産が進んでいて問題は起きていないようだった。
ただ、何か事件が起きたという事だけは分かった。
隊長が「そろそろ良いかな?」と言うと、一緒に寮まで帰宅することになった。
サリアル教授だけでなく学園長からまで言われてしまうと、詳しく聞く事も断る事も出来ない。
寮へは何事もなく到着し、隊長へお礼を言うと「今日は早く寝ろよ」と言われ、「飲みなおしてくる」と急いで今来た道を戻って行った。

今日は変わった一日だった、プレオープンは無事に済んだから良いけどね。
翌日学園に行くと多くの課題をそれぞれ出され、週末までの休講が発表された。
新入学生は戸惑っていたようだけど、在校生は慣れていた。

休まないといけない時の心得は各教科教えられていた。こういう時の行動一つで今後伸びる人と落ちて行く人が分かれると口をすっぱく言われていたからだ。
外出は控えるように言われていたけど心配だったので、今日はこの足でGR農場に向かう事にした。


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